鐘の渡り

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 115
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103192107

作品紹介・あらすじ

女に死なれたばかりの人と山に入って、ひきこまれはしないかしら――。呪いめいた言葉をつれて、女と暮らすつもりの男が、女を亡くした友と旅に出る。彼らの視るものは、紅葉が燃えて狂ったように輝く山と、女人の匂い立ちのぼる森。そして夜には、谷を流れるあの鐘の音が、昏い峠に鳴り渡って――。三十男二人の妖うい山路を描く表題作ほか全八篇。現代日本最高峰の作家による言語表現の最先端。

感想・レビュー・書評

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  • 読売の書評によれば「現代日本文学の救い」であり、出版元は「現代文学の最高峰」という。

    作者の小説は十年以上前に一冊読んだことがあり、地味ではあるが端正な完成度の高い作品との印象であった。

    この本も読み易くはないものの読む甲斐は十分にあるだろうとの期待と覚悟を持って読み始めたのだが、その取り付きにくさは想像を超えていた。
    随想とも小説ともつかぬ形式、叙述とエピソードの区別が判然としない、主体や時期、テーマが知らぬ間に入れ替わる。読者の感情移入を拒絶しているかのような文体であり、読み続ける意欲を繋ぐのに困難を感じた。

    全編にたゆとう雰囲気に浸れる向きには良いのかも知れないが、読了時には正直消耗感が残った。

  • 「・・・つれて友人のいなくなったことが、存在に劣らぬ質感を帯びて迫り、思わず走りかけた喘ぎをゆっくりと出し抜く」
    この部分を呼みながら鳥肌が立った。喘ぎをゆっくりと出し抜くというこの出色の表現に、生と死が同質のものであるということを暴きたてる危うさを感じずにはいられなかった。

  • タイトルと装丁にひかれて、作者のことは何も知らないまま購入。
    読み始めた本は何があっても読了する主義なので、必死の思いで読み終えたけれど、まぁしんどかった!
    この作家のファンの方だったら読み慣れた作風なのかもしれないけれど、時系列や話の主体が知らぬ間に入れ替わることや、独特の読点の入れ方に戸惑うばかり……
    読み終えた今、作品自体の感想を持てず、ただただ「読了した……」という鈍い達成感だけが残るというありさま。
    生きている作家、過去の作家のいかんにかかわらず、発表された順番に作品は読んでいくべきなのかもしれないと改めて実感させられた一冊。

  • 古井由吉の言葉は、優美だ。すべての言葉が、美しい。
    あちらとこちらの境、それは時にあやふやで、意識するとせざるとにかかわらず、いつか越えてしまうこともある。記憶のたゆたいの中で、自分は一体どちらにいたのだったか、その所在さえ曖昧になる。

  • 夢のような現のような。私小説?

  • 作者の分身のような語り手が、思い出すままに過去の事柄を連想していく、といった趣の、おそらく連作形式になっている短編集なのだけど、そんな単純に一筋縄でいく話ではなかった。日常生活のよるべなさ、ふとしたきっかけで足元が揺らぐ感覚は、今までの古井さんの作品でも描かれてきたが、描写がより濃密に、凝縮されているようになって、それなのにゆるゆるとした流れの中で、夢見心地で読み終えてしまった。

    古井さんは、初期の頃の小説をいくつかと、中期をほんの少し読んだだけで、間をかなりとばしてしまったので、そのあたりを順に読んでいかないと、これは理解が深まらないなあと思った。難しかったけど、初期のエロエロの話よりはずっといい。杳子とか、どうも苦手だ。

    ただ本作も、女のことを語らせるとグサッとくる部分はあった。うまく言えないのだが、「そんな風に言わなくても」とついつい言いたくなってしまうところ。あまりに核心をつきすぎているからだと思うが、あんな言い方をされたら、女としては恥じ入って黙り込むしかないじゃないですか。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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