ローマ亡き後の地中海世界 下

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103096313

感想・レビュー・書評

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  • 歴史ドキュメンタリー。

  • 地中海での海賊の動きを中心にローマ後から近世までの地中海世界を描ききった作品。前半は海賊の暴れ放題で意気消沈するが、後半はマルタ攻防戦の勝利で、胸がすく思いであった。ヨーロッパVS海賊は、ヨーロッパVSトルコという構図であったことがよく理解できた。トルコという国名では、EUに加盟するのは心情的に考えるとかなり厳しいということをあらためて感じている。また、海賊の撃退は、ほとんど近代になってからという事実も予想に反したところ。この下巻を読んで、また塩野本を読み直したくなった。

  • 塩野七生氏が言うように彼女の作品の殆どは樹であったのだが、今回は森を書いている。

    中世5世紀から15世紀にかけての千年を地中海を、即ち広がりのある森を中心に描いている。

    その森の中には、レパントの戦い、ロードス島の戦い、コンスタンチノープルの戦いなどこれまで氏が書いた物語が含まれている。

    そして、ヴェネツィアと十字軍もこの森の中に含まれるが、それらはちょっと広がった林といえるだろう。

    歴史は地上を中心に形成されるのは確かであろうが、海である地中海に着目したのはなかなかの慧眼であろう。

    それまで地中海を「我が海」としていたローマ帝国が滅びたあと、なんと千年以上にもわたってそこは海賊が暴れまわる世界であったことを知っている人は少ないのではないか。

    当然、海賊がヨーロッパ世界に与えた影響は小さくない。
    小さくないどころか、地中海はキリスト教とイスラム教が相対する主戦場であったのである。

    両宗教の対立といえば、十字軍や、ポワティエの戦いや、コンスタンチノープルあるいはウィーン攻防戦を連想しがちだが、海上の戦いもそれに劣らず歴史に大きな影響を与えていたのである。

    しかしながら、正規軍対正規軍にスポットライトが当たり、海賊という非正規軍との戦いは日陰に追いやられざるを得ない。

    地中海北岸の村や都市が海賊によってどれほどの被害を蒙ったか、その影響は計り知れない。

    その日陰の部分にスポットライトを当てた塩野氏の功績は大と言えるだろう。

  • 西のローマが滅んだあとを、地中海の動きから中世の1000年に渡る歴史を俯瞰する。
    北アフリカに進出を伸ばしたイスラム勢力は、シチリアを始めとするイタリア諸国にも海賊として襲撃を繰り返すようになった。
    上巻は彼等イスラム海賊とローマ亡き後のイタリアとの興亡がメインとなる。
    略奪とともに常態化していたのが人民の拉致だったらしく、なんと200年ほど前まで続いていたというから驚かされる。
    一時はシチリアまで占拠されて、ティレニア海航海の安全さえ保てなかったイタリア諸国は、神聖ローマ帝国にもビザンチン帝国にも頼れなかった。
    長く続いた苦難の歴史のあと、イタリアの海洋諸国アマルフィ、ピサ、ジェノバ、ヴェネティアが勃興するとともに、ローマ法王を中心とした勢力としてイスラムへ対抗することになり、西地中海の覇権を取り戻していく。
    ヴェネティアについては「海の都の物語」に、その流れと共に始まった十字軍の歴史は「十字軍物語」に詳細が示されており、併読すると分かりやすい。(はず。十字軍は次に読む予定なので)

    下巻では東地中海に覇権を固めたトルコとキリスト教国の対決がメインとなる。
    地中海の制圧は外部に頼ると決めたトルコは、赤ひげ(バルバロッサ)やドラグーといった著名な海賊の棟梁を海軍の重鎮に登用して西地中海を攻めさせる。
    これに対するキリスト側は、ローマ法王、神聖ローマ帝国を中心に付かず離れずしながらの抵抗を続ける。
    ここに登場するのがルイ9世、皇帝カルロスやアンドレア・ドーリアといった人物たち。
    下巻は上巻と違い、これら個々の人物の存在感が際立っており格段に興味をそそる。
    やはり塩野物は魅力ある人物が登場してくると俄然盛り上がってくるが、カエサル、アウグストゥス、ハドリアヌス、、、、と皇帝たちの性格が各時代でにじみ出ていた「ローマ人の物語」でも同じだったなぁ。
    そして全盛期を迎えたヴェネチアを中心としたキリスト側海軍とトルコは歴史上有名な戦いを何度も繰り返し、地中海全体の覇権が揺り動かされていく。
    この中で起こった戦いに焦点をあてた「コンスタンティノープル陥落」、「ロードス島攻防記」、「レパント海戦」なども読んでおくと話が分かりやすい。
    マルタ島騎士団の攻防戦は独立した著作がなく詳しく知らなかったのだが、これほどにも映画のような筋書きの戦いがあったとは驚きだった。

    相変わらずの塩野歴史絵巻は圧巻であり、地中海に焦点を当てた歴史を一望にして魅せる構成の取り方、そして重要な歴史的事件は改めて書をたてて書き込んでいるところは読者にとっても嬉しい限り。
    この本のあと、十字軍とフリードリッヒ二世を取り上げるなんて、次々と読者の興味をむんずと掴んで引きずり込む企画力もさすが。
    次もハマってみましょう。

  • 海賊の歴史の話は初めて知った。

  • 2003年の12月、ということは、もう7年以上前の話になるけれども、グラナダのアルハンブラ宮殿を訪問したことがある。名前からしてそのものであるが、アルハンブラ宮殿はイスラムの宮殿である。ということは、その昔、イベリア半島・スペインは、イスラムの勢力下にあった時期がある、ということだ。
    アラビア半島はメッカで生まれた預言者モハメッドがイスラム教の布教を開始したのが紀元613年ということなのであるが、その後、イスラム勢力は驚くべきスピードで勢力範囲を拡大していく。642年に現在のエジプトをイスラム化、そのまま北アフリカを西方に勢力を拡大していき、ジブラルタル海峡を渡りスペインに達したのが710年頃。東方、北方へも勢力を拡大し、現在の中東を勢力下におき、遠く中央アジアのサマルカンドやタシケントに到達したのが750年頃。古代ローマ帝国が滅亡した後の地中海世界は、このイスラム勢力とヨーロッパキリスト教世界とのせめぎ合いの場となる。これは、イスラムが勢力を伸ばし始めた頃から始まり、十字軍遠征時代も、東ローマ帝国のコンスタンチノーブル、今のイスタンブールがトルコにより陥落して後も、またイタリア半島でルネッサンスが起こった後も、要するに1,000年間続いた構造なのである。
    この本は、その間の様々な出来事を、「ローマ人の物語」と同様の物語風の語り口によって綴ったもの。たぶん、好き嫌いが、ものすごくはっきりと分かれる本だと思う。面白いと思えば、これほど面白い本はあまりないと思うだろうし(僕がそうだ)、この時代のこの地方の話に興味が持てなければそれまでだろう。
    この本のいわば前史にあたる「ローマ人の物語」も非常に好きな本で、好きな本なので、多くの人に勧めたのだけれども、実際に読んで、「面白かった」と言ってくれた人は、残念ながら、比率的にはそんなに高くなかったので、そんなに一般受けする本なのではないのかもしれない。

  • さすが塩野さん!!!面白い。
    塩野さんの淡々とした文体がすてき。

    政治・外交・国家間のパワーゲーム、あこがれを感じる。

塩野七生の作品

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