実験

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 116
感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103041337

作品紹介・あらすじ

「俺が小説を書こうが書くまいが、他人にとってはどうでもいいんだよ。」文芸誌の新人賞を貰って四年が経った。結婚もして、本も出た。しかし小説一本の生活は想像していた以上に厳しかった。ある日、うつ状態になった幼なじみに会いに行き、ようやく次の小説のきっかけを掴んだ気がしたのだが-。

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいるうちに、10年以上前に読んだ本だと気づいたので、再読。
    作家になり賞もとって四年、小説だけで食べて行くにはなかなか厳しい日々の下村。新人賞をとってから入籍した妻とも、すれ違いの生活が続いていた。
    そんな時、母親から幼なじみの春男に会って来て欲しいと電話が来る。
    二つ下の春男は、大きな頭に手足が短く、運動が苦手で友達も少なく、いつも下村の後をついてまわっていた。そんな春男が鬱を患って引きこもっているという。20年ぶりに再会した春男は、庭の木で首を吊ろうとした事を告白する。
    幼い頃から、疎ましく思っていた春男の告白だったが、下村は小説のネタにしようと考える。
    帰り際に春男の母親から手渡された、鬱患者の為のパンフレットに載っていた、頑張れと言わないとの言葉。
    世の中の役に立たないから、死にたいと話す春男に、頑張れ頑張れと繰り返し叱咤激励する下村。
    女性を知らない春男に、妻に露出の多い服を着る様に命じ三人で食事をさせる。
    帰りの車中、小説の中の自殺する男の為に、遺書を書いてくれと頼む。死のうとしているお前なら本物の遺書が書けると。
    それは、鬱の人間にタブーなことを繰り返し、本当に自殺するのかを実験するということだった。
    果たして下村の実験の結果は....。  

    人間の卑しい部分がこれでもかと見えてくる様な話だった。
    他、汽笛と週末の葬儀の短編集。
    どちらも死をテーマにしたもの。

  • 田中慎弥さんの作品は二作目。
    芥川賞受賞作家というイメージが強く、こちらの作品も芥川賞っぽいザ・純文学という感じ(最近の芥川賞はエンタメ要素も強めですが)。
    うつ病を発症した幼馴染を自殺へと誘導して小説のネタにしようとする作家の主人公。
    ねっとり、じめっとしていながら、幼馴染のうっとうしさや妻との不仲などリアルで滑稽さがあり、おもしろく読めた。ただラストは、もう少し派手にしてほしかった……けれど、そうすると作品の質が落ちるということになるのかしら?
    観察眼がさすが鋭くて悪くはないのだけど、なんとなく地味で読み進める気になれず、表題作のみ読了して本を閉じちゃいました。

  • 実験は面白かった

  • 三十代半ばの作家、下村は実家の母親から”子どもの頃に仲のよかった春男を訪ねてやってくれ”と頼まれる。うつ病で通院し始めたようだ、とのこと。

    小学生の頃、春男にテストのカンニングをけしかけたことを下村は未だに気にかけていたが、当の春男はそんなことより自分の死にたい感情、目撃してしまった両親の性行為で頭がいっぱいのようだった。

    下村は女性の身体を知らない春男に、自分の妻を見せびらかし、彼に遺書を書かせて自殺へと誘導し、小説のネタにしようとしたが、春男は首を吊って死ぬどころか木を刈り倒す。日本中の木を刈り倒す気持ちらしい。
    うつ病の男が自殺に追い込まれそうで死なない、という小説を下村は書くことにした。

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    めんどくさいうつ病の幼馴染に遺書を書かせて自殺させられるか、という実験に及ぶ男の頭の話。
    暗い話のはずだけど、どこか滑稽だったのはどうしてだろう。誰も死ななかったから、悲劇ではなく喜劇だったということかな。

    その後に載っていた『汽笛』と『週末の葬儀』は死後の世界へ行くのを待つ人の様子、もしくは自分の人生に飽き飽きした人の思想みたいなものが描かれていて、濃度の高い絶望に満たされていた。
    この二つだけ読むのはきつかったかもしれない。

    セロトニンが少なくなってうつ病になっていく、みたいなことを春男が話していたけど、体内でセロトニンに変換されるトリプトファンというサプリは普通に購入できるのでぜひ試してほしいと思った。

  • 田中慎弥さんの作品大好き。読むたびにその思いが強くなります。絶望してないところに、いつも少し充たされる気がするから。

  • 本棚に置いておくだけで呪われそうな表紙。
    内容もまた然り。

    じめっとした部屋で一人、ひざを抱えて再読したくなる本でした。

  • 暗い世界観、人間描写が田中慎弥のイメージ通り。

  • 実験:人間のいやな部分、エゴが描かれている、暗くて陰湿な作品。
    でも、どこか善人ぶっておきながら、自分の奥底にも存在する嫌な部分をみせられている気にさせられる。



    汽笛:船にのるつもりだった、でも記憶の曖昧な男。乗ろうとしている船は、死者を乗せる船。最後の記憶は死ぬときの記憶。

    週末の葬儀:錆と砂。壊れた家族。原因がわからない。謝れない。

  • この作家の言動に興味を持ったので、図書館に並んでいたものを選んで読んでみた。
    文体は嫌いでないが、いいとも思わず。
    それより、内容が狭い世界のことでつまらなく感じた。
    他の作品を読んでみたい。

  • 収録されている三編を平均すると★3つですが、「汽笛」に限って言えば★4、いや★5でもいいかな。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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