ローマ亡き後の地中海世界(上)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103096306

作品紹介・あらすじ

「パクス・ロマーナ」が崩れるとはどういうことか。秩序なき地中海を支配したのは「イスラムの海賊」だった。衝撃的な、『ローマ人の物語』のその後。

感想・レビュー・書評

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  • ローマ帝国滅亡後の地中海についての話ですが、内容はサラセン人(北アフリカのイスラーム教徒)海賊による地中海沿岸各地に居住するキリスト教徒への略奪と、それに対するキリスト教徒側の対応がメインです。作者が歴史家ではなく小説家であるため、普段歴史家が見落としがちなが書かれてあり、読んでいて非常に参考になる一方、所々に歴史的な間違いもありました(カール大帝の父をカール・マルテルとしたり)。しかしそれでも“歴史学”という、科学として何かを明らかにしなければならないという制約がないため自由闊達に書かれてある印象をもちました。例えば46ページ「「暗黒の中世」と後世の歴史家たちは言う。その一方では、中世は暗黒ではなかった、と主張する学者たちもいる。だが、少なくともイタリア半島とシチリアに住む人々にとっては暗黒以外何ものでもなかったのが、彼らが生きた「中世」なのであった。」という言葉は、より活発な面ばかりにスポットをあてがちな歴史家の性では、なかなか出てこない言葉ではないでしょうか。また、歴史教科書には触れられない「救出修道会」や「救出騎士団」の活動も知ることができました。海賊に拉致され、イスラーム世界で奴隷として酷使されていたキリスト教徒を救出するために設立された2団体の活動についてですが、この本は新聞で麻生総理も買ったと書いてあり、総理にはぜひこのくだりを読んでもらいたいものです。しかしキリスト教徒たちが自身の“兄弟”たちの救出に熱狂していた一方で、海の向こうではインディオや黒人たちを奴隷として使役していたという現実は、信仰の限界と皮肉を感じます。

  • 2022/01/11 木の本棚より 歴史 @図書館 ◇塩野七生

  • 塩野七生さんの「ローマ亡き後の地中海世界」を読み終わった。
    彼女の著作を読む上でのバックボーンを構築し、ガイドラインにもなるという、塩野七生ファンには重要な本となりそうだ。
    細切れの時間を使って読んでいたので、えらく時間がかかってしまったが、それでもやっぱり、感慨は深い。

    8世紀から18世紀までの地中海世界でのオスマントルコとキリスト教諸国との千年にわたる葛藤を大きく描いている。
    一神教を奉ずるこの2大勢力は、その原理主義に従って、互いに略奪、拉致、暴虐を永きにわたって繰り返してきた。海は地中海全体、陸はウィーン近郊に迫るイスラムの伸張に歯止めをかけたのが、有名なレパントの海戦だ。世界史の教科書には、キリスト教側の主役として、法王庁とスペイン国王の事は描かれているが、実際に勝利の立役者になったのは、原理主義から離れ、ルネッサンスの花開いた、ベネチアの船と将兵だった。

    ここがまさに、塩野七生さんのテーマであるといえる。
    その締めくくりに書かれてある内容に胸を打たれた。
    「現代のイスラム諸国とキリスト教諸国を分けるのはルネサンス時代を経たか、そうでないかという違いである」と彼女は述べている。

    そのとおりかもしれない。
    翻って日本を考えると、他のアジア諸国と違って、日本は、ヨーロッパ同様に封建時代を経験し、江戸時代という、人間を見つめる芸術が花開いた時代を経験した。
    なんと幸せで豊かな過去をもつことができたのかと思う。

    自由と人間の大切さを忘れた国民は危機に弱い。
    それは世界の歴史が証明してきた。
    日本は今、どちらなのだろう。
    忘れかけているけれど、しっかりDNAに刻み込まれてると、ボクは思っている。
    だから、今度の危機も日本は強く立ち向かえるし、最後には勝つと信じていられる。

  • ローマ帝国が滅び、イスラム教徒(サラセン人)が進出した地中海世界の話。
    イスラム教徒の海賊が跋扈する地中海。ローマ帝国が滅んだ後、キリスト教徒はいかにしてイスラム海賊に耐えたのか?
    イスラムの海賊が、19世紀前半まで拉致したキリスト教徒を奴隷にしていたというのは知らなかったです。

  • 暗黒の時代と呼ばれるローマ後の世界。巻末の年表はオドアケルによるローマ帝国滅亡から始まっている。
    内容はシチリアを中心にしたイスラム海賊史がメイン。

  • EU企画展2023「EUの北と南スウェーデンとマルタにフォーカス!」 で展示していた図書です。

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    https://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA88372568

  • 歴史ドキュメンタリー。

  • 塩野七生 「 ローマ亡き後の地中海世界 」

    ローマ帝国滅亡後の地中海通史=キリスト教とイスラム教の対立史。サラセンのシチリア征服(イスラム勢力の拡大)〜ノルマンコンクエスト(キリスト教国家の反撃)まで。


    印象に残るのは シチリアとヴェネツィア。

    シチリアの通史〜イスラム化、ノルマンコンクエスト、ノルマン王朝におけるイスラム教とキリスト教の共生の歴史〜は 未来的な感じがする。ヴェネツィア については 著者の「海の都の物語」を読もうと思う。


    ノルマンコンクエストの成功要因を
    *イスラム教徒間の宗教的な内紛(同一宗教内の対立)
    *地中海経済の共有を目的とした キリスト教国家間の協力
    としたことに 現代にも通じる普遍性を感じた


    シチリアの歴史
    *サラセン(北アフリカのイスラム教徒)の海賊→シチリア制圧(シチリアのイスラム化)→教会のモスク化
    *ノルマンディー人が再征服(ノルマンコンクエスト)→シチリアがキリスト教国家へ
    *シチリアのノルマン王朝〜キリスト教国家とイスラムの家の共生

    イスラム教
    *世界には「イスラムの家」と 「戦争の家」しかない
    *「イスラムの家」に属する者の責務は「戦争の家」に行って「イスラムの家」を拡大すること
    *イスラム教には 国家概念がない→国家概念がないので 税金をとれない→寄付 と 被支配者への税により、イスラム共同体を運営
    *イスラムの寛容により シチリアには キリスト教徒が

    「平和の確立は 軍事ではなく、政治意志である」
    平和は 求め祈っただけでは実現しない〜乱そうものなら タダでは置かないと言明し〜実行して初めて現実化する






  • 要約すると
    「北アフリカでムスリムが席巻して、地中海の北側は海賊に荒らされました。」
    で終わってしまいそうだ。後は身代金ビジネスか。
    もちろん北側の諸国がずっとごたごたしてた、というのもあるわけだけど。
    下巻でどう展開するかな。

  •  ⇒ URLは http://www.shinchosha.co.jp/topics/shiono/top.html 『新潮社:ローマ亡き後の地中海世界』 : 

  • あいかわらずの塩野節で、飽きさせない一品。
    イスラムの海賊がキリスト教徒に対してどう対したかがよく分かった。ジハードとグエッラ・サンタ、どちらも聖戦と訳すのだなと妙に納得した。トルコがEU加盟を望んでいるが、この本を読んでしまうと、イスラム色を一掃できない限りトルコのEU加盟は無理と思ってしまう。

    [private]以下心に残った部分
    ・情報とは、量が多ければそれをもとにして下す判断もより正確度が増す、とは、全くの誤解である。
     情報は、たとえ与えられる量が少なくても、その意味を素早く正確に読み取る能力を持った人の手に渡ったときに、初めて活きる。P.57

    ・トップを失ったアラブ人の兵士たちを、ルッジェロ指揮下のノルマン・シチリア軍に編入した。全く、現代のどこかの国に見習ってほしいくらいに見事な戦後処置である。P.196

    ・継続はやはり力なのだ。P.202

    ・正直一筋では外交にはならない。P.203

    ・国民が拉致されても国家間の外交には無関係、ということであろうか。なんだか、どこかの国の外務省と似ていなくもない。P.239

    ・複式簿記になって初めて、多くの地に張りめぐらされているマーケット網も、一望の元に把握できるようになったのである。これが、経済の発展に寄与したのは言うまでもない。P.241

    ・ゴールドが貴重視されてきたのは、銀や銅と比べて保存度が断じて優れているからだ。私もカルタゴとアレクサンダー大王の金貨を二枚もっているが、二千三百年も昔のものとは思えないほど、今なお燦然と輝く黄金色のままである。P.245
    [/private]

  • 「<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4103096314/ichiromarin09-22/ref=nosim" target="_blank">ローマ亡き後の地中海世界 下</a></div>の書評をご覧ください。

  • 1月9日読了

    昨年「ローマ人の物語」「海の都の物語」「十字軍物語」と読んで、ちょうどこの時期のこの地域が抜けていたので読みました。

    中世って「古城」「美しい街並み」「騎士」などメルヘンとファンタジーをイメージしていたのですが

    ひどい。ひどすぎる。
    サラセン人。イスラム教徒。

    十字軍を読んでいた時には被害者みたいに思った(でもたいてい十字軍を応援してしまった)けど、こんなでは痛い目にあわされて当然!と思いました。

    でも有名な十字軍は「エルサレム奪還」で熱くなっていて浴場(収容所)のラキーク(キリスト教の奴隷)のために何かしてくれるわけではありません。

    ラキークのために頑張ってくれたのは「救出修道会」と「救出騎士団」で、特に後者は自分たちも犠牲になっているのです。

    彼らに出会えてよかったです。いろいろ嫌なことがあったとき、彼らのことを思い出すことにします。

    あ、それから、イタリア海洋国家がこっそり助けてくれたことも忘れてはいけません。

  • 【穏やかかつ波高く】地中海を視点の中心に据え,東西に目配せをしながら中世という激動の時代を切り取った作品。秩序が崩壊した世界における歴史ドラマを描き出して行きます。著者は,『ローマ人の物語』等の名作を数々世に送り出している塩野七生。


    地理的にも空間的にも隔てられた世界に関する歴史書でありながら,人間の生き様を中心に据えているため,自分のことのように読めてしまうのはさすがに塩野氏の作品ならでは。キリッとしまった警句も読む者をハッとさせてくれますし,身になる読書がどういうものかが体験できるかと。

    〜海上からこれらの観光地を眺めるたびに,そして今では,,レストランやナイトクラブに使われていたりする「サラセンの塔」に出会うたびに,「パクス」(平和)とは,所詮は普通の庶民の安全を保障することである,と思わずにはいられなくなる。そして,こみあげてくる苦笑とともに思う。人間とは,安全さえ保障されれば,けっこう自分たちでやっていける存在なのだ,と。〜

    『ローマ人の物語』をむさぼり読んだ大学時代を思い出しました☆5つ

    ※本レビューは上下巻を通してのものです。

  • 塩野七生女子にしてはマイナーなテーマを選んでいる。

    地中海でイスラムの海賊が長年にわたって荒らしまわって、その勢いはイタリア占領の一歩手前まで行ったことを知らなかった。

    知っているのは、トゥール・ポワティエの戦いでキリスト教側がイスラム勢力をくい止め、ヨーロッパが救われたということだけ。

    十字軍のずっと前から始まり、18世紀まで続いていたことはマイナーなテーマどころか、キリスト教世界にボディーブローのようにダメージを与えてきたことは中世を知る上で欠かすことの出来ない歴史だろう。

    塩野女史の大好きなオトコマエの英雄は登場しないが、サラセン海賊に光を当ててくれたお陰で、中世が俄然面白くなった。

    ぼくがヨーロッパを旅行して強く感じたことは「恐怖」だった。

    それは、モンゴルによる恐怖であり、蛮族に押されて移動してきたゲルマンであり、北の海から襲ってくるバイキングであると思っていたが、南から襲いかかるサラセンの海賊の恐怖もあったのだとこの本で知ることが出来た。

    今年は北アフリカから大挙押し寄せてくる難民問題がクローズアップされたけれど、地中海を南から北に吹く季節風が大きく影響しているんですね。

    難民たちがボートに乗ってヨーロッパに渡るには夏の季節がチャンスなんですね。

  • これは歴史の教科書だ。歴史上の人物にフォーカスされず、歴史そのものが書かれている。読み進めるのが辛い。。今さらながら、ユダヤ、キリスト、イスラムという順番で宗教ができたのを知った。イスラム新興宗教で勢いがあったらしい。勢力を広めるうちにキリスト教の国々への海賊行為や拉致して奴隷にしたりしているうちに、お互い一神教なので衝突していってしまったようだ。

  • この本で初めて奴隷救出のために何百年間も活動を続けた修道会や騎士団が存在したこと、その活動で何十万人も救出されたことを知りました。地中海での海賊被害を強く実感して、中世の地中海世界への認識が変わりました。

  • ローマ亡き後の地中海世界を彩るキーワード「神聖ローマ帝国」「イスラムの台頭」「海賊」「イタリアの海洋都市国家」「十字軍」をつなぎあわせ、ひとつのストーリーとして書き下ろした歴史書である。

  • 中世の地中海世界。
    自分の知らなかった歴史の一端を知れて満足。

  • ローマ帝国の崩壊後の混沌とした地中海沿岸世界(ここでは主にイタリア)と、北アフリカに勢力を伸ばしたイスラム教との関係を軸に中世前半のキリスト教とイスラム教の関係を明らかにしてゆく。
    上巻は西ローマ帝国崩壊後に未だに東ローマ帝国支配下にあった南イタリアとシチリアに、北アフリカのサラセン人がイスラム教の聖戦という名目で海賊行為を拡大して言った様子が描かれる。海賊といっても、金品略奪だけでなく、殺戮と住民の拉致を行い、拉致したキリスト教徒を北アフリカの海賊立国都市で奴隷として使っていたことや、それを首長(アミール)が容認していて国家としての事業であったこと、それに対して、領地を守るべきビザンチン帝国を全く機能していなかったことなどが細かく書かれている。7世紀から8世紀のイスラムの海賊にやられっぱなしであったキリスト教勢力の実情を考えれば、イスラム勢力をポワティエの戦いで破り、西欧を守ったシャルル・マーニュ(カール大帝)の功績が今日まで大きく取り上げられるのもうなずける。西暦800年、フランク王シャルルは時の法王レオ三世により、神聖ローマ帝国皇帝の称号をさずけられるが、このことはイタリアを含む西欧世界のビザンチン帝国からの決別となる。今までの世界史ではこのあたり、というか中世は混沌としていて、一貫性がなくわかりにくかったけれど、海賊被害という点から見ると、いかに中世の産業・文化がローマ時代のそれよりも後退したか、なぜ暗黒の中世というのかがわかる気がする。
    中国なら三国誌の時代、日本なら戦国時代なのかな?でも、キリスト教世界は常に外敵の危険を抱え、それに対して防御となる大きな力がなかったことが一番の問題だったのだろう。
    キリスト教の指導者であるローマ法王と世俗界の指導者達は、独善的な信仰心と支配欲でもって大局を見据えることができなかった。それに対し、合理的でより民主的であったイタリアの海洋都市国家(アマルフィ・ピサ・ジェノヴァ・ヴァチカン)がイスラムとの交易をしながらも自国の防衛に組織的に対応していたことで、繁栄していたのだ。この本では同時にシチリアという島が地中海の覇権を左右する大きな鍵であったこと、そしてそのシチリアがイスラムに支配されてからというもの、独自の共生路線でキリスト教徒と融合していたことなどがとてもわかりやすく書かれている。とにかく情報量が多いので読むのに根気を要するが、それでも歴史書に比べたら大変読みやすい。いつの間にか読み進んでいた感じ。でも、途中あまりにも単調な海賊行が繰り返しなのに辟易するが、それは作者とて同じこと、かなり割愛しているらしい。ああ、中世に生まれずに良かった!

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