影に対して 母をめぐる物語

  • 新潮社 (2020年10月29日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784103035244

作品紹介・あらすじ

あの時、私は、本当に母を棄てたのだろうか……。新発見小説は遠藤文学の鍵となる傑作だった! 「人生」を燃焼させようとする烈しい母、「生活」を大事にする父。二人が離婚した時、幼い息子が強いられた選択は、やがて……。今年発見された未発表の中篇小説「影に対して」をはじめ、母を描いた名作を集成。『沈黙』や『深い河』の登場人物が結局キリストを棄てられなかったように、母と別れることは誰にもできはしない――。

感想・レビュー・書評

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  • 未発表であった遠藤周作氏の作品に触れる望外の1冊であった。
    表題が言いえて妙。
    「影に対して 母をめぐる物語」
    母と子。親と自分。

    「母なる女性」への思慕、執着等が制御不能な形で、主人公の男性 勝呂を苦しめる。

    家庭を持ち、すでに子どもを儲けた成人男性が、頭では理解しようとしつつも、「母親」への愛着と、裏返した形での父親への厭悪に苛まれる。

    錯綜する真逆の強い思いが、彼を苦しめる様が見事に描かれる。

    憧れ、尊敬、親を越えたい欲求、裏返しの嫌厭、親へ満足いく形で関われたかへの罪悪感等が複雑に絡み合い、作品からほとばしる。
    読みながら、親としての私自身と、親との良好な関係性を手放した娘としての私、双方の心がざらつく。

    幼いころ狐狸庵先生としてクイズ番組で見た飄々とし、ユーモアに溢れる印象の遠藤周作氏とは裏腹に、心の底に沈殿した親への感情との落差に改めて驚く。

    言葉として表出することの恐れを抱えながら、年齢を重ね、自らの思いも少しずつ上書きしていった様子、さらに理性を越えたところで、「母なる女性」を半ば偶像化してしまう自分を客観視する様子に痺れる。

    平々凡々に、安寧を第一義に暮らすことを優先した父親と、自分の身をすり減らしても何かに身を投じて、秀でること、足跡を残すことを望んだ激しい実母の対比が印象的。
    それぞれの選択。各々の「正しさ」に息子である勝呂は心を裂かれたのだろうか。

    家族観、夫婦観等、宮本輝氏の「流転の海」が思い出された。いつの世も、「家族」は一筋縄ではいかない。

  • 遠藤周作の未発表作「影に対して」出版 母めぐる自伝的小説 : 書籍 : クリスチャントゥデイ
    https://www.christiantoday.co.jp/articles/28847/20201209/endo-shusaku-kage-ni-taisite.htm

    遠藤周作 『影に対して―母をめぐる物語―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/303524/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kurumicookiesさん
      「アントワネット」は未読。最期を考えると、読み通せ無い気がして、、、
      遠藤周作と狐狸庵先生のギャップがなかな...
      kurumicookiesさん
      「アントワネット」は未読。最期を考えると、読み通せ無い気がして、、、
      遠藤周作と狐狸庵先生のギャップがなかなか埋められません。でも好きです。。。
      若い頃キリスト教について知りたくて、何冊か読みましたが理解が深まったとは、、、
      2020/12/23
    • kurumicookiesさん
      猫丸さん、

      キリスト教の本も読まれているのですね!家族が海外の本とか映画って、キリスト教を知っていたら、理解できることが広がると。逆に知ら...
      猫丸さん、

      キリスト教の本も読まれているのですね!家族が海外の本とか映画って、キリスト教を知っていたら、理解できることが広がると。逆に知らないと、理解が不十分になるものがあると。いかがでしょう?
      私はたくさん真意を落としながら読んでいるのだと思います。
      2020/12/23
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      kurumicookiesさん
      んー、シェイクスピアとマザーグースと聖書で生活の隅まで支配される訳じゃないですから、腑に落ちない時だけ、調べ...
      kurumicookiesさん
      んー、シェイクスピアとマザーグースと聖書で生活の隅まで支配される訳じゃないですから、腑に落ちない時だけ、調べてみては?
      絵画を鑑賞している時とかは、向こうの方々は判っていらっしゃるんだろうなぁ。と口惜しく思わなくもない、、、
      あとギリシャ神話も!
      2020/12/23
  • 遠藤周作先生の誕生日を目前に読了。
    そうですか、「影に対して」が発見された原稿だったんですね。ニュースで未発表原稿が見つかったと見たときから楽しみにしてましたが、これを手に取ったときには忘れていました。

    エッセイと呼んだ方が良い作品もありましたが屈託に溢れた一冊です。遠藤作品から母は切り離せない命題なんですね。若かりし頃随分読みましたが、今読むと作品の舞台となっている時代の重さと遠さにちょっととりとめない気持ちにさせられました。
    書かれているように、お母さんとお兄さんの眠るその暗い穴で先生ご自身も今は安らかであることをただ祈ります。

    編集部の付記が親切でした。
    表紙裏の、遠藤先生の推敲の跡だらけの筆跡を装丁に加えたことも秀逸。ファンとしては新潮社さん本当にありがとうの気持ちです。

  • 一番好きな作家は誰かと考えると、遠藤周作かもしれない。なんで好きなんだろう、なんで私にとって外れがないんだろうと思ってたその理由がわかった気がする。

    遠藤周作は、偉大な作家ではあるけれど、偉大な人物ではなかった。少なくとも自分自身の持つ弱さや卑怯な部分を、嫌というほど理解している人だった。迷いや葛藤を繰り返して生きた人だった。そういう人だからこそ惹かれるのだなと。

  • 遠藤周作氏の、未発表の原稿が発見された。
    その遺稿『影に対して』を中心に、「母」をめぐって書かれた著者の作品から編集部がセレクトして一冊の本にした。

    NHKの特番を観て、この作品を知った。
    学芸員の方が見つけた未発表の原稿は、(1963年3月以降)秘書によって清書もされ、発表できる状態だったらしい。
    なぜ、発表されなかったのか。
    ①まだ、母に対する自分の理解が不完全だと思ったためか
    ②(遠藤氏の母寄りな立ち位置ゆえに)父が悪者になってしまうような記述に、申し訳無さを感じたか

    遠藤氏の心の中には、母親に対する大きすぎる思いがあったことがうかがえる。
    小説として書くには、客観視ができていない、という悩み。
    取材した親戚や知人が、総じて母の激しすぎる性格に(今の言葉で言えば)引いていた事への、自分の認識とのギャップ感。
    また、母親の死に目に立ち会えなかった事への罪悪感は消える事はなかった。

    母は、生活よりもバイオリンにのめり込んでいた。
    それをやめなくてはならなかった後は信仰にのめり込んだ。
    のめり込むと、徹底的に自分を追い込んだ。
    息子はある意味、道連れであり、犠牲でもあった。
    もちろん、息子は母から大きな影響を受けた。

    氏のいくつかの作品の中に繰り返し出て来るのは、「人の心の中には、他者に決して知り得ない部分がある」という考え方。
    また、「人は弱いものである」という見方も常に、作品の根底を流れていると思われる。
    「弱き者への赦しの視線」などと言えば少し上から目線に感じられるが、氏の場合はそうではなく、少し後ろの肩越しから「実は私も・・・」と語りかけるような連帯感がある。

    『影に対して』
    主人公・勝呂有造(すぐろ ゆうぞう)
    大人になっても父に嫌悪感。
    烈しい母の生き方こそ崇高であり、「平凡こそ幸せ」と母への当てつけのように言い続ける父を俗物、と軽蔑してきたが、あなたはその父親ほどにも至らない人物だと妻に罵倒される。

    『雑種の犬』
    勝呂は、牛乳屋から雑種の仔犬をもらってきた

    『6日間の旅行』
    妻を連れて。
    母のことを小説に書きたい、と叔父を訪ねて話を聞く。
    両親の離婚後、母と暮らした場所に妻を案内して。

    『影法師』
    昔関わりのあった、外国人の元・司祭を見かける。
    彼にまつわる思い出。それは母と関わりがある。

    『母なるもの』
    かくれ切支丹の取材に行く。
    表向きは仏教徒を装い、踏み絵もふむ。
    そして、赦しを乞うのである。
    父なる神は厳しいから、母なるマリアに。

    『初恋』
    大連で過ごした頃の、昭和の子どもじみた恋。

    『還りなん』
    人に用意された「死に場所」

  • 遠藤周作ファンなら是非読んでほしい。昨年発見された未発表作自体は、それ単体で文学作品として素晴らしいとは言えない。ただ編集が素晴らしい。
    その他の母を巡る小説を丁寧に探して丁寧に並べた結果、最初から読むと遠藤周作の心の動きや小説が出来上がってくるのが手に取るように感じられる。
    そして遠藤周作は意志の弱い人を描かせると本当に秀逸だと思う。
    そういう意味でとても面白い本だった。

  • 未発表作、「影に対して」とその他母に纏わる遠藤周作の物語。
    NHKで特集されてからずっと読みたかった作品。
    アスファルトの道を歩むか、砂浜の道を歩むか。
    激しい情熱を持った母は、時に他者を焼きつくし、時に他者を同じように燃え立たせた。

  • 今まで遠藤周作さんの作品は沢山読んだけれど、お母さんに対しての思いや出来事を書かれたのを読んだのは初めて。誰しも親や子供時代の、人には言えない思い出があるだろう。時代背景も違うし、家庭環境もそれぞれ違う。
    女の母親に対するそれと男のそれとは、また全く違うのだとも実感する。

  • 全編、不穏な空気感の漂う小説。とういかこれは狐狸庵先生の自伝的小説なのね、
    中国の大連で育ち、お父さんが東大卒の銀行マンで母親がヴァイオリン奏者、後に離婚して(母親の姉、著者にとっては叔母が入信してたとこに離婚後、同居)カトリックに入信。
    で、結果、12歳の時に著者も入信したとのことだから、その作風に多大な影響を与えたことになるのね。
    そこで出会ったドイツ人の宣教師(実在するペトロ・ヘルツォークがモデル)との確執(結婚が禁止されてるカトリックにおいて秘書の日本人女性との結婚)も描かれている。
    母親の急死、土葬から火葬への転化(カトリックは復活の考えから土葬だったらしい)
    私的には偏狭的で個性の’強いこの母親よりは、平凡が一番と考える父親に共感するんだけど、著者はどこまでも母に寄り添おうとする。
    あと犬ね。犬(元は野良で雑種)が各章に登場。
    どの犬もいたいけで可愛いくて泣ける。きっと狐狸庵先生は犬派だったんだろうなぁ。

  • コロナ禍でなかなか実家にかえれていない昨今。
    著者遠藤周作氏の母であろう、この本にかかれている
    母のような苛烈な強い母ではありませんが
    もう80代のだいぶ年老いた母のことを
    おもいながら読みました。

    少年時代の時代背景もまったくことなりますが
    なんとなく、似た風景的な感じがしました。

  • 新しく発見された「影に対して」を中心に、それまでの母をめぐる作品を時系列的にまとめた短編集。

    作者の私小説とも言えるこれらの作品には、「平凡が一番幸せだ」といい、安全なアスファルト道を選ぶような人生を送った父への激しい嫌悪、手綱を緩めることを知らない烈しい生き様の母への捨てきれない愛着、そんな母を見捨ててしまった弱い己への嫌悪と後悔が連綿と綴られている。

    父を断罪する言葉の厳しさに対して、母を描くときのどうしようもない甘さには辟易だし、一番ダメなやつだった子供の頃の己を描く言い訳がましさにはウンザリ。
    両親の不和、エキセントリックな母の行動など特別な幼少期が彼をそうさせたのかもしれないけど、マザコン男の言い訳を書き連ねたような作品は決して良い後味を残さず、それでも書かないではいられない作家というものは本当に因果な商売だなとしみじみ思った。

  • 母についての短編集.7編.
    ただ普通に生きることのできなかった母への憧れと恐れが子供の頃から呪いのように支配して,読みながら何とも言えない気持ちになった.

  • 芸術家の母と実務家の父。「アスハルトの道を歩くな、足跡を残す道を選べ」という母と、平凡、安泰を求める父。母を強く慕い父を軽蔑しながらそのどちらの意にも沿うことができない自分。
    別れた両親のどちらについて行くのか、どちらのパターンの小編もあるが、いずれも少年は常に鬱屈した思いのなかにある。
    母の信じるキリスト教に入信し、妻をも入信させるが、その信仰は、母の背をどこまでも追い求めるためのもののようだ。

    長崎の離島の隠れキリシタンの末裔を訪ねる「母なるもの」。
    山深く今なお隠れ住み、信仰を守るが、その信仰は「一種の迷信ですたい」と島のカトリック教者からも蔑まれている。
    それでも「私」は、彼らがその弱さのために信仰を捨てた転び者の子孫であり、「生涯、自分のまやかしの生き方に後目痛さと屈辱を感じつづけながら生きてきた」というたった一つの理由のため、「かくれ」に興味を持ち、山の奥まで訪ねていく。
    警戒し怯えた目つきの彼らから、オラショを聞き、納戸神をようやく見せてもらうと、それは、乳飲み児を抱いた農婦の絵であった。昔、宣教師たちが波濤万里この国にもたらした父なる神の教えも、長い歳月の間に日本のかくれたちのなかでいつか身につかぬものすべてを棄てさり、日本の宗教の本質的なものである母への思慕に変わってしまったのだ、と「私」は衝撃を受ける。自らの母への思慕と重ね、その土俗的なオラショを口の中で唱えながら、山を下りる。

    淡々とした筆致で美しく読みやすい文章だが、自らの小ささ、父や伯母の欺瞞、母の異常なまでの芸術家気質もありのままに記し、痛々しく思える。妻と子と貧しくも穏やかな家庭を築いているらしいのが救い。
    小説、フィクションなのだろうが、あの『沈黙』『深い河』の作者の内面は、このようだったのか。

  • 「沈黙」と同時期に執筆されたというこの作品は私小説の色合いが濃く、没後十数年も経って陽の目を見る。今なお昇華することのない、折り合わなかった父親と母親へ思い、別れの記憶が、鋭敏かつ繊細な感性を持って綴られている。キリスト教の教義でもある「許すこと」と重ね合わせながら、自身も信者である著者の葛藤が伝わってくる。人生を安全で歩きやすいアスファルトの道と、足を取られ歩きにくいが振り返ればしっかりと自分の足跡を確かめることのできる砂浜の道に喩え、「生活」があっても「人生」が無い一生の侘しさが語られ、深く共感する。

  • 遠藤周作がキリスト教徒であること知ったせいか(母親が年始んな信者であったこと、母の勧めで入信したことなども知った)そのことを念頭におきながら読む。
    影?
    母親、司祭、父、雑種犬...の影と対峙した??内容なのか??

    自分の内面を分析しつつ、仕切れない...
    葛藤...

    小説家とは角も自分を輪切りにしてまでも書き続けなければならいのか...とも思う...

    歳を重ねとも消えない、消せない何か...影...
    誰にもそんな影はあるのだろう...と、思ったり...

  • 母をテーマにした短編集
    主人公はみんな同一人物のような、別の人のような…
    単純に“母への愛情”とは説明できない、第三者を交えた複雑な親子関係が垣間見れました
    私は足跡を残せなくても堅実なアスファルトの道を歩みたいかな、時代かな

  • 作者のキリスト教への畏敬は、母への遺恨や愛着、憐憫など含んだ懺悔が根本にある、と読んだ。
    激しくて自分にも他人にも厳しい真っ直ぐな母親が、一心に祈りを捧げる姿が、何をしていても追いかけてきて、すぐ隣にいる。ものすごい焦りの日々だろうなぁ。
    未発表の短編をまとめた本作は、当然オチもまとめもない、尻切れ感は否めないが、作者の静かな劣等感や愛への渇望感は、よくわかった。

  • 作者の母に対する思いが強すぎて悲しくなった

    本になるくらいだから相当なのだろうとは思ったがそれまでの年月を考えると恐ろしい

    作者にとっての唯一無二の母という存在であること以外は特に褒められたような人ではない気がしたがそれが母ってものなんだろうな

    マザコン

  • 母、母を取り巻く人物について書かれたもの。
    2020年に発見された、未発表作品。

    遠藤周作と基督教とのかかわり、彼の弱者に対する思い、等、この作品を読むことによって、少し理解することができたように思う。

    この文庫本とは別の文庫本に収録された『母なるもの』も読んでみたい。

  • 遠藤周作にとって、キリスト信仰とは母への愛着であり、信仰をやめることは即ち母との関係を切ることであり。
    母は影響力の強い人間で、母が関わらなければもっと平坦な道を選んでいたであろう人達。
    平凡が一番だと、日頃から口にする父。
    母がもっとも親しんでいた聖職者の裏切り。
    著者作品は、海と毒薬、沈黙、おバカさんを読んできたが、やはりキリストということで沈黙が一番強いか、作品を連想させる話もあった。
    助けだした虐待されている犬が、4日間かけて自力で、また元の場所に帰っていた話が印象的だった。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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