- Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103100720
作品紹介・あらすじ
自分の子どもを愛せない母親のもとで育った少女は、湧き出る家族欲を満たすため、「カゾクヨナニー」という秘密の行為に没頭する。高校に入り年上の学生と同棲を始めるが、「理想の家族」を求める心の渇きは止まない。その彼女の世界が、ある日一変した-。少女の視点から根源的な問いを投げかける著者が挑んだ、「家族」の世界。驚愕の結末が話題を呼ぶ衝撃の長篇。
感想・レビュー・書評
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最初は、村田さん特有の、シニカルでユーモラスな感じに展開するのかと思ったら、蟻を経てのホモ・サピエンスに驚愕。
これが、家族問題のために取り上げていることを思うと、案外、シリアスなのかもしれない。人類皆兄弟なんて、どこかで聞いたしね。ただ、内容はややファンタジーっぽいかな。
が、「恵奈」の台詞から、「わたしもこんな風にまともにやれるのだろうか」を取り上げると、辛い現実を受け入れてることが分かり、バリバリの現実感を突き付けているのは、村田さんらしいなあ、と思いました。
あと個人的には、終り方が「ギンイロノウタ」に似ていると思ったので、物語が完結した後の、続きの世界を想像するのが悲しくなりそうなところは、同じ印象でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
芥川賞をとった「コンビニ人間」が面白かったので、読んでみた。村田さん2冊目。
コンビニ人間は、大なり小なり共感できた。
でも、この本については、家族仲が良いとはいいきれない家庭で育った私にも共感はあまりできなかった。
少し、気持ちの悪さを感じた。
でも、私も確かにこの違和感を感じることはある。旦那が子供を特に望んでいないが、高校生のころから子供を産むことだけを目的に生きて、結婚1年前後で不妊治療で妊娠した晩婚気味の友人(女)が、「この子の為に長生きをしなければいけないと思う」とか「子供の為なら何でもできる」と聞きなれた陳腐な言葉を言うのを聞くと、自分自身の言葉ではなく、そういう世間の目を生きる事へ陶酔しているのではないかと感じてしまった私。そう、正反対の「お前の生きがいを見つけたいがための我がままで子供が生まれたのではないか」と思ってしまうのを止められない。
そういう、口に出すと、人でなしのように見られる現在の息苦しい世間で、確実に思っている人がいる意見を代弁してくれる気持ち良さがある。自分だけでないと、安心させてくれる。
周囲となじめないとい日頃から違和感を感じている人を主人公とする傾向にはあり、それが自分と異なる分野だと気持ちの悪さを感じてしまう人もいる場合もあるが、私と「コンビニ人間」の様に、自分も感じている分野での違和感だと受け入れやすい。
少し、小川洋子と似ていると思った。でも小川洋子より、後味の悪さは控えめで、村田さんの方が受け入れやすかった。 -
家族の呪縛、虚構性は暴かれているが、着地がそこか、という失望はある。まさに出口のない物語。
アリのアリスと我々の生活のアナロジーが、わかった時点で、これはディストピアなのだと、命をめぐる虚しさなのだと、家族の解体は、一挙に生きる意味の解体をももたらすのだと気づくべきだった。
否定しようのない、パンドラの箱を本作は開けたようだ。
ただ、ディストピアは、今ここで起きていることなんて、たいしたことない、という、あまりに高い俯瞰的視野から、絶望を生き抜く、不思議な力を時にもたらすことを忘れてはならないだろう。 -
家事や育児を義務としてしかこなさない母親のせいで、家族というシステムに疑問を感じている恵奈。
恵奈はそのさみしさと満たされない欲求を「カゾクヨナニー」という儀式じみた行為で慰める。
私の本当の家族はどこ?帰るべきドアはどれ?
家族なんて、しょせん精神的相互オナニーにすぎないという大胆な発想には仰天しました。
けれどまちがっていない。むしろまさにそれに近い気がする。
私も自分が産まれた家族は実際好きじゃないです。
はやくこの人たちから離れて自立したいとばかり思っていた。
今、自分が築いている家族はどうだろう?ひとりよがりにはなっていないだろうか。
家族という制度を見つめ直させてくれる話でした。
けれど、結末にかけて恵奈の思考が突拍子もない方に向かっていってしまったのが残念だった。
ほとんど頭がおかしくなっている宗教じみたラスト。
地に足のついた家族小説であればもっと良かったかな。 -
最後の方はもう何が何だか分からなくなったけれど、それでもページを捲る手は止まらなかったです。
最初は普通に読めていたのに終わりに向かうにつれてあれ?と思い始めて急になんだか分からなくなったような感覚。
まだまだ読んでいない村田沙耶香さんの作品はあるので読みたいと思います。 -
なぜ読んだ?:
『コンビニ人間』の作者の作品。別の作品はもっとエグめのやつが多いよという話を聞いて興味が湧き、これを図書館から借りてきた。
感想総論:
社会の当たり前を疑う良いエグみ。母親は子どもに愛情を持つのが当たり前、を問う。が、それだけではない。子はどうやって工夫して生きていくのか、そもそも家族というシステムとは何なのか。
コンビニ人間のときも思ったが、作者は「生物として人間を見る」ことが好きそう。人類学、進化心理学などを好みそう。
最後のあたりは、同じ光景も描写の違い(書かれる文字情報の違い)によってこんなに変わるのだなあという小説の力を実感した。映画やドラマでは描けない。
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屈折した感じ、だけど嫌いではない。
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家族愛の欠乏を感じたとき
「カゾクヨナニー」と名付けた一種の自慰行為でもって
これを一時的に埋めようとする少女
しかし逆にいうと、家族なんてものは
それぞれ勝手に行った自慰行為の相互連鎖が見せる幻想にすぎない
そのことに気づいてしまったとき
彼女の世界のみならず、この世界のすべてが意味と形を失って
溶けていってしまう
それはようするに、どうしても馴染めない象徴界を脱しての
胎内回帰願望を描いたものだが
回帰すべき胎内とはむしろ、家の扉の外なのだとしたところに
サイコパス味がある
戦後の回復期における国民一体、皆家族の幻想が終わって
自由主義の世に移る過渡期に
取り残されていくしかない人々の戸惑いを描いたとも言えるだろう -
村田さんの不思議な世界があった。けど、これまで読んだ本の方が面白かった。