- Amazon.co.jp ・本 (507ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103096160
作品紹介・あらすじ
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロ-帝政を構築したアウグストゥスの後に続いた四人の皇帝は、人々の痛罵を浴び、タキトゥスら古代の史家からも手厳しく批判された。しかしながら帝政は揺るがず、むしろその機能を高めていったのはなぜか。四皇帝の陰ばかりでなく光も、罪のみならず功も、余すところなく描いて新視点を示した意欲作。ローマ史を彩る悪女・傑女も続々登場。
感想・レビュー・書評
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専門家や歴史好きの一部からは批判されているが、私はこのシリーズが好き。単純に面白いから。正確な歴史を知るというより、ローマ人に想いを巡らせる上で、とても役に立つと思っている。
「悪名高き皇帝たち」では、ローマ帝国第二代皇帝ティベリウスから第五代皇帝ネロまでの治世が描かれている。カエサルが道を開き、アウグストゥスが作り上げた帝政を、次代の皇帝たちがどのように治めていくのかがテーマになっている。
ローマ帝国の面白いところは、皇帝があくまで市民の中の第一人者であるところ。強大な権力が付与されるが、それには元老院と市民の支持が必要なのである。冠を被ったステレオタイプの王様とは全くの別物だ。どちらかというと大統領に近い。そして大統領と同じく、高度な統治能力が求められるわけだが、皇帝になる誰もがこの能力を持ち合わせているわけでもない。というのも、カリグラ、クラウディウス、ネロの3名は実力というよりは血統と都合により祭り上げられて皇帝になっているからだ。なので能力を測られもせず国のトップに立っている。その割にクラウディウスは優秀だったのがローマにとっては幸いだったかもしれない。カリグラみたいな皇帝が三連続してたら流石に帝国も崩壊していたかも。。いや、流石にその前に手は打たれただろう。何故ならネロ帝のヤバさを痛いほど感じた軍団や元老院は彼の殺害を画策したのだから。この時代のローマ人には、悪い状況を修正する気概と能力があったのだ。そして修正力は血統主義から能力主義への移行に生かされたようだ。
このシリーズの面白さは扱う時代に左右される。正直なところ、ハンニバル戦役を描く2や、カエサルを描く4、5の方が手に汗握って面白い。平和なローマとなると、どうしてもハラハラする展開が少なくなる。それでもそこそこ面白いヒューマンドラマが楽しめるので、これからもこのシリーズを読んでいきたいと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1.ティベリウス おっさん
外観は共和政で内実は帝政を引き継ぐことに不明瞭さを感じる。誇り高き人で自分に厳しく周りにも冷徹。情で動かず着実に帝政の安全保障を進める。名門の出であることから、元老院との二人三脚を目指したが、阿呆に着いていけずむしろ帝政を盤石のものに進める。
2.カリグラ 若者
ティベリウスのように厳しく国益を追求すると民衆の不満を買うことが分かっていたため、民衆が喜ぶ政策を財政無視で行う。すぐさま膨大な国家黒字が赤字に。遠征に失敗し、手っ取り早い金策として元老院など富裕層から搾取するも、元老院はもちろん、民衆にも飽きられていた。統治4年目に殺害される。政治も人心も何もわかっていなかった皇帝ではなかろうか。
3.クラウディウス おっさん
担がれた形で即位したが、歴史学者で知識のあるクラウディウスはストア派に影響を受け公益へ奉仕する。真面目人間。
4.ネロ 若者
皇帝としての正当性担保として血は有効であったが、それを知らないネロは自らその後ろ盾をなくし、大したことない実力で勝負を挑む。カリグラと同じように、自己管理能力が甘く、承認欲求タイプ。空回りし、皆に煙たがれ退位。同時に、帝政にアウグストゥスの血が絶えることとなった。
勝者と敗者を決めるのはその人自体の資質の優劣ではなく、持っている資質をいかに活用するか。 -
20210509
ティベリウスはパクス・ロマーナを守り、帝政をシステム化して多くの人材を発掘した賢帝。カリグラはティベリウスの不人気を見て人気取りに固執して自滅。クラウディウスは歴史を鑑にすることで期待以上の成果を成し遂げたが、畏敬の念を起こさせることができないという弱点により近親者に倒された。ネロは権威の源泉であった母と妻を殺し、ローマ火災後の対応で誰も求めない都市改造とキリスト教徒へ罪をなすりつけた上での残虐行為を行い支持をなくす。さらに、ギリシャ文化に傾倒して、自ら歌うという奇行も重なり、元老院と近衛兵の支持を失って自殺する
・誰にも優しく、アウグストゥスの血を受け継ぎ、ゲルマン討伐でも功績のあったゲルマニクスへのティベリウスの冷遇に見える扱いと、彼の若い死は帝室に暗い影を落とした
・ゲルマニクスの妻であった大アグリッピーナとの確執で家族は崩壊し、最期の10年間はローマを離れカプリ島に隠棲した。そこに情報伝達網を築き、的確な指示で帝国統治は正常に機能したし、側近セイヤヌスの粛清も隠遁の地からやり遂げた。しかし、民衆と元老院の支持は失った
・歴史家タキトゥスの評価はローマに住む市民を代弁するものです、数で言えば圧倒的多数を占める属州民も含めた帝国全体の福祉に基づいた評価ではない。ニュースに基づく史学ではなく、細かなファクトの積み重ねである考古学の成果をもとにしたモムゼンの評価こそが全体の福祉を考慮に入れている
・カリグラはカリスマであるゲルマニクスの子供であり、自身も軍団のマスコットであった。彼の人気取りへの執着は凄まじく、神になろうとさえした。☆若くして全てを手にしたため、際限ない虚栄と、長く続くであろう治世への人々の恐怖を生み出した
・クラウディウスのガリア人への元老院議員の割当に対する賛成演説はローマの敗者をも同化させるポリシーの核心を表現。
・敬意を与えない立ち居振る舞いのために、解放奴隷たちと妻の放縦を許し、自分の息子を皇帝にしたい小アグリッピーナの野心によって殺されたのではないかといわれている -
図書館長 井上 敏先生 推薦コメント
『ヨーロッパの歴史を理解するにはまずローマの歴史。独特な書き方だが、ローマの建国から西ローマ帝国滅亡までの通史を知るにはちょうどいい。研究者からの批判もあるが、理解しやすい。』
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPAC↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/270492 -
歴史ドキュメンタリー。
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アウグストゥスの後を継いだ4人、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、そしてネロのお話。
これが「ある程度歳取ってて、地味だけど確実に成果を上げる人」と「若くて目新しいことを色々やるのだけど結果は無茶苦茶な人」が交互に皇帝になってるのが面白い。
そして後者は結局暗殺されたり自死に追い込まれたりしてるのが帝政のイメージとちと違うところ。
でもまあ、興味深いのはやっぱりネロ。
ローマ帝国のことを特に知らなくてもネロの名前は「暴君」の接頭辞で知ってる人が多いはず。
でも、後世にまで「暴君」として名が残っているのは、「キリスト教を(最初に)迫害したから」では?と示唆する内容、と言ってよかろう。
ネロより多くの血を流させた指導者はたくさんいたのだし。
それはタイトルの「悪名高き」という表現にも現れていると思う。悪名は高いけど、愚帝とか暴君とかは書いてないのよね。
(9)のタイトルが「賢帝の世紀」なのと対称的。
…ま、もちろん、塩野女史の解釈を受け入れるならば、ということなのだけど。 -
ローマ人の物語は、塩野ファンのみならず、どなたにもお勧めしたいシリーズ。この巻では、悪名高い皇帝たち。ここまで、こんなダメ皇帝が続いてもびくともしないローマって?
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ティベリウスからネロまで。
正直アウグストゥスの時代をややかったるく読んでしまったのでどうかな…と思ってたんですが、読んでみると案に相違して面白かった。
印象的なのはティベリウス、クラウディウスの堅実な代わりに華のない治世のあとのカリグラ、ネロの即位時の市民や元老院の熱狂。
特にネロの即位時はカリグラを彷彿とさせて、華々しいことばかりに終始しティベリウスの黒字財政を破綻させた、かつてのマスコットだった若き皇帝のことは思い? 出さな?? かったのか??? と首をひねってしまうのだけど、当時に生きるということはそういうことなのかもしれないなあ。 -
(2016.06.26読了)(2009.07.05購入)(2002.12.10・刷)
本を読み始めると眠くなって、同じページを何度も読むことになるので、なかなかページが進まず苦戦してしまいました。1時間かかって、10頁とかいう感じでした。
半分過ぎたあたりから、1時間に30頁ぐらいのペースになり何とか読み切りました。
大き目の版で、ページも500頁もあると、ずいぶん読みごたえがあります。
この巻は、「悪名高き皇帝たち」ということで、アウグストゥスに続く四人の皇帝について記しています。
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの四人です。アウグストゥスからの世襲の形で、皇帝になっています。
世襲とはいっても、都合よく実子というわけにはいかず、ティベリウスは、アウグストゥスの妻の連れ子です。アウグストゥスの娘ユリアと結婚させています。娘婿の形になっています。在位23年弱です。55歳で即位し、亡くなったときは77歳です。
カリグラは、アウグストゥスの曾孫です。在位4年弱です。24歳で即位し、28歳で殺害されました。
クラウディウスは、ティベリウスの弟であるドゥルーススの子供です。ティベリウスの甥ということになります。在位14年弱です。50歳で即位し、63歳で毒殺されたということです。
ネロは、カリグラの妹小アグリッピーナの子供です。小アグリッピーナは、クラウディウスの四人目の妻になり、連れ子のネロをクラウディウスの養子にしています。在位14年弱です。16歳で即位し、30歳で亡くなっています。国家の敵となり自死した。
【目次】
第一部 ティベリウス
(在位、紀元一四年九月十七日-三七年三月十六日)
カプリ島/皇帝即位/軍団蜂起/ゲルマニクス ほか
第二部 カリグラ―本名ガイウス・カエサル
(在位、紀元三七年三月十八日-四一年一月二十四日)
若き新皇帝/生立ち/治世のスタート/大病 ほか
第三部 クラウディウス
(在位、紀元四一年一月二十四日-五四年十月十三日)
予期せぬ皇位/歴史家皇帝/治世のスタート/信頼の回復 ほか
第四部 ネロ
(在位、紀元五四年十月十三日-六八年六月九日)
ティーンエイジャーの皇帝/強国パルティア/コルブロ起用/母への反抗 ほか
(付記)なぜ、自らもローマ人であるタキツゥスやスヴェトニウスは、ローマ皇帝たちを悪く書いたのか
年表
参考文献
●復元(13頁)
私(塩野七生)には、遺跡を見ても頭の中で復元する癖がある。建造物を復元すれば、そこに生きていた人間たちも〝復元〟してしまう。私の空想のなかでの彼らは、今でも生きて呼吸している。
●皇帝(18頁)
ローマの皇帝は天から降りてきたのではなく、人々の承認を受けてはじめて存在理由を獲得できる地位なのであった。
・元老院の第一人者の称号
・ローマ全軍最高指揮権
・護民官特権
・ローマ国家を守るために必要なすべての権力
●九月(32頁)
ある日の元老院会議で、七月がユリウス、八月がアウグストゥスと名づけられているのに倣って、九月をティベリウスとしようと提案した議員がいた。ティベリウスは自席から、矢のような一句を放ってそれをつぶした。
「『第一人者』が十人を越えたときはどうするのか」
●近衛軍団(56頁)
ローマ帝国は、帝国の本国であるイタリア半島に軍団を置いていなかった。近衛軍団の任務の主なるものは、本国の秩序維持であったのだ。
●メンテナンス(63頁)
新規の工事は減りはしても、不断のメンテナンスを必要とする建物や水道や街道はすさまじい数と量であった。ローマのエンジニアは、「石は味方で水は敵」と言っている。
●街道と法律(120頁)
この二事(街道と法律)に共通しているのは、必要に応じて〝メンテナンス〟をほどこさないと機能の低下は避けられないという、人間世界の現実であった。法律面での〝メンテナンス〟とは、現状に即して改めることである。
●三代目の皇帝(183頁)
ティベリウスの後を継いで三代目の皇帝になる可能性をもつ者は三人いた。年齢順にすれば、四十五歳のクラウディウス、二十四歳のカリグラ、そして、ティベリウスには直孫にあたる十六歳のゲメルスである。
●盤石にした(184頁)
ローマ帝国は、タキトゥスのような共和制シンパがどう批判しようと、カエサルが企画し、アウグストゥスが構築し、ティベリウスが盤石にしたという事実では間違いない。
●カリグラの「施政方針演説」(191頁)
・本国外追放者の帰国を許す
・情報提供要員制度を全廃する
・1%の売上税を廃止する
●ゲメルスの殺害(203頁)
全快した最高権力者(カリグラ)がまず最初にやったことは、養子にしていたゲメルスを殺させたことであった。
●娯楽(205頁)
カリグラによって解禁された娯楽は、剣闘士試合と戦車競走の二つに代表される。いずれも、庶民が熱狂する競技であった。
●四度の結婚(210頁)
カリグラは、二十一歳から二十七歳までの六年間に四人の女と結婚している。一人には死なれ、二人は離婚し、二十八歳で迎えることになる死をともにしたのは、四人目の妻のカエソニアだった。
●財政破綻(216頁)
カリグラが即位してから三年も過ぎないうちに、皇帝の私有財産はもちろんのこと、国家の財政の破綻までが明らかになった。
皇室一家の家具調度類や宝飾品から使用人の奴隷までを、競売に出すことにしたのである。(217頁)
●クラウディウスの政治(279頁)
・「国家反逆罪法」を理由にしての処罰は廃止する
・1%の売上税を復活する
●クラウディウスの秘書官システム(301頁)
クラウディウス家の奴隷や解放奴隷の中の優秀な者たちで、官邸につめる秘書官組織が形成されたのであった。
・「書簡係」-内閣の官房長官のようなもの
・「会計係」-大蔵省、財政全般を一手に引き受ける
・「文書係」-帝国各地から皇帝に送られてくる請願や陳情の受付係
・「筆記係」-皇帝への請願や陳情への、皇帝からの回答の文書作成
・「書庫係」-皇帝の許に集まってくる書類を整理し、参照できるようにしておく
・「お勉強係」-皇帝の名で出される布告の文面の作成
●皇妃メッサリーナ(307頁)
夫に皇帝の地位がめぐってきた紀元四十一年、五十歳のクラウディウスはカリグラのように、それによって舞い上がるようなことはなかったが、十六歳であったメッサリーナは舞い上がってしまったのである。
●欲望の満足(308頁)
皇妃メッサリーナの放縦は、虚栄欲と物欲と性欲という、実に女らしい欲望を満足させることに向かう。
虚栄心のほうは、夫の凱旋式の行列に参加することで発揮された。
物欲は、姦通罪と国家反逆罪を活用して、他人の資産を入手することで満たした。
●二重結婚(328頁)
元元老院議員のシリウスとメッサリーナ(23歳)は結婚した。
メッサリーナは近衛軍団により殺害された。
●四人目の妻(345頁)
六十歳のクラウディウスは、兄のゲルマにクスの娘(姪)である小アグリッピーナ、三十四歳を四人目の妻として迎えた。小アグリッピーナは、カリグラの妹で、未亡人だった。
●母殺し((412頁)
二十歳になったネロは、邪魔になった母のアグリッピーナを殺させた。
●ネロ祭(414頁)
紀元六十年に、最初のネロ祭が実施された。ギリシアの「オリンピア競技会」の移植である。
●外交(448頁)
戦争は、武器を使ってやる外交であり、外交は、武器を使わないでやる戦争である。
☆関連図書(既読)
「世界の歴史(2) ギリシアとローマ」村川堅太郎著、中公文庫、1974.11.10
「世界の歴史(5) ローマ帝国とキリスト教」弓削達著、河出文庫、1989.08.04
「ネロ」秀村欣二著、中公新書、1967.10.25
「ローマの歴史」I.モンタネッリ著、中公文庫、1979.01.10
「古代ローマ帝国の謎」阪本浩著、光文社文庫、1987.10.20
「ローマ散策」河島英昭著、岩波新書、2000.11.20
☆塩野七生さんの本(既読)
「神の代理人」塩野七生著、中公文庫、1975.11.10
「黄金のローマ」塩野七生著、朝日文芸文庫、1995.01.01
「ローマ人の物語Ⅰ ローマは一日にして成らず」塩野七生著、新潮社、1992.07.07
「ローマ人の物語Ⅱ ハンニバル戦記」塩野七生著、新潮社、1993.08.07
「ローマ人の物語Ⅲ 勝者の混迷」塩野七生著、新潮社、1994.08.07
「ローマ人の物語Ⅳ ユリウス・カエサルルビコン以前」塩野七生著、新潮社、1995.09.30
「ローマ人の物語Ⅴ ユリウス・カエサルルビコン以後」塩野七生著、新潮社、1996.03.30
「ローマ人の物語Ⅵ パクス・ロマーナ」塩野七生著、新潮社、1997.07.07
「ローマ人への20の質問」塩野七生著、文春新書、2000.01.20
「ローマの街角から」塩野七生著、新潮社、2000.10.30
(2016年7月3日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロ―帝政を構築したアウグストゥスの後に続いた四人の皇帝は、人々の痛罵を浴び、タキトゥスら古代の史家からも手厳しく批判された。しかしながら帝政は揺るがず、むしろその機能を高めていったのはなぜか。四皇帝の陰ばかりでなく光も、罪のみならず功も、余すところなく描いて新視点を示した意欲作。ローマ史を彩る悪女・傑女も続々登場。