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- / ISBN・EAN: 9784103193050
感想・レビュー・書評
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元日本兵の作家による「慰安婦」の思い出を述べたエッセイ、川端賞もとった作品だというので、昔買っておいたのを取り出して読んでみたのだが、だらりと弛緩した意識が流れていくような文章に驚かされる。戦争中の思い出と、老妻と数少ない友との付き合いのみでなりたつ現在、そしてみな年をとったという感慨が、言い方を変えて変奏され続ける。意識に焦点がなく文章に緊張もない。
戦争体験者なら誰でも知っていた「慰安婦」の存在が急に大きな問題となったことに、この作家は戸惑っている。その変化を引き起こしたものこそ、安定した戦争の記憶語りの基盤にある日本人男性を中心とする<戦後>への批判だった。
「正義」の要求に戸惑いながら、自身の「慰安婦」との交流の記憶を述べるこのエッセイは、日本人兵士側からの証言のひとつであると同時に、女性たちの存在をノスタルジーにしまいこんできた戦後語りそのものの証言でもある。子ども時代に暮らしていた同じ町の少女が遊郭に売られ娼妓となった思い出を、少年の自分の性的興奮を交えて語る感覚、豊かになってきた韓国でも娼婦として金を稼ぐ女に金のない男が貢ぐようになっているなどと、事実を調べもせずぼんやりした意識のままに書ける感覚。それが日本人男性の「戦後」語りを作ってきた一部であることが、この弛緩したエッセイ集から浮かび上がってくる。そしてこの本に川端賞をあたえたのが、1990年代半ばの日本文壇であったのだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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古山高麗雄の作品





