著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 88
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103192077

感想・レビュー・書評

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  • 正直言って難しかったです。読み込めていない部分がまだたくさんあるけれど、それでも初めて触れた古井さんの小説世界の凄みは強烈でした。文体の効果もあるのだろうけれど、読んでいくうちに夢と現、現在と過去、生と死、そんな諸々の境界が溶けていって、自分がどこかに浮かんでいるような感覚にとらわれていきました。

  • 初・古井由吉さん。死と受胎と性交がテーマの1冊だったのね。。。初読本として私にとっては、ちとハードル高かった。主人公の述懐部分など不思議なほどすらすらと場面が思い浮かぶような文章でさすが!などと解ったような感じで読めるけれど、年を重ねた男の性の振り返りは濃い。濃ゆい。好みの物語たちではなかった。
    元から読みたかった「ゆらぐ玉の緒」を読んで出直します。

  • 12の短編が、最初は 辻 を繋がりにして、話自体も繋がるのかと思っていたが、ああなんだ、繋がりが途切れた・・かと思えば、少しづつ形を変え深く掘ったり浅く掘り足したり・・・
    物語同士、奇妙なずれがあるので執拗さを感じさせず、意味のとれない文に行きつ戻りつするためか、物語の進み具合まで奇妙さを帯びる。

    老いた先の、正常さの中の静かな狂気は、徐々に大きくなる。それを繰り返す。
    男女の交わりは畳の上に敷かれた薄い敷布団の中で、何度も過去と先を繰り返す。
    不可思議な記憶をも繰り返し、しまいには一体誰がどうなのかあやふやになってしまう。
    それらは 不安 という感覚をもたらす。
    しかしいつのまにか、その不安感に包まれるのが心地よくなってくる・・・
    これは、中毒のうちに入るだろうか。

    なぜこの作家の本を読まずにきたのだろう。
    顔も名前もよく知っていたのに。
    濃くて時間のかかる、片手間では読めない話を書く小説家。
    次は何を選ぼうか、選集も出ているらしいが。

  • 『文藝』の2012年夏号に古井さんのインタビューが載っていて、その中の『辻』が「自身にとって大きい作品」と言及する古井さんの言葉を目にして読んだ。もともと何年か前に半分ぐらいまで読んでいて、いろいろあってそのままになっていたので、最初の短編から読み直した。

    枕として置かれている「辻」の初めの3ページを何度も何度も繰り返し読んだ。古井さんの「辻」のイメージが凝縮されている気がした。日をまたがって続きを読む時は、初めの文章へ立ち戻って『辻』の世界に入り込んでから、読み進めるということをした。

    「辻」は様々なものが交差する場所であると思われる。そこへ行き交う人の情念。今、この世にいない人の想いすらそこに現われるような場所。そして「場所」といいながら、そこには過去と現在に渡る時間の感覚も出てくる。「空間」と「時間」は並の人間なら分けて考えないととても扱えないのではないだろうか。古井さんはそれを一緒に扱う、ということをやっているように私には思える。そして、本来、文学に役割のようなものがあるのだと仮にしたら、まさにこういう感覚を描出することがその一つではないだろうか、と思いさえする。ここで書かれる「辻」のイメージはとうてい他の表現ジャンルではできないものではないだろうか。言葉に徹底的に向かい合い、最近読んだ大江健三郎さん風に言えば、それをすることで「自身の言葉を鍛えてきた」古井さんという存在はやはり希有だと思う。

    「時間」と「空間」のことを言ったが「性」のことも古井作品には出てくる。あと「生死」も。それが「空間」とか「時間」といったものに歪みを与えたりする。古井作品について何か言おうとすると話がどうしても抽象的になってしまう。そこには様々なものが書き込まれているからではないか、と思う。だから何かを言っても、何にも言っていないような徒労感に襲われることもある。それでも昔読んだよりは少し何かわかるようなところもあるようで、そのことはなんだか興味深い。長い期間をかけて付き合っていきたい作家である。

  • 評価するなんておこがましいと思うくらいに素晴らしい。まず流し読みというのはできない。最近流行りの速読のテクニックもおそらく歯が立たないだろう。これを1時間くらいで読みました、という人がいたら嘘だ。一文一文を丹念に辿るうちに、どんどんと現実が異世界に変身していく。私たちが使う日本語とは似ても似つかないので読みにくいが、昨今の現代みたいにひたすら脳に働きかけてくるのではなくて、五臓六腑にまでじかに響いて来る。「ああこういう感覚あるある」という共感だけでなく、その先を行っている。だから、よくわかるのだけれども今までに観たことがない世界がそこにある、という不思議な感覚を味わう。

  • 緩慢に物狂っていく老いた父の背中に、自分の来し方を思いふと立ち止まる中年の男。生涯のどこかの辻で出会い交わり往き迷った男と女。女は受胎して子が産まれ、子は壮年となってまた幾つもの辻に差しかかる。―鋭い感性と濃密な文体で、日常の営みのなかに生と死と官能のきわみを描く十二の見事な連作短篇の世界。

  • 老練の技というのはこういうものをいうのでは。
    へたなコメントをするほど容易い本ではありません。

  • 古井由吉の「辻」(と受胎と死と性交)をテーマにした、テーマだけ連作っぽい短編10個くらい。文芸誌に連載してたんだっけ?初古井なんだけど・・・うむむ。俺がまず最初に思いついた感想は「芥川賞の模範解答例を12個作りました」って感じだった。他の作品はどうだか知らないが、会話文でもカギカッコ使わないし改行もしないみたいで、それをしっかり改行したりすると分量的に芥川賞くらいになるんではないかと思った。だって、ストーリーやテーマの大きさが芥川賞サイズなんだもん。そしてこれだけ書ければ文句なしで受賞っていうくらい、個々のレベルは(当たり前だけど)高く、セックスと生と死(受胎&自殺とか)というそういうありがちなテーマを独自の空気で見事に纏め上げている。慎ちゃんや輝ちゃんももちろん、満場一致で芥川賞が取れそうな作品群である。ちょっと文体が違うけど、松浦寿輝の受賞作を思い出した。というように、新人賞の模範解答というちっとも褒めてない感想を持ったのは、面白くなかったから。
    登場人物にキャラがないし、この人は描写自体に対してストイックすぎるみたいで、変な色気がないからあんまり引き込まれなかった。話も結構面白いし、描こうとしているものも結構面白いし、なかなか面白いこと書くなあってところもあるのに、全然物語に入っていけなかった。何でわかんないくらい、ダメだった。結局7個読んで、3個は飛ばし読みして、最後の2個はやめた。俺は物語性がなさすぎるのが苦手だから、こういう短編も苦手だし、素直に「槿」から読んどけばよかったのかも。ま、文春に書類取りに行く時に読書家っぽく見える本としては心強かったと思う。

  • 正直最初はちんぷんかんぷんだった。
    でも次第に文章にも慣れて、最後は軽く感動した。
    たまにはこういう重厚で難解な文章を読んでいないと、読む力が衰えるもんだなぁと実感した。

  • 佐々木中氏の随筆で、古井由吉が大江健三郎と並んでつねに高く評価されているため、その文体を感じるべく手に取った。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

古井由吉の作品

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