天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語

  • 新潮社 (2008年11月21日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784103120810

感想・レビュー・書評

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  • 第20回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
    大正~昭和初期に活躍した天才的建築家にまつわるエピソードが6つ。「死者とともに住まう家」「永久に住める家」など、無茶ぶりをふるクライアントの要望に応えるどころかそれ以上のものを作ってしまう、少々人間離れしたところのある建築家。
    けれども、彼はその能力と引き換えにあるものを失わなくてはいけなかったという。

    明治~大正~昭和初期にかけて、それぞれの時代が映画でもみているかのように鮮やかに浮かび上がる。ほとんどのエピソードが地に足の着いたリアリスティックな筆致で描かれており、唯一魔法的な要素は建物が人の心にもたらす劇的な変化。どこがファンタジーなんだろうと思っていたら、主人公の建築家の存在そのものがファンタジーだった。
    もしも天使という存在があって、彼らが人に救いの手を差し伸べるために地上に降りてきたらならば、どんな姿を取るのだろうか――その答えの一つがここにある。そして人間界に降りてきた天使はたいてい透明な悲しみを抱えている。

  • 第20回ファンタジーノベル大賞受賞作。

    施主の求めているものを正しく理解し、その願いを叶え具現化する造家師(建築士)の物語。
    明治~昭和初期。
    目まぐるしく変化して行く時代背景を盛り込みながら、時間軸を行きつ戻りつ静かに紡がれていきます。
    象徴的に用いられる天使のモチーフ。
    世界のあちらとこちらを繋ぎ人の心を満たしていく異色の建築物。
    迷宮閣という名前だけでもわくわくさせられますが、作中で描かれるその様相はゾクゾクするほど魅惑的でした。
    『冬の陽』で施された仕掛けが展開する様はただただ美しく、その優しさと奇跡に心が洗われるようでした。
    とても良かったです。

  • 明治時代を舞台に異才の建築家・笠井泉二の建築に取り込まれる人々を描いた連作集。

    派手な話ではないため盛り上がりに欠ける部分が多く前半はなかなか乗り切れませんでしたが、この本の登場人物と同じく徐々に、笠井泉二の人物像やその不可思議な建築物に引き込まれていった、という印象です。

    明治という舞台設定が話をリアルにしてくれていると感じます。現代の高層マンションが立ち並ぶような世界で、不可思議な家の話をされたとしたらになんだかピンとこなかったような気がします。そのあたりは筆者の方の時代背景の選択の妙が表れていると感じました。

    家の描写は結構想像力が必要で苦労しましたが、やはり美しく幻想的。さすがファンタジーの賞を取っているだけあるなあ、と思わされました。

    第20回日本ファンタジーノベル大賞〈大賞〉

  • (Ⅰ)笠井泉二の設計する建物はこの世にありながらこの世ではない別の場所に建っているのかもしれない…かつて建築やってたんで興味あって建築モチーフの小説はいろいろ読んできましたが、これまでの中ではいちばん好きになったかもしれません。
    (Ⅱ)注文主の物語とできあがった建物と建築家自身について描かれる静かな連作短編集。
    (Ⅲ)それまで継続していた時間が唐突に断ち切られ、現実の外へ放り出されたような気分である。(p.114)

    ■笠井泉二についての簡単なメモ

    /長編やとばかし思ってたら短編集やった。へぇ、こういうシチュエーションで短編集が作れるんやなあ、と。
    /引きこもっていた建築家、笠井泉二は上代子爵の「生きている人間と死んでいる人間とが、いっしょに暮らすための家」というオーダーに興味を示し、上代子爵の母で注文主の母、章子の昔語りを聞く。
    /鹿鳴館次席館員という実質的な責任者であるが小心者の守谷喜久臣は七歳の泉二による鹿鳴館の絵に、厳重に秘匿してきた抜け穴が描かれていることを知り非常に狼狽する。
    /「永久に住めるような建物をつくってほしい」とオーダーした探偵小説作家の大西湖南、その設計図を見てはいけないと笠井泉二が言い渡した「迷宮閣」から湖南が消失し、上司に逆らい田舎に飛ばされ閑職を余儀なくされていた警部補の坂牧克郎が捜索を命じられるがもしかするとまだ中にいるのではなかろうかと思われる。
    /泉二たちが学生の頃同期の堀田東洋彦の事故死に疑問を抱いた同期の雨宮利雅らが降霊会、テーブル・ターニングと行い笠井泉二に殺されたという結果が出た。
    /矢向丈明は卯崎新蔵の葬儀で黎子の兄であり大学の先輩でもある平丘賢悟と出会いかつてともに海外視察の旅をしていたときに起こったこと、泉二と黎子のことを聞く。
    /今は社長夫人である敷丸輝子は子供のときの約束を果たしてもらうため泉二に建築を依頼し生まれた頃住んでいた信州の家の近くを流れていた「忘れ川」に案内する。
    /その後。

    ■簡単な単語集

    【阿辺/あべ】坂牧克郎が飛ばされた先の警察署署長。警部。《理屈に合うことばっかやったら、この世はつまらんしな》p.152
    【雨宮苑子/あまみや・そのこ】利雅の妹。美貌の持ち主。霊感が強い。
    【雨宮利雅/あまみや・としまさ】建築家。東京帝国大学工科大学建築学科では笠井泉二や矢向丈明と同期。泉二にライバル意識を抱いているようだ。金持ちのボンボンだった。
    【磯谷正市/いそがい・しょういち】税務代弁者。大西湖南の古い知り合い。
    【卯崎新蔵/うざき・しんぞう】泉二の師。鹿鳴館などを設計したジョサイア・コンドルの弟子。《笠井君を異端者として排斥することはたやすい。でも、それはしたくない。彼の建築が国家や社会に実際的な利益をもたらすことはないかもしれんが、どこかにいるひとりの人間のためには役に立つにちがいない。》p.214
    【大西湖南/おおにし・こなん】行方不明になった作家。「迷宮閣」と名付けられた家に住んでいる。大地主でもある。本名は大西甚平(じんぺい)。』『海神国よりの遣ひ』で懸賞の優秀賞に輝き、著書に『新型病原体X』とか『眼球兵団『悪鬼の絵巻』などがある。
    【笠井泉二/かさい・せんじ】主人公。弥平とよねの次男。建築家として光竹本店に勤めていたが妻の黎子が亡くなった後退職して引きこもっていた。
    【笠井弥平/やへい】銀座煉瓦街の裏通りで洗濯屋を営む。
    【笠井良一/よしかず】弥平とよねの長男。
    【笠井よね】弥平の妻。
    【笠井黎子/れいこ】泉二の妻。故人。自由奔放で個性的だったらしい。短歌を能くする。兄の平丘いわく《理屈では説明できない万物の関連性、曖昧模糊とした世界の奥に潜む本質、そういったものを単純明快な表現でずばりといい当てるようなものが、黎子の作品には多かった。彼女は論理ではなく感性によって、それらの歌をつくっていたと思われる。直感的な力に黎子は長けていたのだ。》p.248
    【柏原/かしわばら】鹿鳴館館長。伯爵。
    【華族】公侯伯子男の五つの格付けが設けられた。
    【上代章子/かみしろ・あきこ】先代子爵で最近亡くなった善嗣(よしつぐ)の妻。「生きている人間と死んでいる人間とが、いっしょに暮らすための家」というオーダーを出す。七十歳を超えている。下野国川添城主で後の伯爵、結木信繁(ゆうき・のぶしげ)の正室の三女。人質としてずっと江戸暮らしで下野国は知らない。
    【上代弘嗣/かみしろ・ひろつぐ】子爵。丸眼鏡でおっとりした風貌。母のオーダーに疑問を感じつつも矢向に依頼する。
    【上代善嗣/よしつぐ】先代子爵。故人だが章子は亡くなった夫と暮らす家を注文した。陸奥国駒居城主嗣久(つぐひさ)の嫡男。書画骨董を好み生まれ変わったら職人になりたいと言った。維新後、上代美術学校を設立する。
    【建築】泉二いわく《建築物は世界の雛形のようなものだから、まずこの世界のことをよく知っていなければ駄目なのだ》p.231
    【佐伯穣】守谷喜久臣の上司。
    【坂牧克郎/さかまき・かつろう】警部補。上司に逆らい田舎の警察署に飛ばされ閑職をあてがわれた。子供の頃「大津事件」の現場に居合わせた。
    【里中琢爾/さとなか・たくじ】東京帝国大学工科大学建築学科教授。笠井泉二、矢向丈明、雨宮利雅らが指導を受けた。
    【沢柴十夢/さわしば・じゅうむ】編集者。大西湖南を買っているようだ。
    【敷島輝子/しきしま・てるこ】隆介の妻。通り一遍ではないものに興味を寄せるタイプで泉二にも関心を抱いている。
    【敷島隆介/しきしま・りゅうすけ】敷丸商事社長。軍需で潤っている。
    【鈴野キミ】迷宮閣の住み込み女中。バツイチ。湖南の妾ではないかと噂されている。《見つけだして、こっちへ連れ戻しとくれやす。》p.136
    【泉二/せんじ】→笠井泉二
    【苑子/そのこ】→雨宮苑子
    【平丘賢悟/ひらおか・けんご】泉二の亡き妻、黎子の実兄。大学では一年先輩で光竹本店建築部でも机を並べていた。父は西洋画の画家、平丘周臨(ひらおか・しゅうりん)で、東京美術学校で教鞭を取っていた。
    【広根】巡査。
    【堀田東洋彦/ほった・とよひこ】笠井泉二矢向丈明の建築学科での同期。故人。努力家だった。
    【松倉】総理大臣。
    【迷宮閣】大西湖南の家。入ったら間違いなく迷う。《玄関をはいって何歩か来ただけなのに、それまで継続していた時間が唐突に断ち切られ、現実の外へ放り出されたような気分である。》p.114。笠井泉二が設計し大西湖南は一度も設計図を見なかった。オーダーは「永久に住めるような建物をつくってほしい」。《何かの拍子にあらわれるあっち側の部屋。》p.150
    【守谷喜久臣/もりや・きくおみ】鹿鳴館の次席館員。館長に次ぐ役職らしい。
    【矢向丈明/やこう・たけあき】建築事務所矢向組を経営している。学生時代の泉二の設計に驚嘆しいつかいっしょに仕事をしたいと思っていた。
    【黎子/れいこ】→笠井黎子

  • 「冬の陽」も「鹿鳴館の絵」も「ラビリンス逍遥(しょうよう)」もテーマは……伝えたいことは同じなのだと「製図室の夜」を読んで気がつきました。それと同時に、なぜ日本ファンタジーノベル大賞の賞を受賞したのか、ようやく答えを出すことが出来ました。泉二の建築は、生者の為ではなく、死者の為の建築なんだと。

  • 建築家の有名人というと、隈研吾とか、まぁよく知らんけどブルータスカーサに載ってる人とか?そういう人の建築物に行って見てみて、人生変えられるほどの衝撃を受けるものだろうか。そこまでのものができるってのは確かにすごい。ビフォアアフターとか、そういうもんなんかな?
    というわけで、たまたま家を建ててる身としては、そういうレベルの家を建ててみたいとも思うけど、今作でも頼んでるの金持ちばっかだし、どうせお高いんでしょう?ってなるわよね。
    まぁ良いさ、安くてもちっこい部屋のほうが落ち着くもんね。なんつって。

  • 天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語

  • ちょっと色々欲張ってしまっている感はあるのだけれど、面白く読んだ。これがデビュー作というのだから凄い。
    主人公である笠井泉二という人間の人物像が薄弱なのが、物語の強さを損ねているとは思うけれど、建築を通して展開する物語はとても興味深い。拾いものだった。

  • 明治、大正、昭和初期を舞台に建物と依頼主たちから浮かび上がる、幼い頃から建築の絵を描いていた天才建築家の笠井泉二を巡る物語と彼の人生。子爵や鹿鳴館といった時代柄故の外国的要素や型に嵌まらない建物が然り気無く幻想的で、そこはかとなく匂い立つような空気が心地好かった。文章も滑らかですんなりと入り込めた。

  • 依頼者が望んだ以上の建物をつくりだせる建築家・笠井泉二。彼の建物は「住む者の心を狂わせる」とのうわさもあって……。
    第20回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。初めは少しずつ、そして物語が進むにつれ、ぐっとファンタジー色が強まっていく。
    明治から大正の雰囲気たっぷりの時代小説で、美しかった。

  • 図書館で借りた本。明治14年から昭和7年までを背景に、笠井泉ニという建築家の物語。6話の短編形式で書かれていて笠井泉ニの幼少の頃から始まる。建築家となって依頼人が希望する家を設計、完成時に出来上がった家の詳細を文字の表現だけでちゃんとイメージが伝わってきたのは、作家として力量かな。それぞれの話が繋がっていく巧みさも良かった。切ないファンタジーのジャンルに入る本と思うが凄く気に入りました。

  • これはすごい物語。
    面白いというより、すごいっていう感想。
    ファンタジーノベル大賞に巡り合えて
    よかったなと思えた一作。

  • 第二十回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

    笠井泉二と彼がつくる建物をめぐる六篇の短編からなる作品。短編で時系列がバラバラだが、それぞれ微妙につながっていて、一つ一つのエピソードを積み重ねることによって不思議な建築家笠井泉二の輪郭が徐々に浮かび上がってくる。

    うまいなあ、と思ったのが雨宮利雅の醜い虚栄心の表現。地の文の説明がたとえなくても彼の台詞を二、三読むだけですぐ感じられる。読者はすぐに彼のことが嫌いになるはず(笑)

    一番好きなエピソードは第一章「冬の陽」。章子夫人の強さと儚さ、最後の奇跡には胸を打たれる。ハッピーエンドなのだが、それが他人から見ると彼女は心を狂わせられてしまった悲劇の人でしかないところも皮肉的で面白い(第六章での雨宮の台詞から)。

    急勾配の手に汗握るストーリーではないが、静かに心に染み入る類の優しい物語。
    私も笠井泉二に家をつくってもらいたい。

  • 建築物への造詣が深くないせいで笠井泉二の建築物を想像しきれず、あまり世界観に浸れなかった。残念。

  • 中村弦のデビュー作(らしい)
    非常に構成力のある書き手だが
    経歴がよくわからないミステリアスな作家
    (らしい)としたのは1962年生まれで
    2008年に初作品というのが解せない
    建築系の仕事をしていたのかとも思ったが
    ロスト・トレインが鉄道でクロノスは伝書鳩
    多芸なようだ
    今後が楽しみな作家ではあるが
    ロスト・トレインと比べて
    本作品は私の想像力のなさで
    建築物のイメージがわかず悔しい思いをした
    4.4点

  • 無色透明な文章が心地よい。良い作品だ!

  • 話によっては面白かった。でも最後まで主人公の人となりが漠としていてイマイチ感情移入しにくかった。

  • みうらじゅんが「旅は戻ってくるから旅で、自分探しとかして戻って来なかったらそれは蒸発」みたいなことを言ってた。そういう意味で言うと、中村弦の小説は、現実にいながらにして異界にも異時代にもいけて、でもアニメっぽさというか、全部虚構!という感じがしない。そういう(精神上の?)旅ができる作品なのに、最後は強引さなしに現実に戻って来られる。面白い。(13.10.9~21)

  • 最初の話がすきですねー!!

  • 明治から大正にかけ、不思議な能力を持った建築家として活躍したという主人公(もちろんフィクション)の誕生から、いくつかの建築に至るまでのエピソードを、ファンタジータッチで書きます。子爵家未亡人の要望に答えての別邸、また社長夫人の子供の頃からの夢であった長野県の別荘づくりの話、彼の亡くなった夫人との出会いから死別までの物語りなど、どれも心が癒される場面ばかりでした。章立て毎に時間が前後し、明治14年の生まれの時から始まり、日露戦争、関東大震災、終戦などの時代を行き来するような描写になりますが、これも時空を超えるファンタジー効果を齎し、分かりづらいということにはなっておらず、完成度が高い作品です。

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著者プロフィール

一九六二年、東京生まれ。國學院大學文学部卒。二〇〇八年、選考委員から絶賛を浴びた『天使の歩廊』で第二十回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。綿密な取材と精緻な文章で紡がれる哀切感溢れる世界は、読者の心を優しく掴んで離さない。本作は、ファンタジックな企みとサスペンスフルな展開を融合した、著者の新境地を示す野心作。他の著書に『ロスト・トレイン』がある。

「2014年 『伝書鳩クロノスの飛翔』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中村弦の作品

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