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Amazon.co.jp ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784103145301
みんなの感想まとめ
美しい日本語が織り成す豪華な世界観が魅力の作品で、読み進めるうちにその独特な文体に引き込まれます。登場人物や地名、さらには語彙の選び方までが精緻に構築されており、まるで暗号のように感じられます。特に古...
感想・レビュー・書評
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筒井康隆の現時点での最新長編の語り口は視点の移動という実験だ。通常は一人称小説だったり三人称小説だったり、視点はひとつに保たれていなければならないとされるが、ここで視点はコロコロと移っていく。映像作品などはそんなものかも知れないが、それを小説でやってしまう。まずは擬古的な文章で始まるのだがそれは老人が回想しているかのようだ。何を回顧しているのかといえば幼い頃のことのようである。次の段落は赤ん坊が快適な子宮から引き離され怒っている台詞になる。それから視点は周囲の人々などに何の説明もなく移動する。対話もほとんど括弧抜きで羅列される。つまりそういうわけ。私がこうして喋っているじゃない。うんうん。すると今度はあなたが何か言うわけ。俺がなんか答えるよな。答えるでしょ。普通なら括弧でどこまでが一人の台詞か区別されるけど、それがないのよ。それじゃあ誰が喋っているかわからないじゃないか。わかるのよ。口調ってものがあるじゃない。おおそうじゃのう。いや、だからそういうことすると誰が乱入してきたかわからなくなるでごいす。『創作の極意と掟』によれば、こうした記述について行けなかったのは普段小説を読まない人だけだったという。
語り口のもうひとつの特徴は枕詞や古語の濫用であり、後半に行くほど増えてきて、難解な古語には脚注をつけてまで敢えて使用せんとす。それにて生まるるものはあたかも音楽の如き律動なり。
そうした語り口で語られる内容はというと、上述の生まれて怒っていた赤ん坊、葉月貴夫の物語である。聖痕とは、義手、義歯、義眼。あ、これはパーマー・エルドリッジの、だった。
貴夫は中小企業の経営者家庭の長男で、類まれな美貌を持つ。ええっ。男の子。まあ。男のお子さんなの。嘘みたい。女の子だってこれほどの。ところが、5歳の時、彼は変質者に性器を切り取られてしまう。ここまでほんの数ページ。聖痕とは切り取られた痕のことなのである。
作者の目論見は、リビドーのない人物を生み出すこと。人間を動かす動因は広義の性欲であるという考えから、それがない人物を作りだす実験である。リビドーのない人間には、つまるところ小説にしろ映画にしろ音楽にしろ、芸術の深奥を理解することはできず、よって、貴夫はどんなに上手に歌を歌っても真の表現はできない。もっとも、性ホルモンを無くしたからって、リビドーがなくなるわけではないのは、宦官やカストラートの行状をみればわかるが、本書ではそういうことにしておこうということだ。
貴夫の家族は貴夫にそのような欠陥があることをひた隠しにする。そんな貴夫に唯一残された悦楽が味覚であった。味覚を研ぎ澄ましていく貴夫は、料理の世界へと進んでいくが、この世のものとも思われぬ美貌を持つ貴夫に男も女も引き寄せられ、貴夫の秘密が暴かれる危機が何度となく襲ってくる。作者のサディスティックな筆がいつ貴夫を襲うかだくめいて読むこととなる。(註:だくめいて どきどきして)
貴夫が陰部を切り取られ、一家がこっそりと居所を移したときは折しもオイルショックであり、その後も貴夫の半生の語りの随所にその時代の風物や重大事件に言及される。少年の貴夫がテレビで「バビル2世」を見ていたり、アメリカと中国が国交を樹立したり、そしてバブルに翻弄され、最後にやってくる大きな出来事といえば当然あれである。他方、貴夫を手にかけた犯人は捕まらないままであり、その決着もひとつのクライマックス。
語り口も語りの内容も表現欲に満たされており、筒井さんよ、あんたにゃ、聖痕はないね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
常用外の単語や枕詞などが多用されているものの見開き2ページ毎に註が付けられているため読みにくさは感じず、むしろ日本語の美しい響きにうっとりしながら夢中で読み進めた。読み終わって、これはエンタメ小説だなと感じた。エンタメ系というと軽薄で軟派なイメージがあるけどそうじゃなく、限りなくいい意味でのエンターテインメントだと思った。美食、美人(作中によると美人とは美しい男性を指す言葉だそう)、美女、官能、そして俗っぽい現代の世相なども映し、日本語の美と贅を尽したゴージャスな一冊。
筒井康隆はロートレック荘以来で恥ずかしながら普段筒井氏がどんな文章を書くのか知りません…が、こういった作品をもっと読みたいと思いました。 -
古語を並べて小説表現に用いるというアイディアを思いつきはしても実際に実現できる作家はそうはいないだろう。最初は戸惑いがあったが読み進めるうちに古語の出現が楽しくなる、連続で現れると思わず拍手をしたくなる、JAZZのアドリブの難易度の高いフレーズを待ち望むのと同じような楽しみ方ができる。選りすぐった古語を集めて作った小説の題材の一つが選りすぐられた素材を集めて作られる料理であるのもむベなるかなといったところか。近年の日本社会を背景にした美と欠損を抱えた主人公の半生に島田雅彦の作品と似た印象を持った。
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註釈が前半はあったりなかったり、あっても何個かだったりしたのが、物語が進むにつれて多くなっていって目が忙しかった。
知らない言葉も多いし、急に古文みたいな文章になるから読むのに時間がかかった。 -
類まれな美貌ゆえ奪われた男性器の欠損。退廃的で淫靡な三島っぽい展開になるのかなと思っていたけど全然違った。祖父が亡くなる場面まではひりひりする緊張感にあふれていたのにその後ゆるゆると家族劇となっていく展開は意外でした。食と性に貪欲な人間が集う店で、自分では享受できない歓びを提供する貴夫は聖人なのでしょうか。
読み進めるのに思い描く貴夫像というのがそれぞれあると思いますがわたしの場合は「ヴェニスに死す」のビョルン・アンドレセンでした。
こういう日本語初めて見た、という言葉たちが注釈とともにあるのですが苦にならずすんなり読めたのはよかった。古式ゆかしい日本語、お金の使い方が庶民とはかけはなれているなど、昭和初期の華族の話かと思えてしまうギャップがありました。 -
美しい子供,葉月貴夫の性器切り取られてからのきらびやかな一生.その容姿,頭脳,財力,たったひとつのものの欠如以外過剰なまでの力.圧倒されました.そして何よりそれを支える文体にも圧倒されました.
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何かを喪はなければ、それも比類無き透徹した狂気ゆえの純粋さによって奪はれなければ示現できない聖なるモノ。
ある種、現代の殉教とも言えるような雰囲気を独特な文体とともに揺蕩わせている…。 -
何より著者の老獪な文章力に舌を巻く。誰の真似でもなく(昭和初期の文体のパロディと言えなくもないが)、リズムがあり、ビートがある。遠慮呵責なく難解な熟語を使い、読点もほとんど無いのだが、流れるように読める。この本がどのように評価されているのかは知らない。著者の本は8割方読んでいるが、見知らぬ場所へ誘うストーリーも含め、大傑作の一つなのではないか。
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新潮文庫版にて読むつもりなので~
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まず、まだまだ知らない日本語がたくさんあることに驚き。枕詞や難しい日本語を多用するところに筒井さんの実験的姿勢が感じられて楽しかった。
内容については、性欲のない聖人のような人生も自分の軸がブレることなく信念を持ててそれはそれで魅力的、だけど性欲があるがゆえに足掻いたりみっともなかったりする人生も、その俗っぽさがいいなぁと思った。全てはその人次第で、良くも悪くもなれるなぁ、と。激動の世の中を生きる色んな人間の人生について読めてとても面白かった。 -
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古語、会話文を地の文と同化させる等々の文体、そして何より、主人公の美しさに驚嘆させられた。
いやはや、すごい小説だった。
ただ、わざわざ震災を絡める意図が見抜けなかった。 -
基本的に読書をする際なるべくわからなかった単語があればメモを取りながら読むようにしているため、この作品の場合左についている注をほぼ全て書き写す羽目になり、(めんどくさくて)読むのに何ヶ月もかかってしまった。
その作業に気をとられていたというのもあるだろうけど、話、つまんなくない?
ペニスを切り落とされた青年が主人公とあって、話がどう転がっていくのかと思ったけれど、途中からその設定を忘れてしまうほど普通の小説になっている気がする。
注を気にせずさらっと読み流せばまた印象が違うのかもしれない。 -
買ったはいいが、どこかに往ってしまってようやく読むことが出来た。
類まれなる美少年だが、幼少時変質者に性器を切り取られてしまい、リビドーを生涯持たない男として歩む半生を書いた本。裕福な家庭に生まれ、恐ろしいくらいに美しく、しかも東大に進む彼。全女性からの憧れを受けるも、女に全く興味なく、興味は美食。そんな男が青年から社会人になり、なんと結婚し、果ては子供まで・・・。そんな人生記は読んでみたいでしょう、まして筒井が書いたとなれば。たくさんある脚注も面白い。 -
すごくへんな話だった
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1973年、葉月貴夫は5歳にして性器を切り取られた。しかしなお美しく健やかに成長した貴夫は、周囲の人びとのさまざまな欲望を惹き起こしていく―。彼は、果たして我らの煩脳を救済し給うのか?巨匠筒井康隆が、古今のありとある日本語の贅と、頽廃的なまでの小説的技術の粋を尽して、現代を語り、未来を断固予言する、数奇極まる“聖人伝”
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面白かった。
けど、東北の方の震災に引っ張られるラストはどうなんやろ。 -
ナニがないだけで欲望と言うものがなくなるのか。静かな気持ちで生きていけるのかな。
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