タダイマトビラ

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 342
レビュー : 80
  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103100720

作品紹介・あらすじ

自分の子どもを愛せない母親のもとで育った少女は、湧き出る家族欲を満たすため、「カゾクヨナニー」という秘密の行為に没頭する。高校に入り年上の学生と同棲を始めるが、「理想の家族」を求める心の渇きは止まない。その彼女の世界が、ある日一変した-。少女の視点から根源的な問いを投げかける著者が挑んだ、「家族」の世界。驚愕の結末が話題を呼ぶ衝撃の長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 家族の呪縛、虚構性は暴かれているが、着地がそこか、という失望はある。まさに出口のない物語。

    アリのアリスと我々の生活のアナロジーが、わかった時点で、これはディストピアなのだと、命をめぐる虚しさなのだと、家族の解体は、一挙に生きる意味の解体をももたらすのだと気づくべきだった。

    否定しようのない、パンドラの箱を本作は開けたようだ。

    ただ、ディストピアは、今ここで起きていることなんて、たいしたことない、という、あまりに高い俯瞰的視野から、絶望を生き抜く、不思議な力を時にもたらすことを忘れてはならないだろう。

  • 家事や育児を義務としてしかこなさない母親のせいで、家族というシステムに疑問を感じている恵奈。
    恵奈はそのさみしさと満たされない欲求を「カゾクヨナニー」という儀式じみた行為で慰める。
    私の本当の家族はどこ?帰るべきドアはどれ?
    家族なんて、しょせん精神的相互オナニーにすぎないという大胆な発想には仰天しました。
    けれどまちがっていない。むしろまさにそれに近い気がする。
    私も自分が産まれた家族は実際好きじゃないです。
    はやくこの人たちから離れて自立したいとばかり思っていた。
    今、自分が築いている家族はどうだろう?ひとりよがりにはなっていないだろうか。
    家族という制度を見つめ直させてくれる話でした。
    けれど、結末にかけて恵奈の思考が突拍子もない方に向かっていってしまったのが残念だった。
    ほとんど頭がおかしくなっている宗教じみたラスト。
    地に足のついた家族小説であればもっと良かったかな。

  • 家族愛の欠乏を感じたとき
    「カゾクヨナニー」と名付けた一種の自慰行為でもって
    これを一時的に埋めようとする少女
    しかし逆にいうと、家族なんてものは
    それぞれ勝手に行った自慰行為の相互連鎖が見せる幻想にすぎない
    そのことに気づいてしまったとき
    彼女の世界のみならず、この世界のすべてが意味と形を失って
    溶けていってしまう
    それはようするに、どうしても馴染めない象徴界を脱しての
    胎内回帰願望を描いたものだが
    回帰すべき胎内とはむしろ、家の扉の外なのだとしたところに
    サイコパス味がある
    戦後の回復期における国民一体、皆家族の幻想が終わって
    自由主義の世に移る過渡期に
    取り残されていくしかない人々の戸惑いを描いたとも言えるだろう

  • 村田さんの不思議な世界があった。けど、これまで読んだ本の方が面白かった。

  • 芥川賞をとった「コンビニ人間」が面白かったので、読んでみた。村田さん2冊目。
    コンビニ人間は、大なり小なり共感できた。
    でも、この本については、家族仲が良いとはいいきれない家庭で育った私にも共感はあまりできなかった。
    少し、気持ちの悪さを感じた。

    でも、私も確かにこの違和感を感じることはある。旦那が子供を特に望んでいないが、高校生のころから子供を産むことだけを目的に生きて、結婚1年前後で不妊治療で妊娠した晩婚気味の友人(女)が、「この子の為に長生きをしなければいけないと思う」とか「子供の為なら何でもできる」と聞きなれた陳腐な言葉を言うのを聞くと、自分自身の言葉ではなく、そういう世間の目を生きる事へ陶酔しているのではないかと感じてしまった私。そう、正反対の「お前の生きがいを見つけたいがための我がままで子供が生まれたのではないか」と思ってしまうのを止められない。

    そういう、口に出すと、人でなしのように見られる現在の息苦しい世間で、確実に思っている人がいる意見を代弁してくれる気持ち良さがある。自分だけでないと、安心させてくれる。

    周囲となじめないとい日頃から違和感を感じている人を主人公とする傾向にはあり、それが自分と異なる分野だと気持ちの悪さを感じてしまう人もいる場合もあるが、私と「コンビニ人間」の様に、自分も感じている分野での違和感だと受け入れやすい。
    少し、小川洋子と似ていると思った。でも小川洋子より、後味の悪さは控えめで、村田さんの方が受け入れやすかった。

  • 村田沙耶香さんの「タダイマトビラ」(2012.3)を読了しました。「家族」「家」について深く考察した作品ではないかと思いました。私には不可解で意味不明ではありましたが・・・。村田沙耶香の作品、理解できるものとそうでないもの、面白い作品とそうでないもの、私には、半々ぐらいです。

  • 「私にもわかんないもん。私たちだって、たまたまお母さんから出てきただけじゃん。だからって無理にお母さんのことを好きになる必要はないでしょ。お母さんも、私たちがたまたま自分のお腹から出てきたからって、無理することないよ。そんなのって、気持ち悪いもん」

    『この世には、狭い暗がりから世界に向けたドアが無数にあって、私はたまたま、母の足の間についてるドアを開けただけだ。この世に出てくるために蹴破った、血と肉でできた扉。』

    『「本当の家族」とは、血なんて理由ではなく、私だからという理由で選ばれるということだ。
    「本当の恋」をして結婚すれば"自分たちの子供だから"ではなく"私だから"という理由で自分を探し出してくれた人と共に家を作ることができる。』

    『私は、睡眠薬や食欲と同じように「家族欲」というものが自分にあるのを感じていた。そして、それを自分で処理することにチャレンジした。そして、私はとても上手にそれを始末することに成功した。私にとって「家族欲」は、排便や排尿と大して変わらない単なる生理現象だったのだ。』

    『性の知識が浅かった私は、食欲も睡眠欲もなんでも、欲望を自分で処理することをオナニーというのだと思っていた。だから家族欲を自己処理している自分の行為も、オナニーと呼んだ。』

    『私は挑むように睨みつけながら、「家族」の下に書かれた文字を読み始めた。
    「血縁、婚姻などによって結ばれた小集団」
    そこに書かれていた文章は、漠然としていて私にはよくわからなかった。その隣にならぶ「家族制度」という言葉が気になり、「制度」を辞書で調べた。
    「社会的に定められているしくみ。」しくみ、を辞書で調べ、文字の中を旅していると、「システム」と言う言葉にぶつかった。
    「システム。システム」
    私はその金属のようなひんやりとした言葉を、小さな声で繰り返した。そうか、家族はシステムなんだ。その機械的な響きが気に入って、私は何度も呟いた。』

    「そんなことよりね。私さ、今、隣の席の男の子が好きなの。すごく優しいんだ。この前、定規忘れたらね、貸してくれたの。プラスチックのやつじゃなくて、ちゃんと30センチの長の長いやつ、貸してくれたんだよ。いいと思わない?」

    「ショクヨナニーっていうんだよ。私が名前つけたの」
    「ショクヨ…なに?」
    「ショクヨナニー。食欲のオナニーだからショクヨナニー」

    「あのね、寒いときはストーブつけなくても、赤い折り紙を見ていると暖かくなるんだよ」
    「ああ、それは何か、聞いたことがある。先生が前に言ってたよね」
    「そう、身体は寒いままでも、脳が温かいって思うんだって。だからショクヨナニーも、匂いをかぎながら噛むふりをすると、脳が食べてるのと勘違いするんだと思う」
    「脳を騙すってことね」
    「そう、それ! 脳を騙しさえすれば、たいていの欲望はおさまるんだよ。すごいでしょ」

    『カゾクヨナニーも、「脳を騙す」というのがポイントなのだ。事実はどうあれ、普通の家族に包まれて、子供が育つのに必要な愛情が与えられている、というふうに脳を騙すことができれば、実際の親の愛情は必要ない。食べ物はいくら脳を騙しても実際に栄養とらないければ死んでしまうが、形のない愛情という精神の食事に関しては、脳さえ騙せば問題ない。』

    『浩平と付き合うようになっても、カゾクヨナニーの回数は減らなかった。私とセックスしても、セイヨナニーを頻繁にしているらしい浩平と同じだ。』

    『携帯電話に「今日は排卵日です」と表示されているのを見ると吐きそうになる。「卵」という文字から、いつか辞典で見たサナダムシの白い卵を想像してしまう。何か見えないものが、自分の体内に産み付けた卵。その卵が子宮を痛ませているような気がしてならないのだった。』

    『家族になるというのは、皆で少しずつ、共有の嘘をつくっていうことなんじゃないだろうか。家族という幻想に騙されたふりして、みんなで少しずつ嘘をつく。』

    『心の中の「本当のドア」の向こう側にある理想の家族を、何度も愛撫した。セイヨナニーをする人たちと同じように蹲り、勃起したペニスをこするように脳の中の理想摩擦し続けた。何度も何度も繰り返してきた。
    まるで罰をうけるように今、自分がそうされていた。
    浩平は彼の脳の中に引きずり込んだ私を気持ち良さそうにしごきながら、幸福そうに笑っている。』

    『ドアの中にはヒトがヒトでカゾクヨナニーする姿があった。
    家族というシステムは、カゾクヨナニーシステムだったのだろうか。その中で皆、狂ったようにカゾクヨナニーを続け、ヒトをバイブして自慰をくりかえす。』

    「『家族』っていうシステムそのものに、不備があったんだ。私たち、もっと賢くならないと。ね、そうでしょ」

    「私たちが失敗者なわけじゃない。このシステムそのものが失敗作だったんだよ」

    『家族というのは、脳でできた精神的建築物なのだな、とつくづく思った。』

    『私が「病気」になったことでカゾクヨナニーの絶好の「おかず」ができたとでもいうように、激しいAVを手に入れた男子中学生みたいに皆、一斉にカゾクヨナニーをはじめたのだ。
    全員、頭の中の理想世界に没頭し、勃起した脳の中の「カゾク」をひたすら摩擦している。』

    『わかるのは、全てつながっていて、私たちは同じ地球に繁殖する微生物だということだった。私たち皆が、家族だった。本能にまかせて、命を増やすという目的で、ただ、つながっていた。』

    『私は生まれて初めて、脳から解き放たれた目で世界を見つめ、純粋な光景の中に立っていた。「脳を騙す」どころか、ずっと脳に騙されてきたのは私だったのだ。』

    『それはこの前まで私が、脳に従って母と呼ばされていた生命体だった。生命体が鳴き声を発する穴からは泡だった液体が飛び散り、その生物の中が水分で満ちていることを感じさせる。
    私は、愛おしいその生き物を見つめた。
    ホモ・サピエンス・サピエンスのメスは、その習性で、自分から分裂した生命体である私を、大切そうに部屋の中へと導いた。』

    『本当はただの生命体でしかないホモ・サピエンス・サピエンスたちが、言葉を交わし、ニンゲンだと名乗り、そしてカゾクになってカゾクヨナニーをする。なんて奇妙で可愛らしい習性の生物なのだろう。この生物には、メスが受精して生まれた子供を育てるために、カゾクという仕組みの中で集まって生活する習性があるのだった。』

    「行くんじゃない。帰るんだよ。あのトビラの向こうで、私たちの新しい未来が待ってる。ただ、自分の中で燃える生命の音色に耳を傾ければいいんだよ。ね、命が唄ってるのがわかるでしょう?」

  • 休憩いれずに一気に読んだらすごく疲れた。恵奈の境遇には1ミリもかするところが無いはずなんだけどいちいち言葉がすとんとおちてきてそれが気持ちよくもあり気持ち悪くもあり…という感じ 家族というのは脳でできた精神的建築物っていうフレーズ気に入ったし本当にそう思う これからも家族っていう意味のわからない共同体のなかでぬるく生きていきたい


  • 結婚するのが怖くなりました。笑

    気持ち悪い、わからない、という感想も多いようですが
    わたしはとても引き込まれてしまいました。

    自分の子供には自然と愛情を抱けるものかと思っていたけれど
    虐待などが絶えない世の中、必ずしもそうではないのはわかります。

    もし自分の子供を愛せなかったら
    それは親として日々苦しいし、
    愛されない環境にいる子供も同じように苦しい。

    「家族欲」なんて考えたことなかったけれど
    なるほどなあと思いました。

    個人的な感想ですが
    本当の家族を求めて欲求を処理する恵奈よりも、
    恵奈が「病気」になってからの両親と弟の方がだいぶ気持ち悪かったです。

    家族に限らず、友達でも、恋人でも、上司と部下でも、
    どんな人間関係も「欲」のもとに成り立ってるのかなあと思うと
    若干の人間不信になりそうです。笑

    お互い素のままで接することのできる相手がいるならば
    それはほんとうに幸せなことなんじゃないかなあと思いました。

  • 私には理解できなかった。
    最後まで読んだけど、なんだか気持ち悪い。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)
1979年、千葉県印西市生まれ。二松學舍大学附属柏高等学校、玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー作となる。2009年『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補及び、第31回野間文芸新人賞受賞。2010年『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。2012年『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。2013年、しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。2014年『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。2016年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
2018年8月末、『地球星人』を刊行。

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