人生の色気

著者 :
  • 新潮社
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レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103192084

作品紹介・あらすじ

七分の真面目、三分の気まま-。僕はこうして生きてきた。作家渡世四十年、文学の達人が語る人生処方箋。

感想・レビュー・書評

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  • 今年で80歳になる老作家・古井由吉さんのエッセー集。
    濃密な文体の小説と違って、実に軽やかな筆運びです。
    このことから逆に、小説に全精力を注いでいることが分かります。
    「貧寒たる文学環境の中で、僕自身は、なるべく丁寧に言葉を綴る、というただ一つを心得にしてきました。」
    と古井さんは書いています。
    そうなのだろうと思います。
    本書は、老作家の半生をつづった回顧録でありながら、優れた作家論、小説論でもあるように思いました。
    たとえば、
    「作家は、真のタブーを上手く避けながら表現することによって、文章の色気を出してきました。」
    「いま、作家は例外なく端正で整った文章を書くでしょう。なぜ、もっと奔放にやらないのかと思っているんです。文法なんか多少無視しても、活力のある文章を求めた方がいいのではないか。『第一次戦後派』の人たちなんか、テニヲハなんて構っていられないぐらい、書く欲望に溢れていました。」
    「最近ではもう、三枚書くと相当書いたという気になります。でも、三枚書くと、翌日はそのうち一枚は書き直しです。勢いの乗って書いた文章は、どうしても荒っぽくなってしまいます。」
    「たとえ三十枚の短篇だとしても、途中で必ず行き詰まります。どうにも停滞したところから小説をどう展開するか、これは書いている人間の予測の外のことなんです。次の展開は、いままで書いた言葉の力に任せなければいけません。だから、じっと待っているんです。」
    「待つために必要なのは、やはり、毎日少しでも書くことです。もし清書できないなら、粗書でもかまいません。まったく先に進まない日でも、何かを書いています。」
    「やっぱり、ずぶの現役でやり続けなければだめになります。いままでの作品を積み重ねたその年金で、文学者が喰っていける世の中ではないんですよ。名声を積み重ねれば老後を楽に生きていけるという時代はとうに去りました。」
    「『私小説』のように、省略し、切り詰められた色気の現わし方は、西洋の文学では少ないと思います。これは、日本の文学の秀でているところですよ。僕自身の場合でも、ある行為を正面切って書いた部分を消すことがあります。前後の雰囲気やニュアンスの方が大事で、それだけ書けば十分に表現できているんじゃないかと思う。」
    ドキリということも随分と書いています。
    たとえば、
    「変な話ですが、日当が五百円の時と日当が千円の時では、読書の意味が違ってくるのではないでしょうか。時間が金に換算されるようになれば、読書という行為ほど無駄なものはありません。」
    よく稼ぐ社長さんやビジネスマンたちは、なべて小説を読みません。
    ぼくはそれを、金というリアルな現実と日々対峙している時に、虚構なんかに付き合っていられないからだと解釈していました。
    もちろん、それもあるでしょう。
    でも、古井さんの言に従えば違うんですね。
    時給換算で5千円も6千円も稼ぐ人にとって、読書なんて無駄どころか利益をみすみす逸失しているようなものです。
    「年配者の姿を見ていると、お焼香の姿がサマになっていないんですよ。不祝儀の場の年寄りの振る舞いに、男の色気は出るものなんです。稚いというか、みんな形を踏まえていない、しわくちゃな振舞いになっています。」
    というのも鋭い観察ですよね。
    私はよく神事を取材しますが、玉串奉奠で形が様になっている人はこれまで一人もいませんでした。
    名のある社長さんたちでも、ですよ。
    もちろん、私も満足に出来ませんが。
    近頃、色気のある人が少なくなったと嘆く古井さんの言葉に、静かに耳を傾けたのでした。

  • 古井由吉 著「人生の色気」、2009.11発行、今年79歳の著者、72歳の時の作品です。半生記であり、折々の思い、考え方が綴られています。戦後の解放感は、とにかく生き永らえたという深い実感から発してるそうです。そして、日本の戦後の発展は、野放図な活力と几帳面な律義さによると。人の耳をはばかりながらのセックスから団地という別天地が出現するも色気、エロティシズムはなくなった。緊張感のない時代に年をとるのは難しく、ちゃんと年を重ねているのは、田中角栄、大平正芳の世代まで。

  • わかる必要はない。しかし、大事なことを教えられる。

  • とても優しい語り口。
    染みてくる言葉たち。
    “読書は、自分を見つけることもできれば、自分を離れることもできるという、不思議な効用があります。”
    “面白いことを追うためには、面白くないことにうんと耐えなければいけません。”
    “七分の真面目、三分の気まま。

  • 話し言葉を綴っているのに、言葉の豊かさはさすが。
    人間は時代や社会と無縁に生きているわけではない。そんなシンプルなことを深く実感させられた。
    自分の生きているこの時代をもっと深くとらえながら生きてゆきたいと強く思う。

  • 先日とある先輩に勧められたので読んでみました。

    大学時代に芥川賞受賞作「沓子」を読んで以来です。

    これは数年前に出版されたもので、語りおろしのエッセイのような体裁をとっています。大作家と思いつつ、金沢と立教での合計8年間の教師生活の話が「戦後」をリアルに描写している。

    基本的に1人称なのですが、対談相手が結構大物だったりします。

    古井由吉は70歳を超えた現在でも書き続いているのに驚きました。物事への距離のとり方が絶妙ですね。こんな風に歳をとりたいです。少年のような好奇心を内包しつつ、成熟と円熟を重ねること。なかなかそんな大人はみつからないですね。

  • 教科書みたいに読みやすくて、きれいな日本語。
    うまく説明できない、ある物事に対する
    なんとなく感を、「あぁ、そう言えばいいんだ」、
    「なるほど」と、教えてくれる。

  • 古井氏の作品で初めて読んだ。タイトルに惹かれた。エロスという言葉がでてくるが、今まで意識したことがない中で古井氏の言葉を読んでいくと、不思議と人生を有意義に過ごすための人間観が変化していくのを感じた。世代間のギャップを感じておられるようだが、本質的なところは現代にも通じると思う。

  • あの世からこの世を伺うような。
    無意識から意識を診るような。

  •  「男の性欲はしょうもないものだけれども、ある時期から衰えてきた。昔の流行歌で「男はみんなオオカミよ」というのがあったけれど、いまの女性は狼という感じは受けないでしょう。「草食系」とか呼ばれている男の子が増えているけれども、草食獣だって雄雌はあります。性の方は、肉食獣より激しいです。」(160-161頁)ここでの最後の一文に虚を突かれたのは私だけではないはず。少し吹き出しました。
     いまや通念、あるいは常識と思い込まれているものが、実はほんの数十年のうちで大きく変貌していることを「普通に」語って聞かせる著者の恐ろしさ。裏の見開きにはパイプを片手に写る古井氏の静かな佇まい、その彼の口から性と生と死が絡み合う言葉の数々が紡がれているという事実、このギャップに背すじがぞっとし、それがまた痛快でもある。

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