切れた鎖

  • 新潮社 (2008年2月29日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (152ページ) / ISBN・EAN: 9784103041320

感想・レビュー・書評

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  • 『不意の償い』
    出産間近の妻と暮らす男視点。通勤時、駅のホームで誰かに後ろから突き落とされるような不安に憑りつかれている。交番の巡査も職場の主任も皆、自分を監視しているような感覚。親たちが火災で亡くなったときに初体験を済ませていた罰なのか。男は正常な思考ではないが、狂いきっているわけでもない。

    『蛹』
    かぶと虫の父母から生まれた、彼もまたかぶと虫。
    土の中で幼虫期間を過ごし、周りの虫たちが上の世界へ出ていくのと一緒に自分も出ていこうとするがうまくいかない。幼虫から成虫になるあいだ、それが蛹(さなぎ)。蛹のままでいるわけにはいかないが、角が折れてしまえば闘う必要もなくなるのではないか。父母を想いながら思考をめぐらせるかぶと虫。

    『切れた鎖』
    かつてその土地で知らない人はいなかった桜井家。今では祖母、母、娘の三人しか残っていないし、祖母も母も男に逃げられてしまった。もうすぐ小学生になる娘を置いて、母は男のところを遊びまわっている。娘はファミレスに行きたくてしかたがない。栄えていた桜井家がこんなふうになってしまったのは全部、うしろに立つ教会のせいだ。あそこで暮らす男の鎖が立てる音が耳障りでたまらない。小学生にもならない娘が、教会の男に巻かれた鎖を揺さぶり、そして鎖は切れた。
    少女も桜井家の女らしく、うしろの教会を忌み嫌い、この土地に縛り付けられていく。

    ---------------------------------------

    鬱屈した話ばかりで自分好みの雰囲気だったのだけれど、いかんせん読みにくくてどうしようもなかった。

    『不意の償い』の視点人物は頭がおかしくなりつつある、ということがわかっていたからそういうものとして読めたけれど、『切れた鎖』は美佐子なのか美佐江なのか、現在なのか過去なのか、混濁する記憶みたいに曖昧で掴み切れない状態で話が進んでいくのがもどかしかった。

    『蛹』を読んでいるとき、椎名林檎の『意識』という曲の詩が頭に浮かんだ。
    ”お母様 混紡の僕を恥ぢてゐらつしやいますか”
    蛹の中で角が折れてしまえばいいと思う虫の、母親に対するコンプレックスのような憧れ。うまく言えないけど、これはきっと一種のエロティシズムだな、と思う。

  •  表題作の「切れた鎖」の他に「不意の償い」「蛹」を収録。
     どれも短編の部類には入るのであろうが、内容は濃く深い。
     個人的には「蛹」が秀逸かと思われた。まず設定は擬人化した生物はよくあることだが、圧倒的な父親を描き、想像力や感情を有して甲虫として生まれるも、あくまで地中の中で蛹として生きていく。蛹とは成虫前の準備期間としての生態なのであろうが、単純に成虫が大人で、蛹が子供としての割り振りで読み取るべきでなかろう。
     また部分的に伸長する角が地上から出ることは、外界、社会に対する否応ない接触というべきか、内包される避けられなさを感じるとともに、植物に対して見られる傲慢さは、あまりにも自身がその一部ではないと反発しつつも、何処かにその一部として存在している状態の、不安定な幼さを見られた。
     そして雄雌の生物としての、当然の生き方に反するように蛹のままで死を迎えようとする。
     田中慎弥だからこそ描けた作品であろう。

  • この本、読了出来ませんでした…!
    最後の表題作「切れた鎖」で、みさえとみさこがごちゃごちゃなって、他の登場人物の立ち位置も何が何だかわからなくなり… 苦笑
    でも、アニメのエヴァ的な危険な魅力がありました。
    もう少し成熟した女になったらまた読み返したいです…!

    そして、2作目までの短編がなかなか良かったと思ったのでここに記しておきます。



    ・不意の償い
    この著者の本を初めて読んだけど、いかにも文学!って感じで結構好きかも。
    読み手に捉え方を委ねるような感じも好み。
    安部公房のようなシュールレアリスム的要素も感じたけど、より酷く残酷な生々しい描写だなと思った。
    そして…あまり描かれていなかった「身近な人の死」について。
    主人公は「奥さんとのセックスと妊娠」にすごくフォーカスしてしまってるような感じがした。
    無理やりしてしまった罪悪感から、地獄の釜の蓋が開いてしまい…どんどん視野が狭まり、狸やら猿やらが見えるような、最終的におかしくなってしまった感じがした。
    あまり多くは語られていなかった「火事で家族と身近な人をいっぺんに失った苦しさ」を主人公はずーっと抱え続けていて、その時点からもうおかしくなり始めていたのかもしれない。
    というか主人公は罪悪感というものとも何十年も戦い続けてきたんだろうな…と勝手に思っている。


    ・蛹
    カブトムシが主人公のお話。
    カブトムシの幼虫が土に潜って冬眠しているという、なんとも絵本ちっくな物語。
    …を、重厚な文章でここまでthe・文学!という感じで描かれているのがすごい。
    カブトムシにも母がいて父がいる。
    そう思ったら、全ての生命を愛おしく感じてしまい、何故か涙が出てしまった。
    このショート、とにかく重たい雰囲気をまとっていて、物語の意味は正直よくわからなかったし掴めなかったが、動物目線の話は好きなので、いいもの読めたなという感じ。
    ところでちょっとした疑問なのだが、カブトムシの幼虫は土の中にいる時から角が生え始めるのだろうか?と思って調べたら、蛹の時点で角の形が出来始めるそうで、幼虫の段階では角は生えないそう。
    このショートを読んで、なんとなく幼虫の段階で角が生え始めているような感じを受けたが、気の所為だったのか…。

  • この人の作品を初めて読んだ。1つの文が長すぎる…。何を言っているのか分からない所が多すぎ。私の理解力が足りないのかもしれないが。

  • 「不意の償い」の主人公が炎にふーっと息を吹き掛ける、その意味が変わってくるところが印象的でした。ちょっと難しい、そしてすごい閉塞感。作品に漂う不穏な空気に恐る恐る読んでみたけど、意外と視線は優しいんだね。作者は実はとってもピュアな方なのかも、と感じました

  • 田中慎弥らしい、悶々とした作品。人間の負の部分だけをえぐり、救いようもなくそれでも日々を過ごすさまは、悲しく重く心にのしかかってくる。

  • いつか出られる。いや、いつかなどと希望を持つのはよくない。希望は弱いものが持つ卑しい道具だ。いつかではなく次の瞬間かもしれなかった。

  • 三島由紀夫賞と川端康成賞をW受賞した、芥川賞受賞記者会見で『もらっといてやるわ』とうそぶいた田中慎弥氏の作品を読んだ。三島由紀夫賞は別として、すぐれた短編にたいして贈られる賞を受賞しただけあり、おさめられている3編とも濃い文章が詰まった読み応えのある短編でした。田中氏は推敲に推敲を重ねて、偏執狂のように執筆するタイプだというのが情熱大陸みて把握していたが、実際に読むと言葉の詰め込み方、重ね方がいき苦しくなるくらい密度が濃い。短編なのだが読み終わるとちょっと一息つきたくなるくらいの重さがちょっときつい。きついけれども読後感は悪くなかった。これだけ灰汁が強いと好き嫌いが分かれるだろうが、文章力のある小説を読みたい人にはおすすめです。

  • この作品も芥川賞候補になったんですね。
    まだまだ未熟な私にはまったく頭の中に入ってこず・・・
    難しいです。とっても。

    読点があまり無いし、どっからどこまでが今の話?昔の話?って感じで、
    読み進めるのが難しい。

  • 自分本位の(無理やりな?)性交により子どもをつくってしまった男の悩み、カブトムシの幼虫の語り、など視点が面白いなーと思う。
    芥川賞受賞作よりも、こっちの方が好きかもしれない。

  • 不意の償い 蛹 切れた鎖
    「蛹」を2回読んだ。虫の自分本位の純粋な考えが心を打つ。

  • 表題の「切れた鎖」ほか2編を収録。

    「切れた鎖」は、主人公の初老の女性が人生の黄昏時に過去を振り返ることで、自分自身の人生を見つめる内容。

    ある日主人公は、同居する娘が、その一人娘を残し独り出て行ったことを知る。

    主人公の頭の中を過去が交錯する。
    男関係が派手な上、男運の悪い娘。
    夫に出て行かれた自分。
    在日朝鮮人に差別的な自分の母。

    地方の田舎町の静かな風景と、主人公の中にある嵐のような心象風景のコントラストが非情に上手いなと思いました。
    一人称も台詞も凄くリアルな感じがまたよかったですね。

    「不意の償い」は子供が生まれる寸前の妻を車に乗せた夫が、過去の妻との関係を反芻する話。

    「蛹」は、人間の成長のメタファーとして、カブトムシの成長を描いた作品。
    こちらはよくわかりませんでした。

    「切れた鎖」は面白いといえば面白いのだが、人に勧めたくなるほどの面白さというより、小粒な名作といったところ。

    田中慎弥という作家の幅広さを知りたい方には読むことをオススメする一冊です。

  •  「もらっといてやる」発言で話題になった芥川賞作家の小説集。何とも言えない陰気な雰囲気を醸し出している。特に表題作は、性、血のつながり、湿った土地、古い教会、といった不気味な要素が満載。個人的には嫌いじゃないけど、多くの人に受け入れられる感じじゃないな。

  • 読み終わったというのは間違っているかも
    良く分からないけど、読みにくい文だし全く読み進めなかった

  • 「蛹」が衝撃。面白かった。最高、完璧でなく思わず読み返してしまう文章が魅力。今後も気になる作家です。

  • 話題の田中慎弥さんの本ということで読んでみた。
    さっぱり分からないし面白くない。
    使ってある言葉もきれいでなく好きになれない。
    人の心の隠したい部分にスポットが当たっているせいか?

  • ぐだぐだと悶々とした人たちのことを
    ぐだぐだと書いた。
    文章的にも美しさを感じません。

  • 因果。生れてきた意味。回転する思考。
    血縁、歴史、断ち切ることのできない因縁。

    思考が現実を侵食する。のだ。

  • 表題作も、その他2編も、よく分かんない。

  • 自分にとってこの人の本は、読んでる時は苦痛しか感じないのですが…でも「田中慎弥」という名前を見るとチャレンジせずにはいられないのです。修行というか苦行に挑むような感覚で。最初にチャレンジした『図書準備室』で早々に挫折したのがトラウマとなっているようだなぁ。一つ目の作品がとにかく気持ち悪かったなぁ。二つ目のカブトムシ?のお話もポカーンって感じだったし。三つ目の表題作が一番解り易かった。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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