すべて僕に任せてください: 東工大モーレツ天才助教授の悲劇

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103147619

作品紹介・あらすじ

頼まれると断れず、次々と降りかかる膨大な雑用に疲弊し、ポスト争いや「調整」に翻弄される日々-。成果として論文の数を問われるものの、本業である研究に没頭すること自体がいかに難しいか。元東工大教授が、共に勤務した研究者の半生を通じて明かす、理工系大学の実態。「科学技術立国日本」の裏面史。

感想・レビュー・書評

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  •  この本は2つの視点からタイムリーな作品と言える。1つは不況の悪役としてやり玉に挙げられている金融工学黎明期に活躍した研究者の物語として、もう1つはポスドク(博士号取得後に永続的な研究職に就けない人)問題の背景にある大学院重点化や研究者の実態を一般に知らせる広告として、である。

     本書は某国立大学の教授であった著者の視点で、自らが助手(現在は助教)として採用した一人の研究者、白川浩氏の半生を、工学分野における金融工学の発展とあわせて描いている。
     歴史に名を残すような研究をしたいという野望を思い描いても、そのような研究をするためには5年10年の単位で時間がいる。しかし、研究職を得るためには業績が必要で、業績とは論文数を意味するので、完璧に満足できるテーマではなくともとにかく形にして発表しなければならない。一方で研究をするための時間は、学生の指導や大学職員としての雑務により削られる。だが、これだって職があるだけまだましで、ポスドクは短い任期の研究職を転々としなければならない。

     白川浩氏は、世界のリーダーとなれる器を持ちながら、他の研究者から雑務を押しつけられたり、政治的な人間関係に関わったりして、その才能と寿命を摩耗させていったらしい。後半になればなるほど、白川氏への同情と哀惜、自らの後悔に埋め尽くされていく。そういった点から見ると、これは理工系大学の研究者の実態を描くという以上に、白川氏を追悼する作品なのだろう。

  • 題名から,東工大の助教授が仕事の引き受け過ぎで過労死をした話を想像したが,そうではなかった.
    自分の部下だった人の人事を巡る話題を中心に大学の内輪話がかなり露骨に書いてある.私でも名前を知っている有名教授たちの名前が出てきて,エピソードを提供している.著者が退職が間近で責任がなくなって書けた部分も多くあるのではとないか想像する.それにしてもp.96以降に書いてある工学部の教授たちというのは雑務の量が半端ではない.残業手当もなしに年3000時間働けないと教授になれないのか.年3500時間働く人もめずらしくないというが,過労死しても残業をしていたことにはならず,かってに研究をしていたことになって労災認定はされないんだろうな.すごい世界だ.

  • 東京工業大学の教授だった人が書いた一冊。

    「白い巨塔」は大学の医学部を舞台にしていたが、
    ここで書かれているのは「白い巨塔 現代東工大編」
    と言えるようなもの。
    かつて自分の助手で、最終的には東工大教授として
    壮絶と言っていい死を遂げた男・白川の生き様を
    描くことを通じて、金融工学という新しい学問の立ち
    上げに関わる話を書き綴っている。

    金融工学という新参者に対する既存の経済学者や
    数学者たちの反発や抵抗に合いながらも、わが道を
    行く白川。彼の姿には、不器用で無骨な魅力があって
    読んでいるうちに、実はこれはよくできた小説なのでは、
    と思うこともあった。


    でも、読み終えた直後の感じは決していいとは言え
    なかった。それは、この本が誰のために何のために
    書かれたものなのかがよく見えなかったから。

    かつての愛弟子・白川へのレクイエムとして書かれた
    のか。答えは否。微妙な距離感を保つ白川への著者
    の感情は、常に愛情をもったものとは思えない。
    そもそも、「東工大モーレツ天才助教授の悲劇」という
    副題からは白川への愛情が感じられず、本を売らんが
    ための陳腐な茶化し文句にしか見えない。
    それでは、大学内のパワーゲームへの問題提起か。
    確かにその一面もあるとは思う。でも、なにか中途半端。

    そんなことを考えながらたどり着いた結論は、著者が
    自分のために書いたんだろう、ということ。
    こう考えると、このスッキリしない読後感も説明がつく。
    自分は白川のためにこれだけのことした、そのおかげで
    彼はこんな実績を残した、それと引き換えに命を落としたが
    それはワタシの非では…こんな思いが透けて見えてきた。

  • 1417円購入2010-02-24

  • 結局病気になって消えて若い研究者は、病気になってまで関わるべきだったのだろうか、という疑問が残る。
    どんなに讃えても死んでしまったら終わりだ、残された妻子が不憫、不毛という思いが強い読後感。
    世界レベル、世界標準と標榜する著者の表現は、ある分野においてはそのように捉えられるのかもしれないが、いささか狭量のような気がしてならない。
    しかし、全体に漂う不毛感によって、大学の仕事はある程度割り切った方が良い、巻き込まれる必要はないということを示唆されており、それを知ることができたのは大きな収穫である。

  • 377.2

  • 白川さんの常人を越えたモーレツぶり、損得を越えたステージにいるのでしょうか?凡人にはわからないど…私は、キョーレツにはまり、一気読みしました!

  • 重い話

  • 大学・大学院のどろどろとしたことが実名で書かれている。大学・大学院の先生の大変さは社蓄を上回る。
    「これからは、1800時間以上は働かないようにして下さい」 3500時間働いているモーレツ教授は憤慨した。「1800時間?! 何を寝ぼけたことを言っているんだ。そんなことをしていたらMITに勝てない!」
    なかなか論文が増えない白川さんに「君、まさかジャーナル・オブ・ファイナンスとか、エコノメトリカなんかに出したんじゃないでしょうね!」
    IBM東京基礎研究所に勤める二宮祥一氏の招聘にさいして「おかしな奴が連れてきたからといって、おかしな奴とは限らない」
    企業との共同研究なのに「あなたたちのように、規制で保護されてきた人とお話ししても、時間が無駄になるだけです」
    「このとき文部省は、一橋大と京大を東西の金融工学の中心と位置づけ、一橋に対して近い将来、東工大の『理財工学研究センター』と合併するようアドバイスしたようである。」
    「50歳までは無理だということは、自分でもわかっていたはずですよ。それを知っていて、生きている間はトコトンやろうと思ったんですよ。そういう奴です」
    「日本の確率論は、戦後一貫して世界のトップを走ってきた。そして白川が尊敬する楠岡成雄氏は、大御所伊藤清教授の薫陶を受けたチャンピオンである。つまり確率論の世界的権威なのだ」
    「済みませんが、もう少しわかり易く抽象的に説明して頂けませんか」 (東大工学部を代表する数理工学者森口繁一教授が、ある工学上の問題について東大数学科の看板教授吉田耕作氏に相談を持ちかけたときの吉田教授)
    「実務家の関心は研究結果とその実効性だけで、途中の細かい話はどうでもよい。一方、大学の研究者たちの関心事は「細部」である。専門誌に発表される100編の論文のうち95編は、誰かがやった研究の細部を変更して、”新しい”と称する結果を導いたものである」
    いろいろと裏話が聞けておもしろい。「天才は才能を浪費する」んですね。

  • 著者(今野 浩)と、東工大モーレツ天才助教授(白川 浩)のお話です。

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著者プロフィール

中大

「1992年 『数理決定法入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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