地球星人

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 728
レビュー : 80
  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103100737

作品紹介・あらすじ

なにがあってもいきのびること。恋人と誓った魔法少女は、世界 = 人間工場と対峙する。地球では「恋愛」がどんなに素晴らしいか、若い女はセックスをしてその末に人間を生産することがどんなに素敵なことか、力をこめて宣伝している。地球星人が繁殖するためにこの仕組みを作りあげたのだろう。私はどうやって生き延びればいいのだろう――。

感想・レビュー・書評

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  •  同町圧力の中で自分をすり減らされてしまった主人公「奈月」の悲劇。小学生時代と30代中盤の2つの時代が描かれており、地球の常識に主人公を引き込もうとする「由宇」、地球星人の常識から主人公を引き離そうとする「智臣」、そして間に挟まれた主人公という三角形の構図がある。

     『コンビニ人間』がどのような評価をされているか詳しくないが、「みんな違ってみんないい」なんて言葉はやっぱりまやかしで、常識・常道・社会を疑う視点と共に、そこから逸脱するということの厳しさ、寂しさ、重さがしっかりと書かれている本だと認識している。

     この小説があまりにもダークな終わり方をしているのも、同様の理由だろうか。同調圧力は地獄だが、そこから離れたって地獄だ。同調圧力を批判する本なんて星の数ほどあるが、そこから離れることが宇宙船地球号に齎す厄災に向き合うことはきっともっとずっと難しい。
     一所懸命に生きる主人公たちの人生が蹂躙されていく様と、互いが互いを思う気持ちがどんどん悲劇へと駒を進める様はあまりにも悲劇的で、読んでいるのが辛かった。

     自分の中のもやもやした何か、もやもやしていることをひた隠しにしていた何かを暴かれ蹂躙された読後感。こうした自分の中にある悲しみにどう対峙すればいいのか、こうした悲しみを抱える人に何ができるのか。蹂躙された心の中のどこかに、答えがあるのだろうか。

  • 芥川賞受賞後もブレない村田沙耶香ワールドが全開!『殺人出産』や『消滅世界』では主人公が一般的な感覚に近く世間の方が渡したからすると異常だったのが、『コンビニ人間』では主人公が"少し"変わっていて世間は普通と逆転、今回も『コンビニ人間』同様の設定ではあるが…

    冒頭こそ「あれ?いつもと少し違う?」と思ったが、読むにつれいつも通りの"世界からの疎外感"と"一体化へのあこがれ"を軸に話は進行、異常な事も含め淡々と語られていく。この世は工場で恋は生産性を高めるための麻酔という捉え方も村田沙耶香さんらしく面白い。あと、どなたかも書いていたけど安部公房『人間そっくり』を思い出した。

    で、ラスト…これはこうでないといけなかったのか、もうちょっと他の結末はないものなのか?らしいといえば、この上なくこの人らしいラストだが、正直まだこの展開の必然性が飲み込めてない。『タダイマトビラ』と同じような方向でそれ以上インパクトといえばいいのか…

    あまりといえばあまりなラストなので、ちょっと他人に薦める気にはあまりならないが自分にとっては村田沙耶香ワールドが堪能できて楽しかった。ラストシーンの解釈については時間を空けて改めて考えたい。

  • 小学5年生の笹本奈月には、勤務先でクラッシュボンバー笹本とよばれている母。中学校で、クロマニョン人といわれている姉がいる。
    塾の先生の伊賀崎には『お勉強』といわれ、いたずらされる。
    奈月は、お盆休みにだけ、長野で逢える同い年の従兄の由宇と結婚している。
    だけど、二人で、生きのびて、ポハピピンポボピア星に宇宙船に乗って帰る前に、塾の先生に殺されそうになる。
    「私、もしかしたら殺されるかもしれないの。だから死ぬ前に、由宇と結婚したいの。子供の約束じゃなくて、本当の結婚がしたいの」
    悲痛な奈月の叫びを由宇は受け入れる。
    「家を出たときから、もう戻らずに死ぬことを決めていた」

    このお話は、前半の二人の別れから、中ほどの奈月とすっかり人が変わってしまった由宇との再会までは、普通のお話しとして読めました。
    ただ、後半の奈月と由宇、奈月の元夫の離婚式のあたりから別な話になり、何の話なのかわからなくなりました。
    前半の二人のストーリーはとてもせつなく、どうなるのかと思っただけに、私は特に由宇の変化の仕方が残念でした。

    結婚誓約書の
    『なにがあっても生きのびること』
    この誓いが、離婚式のあとも守られたのは、よくわかりました。
    地球星人には未来がないということでしょうか。

  • 本というのは、何ページか読んでいくと、良くも悪くもそのストーリーの骨格というか、ラストまでの落としどころみたいなものが想像できる。

    しかし、この本はラストに向かうに従って全く分からなくなっていく。想像を超えるというか想像していたことがバカバカしくなる。

    まあ面白いとか面白くないとかというレベルではない。

    でも僕らが共有していると思い込んでいる工場という価値観は、もしかすると本当に単なる地球人の幻想なのかもねという疑いが自分の中で芽生えないようにしないと、えらいことになりそうなので、さっさと忘れることにする。

    それにしても、誰かから「仲良し」しなさいとか言われたら叫び出したくなるかもしれん。

    あー恐かった。

  • 主人公の奈月は、自分はポハピピンポボピア星からやってきたというピュートに命じられ、危機に瀕した地球を守る魔法少女なのだと思い込んでいる。
    毎夏訪れる秋級のおばあちゃんちで会えるイトコの由宇は恋人で、由宇もまた自分を宇宙人だと思っている。
    2人は「なにがあってもいきのびること」という約束をし、自殺未遂をする情緒不安定な母親や、ヒステリックに叩きつけてくる母親、塾の先生からの性的虐待にも堪える。
    最低な大人のなかで、生きるために魔法に縋って自分を守ることしかできないこどもたちが、ただ可哀想だった。
    そして小学5年生になったとき、奈月と由宇はセックスをしたことがバレて引き裂かれてしまう。ただそばにいきたい、誰かの皮膚の中に行きたい、と願うまだほんの少女の純粋な欲望が切なかった。

    「いつになったら生き延びなくても生きていられるようになるの?」
    その疑問は結局解消されないまま、奈月は大人になる。世間や親を欺くために同じような価値観の男と契約結婚する。
    ここは工場で、人間とは所詮つがいをつくって巣をつくり、生殖と繁殖を繰り返すためだけの道具なのだと思っている。
    ポハピピンポボピア星人として「宇宙人の目」をもって俯瞰して見れば、ここに生息しているのだってただの地球星人なのだ。
    読みながら同様に宇宙人の目を手に入れてしまった私たちは、次第に今いるここがどこだか分からなくなる。地盤が崩れ、視界がぶれて、自分が何者なんだか分からなくなる。ポハピピンポボピア星人なのかもしれないと、疑わずにはいられなくなる。
    そこからは怒涛の展開でラストまで止まらなかった。
    衝撃の展開に、進化と退化は紙一重なのかもしれないと思った。秋級での彼らの姿や生活は、遥か昔に産まれたばかりの生命としてのニンゲンそのものの気がしてならない。

    村田さんの小説に心酔し追い続けてきた一読者としては、「ついに来るとこまで来たか……。」という感想。
    これまでの小説のコアなる部分を結集させて、どえらい小説が爆誕してしまった。

  • 大衆迎合主義に対する痛烈な風刺を描いた作品。
    ときにはこういう見方をしないと、今何が問題なのかにさえ気づかずに、気づいたときにはとんでもないことに陥ってしまっていたということになりかねない世の中なので、そういった意味では、大変いい刺激を与えてもらえた。

  • もしかしたら信じる全てのものはみんなの洗脳の結果なのかもしれない。
    世の中に溶け込まないと生き延びることは難しい。
    約束は励みにもなるが時として呪いにもなる。
    大人が無条件で救ってくれる存在ではない奈月と由宇にとっては、からっぽになって世界に順応することしかできない。
    自分の世界だけを信じて生きていくのと、世界に順応して工場の一部になるのはどっちが楽なんだろう。
    再会した由宇は変わらない奈月の姿に嫉妬よりも軽蔑よりも自分と向かい合うことへの恐怖を感じたように見える。
    結局由宇は世界の声を意識的に聴いていて、
    それは母親の声であり、奈月の声であり、叔父の声である。
    由宇はその都度にその言葉を信じていて、
    それが世界の声であり、
    一般的なものとは違っても常識も価値観も言葉も
    その信じたもので社会はできているのかもしれない。
    ある意味では信じている全ては人によって異なる虚像といえるような気もする。

  • 良くも悪くも村田紗耶香さんの世界観が感じられる一冊。トラウマを抱えたまま大人になった人は地球人にはなれないのかも、知れない。でも、そんな人たちを周りの地球人はどう受け止めれば良いのか。地球人が一般的な考え方の人だとするなら、その考えからはみ出した人たちはどう生きていけば良いのか。少数派の考えや意見は地球人が握りつぶして良いのだろうか。色々な人がいるし、いて当たり前だと思う。ただ、毎回思うですが、どんなことがあっても人を殺めてはいけない。

  • 村田の作品はどれもよく似ているので、続けて読む気にはならないが、たまに読むと期待を裏切ることなくスカッとさせてくれる。己の常識・良識を次々と瞬殺される心地よさ。ニーチェ的なテーマと性的なものへのこだわり。和製バタイユと呼んでよいかも。

  • 「地球星人」
    舞台は長野の秋級。


    “芥川賞受賞作「コンビニ人間」をはるかに超える衝撃の受賞後長編第一作”と銘打たれた評を見て、面白くテーマも切り口も興味深かったあのコンビニ人間を超える衝撃、それも遥かにって本当だろうか。と期待と疑惑を抱きながら手に取った。


    結果、銘打たれた評は強ち間違いでは無いと感じた。主人公の考えに共感し、物語の起承転結さの面白さではコンビニ人間の方が好み。しかし、衝撃度ならば地球星人の方がある。もちろん、地球星人も面白いが、どちらかと言うと読み応えが勝る。まぁ、結論どちらも外せない。


    物語はおじいちゃんおばあちゃんが住む長野の秋級に向かう車の中から始まる。奈月は自分を魔法少女だと思っている。ぬいぐるみ売り場の端っこにいたピュートが、奈月に魔法少女になって欲しいと告げ、変身道具をくれたのだ。奈月は、この秘密をいとこの由宇だけに話している。由宇は、奈月の恋人だからだ。


    なんと可愛らしいことだろうとこの時点では思った。きっと奈月が地球に住む星人を偶然発見し、友達になるなどして普遍的な価値を問う。そんな寓話的なストーリーになるのではないかと考えていた。しかし、出だしに騙されてはいけなかった。この想定はあっさり崩壊してしまった。


    社会は巣の羅列。大きな繭の様で人間を作る工場。人間は工場で生産され、地球星人として洗脳されて出荷される。地球星人として生きるためには、働く道具として役目を果たすこと、社会のために生殖器になることが求められる。幼い奈月は、そのどちらの条件を満たせない出来損ないの扱いを受け、地球星人に監視、蹂躙されてしまう。


    社会は巣の羅列で工場が人間を出荷すると言う衝撃的な捉え方をする奈月。ここから個人的に考えたことは、社会が普遍的な価値観を正として掲げ、それに準ずるものを正とすることを当たり前としていることを暗喩しているのかな?と言うこと。


    工場は品質が高品質な商品を出荷することが一番の使命になる。高品質であることを普遍的な価値観(絶対的な正)にして商品を生み出すことを求められている。そこから生み出された商品(地球人間)は高品質の正しいもののはずで、出荷先の巣の羅列は正しい社会だ。


    だから出来損ないの奈月は工場から出荷された人間ではない。もっと言えば、リコール対象であり廃棄されるべきであり、地球星人がしっかり監視して教育しなければならない。貴方は間違っているから私に従いなさいと。当たり前な正の下、奈月は地球星人としての烙印を押されてしまう。


    そう考えてみてしまうと、果たしてこの当たり前は正しいのか。一方的な先入観を押し付けた正ではないのかと考えてしまった。昆虫を食す、簡単に殺す、近親相姦をする、地球星人を殺す、子供を産むことを良しとする、夫婦が仲良ししないと異常だ、大人が子供を支配するのは当たり前だ。


    宇宙人の目があれば、これらを色眼鏡無しで観ることが出来る。しかし、私達は奈月達からすれば、地球星人であるから地球星人の目を以って、これらを観なければならない。周りにあるモノやコトの前提にある概念や先入観が真に正なのかを宇宙人ように疑って観なければならない。


    しかし、この手の本は、読んで何を思ったのかを記載するのが大変難しい。上手く表現できない苦笑。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)
1979年、千葉県印西市生まれ。二松學舍大学附属柏高等学校、玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー作となる。2009年『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補及び、第31回野間文芸新人賞受賞。2010年『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。2012年『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。2013年、しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。2014年『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。2016年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
2018年8月末、『地球星人』を刊行。

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