- Amazon.co.jp ・本 (150ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103032335
作品紹介・あらすじ
「ぼく、おまえをずっと大切にするから、今後ともひとつよろしく頼むよ」待望の恋人との同棲生活の始まり。仲睦まじく二人で迎える初めての正月に貫多の期待は高まるが、些細な事柄に癇の虫を刺激され、ついには暴言を吐いてしまう。二人の新生活にあやうく垂れ込める暗雲の行方は-。
感想・レビュー・書評
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所謂「秋恵」もの4つ。
どれを切っても面白いんだけど、金太郎飴みたいな感じ。
作家になって以降の小説がほとんどないから、今ものすごいお金が入ってその後のこととかを読んでみたい。
「陰雲晴れぬ」
引っ越し、管理人とのトラブル。
「肩先に花の香りを残す人」
整髪料。
「寒灯」
正月。
「腐泥の果実」
作家になってから、「秋恵」との生活を振り返る。
皮のペン置き。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いつも通りの短編集。芥川賞受賞後初の短編集らしいが、受賞前と何が違うのか、あるいは何かが違っているのかは知らない。
個人的にもっとも面白かったのは「腐泥の果実」。木枯しの吹く寒い日、主人公北町貫多は文具店で以前交際していた女性が誕生日にプレゼントしてくれたものと同じペン皿が売られているのを見つける。自身が犯した過ちを悔いるとともに思い出の世界に没入するが・・・そんな話。
秋恵に未練は無いと前半で言っておきながら終盤で「今もただ一人の女性」と認めてしまうところは安定の面白さ。しかもどうしょもないオチまで付いている。
ただ、大切な恋人を失ったと言うより、心の寂しさを埋めてくれるピースを無くしてしまった・・・という感じの印象を受けるのは何故だろう。
甘えさせてくれる対象を求めるマザコン、とも違う気がする。ボロボロの家に入り込む隙間風から必死で身を守ろうとしているような・・・
こんなモノを読んでしまっては、誰かに好意を抱くたびに「それは愛情なんかじゃなくて自分の空虚・寂しさを埋めようとしてるだけなんじゃないの?」と自分に問いかけたくなってしまう。余計なことは考え過ぎない方が幸せになれるだろうに。 -
めんどくさい女子って話はよく聞くけど、本作はほんっとめんどくさい男子が出てくる。その男貫多の夢の同棲生活、相手とのやりとり、全体的にレトロ感ただようのに、なぜか新しいおもしろみがあるのは、さすが平成の四畳半小説家のなせる技か。
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クズ沼
ってな事で、西村賢太の『寒灯』
陰雲晴れぬ
肩先に花の香りを残す人
寒灯
腐泥の果実
の連続短編集。
じゅんこに貰った『暗渠の宿』の続編になるんかな…
北町貫多と名を変えた著者の自伝となる内容じゃが、暗渠の宿より更にクズっぷりな歪んだ性格に、己に辟易しながらもどうにも直せない性格とセルフコントロール。
こんなにも自分の恥部を晒す小説を世に出せる、度胸と言うのか…
感動の念すら覚えて西村賢太クズ沼にズブズブとハマっていっている自分…
貫多の怒りの沸点が、何故そんなことでっ⁉️や、喧嘩の言い返しの我儘で鬼の様な自己中心的な攻撃がクセになる
ほんま無茶苦茶
苦役列車を再読したくなるな~
2023年6冊目 -
2023/03/21
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図書館借り出し
陰雲晴れぬ
肩先に花の香りを残す人
寒灯
腐泥の果実
北町貫多、秋恵もの
ちと物足りない感じかな
もっと振り切って欲しかったな -
私のブログ
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998279.html
から転載しています。
西村賢太作品の時系列はこちらをご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/funky_intelligence/archives/1998219.html
秋恵シリーズのみで構成された書。貫多の自己中ぶりが際立ち過ぎ。
「陰雲晴れぬ」
秋恵シリーズ。同棲のため引越ししてすぐの初々しい頃の話。ゴミ分別のトラブルで管理人さんとバトル。
「肩先に花の香りを残す人」
秋恵シリーズ。タクシーに乗ってオッサンの整髪料の匂いを服に付けられた貫多は、気にならないという秋恵を攻撃。
「寒灯」
秋恵シリーズ。同棲して初めて迎える正月に帰省しようとする秋恵を窘めて東京に残留させるが、年越し蕎麦で大喧嘩。
「腐泥の果実」
秋恵と出奔後、渋谷で再会。その後8年経過して、誕生日の思い出に浸る貫多。 -
主人公貫多と恋人秋江との蜜日の日と後日談。甘やかされ育ったどうしようもない同実の男として身につまされる思い。いつもの如く剥き出しの人間性で同様の男の様を想起させ悔恨と反省に至らせて頂いた。今年1冊目から安定の西村作を読了できいいスタートを切れた。
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芥川賞受賞第1作となった表題作を含む最新短編集。収録作4編はいずれも例の「秋恵シリーズ」――同棲していた女性との暮らしに材をとったもの――である。
そのうち3編はこれまで同様、主人公(作者の分身)がささいなことで秋恵に対してブチキレ、暴言を吐いたり暴力をふるったりして修羅場となるストーリー。
なじみの読者から見ると、主人公がブチキレる瞬間がクライマックスで、そこに至るまでのじわじわと進む盛り上がりが、ジェットコースターがゆっくり坂をのぼるプロセスのように思える。
西村の高い筆力ゆえ、他愛ない話でもそれなりに読ませるが、さすがにもう飽きた。
くだんの女性と暮らした期間は1年余だそうだし、たったそれだけの生活でたくさんの短編が書けたのだから、もういいんじゃないのと言いたくなる。おいしいネタから先に小説化しているだろうから、だんだん出がらしみたいになってきたし。
残りの1編――最後に収録された「腐泥の果実」では、現在の西村(作中では北町貫多)が秋恵との同棲生活を思い出す未練たらたらの姿が描かれる。文中に秋恵への「惜別の辞」めいた言葉がちりばめられており、「お、もしかしてこれで秋恵シリーズは打ち止めかな?」と思わせる。
まあ、あとは秋恵が他の男のもとに走って西村を捨てる“クライマックス”が書かれずに残っているけれど……。
それにしても、秋恵シリーズを読むたびに思うことだが、秋恵という人はなんとよくできた女性であることか。こんな身勝手なサイテー男を相手に、よくまあ1年以上もガマンしたものである。
秋恵は東北出身だと作中に書かれているが、東北女性の美点を一身に体現したような女性だと思う。
こんなサイテー男のサイテーな行状を書きつらねた小説が面白いのだから、文学ってつくづく不思議だ。