幕末史

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103132714

作品紹介・あらすじ

多くの才能が入り乱れ、日本が大転換を遂げた二十五年間-。その大混乱の時代の流れを、平易かつ刺激的に説いてゆく。はたして、明治は「維新」だったのか。幕末の志士たちは、何を目指していたのか。独自の歴史観を織り交ぜながら、個々の人物を活き活きと描いた書。

感想・レビュー・書評

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  • 「嘉永六年(一八五三)六月、ペリー率いる米艦隊が浦賀沖に出現。役人たちは周章狼狽する。やがて今日の都はテロに震えだし、坂本龍馬も非業の死を遂げる。将軍慶喜は朝敵となり、江戸城は開城、戊辰戦争が起こる。新政府が樹立され、下野した西郷隆盛は西南戦争で城山後に没すー。波瀾に満ち溢れた二十五年間と歴史を動かした様々な男たちを、著者独自の切り口で、語りつくす。」(本書紹介文から)

    (以下、オビ:はじめの章からの引用)「というわけで、これから私が延々と皆さんに語ることとなります幕末から明治十一年までの歴史は、「反薩長史観」となることは請合いであります。あらかじめ申し上げておきます。そう、「幕末のぎりぎりの段階で薩長というのはほとんど暴力的であった」と司馬遼太郎さんは言います。私もまったく同感なんです。」

    2008年3月~7月に行われた、慶應丸の内シティキャンバスの特別講座。
    半藤氏は自らを「反薩長史観(=反皇国史観)」であるとスタンスを明確にされてから語られている。靖国問題にも通じる大変大きなポイントである。

    今の時代に生きる自分も半藤氏や司馬遼太郎氏と同じように思うが、薩長史観や皇国史観がまっとうな思想だと思われていた時代が存在したということで、歴史は作られるものなのか、作るものなのかとか、そういうことも考えさせられてしまう。

    そしてまた、この半藤氏が選択された激動の25年は、この時代に生きた庶民にはどんな風だったのかなとも考えさせられたりする。25年間といえば、一人の人生の例えば10歳~35歳。この間のこの凄まじい変化の様子は、人々はどれくらいわかっていたんだろう。当時もしTVがあったら、毎日のように大事件の報道ばかりで、昨今の強盗殺人の非ではない。国内で戦争が勃発している。

    「蛤御門の変」では、京都がまる焼けとなり約28000戸が焼失したと記されていた。これは、いま戦下にあるウクライナの実情と、庶民にとっては変わらない。もしくはそれ以上かもしれないなと思ったりする。

    突如浦賀に現れたペリーは、よく「宇宙人が来た」ようなものだと例えられる。もしエイリアンが突如現れたとして、今の政府やあるいは地球人は、どう対応するか(笑)。攘夷なのか開国なのか。その時リーダーシップを発揮するのは誰なのか(地球上のどの国のリーダーなのか)、誰がどう考えをまとめていくのか。国連か各国か?

    今は情報が瞬時に世界中に伝わるが、当時の情報の流通経路は限られていただろうから、より情報をもっていた藩主が、保持している情報で考えを構築する。今でいえば優秀な知事が主導権を持っていたり、また知事によって様々なカラーがあって、意見が全くまとまらない。また、まとめ役も当時は、幕府か朝廷かとぐらついており、非常に不安定な状況下にあった。

    まずは、幕府と朝廷を一体化しようと「公武合体」案が提唱されたとしても、その中でまた開国か攘夷かで議論が一致せず、結論は日々クルクルと変わる。

    「ゴチャゴチャ、チマチマしてね~で、尊王攘夷、これしかね~」と力で押し切ろうとする長州。

    公武合体と尊王攘夷の衝突→長州と薩摩の対立→長州征伐(薩摩主導)→(なんと!)薩長連合→倒幕→王政復古→明治維新(新政府発足)→欧米視察(文明開化)→その後も朝廷vs.幕府の継続(戊辰戦争等)

    半藤氏は、これらの流れについて、多角的に情勢を伝えながら、わかりやすく説明して下さる。次々に起こる大事件の背景や関わった主要人物を丁寧に説明して下さるので、後世の読者としては比較的よく理解できる。それでも整理された後の時代に生きる我々でさえ、解説なしにこの時代の流れを理解するのは困難であるのに、当時の庶民はもう何がなんだかわからない時代に生きていたのではないでしょうか。

    個人的には、歴代続いてきた幕府の存続や徳川家の存続、対外交渉、朝廷との関係調整など、これらのゴタゴタの時代のど真ん中に存在してしまった慶喜さんは、本当に大変だっただろうなと、他人ごととして、ただの読者として、無責任な立場で、そう思ってしまいました。

  • 幕末史をおさらいしようと、本書を12年ぶりに再読。
    慶応丸の内シティキャンパスで行った特別講座をまとめたもの。講談調あり、人情噺風もあり、平易な語り口調なため読みやすく面白い。
    江戸っ子を任じる著者らしく、勝海舟を「勝つぁん」と身びいき呼びし、幕末において無類の大きな働きをしたことを強調する。
    薩長史観に染められた明治維新に苦言を呈し、「官軍」と呼ばれることにも「西軍」でいいんだと言いたいと。
    龍馬暗殺についてはいろいろな説があるが(この間読んだ『天翔ける』で葉室麟は慶喜説を)、著者は薩摩黒幕説を取る。
    実行は見廻組だが、彼らに龍馬の居所を教えたのは大久保利通だというのが、著者の説。
    池田屋事件の項で、攘夷派の策謀を拷問によって白状させた現場に土方歳三はいなかったと、司馬遼太郎が『燃えよ剣』で書いているのに対し、「司馬さんは嫌なことは書きませんから」と、著者の一言があるのが面白い。

    徳川家のおしまいは、昭和20年の大日本帝国のおしまいと似ているとも。
    維新前夜の熱狂的な攘夷論を引き合いに、日本人が戦争から学ぶ一番大切な点は、「熱狂的になってはいけない」ことであると、歴史探偵を自認する著者は語る。
    さらに、日本人の通弊として挙げている点がある。
    日本人は往々にして、確かな情報が入ってきても、起きたら困ることは起きない、いや起きないに違いない、そうに決まっている、大丈夫、これは起きないと、なってしまうことだと。
    現状のコロナ感染での、政府の対応、あるいは若者の繁華街への繰り出し等にも言えることかな。

  • 僕の歴史好きに拍車がかかった、最高の書籍だった。もっと早く出会っていればと思ったくらい。この本を持って、浦賀とペリー記念碑を見てきた。もう昭和史を買ってます。読むのが楽しみ。

  • 幕府側の新しい視点という触れ込み。
    で、読み進めたが、それほど新視点と思えるものはなかったような。
    なんか江戸っ子視点、でもいい様な。

  • 幕末史をサクッと勉強したいならオススメできる。
    著者の独特な語り口で内容が頭の中にスッと入る。

    しかし、著者の歴史観がダダ漏れであり、これ一冊だけだと、中立的な歴史観に基づいた歴史を学べない可能性があるので、他著の幕末史に関する書物も併せて読んだ方がいいかもしれない。

  • 読み応えのある本にひさしぶりに出くわした。
    学校で習った歴史は今まで疑うことはなかったけど、それはそれで誰かの視点から書かれたものなのだということにハッとさせられた。歴史で点を取るのは楽しかったけど、先生はこう思いませんなどといった歴史の授業があったとしたら、きっと歴史を好きになってたかもしれない。。。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/55814

  • 一体幕末とはなんだったのか。そんな疑問を半藤氏の言葉で紐解いていってくれた。
    確かに考え方に偏りはあるものの、私がイメージしていた幕末と大差はなかったような気もする。以前に、明治維新を過ちとみた別の人の本も読んだからかもしれないけれども、薩長万歳みたいな雰囲気ではなく、冷静に分析されていて、歴史アマチュアの私でも、理解しやすかった。
    今丁度大河ドラマもこの時代であり、ドラマと本を行き来しながら楽しむことができた。タカ派ハト派とか、攘夷派開国派とか、もうなんだかいろんな思惑が多すぎて、未だに消化不良ではあるものの、幕末のロマンというものに足を踏み入れてしまったような気がする為、今後も幕末に関する本をたくさん読んでみたい。
    とりあえず、勝海舟という人間が気になる。

  • 昭和史に続いて手に取ってみた本。半藤さんの文章は砕けた感じで読みやすいのだが引用する文は漢文交じりだったり何かいてあるかわからないことが多かった。詳細→http://takeshi3017.chu.jp/file7/naiyou27604.html

  • 幕末から西南戦争までを一気に知ることができるのが良い。しかもわかり易い。ただ勝海舟びいきなのがモロに出ているのはちょっといただけない。西郷隆盛=毛沢東説は???

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著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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