- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103054580
作品紹介・あらすじ
大切なはずの身内を手にかける──その時、家族に何が起こっていたのか。「まじ消えてほしいわ」とLINEで罵り、同居していた病弱の母親を放置し餓死させた姉妹、首を絞め殺した引きこもりの息子の死に顔を30分もの間見つめていた父親、幼いきょうだいを手にかけた母親を持つ娘の、加害者家族としての慟哭……人はなぜ家族を殺してしまうのか。7つの事件が問いかける、けっして他人事ではない真実。
感想・レビュー・書評
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「家族」
この言葉に人々はどんなイメージを抱くのだろう。
テレビやメディアを通じて、「ふるさと」「帰るべきところ」という漠然としていても温かみに満ちて柔和な手触りを想像するのではないだろうか。
お盆や年末年始の帰省シーズンには毎年恒例テレビの定時のニュース1時間おきに、混雑する高速道路や新幹線、飛行機の光景を目にする。皆家に帰るんだ…。
だから「家族や実家は温かく帰りたくなるところ」と私は30代まで思っていた。
帰りたくない私がいけないんだと。
しかし家族は家族だから難しい。
他人であれば縁遠くなったところでそれはそれ。しかし血の繋がりは社会の最小単位であり、「家族のことは家族で」という社会の暗黙の了解のもと、解決が難しいどころか、問題が深刻になる危険性もある。
そんな家族ゆえの難しさ、もっと辛辣に言えば惨さ、絶望を見た1冊。
エリート官僚で次官まで上り詰めた人物が自分の息子に手をかけた事件は記憶に新しい。
彼の知的資源、情報力、経済力等をもってしても追い詰められた結果の事件という冒頭の筆者の言葉が重い。
日々滝のように流れる情報の渦は1つ1つの事象・事件をあっという間に過去のものにしてしまうが、筆者石井光太さんが実際に裁判に足を運び、忘れ去られる事件の経緯や背景を丁寧に掘り起こした1冊。
事件7件に関して地名や人名を伏せながら、事実にできる限り忠実に再現されている。
親のネグレクトやマルトリートメント(不適切な養育)によって情緒や人間関係が適切に育まれなかったがゆえの介護放棄。
精神疾患による引きこもりの先の家庭内暴力の果て、父親による息子殺害。
夫からの愛情を独占したくて、実の子どもをマンションから投下する殺人事件。
どれもこれも胸が塞ぐが、同時に普段私の胸の中に沈めて蓋をしている出来事がフラッシュバックして呼吸が浅くなる。頭の中がぐるぐるする。
私ももし実家の家族とのつながりを保ったままでいたら、加害者にも被害者にもなっていたのではないかと。
いずれの事件に関しても背景には精神疾患や発達やパーソナリティの問題があることが薄っすらわかる。虐待、ネグレクト、依存、ヤングケアラー等々種々の問題が複雑に絡み合っている。
愛したいのに愛し方がわからない。
愛されたいのに相手を支配しかできない。
自分に助けが必要である状態に気が付かない。
どこに助けを求めていいのか、社会的な知識に乏しい。
日常生活の送り方や金銭の安全な使い方に無知。
こうした生きづらさは家族外の適切な人、機関とつながることを難しくさせ、結果本人は憤りや怒りの壁を積み上げ、身近な家族への暴言・暴力、支配が起こり、最後は家族を服従させてしまうことがある。
社会は「弱者は弱くて可哀想な人」という前提に盲目だが、こうしたケースでは易怒性が高く、感情のコントロールが難しく、攻撃的であることも多い。
私の実家の母ときょうだいもそうだから。
文中に度々出てきた「死んでやる」「殺してやる」は相手を支配する言葉だ。
だから私に従えと。言われた方はどんどん追い込まれ、視野狭窄になり、選択肢を失う。
どの事件でも本人を病院に通わせ、投薬治療を受け、時には措置入院すら施す。
福祉ともつながっても、どうにもこうにも解決しないこともある。
私はサバイバーズギルティとともに生きながらえながら、でも加害者にも被害者にもならずに済んだことと、子どもたちへの連鎖を止めて、独り立ちしていってくれたことを大切にしたい。でも未だ完全な解決などないし、いずれまたという恐怖は消えない日常。
家族はよいものという呪文に苦しんでいる人は一読の価値がある作品だと思う。 -
毎日のように、家族内の殺人が報じられている。
他人ごとではない、といつも思う。
本作の中の事例も、どうすれば被害が防げたのか、簡単には答えは出ない。
精神疾患が絡んでいるケースがほとんどで、病院や警察といった公的機関とのスムーズな連携がもっとあれば、という気もするが、周囲にSOSをうまく求められず、抱え込んでしまう人たちの気持ちもわかるのだ。
つらい状況にある人は、ぜひ周りにSOSを発してほしい。
でも、いざ自分がそうなったら、やはりできるかわからない。 -
※
家庭というある意味では閉ざされた空間
であったが故に起こってしまった殺人事件を
深く掘り下げたルポタージュ。
事件の内容を扇状的に報じるのではなく、
殺人が起きてしまった経緯を慎重に掘り下げ
根底にある問題を明らかにしていく。
難しいからと諦めるのではなく、
問題を見つめ考えていくことが欠かせない
とした解説に緩んだ頭が刺激されました。
社会派の一冊。 -
日本で殺人事件数は年々減ってきていますが
親族間殺人は減っていないので
全体に占める割合が増えているという結果になっています。
著者はここで実際に起こった7つの事件を紹介。
人はどんな理由から家族を殺すのか。
事件が起こる家庭と、そうでない家庭とでは何が違うのか。
この問いに関する答えを、読者に見つけてほしいといいます。
私が思ったのは、被害者加害者のどちらか、あるいは両方に、精神的な病をかかえている人がいるということ。
こういうとき人は「精神科に行くのがよい」といいます。
テレフォン人生相談の高橋龍太郎先生(私この人好き)もそうおっしゃいます。
でも本当に精神科心療内科にいけば治るのでしょうか?
私は長年付き添いをしていました。
先生は話を聞いて薬を処方するだけでした。
けっきょく完治することなく通院を終了しました。
でもその後、たぶん本人のかかえている問題が解決して
元気になったのだと思います。
だから問題ない時からメンタルヘルスの情報を
テレビ本ネットなどから得ておくこと。
風邪と同じように、予防し軽いうちに治すこと。
重くなったら医者だけでなくカウンセリングも選択肢にいれるといい。
ただ、これらはあくまで幸せな家庭に起こった事件のこと。
幼いころから虐待されている子供たちについては
ものすごく心痛みますが、予防の手段は思いつきません。
余談ですが、著者石井光太さんとは今回初めて関わったと思っていました。
でも3年前、芥川賞候補作盗用事件があったとき
問題の作品を読んだのですが
その時盗用されたのが石井さんの作品であったことがわかりました。
初対面ではありませんでした。 -
家族間で起きた7つの殺人事件
決して他人事ではない。 -
血縁だからこそ逃げ出せない重荷。責任感の強さから発露する殺意。これこそ本当にやっり切れない本です。逃げてほっぽっておくなり、警察沙汰にして逮捕して貰うなりすれば最悪の事態が避けられた事態も、自分が何とかしなければと思う心が、全てを追い込みそして崩壊してしまう。そんな話ばかりです。
誰もが遭遇する可能性のある状況であるのが本当に怖いです。自分の家族は大丈夫だと思っても、その配偶者だったりもあり得るし、老老介護に至っては数多く当てはまる人もいるでしょう。
コロナで人と人との距離が離れたけれど、家族の距離は物理的に近くなり、ある瞬間にいらだちに変わる瞬間が有ると思います。近親だからこその危機もあるのだなあと恐ろしくなりました。-
2022/02/09
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ありがとうございます。石井さんは暗いけれどその先に光が見える書き方をする方なので、沈み込むようにはならずに済むのが好きです。是非!ありがとうございます。石井さんは暗いけれどその先に光が見える書き方をする方なので、沈み込むようにはならずに済むのが好きです。是非!2022/02/10
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しっかりとした文章で読みやすかった。内容は、とても重く、職業柄 身近な感じがして、時折 本を閉じ 深呼吸をする必要があった。読みながらたくさんのことを考えた。