人生の色気

  • 新潮社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103192084

作品紹介・あらすじ

七分の真面目、三分の気まま-。僕はこうして生きてきた。作家渡世四十年、文学の達人が語る人生処方箋。

感想・レビュー・書評

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  • 今年で80歳になる老作家・古井由吉さんのエッセー集。
    濃密な文体の小説と違って、実に軽やかな筆運びです。
    このことから逆に、小説に全精力を注いでいることが分かります。
    「貧寒たる文学環境の中で、僕自身は、なるべく丁寧に言葉を綴る、というただ一つを心得にしてきました。」
    と古井さんは書いています。
    そうなのだろうと思います。
    本書は、老作家の半生をつづった回顧録でありながら、優れた作家論、小説論でもあるように思いました。
    たとえば、
    「作家は、真のタブーを上手く避けながら表現することによって、文章の色気を出してきました。」
    「いま、作家は例外なく端正で整った文章を書くでしょう。なぜ、もっと奔放にやらないのかと思っているんです。文法なんか多少無視しても、活力のある文章を求めた方がいいのではないか。『第一次戦後派』の人たちなんか、テニヲハなんて構っていられないぐらい、書く欲望に溢れていました。」
    「最近ではもう、三枚書くと相当書いたという気になります。でも、三枚書くと、翌日はそのうち一枚は書き直しです。勢いの乗って書いた文章は、どうしても荒っぽくなってしまいます。」
    「たとえ三十枚の短篇だとしても、途中で必ず行き詰まります。どうにも停滞したところから小説をどう展開するか、これは書いている人間の予測の外のことなんです。次の展開は、いままで書いた言葉の力に任せなければいけません。だから、じっと待っているんです。」
    「待つために必要なのは、やはり、毎日少しでも書くことです。もし清書できないなら、粗書でもかまいません。まったく先に進まない日でも、何かを書いています。」
    「やっぱり、ずぶの現役でやり続けなければだめになります。いままでの作品を積み重ねたその年金で、文学者が喰っていける世の中ではないんですよ。名声を積み重ねれば老後を楽に生きていけるという時代はとうに去りました。」
    「『私小説』のように、省略し、切り詰められた色気の現わし方は、西洋の文学では少ないと思います。これは、日本の文学の秀でているところですよ。僕自身の場合でも、ある行為を正面切って書いた部分を消すことがあります。前後の雰囲気やニュアンスの方が大事で、それだけ書けば十分に表現できているんじゃないかと思う。」
    ドキリということも随分と書いています。
    たとえば、
    「変な話ですが、日当が五百円の時と日当が千円の時では、読書の意味が違ってくるのではないでしょうか。時間が金に換算されるようになれば、読書という行為ほど無駄なものはありません。」
    よく稼ぐ社長さんやビジネスマンたちは、なべて小説を読みません。
    ぼくはそれを、金というリアルな現実と日々対峙している時に、虚構なんかに付き合っていられないからだと解釈していました。
    もちろん、それもあるでしょう。
    でも、古井さんの言に従えば違うんですね。
    時給換算で5千円も6千円も稼ぐ人にとって、読書なんて無駄どころか利益をみすみす逸失しているようなものです。
    「年配者の姿を見ていると、お焼香の姿がサマになっていないんですよ。不祝儀の場の年寄りの振る舞いに、男の色気は出るものなんです。稚いというか、みんな形を踏まえていない、しわくちゃな振舞いになっています。」
    というのも鋭い観察ですよね。
    私はよく神事を取材しますが、玉串奉奠で形が様になっている人はこれまで一人もいませんでした。
    名のある社長さんたちでも、ですよ。
    もちろん、私も満足に出来ませんが。
    近頃、色気のある人が少なくなったと嘆く古井さんの言葉に、静かに耳を傾けたのでした。

  • アナーキーな老人作家の語り。差し迫る死をひしひしと感じているのだから、エロスに関する意見にももちろん説得力と深みがある。長生きして下さい。

  • 古井氏は、現代の女の化粧が良くないという。
    私は、肌に化粧水乳液以外のものを塗るのが嫌だ。
    すごくいいファンデーション教えて。
    私の身近に、上手に化粧した大人の女が少ないのかな?
    粉っぽく見えることや、目の周りがオレンジの人や、眉が不自然に水平の人や、マツエクが異様に目立っている人、化粧で美しくなったというより、違和感を感じることが多い。
    美しくなろうとしてした化粧が、素顔の自然さを崩し、違和感をもたらしているのなら化粧はいらないと思う。
    化粧な上手をしたい。

    睫毛は、ダマになったり、一本一本の細い美しい睫毛が、マスカラで幾本か束になるだけなら、そのままがいい。
    眉は、平行よりも、眉尻で曲線を描くようなのがいい、眉は足したり剃ったりして整えたほうが好き。
    リップは紅をさしたほうが綺麗。
    頬は内から紅くなるくらいでいい。
    目は、伏せたときに美しい目がいい。
    無理に二重にすると、瞬きに違和感を覚えて、違和感に注目してしまうから、嫌いだ。
    二重の人はメイクしがいがあるから上手にやったらいいと思う。

    髪の艶の話
    私も髪のツヤツヤした女に魅入る。
    艶が欲しい。
    ワカメなど海藻をたくさん食べたい。

    風が吹いたら風に揺れるほうがいいとあった。
    そうそう。
    ルネラリックが作った車の先頭につけるオブジェのように、風を受けて髪が斜め後ろに流れて疾走感のある髪が好き。

    男が女を見なくなった
    とあるが、そうだろうか?
    古井氏の時代を知らないから比べられない。
    古井氏が男だから、分からないのかもしれないが、女は男の視線を受けている。
    私でなく、美しい女に視線をやる男のことも見ている。
    しかし、それよりも多くの視線を手元に落とした男を見過ごしている。 
    女も、美しい女を見ている。

    男がその性欲によって、女を求め、男女がくっつくというのは私にとってはあっている。
    求められなければ、好きになったり、関係を深めていくことがない。
    性欲ってすごくいい仕掛けだと思う。

    すぐに、個別の複雑な事情が表されないまま、よく語られる分かりやすい物語にはめ込む。 
    というのは、三島由紀夫の『音楽』を読んだ後に考えたことと似ている。

    マネーゲームが成り立たなくなった。というときのマネーゲームとは何だ?
    という話、そこらに書かれている、記事や文章、これでちゃんちゃんと終わらせようとするが、えっと、それどういうこと?文章は終わらせてまとめたようだけど、意味わからないよ、というのがある。
    文章で見た目はこれでこの文章が締められたように見えるが、言葉の見掛け倒しで、意味不明なことがある。

    私は、求めている。
    吉行淳之介『暗室』の男のように、深い関係にはならず、部屋で会い、何も話さずに体を合わせる男を。 
    ストリップ劇場、ピンクの壁に子供向け遊園地のような外観のソープ店、そこに入っていく想像をしてみる、どんな客が来るのだろう?どんな感染症対策をしているのだろう?働いている子は昼は何をしているんだろう?
    結婚していく女は、家庭を営みたいのだろうか?男との恋愛はもういいのだろうか? 
    私はそっちには行けないな。 

  • 人生の色気
    (和書)2010年01月22日 23:58
    古井 由吉 新潮社 2009年11月27日


    mixiの足跡を辿っていった先でオススメされていた本です。

    非常に面白かった。読み易いし、作家って何だろうと言うことに率直に答えていて読んでいて楽しい。

  • 2019.08.25読了。
    今年29冊目。

    古井由吉さん、恥ずかしながらこの本を手に取るまで知らなかったのだけどこのエッセイものすごく面白かった。

    ー身のこなしが訓練されているかどうかと色気のあるなしに深い関係があるー

    ものすごく共感した笑

    純文学、年のとり方、性と死、町の昔の姿、男女の今と昔、女性の化粧などなど書かれてる全てが興味深かった。

    便利になった分、失われたものがたくさんありすぎて悲しい。
    古井さんの生きてきた時代に生きてみたかったなぁ。

    そして純文学をあまり読んでこなかった私ですが、読んでみたい本ができたので少しずつ読んでいけたらと。

  • 文学

  • 古井由吉 著「人生の色気」、2009.11発行、今年79歳の著者、72歳の時の作品です。半生記であり、折々の思い、考え方が綴られています。戦後の解放感は、とにかく生き永らえたという深い実感から発してるそうです。そして、日本の戦後の発展は、野放図な活力と几帳面な律義さによると。人の耳をはばかりながらのセックスから団地という別天地が出現するも色気、エロティシズムはなくなった。緊張感のない時代に年をとるのは難しく、ちゃんと年を重ねているのは、田中角栄、大平正芳の世代まで。

  • わかる必要はない。しかし、大事なことを教えられる。

  • とても優しい語り口。
    染みてくる言葉たち。
    “読書は、自分を見つけることもできれば、自分を離れることもできるという、不思議な効用があります。”
    “面白いことを追うためには、面白くないことにうんと耐えなければいけません。”
    “七分の真面目、三分の気まま。

  • 話し言葉を綴っているのに、言葉の豊かさはさすが。
    人間は時代や社会と無縁に生きているわけではない。そんなシンプルなことを深く実感させられた。
    自分の生きているこの時代をもっと深くとらえながら生きてゆきたいと強く思う。

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著者プロフィール

小説家、ドイツ文学者。1937年生まれ。東京大学大学院独語独文学専攻修士課程を修了後に、金沢大学、立教大学で教鞭を執る。1968年に最初の小説『木曜日に』を発表。1971年に『杳子』で芥川賞受賞。主な作品に『栖』『槿』『仮往生伝試文』など。ムージル『愛の完成』『静かなヴェロニカの誘惑』を翻訳。2020年に死去。

「2024年 『誘惑者 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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