遺体 震災、津波の果てに

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103054535

感想・レビュー・書評

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  • 2011年3月11日…東日本大震災、大地震と大津波で三陸にある釜石も多くの犠牲者を出した…。次から次へと安置所に運び込まれる遺体を前に、残された人々はどう関わったのかが詳細に描かれている作品。あの日からもう10年以上の年月が流れたけれど、こうして石井光太さんが残してくれた作品があり、それは残酷な現実を風化させないこと、犠牲になった方々への供養にもつながるのではないか…そう感じました。
    ただ、作中に出てくる民生委員さん2年前に強制性交で逮捕されてるんですね…。石井光太さんはこの方のことをきちんと把握できていなかったようです。そこが少し残念ではありますが、市長や市職員、僧侶、医師、歯科医、消防団員など…自らの被災者でありながら、ただひたむきに釜石の住民のために動いてきた人々には頭がさがります。

  • 東日本大震災関連の本を少しずつ探して読んでいる。
    この本は素晴らしい。

    続々と発見される『遺体』をテーマに、東日本大震災を捉えた作品。

    瓦礫の山から遺体を探し運び出す自衛隊員。
    その遺体を安置所へ搬送する市職員やボランティア。
    遺体をきれいに洗い、死亡状況や持ち物から身元確認を行う警察。
    死体を検分し、死亡診断書を書く医師。
    身元調査のための資料として検歯を行う歯科医師。
    大量の棺やドライアイスを手配し、火葬までの遺族対応を行う葬儀社。
    そして、死体安置所へ家族を探しにくる家族対応を行う民生委員。

    遺体に関わった人々を取材し、それぞれの視点から震災や犠牲者や身近な人々を失った遺族の思いが綴られている。

    どんなにむごたらしい姿であっても、遺体を目の当たりにすることによって、近しい人の「死」を受け入れるものなのかもしれない。行方不明のままでは死んだとは思えないのではないだろうか。御巣鷹山の日航機事故の時、海外の遺族たちは、乗員名簿に名前が載っていることで家族の死を受け入れたというが、日本人遺族は、可能な限りの完全な遺体を求めたという。日本人は、それだけ「遺体」に重きを置く民族なのかもしれない。

    見つかった遺体に対しては、「よかったな。これで家族のもとに帰れるぞ」と語りかけた民生委員。家族は変わり果てた姿であっても、帰ってきてほしいと願っているのだ。犠牲者も、家族のもとに戻り、墓に入れてもらった方がはるかにいい。

    震災後、日が経つにつれても身元不明の遺体がたくさん残った。火葬された遺骨は、とある寺に一括して安置され、供養されることになった。
    そんな遺骨のもとへも、毎日誰彼ともなく花を供え、お参りに来るという。
    彼らは家族が未だ行方不明で、身元不明の遺骨を通して、海の底に取り残された家族を弔っているのかもしれない。
    そうしていつまでも「忘れないでいること」が、震災で犠牲になった「遺体」に対する供養になるのだろう。

    震災だけにとどまらず、大きな事故・行方不明など、近しい人を弔う思いにはきっと共通するものがあるのではないか。

  •  海外の最貧国ルポで知られる石井が、東日本大震災直後から3ヶ月間にわたって岩手県釜石市で取材をつづけ、書き上げたノンフィクション。

     遺体安置所を主舞台として、地震と津波で命を落とした人々の遺体をめぐるドラマに的を絞っている。
     この設定に、ある種の「あざとさ」を感じないでもない。遺体をめぐるドラマは、震災の出来事のうち最も衝撃的であり、そこだけを凝縮した本作は、いわば「衝撃作となるに決まっている」からである。
     「あざとさ」を、「センセーショナリズム」と言い換えてもよい。石井の過去作でもときどき感じたことだが、彼には人目を引くきわどい場面ばかりを強調して書きたがる癖(へき)がある。その癖は一歩間違えれば、『週刊新潮』的センセーショナリズムに堕してしまうだろう。

     森達也氏らが震災被災地を撮ったドキュメンタリー映画『311』に対して、「遺体を映して金儲けをしている」という批判がなされたそうだが、本書もそのような批判にさらされかねない作品といえよう。

     ……と、読む前にはそのような危惧を抱いていたのだが、読んでみたら煽情的なところは微塵もない真摯な作品であった。

     ずっと自分を主人公にしてノンフィクションを書いてきた石井が、本作では作中の「自分」を消し、三人称で登場人物の心の裡までを描くニュー・ジャーナリズム的手法を用いている。そして、それが十分に奏功している。
     取材は綿密で、読みながら遺体安置所の空気が伝わってくるような臨場感がある。おびただしい遺体に、なんとか人としての尊厳を与えようとする無名の勇者たち――民生委員・市職員・医師・消防団員・自衛隊員・僧侶など――の奮闘が、感動的だ。

     最貧国取材という得意技を封じて主舞台を日本に移しても、石井はノンフィクション作家として立派にやっていける。そのことを証明した力作。

  • 震災・津波が残したものの凄まじさに言葉を失う。

    つらい本である。登場する人たちの味わったつらさは、おそらくは想像のおよばぬほど大きいであろうことを思うと、ますますつらい。
    筆者は釜石の遺体安置所を定点に据えて、様々な人がどのように災害後の日々を乗り切っていったかを描いていく。

    何しろ途轍もない災害である。想像を絶する数の人々が亡くなり、残された人々もまた被災し、あるいは友を失い、あるいは家族を失い、あるいは家を失い、あるいは仕事を失い、あるいはすべてを失っている。
    そんな中で膨大な数の遺体の身元を判別し、埋葬しなければならない。
    心身共に元気な状態であってさえ、つらい仕事に、極限状態で携わった人々の記録である。

    筆者はプロローグとエピローグ以外、ほとんど顔を出さない。
    複数の人に対する丹念な聞き取り調査を元に、「その日々」を再構成していく。
    民生委員。医師。歯科医。消防団員。市の職員。市長。葬儀社社員。僧侶。
    その多くは、いずれも紙一重で自らは命を落とさなかった人々であり、自らの行く先も見えぬ状態にある。
    自分もまた被災者でありながら、捜索や遺体の管理に奔走しなければならない疲労と苦悩。僧侶ですら「仏の教えなど役に立たないかもしれない」とつぶやくほどの惨状。
    わりきれぬ思い。決してかなわぬ「もし」。

    筆者は黒子に徹している。だがこれだけの聞き取り調査を行うには、深い信頼関係が必要であったろう。
    定点からある視点で記述することが、混乱した状況の把握につながっている。

    涙で何度も読むのを中断した。
    苛烈な状況を記した本だけに、万人に薦めるのは躊躇われるが、紛れもない渾身の良書である。
    亡くなった方の冥福を祈り、遺族にお悔やみを申し上げたい。

    *一番印象に残ったのは民生委員さん。頭が下がる

  • 請求記号 369.31-ISH
    https://opac.iuhw.ac.jp/Otawara/opac/Holding_list/search?rgtn=1M005308
    準備もなく、突然の死別とは何か。東日本大震災での出来事を通して生きることと死ぬことを考えさせられる内容です。

  • 東日本関連の報道や著作、ネットや週刊誌においては、「ジャーナリスト」とか「ルポライター」を名乗れば何を書いても構わない、といった浅ましさが透けて見える輩もずいぶんいました。
    一方、著者の石井光太氏は過去にも多くの社会問題や宗教に根差した暗部をテーマに著作を重ねているだけのことはあり、きちんとしたつくりになっています。インパクトのあるタイトルにしつつ、野次馬根性はなく、被災者の心情を損ねないような記述に終始しています。舞台は釜石市。著者いわく「市の半分は津波で壊滅し、残り半分は被害を免れたので、市として対応することができた場所」です。

    遺体安置所の惨状を目にして、ボランティアで働くことを決めた葬儀社勤務経験のある男性。
    膨大な数の被災者の死亡診断書を書くことになった釜石市医師会の会長。
    カルテが流出している中、遺体の歯型の記録を取ることにはたして意味があるのかどうか、自問自答しながら働く釜石市歯科医師会の会長。
    突然、遺体の搬送業務を担うことになってしまった市の職員。
    遺体を火葬するために奔走する葬儀社の社員と、県外で火葬をしてもらうために働く消防団員。
    すべての被災者を供養するため、宗派を超えた連帯の体制を一気に実現した住職。

    様々な人の関わりが紹介されていますが、行政や自衛隊といった「公的な立場の人たち」の話は比較的少なく、どちらかというと上記のような「市井の人たち」の動きに主眼が置かれています。大災害では行政がどうしても対応できない部分が出てくる以上、ここに登場する人たちに多くの紙幅が割かれているのはむしろ自然と言えるでしょう。

    エピローグの一番最後、著者は亡くなった方々に向けて「みなさん、釜石に生まれてよかったね」とつぶやいています。この本が出たのが震災の年の10月。まだまだ、被災者の側にもそれ以外の側にも、過剰とも言える「被災していない人から被災した人に向けた言葉や視線」に対するアレルギーがあった時期です。その時期にこの言葉をかけることができ、さらにそれを本に記すことまでできた著者の度胸というか、覚悟に唸らされました。

  • もうすぐ2年が経つのを前に、読んだ1冊。
    後半は泣きながらになったけど、読んで良かったと思う。

    あの日、自分では冷静に冷静にと思って行動していたけど、現実感が持てないまま、時間だけ過ぎてきていた気がする。

    地震直後から停電してたから、情報はラジオと時折繋がる夫との携帯のみ。
    津波が起こって、東北地方沿岸部の方は滅茶苦茶、ということを聞いても、イマイチピンときていなかった。
    ただ、目の前にいる子どもたちを不安がらせないように、怪我させないように必死だった。
    停電が解消されたのは日付がかわる頃で、やっと温かいお茶を飲み、テレビを付けた途端に飛び込んできた津波の映像。
    次々に増えてゆく死者と行方不明者の数。
    現実に起こったこととは思えなかった。

    多分、その時から見ないようにしていたんだと思う。
    数字の裏にいた人々のことを。
    ドキュメンタリーもインタビューもなるべく見ないで、ただ、NHKのニュースと子ども向け番組だけ見ていた。
    それは今もそう。

    数字だけ見れば、そこにあるドラマは見ないで済むから。

    この本を読みながら、昔、阪神・淡路大震災のニュースの時に久米明さんが全壊戸数を読み上げた後に「この数字の下には同じ数だけの家庭があり、家族が住んでいたことを忘れてはいけない」という趣旨の発言をされていたのを思い出した。

    この死者行方不明者の数字の裏には、その数と同じだけの人生があり、暮らしが有り、苦しみや後悔や悲しみもある。

    人間は忘れるのが得意な生き物で、とりわけ辛いこと悲しかったことは早く忘れようとするし、見えなくなって聞こえなくなってしまえば、更に忘れてしまう。

    だけど、悲しいという感情を持つ間もなく、骨身を惜しまず働いていた人々がいた事、一瞬で幸せな生活や街が消えてしまったこと、数字の裏には決してメディアには出てこない沢山のご遺体と別れがあったことだけは、ずっと忘れてはいけないと思う。

    震災から2年。
    まだ終わってなんかいない。
    私もまだ、ドキュメンタリーは見れない。
    けれど、あの日に何が起きていたのかは知りたいと思う。
    現地に行く勇気はまだないけれど、いつか行けたら良いなと思う。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ずっと忘れてはいけないと思う。」
      忘れないために、震災関連の本を少しずつ購入している。
      情け無いけど、辛くてなかなか読めない。。。
      「ずっと忘れてはいけないと思う。」
      忘れないために、震災関連の本を少しずつ購入している。
      情け無いけど、辛くてなかなか読めない。。。
      2013/06/04
  • 震災に関する報道でも、むしろ避けられていた感のある「遺体の処理」問題に踏みこんだ著者ならではのルポルタージュ。
    大変な事態になっていただろうと想像はしていても、具体的に事実を突きつけられると怯まざるを得ない。

    偶然居合わせた人々の善意というよりひたむきな義務感に支えられて遺体の山は無事火葬されるにいたり、状況が許す限りの尊厳が護られてきたのだ。

    この義務感は多くの日本人が共通してもつ価値観・倫理観であり、誇るべきものだと思う。

  • 3.11でご遺体に向き合って来た方々のルポ。海からの引き上げ、死因の診断、歯型の確認、僧侶のお経、みんながご遺体に向き合った様を書いた一冊。胸が締め付けられる思いがしたと同時に被災しながらもご遺体に向き合ったプロたちに感服した。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/57041

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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