橋のない川〈第2部〉

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 13
感想 : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103111092

作品紹介・あらすじ

"小森"は、周囲の村から「部落」として意味のないさげすみを受け、交際を絶たれていた。学校に通う子供たちも、絶え間のない差別と闘わなければならない。誠太郎は小学校を終えて大阪の米問屋へ丁稚奉公に行き、孝二は高等小学校に進んだ。成績の優秀な孝二は副級長に選ばれる。しかし、明治天皇の葬儀の夜、暗闇の中で、級友の美少女まちえが孝二の手を握ったわけを知った時、孝二は涙を堪えることができなかった。"わしは人間や!"自らの不思議な境遇を悲しい宿命とあきらめず、孝二は頭をあげ、胸を張って歩いてゆく-。

感想・レビュー・書評

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  • 高等小学校に進んだ孝二は副級長になった。「小森のエッタ」と呼ばれ続けた尋常小の頃。露骨な嫌がらせは次第に陰湿な差別にかたちを変えて、孝二たちをさらに苦しめる。

    「この世では、弱い者、貧しい者のいのちがけの抵抗も、強い者、富める者には、ゆるしがたい我がままに過ぎないのだ。先生、わしらも鰻や。頭を錐で刺されて、S字型にもがいている鰻や。それをみんなは、そんな我がままさせぬといいくさる。」 信頼していた江川先生が亡くなり、その墓標にじっと手をあて心のうちを吐露する孝二。読みながら思わず涙が溢れてきた。

    脚気で里帰りした兄誠太郎。
    以前は「どうしたらエタが治療るか」と思い続けたが、今では原因は差別する側の"都合"にあると知った。部落を差別することが政治的に、経済的に好都合だから差別を続けるのだと。「差別から逃れるには、身元がわからない大阪へ戻るしかない」後ろめたい気持ちを残しながら旅立つ誠太郎を誰が非難できるだろう。

    行く先のない重苦しい話の中で、歴史ある大和の風景は心和ませてくれる。
    大正初期の人々の暮らしがそのまま描かれているのも興味深い。
    嫁入りの風習、吉野での葉煙草の収穫や葉編みの仕事について初めて知った。
    煙草の異名に①相思草(あいおもいぐさ) ②わすれぐさ があるのは面白い。

    「吉野川」の章で、歌舞伎や浄瑠璃になっている「妹背山」の話が書かれてあった。 母ふでが夢の中で、戦死した夫の進吉と川を挟んで相対する。「妹背山」のように、二人を隔てる川は流れが速くて橋がない。ふでは橋を探しに上流に下流にと駆けまわるがどうしても見つからない。井野に生まれて小森に嫁し、百姓と手内職でくらしを立てるふでの現実は、川の此方の苦しみで、決して彼の岸に渡ることが出来ない。
    そうか、書名『橋のない川』はここから付けられたのだと思った。

    「海酸漿」では、御大葬の夜、杉本まちえがなぜ孝二の手を握ったかが明かされる。"その子、悪い子やワ。" いとこの七重の指摘に戸惑いながらも、甘い記憶を持ち続けたいと願う孝二が切なくなる。
    修学旅行先の京都で泊まった旅館の部屋で・・
    "自分はエッタの畑中孝二なのだ"とさらに思い知らされることに。これからどのような展開になっていくのか、先を知りたいけれど怖い気もしてきた。

  • 子の成長ははやく、誠太郎は大阪へ奉公へ、孝二は高等小学校へ通うようになった。
    成長するにつれ、ますます世間のことがわかってきて、自分の内側と向き合う時間も増え、自分まで孝二と一緒になっていろんなことを考えながら読んだので読み終わるまで随分と時間がかかってしまった。

    同和問題についても、歴史で習った以上のことを知らなかったため、今回いろいろと調べてみたりもしました。
    長い間差別され続けた人たちへの優遇措置(今は廃止)のこと、結婚や就職でも被差別部落出身ということで謂れ無き差別を受けていたこと等など・・・人によって作り出された「差別」の傷跡の大きさに慄きました。

    差別され続けると、本書にもあったように、「何か自分自身に差別されても仕方がない理由があるんじゃないだろうか」ときっと考えてしまう。
    それがどんなに悲しいことか、想像するだけで胸が苦しい。ラストの旅館の話は、ただただ悔しくて、泣ける。
    まちえの純粋な好奇心も悲しい。子どもである彼女よりも、彼女の周りにいる大人たちに憤りを感じます。

    孝二が空飛ぶ飛行機を見て、「人々が飛行機で世界旅行をする時代になると、もう今みたいに金持ちを貴んで貧乏人を卑しむことはなくなるんだろうか」そんなことを言うけれど、結局科学がどれだけ進歩しても人間の気持ちはそのスピードについていけない。
    今だって、科学の進歩の方が速すぎて、人の気持ちが追いつかない。昔の本を読んでもいくらだって共感できるように、人の本質はきっとずっと変わらないのかもしれないなんて風にも思いました。

    この本の舞台は大正3年。
    解放令から43年も経っているのに、未だ色濃く残る差別。差別はいけないとわかっていても、心の底では差別をせずにいられない弱い大人たちが悲しかったです。
    一方で、貧困が連鎖されやすいように、学ぶ環境が得られないこと、閉鎖的な空間から抜け出せないことが差別を助長させているようにも感じて苦い気持ちになりました。

    読みすすめていくほどに重い。
    けれど、自分たち日本人の歴史上で何が起きていたかを知ることは、いつだって遅くない大事なことだと思って読みすすめていきます。

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