月桃夜

著者 :
  • 新潮社
3.63
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本棚登録 : 293
感想 : 61
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103198314

作品紹介・あらすじ

想いは人知れず、この世の終わりまで滾り立つ-。死んでもいいと海を漂う茉莉香に、虚空を彷徨う大鷲が語りかける。熱く狂おしい兄の想いを、お前はなかったことにできるのか?かつて二百年前の奄美にも、許されぬ愛を望んだ兄妹がいた…。苛酷な階級社会で奴隷に生まれた少年は、やがて愛することを知り、運命に抗うことを決意する。第21回「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • この作品が、日本ファンタジーノベル大賞受賞作だということを、読み終わった後に知ったが、内容には、すごく生々しいものを感じました。

    奴隷のような身分制度がある、「フィエクサ」と「サネン」の物語(たぶん江戸時代)は、やはり読んでいて辛いものを感じたが、それでも自分の信念や生き方を貫いた様は、矛盾していたり、我が儘に見えたりもするが、きっちりと厳格な神とは対照的に、曖昧で平気で考え方が変わったりする、狡さのようなものも感じられるが、それだからこそ、より人間らしく感じられ、私には汚くも美しく見えた。

    ただ、その話に影響される「茉莉香」の物語が、やや突拍子で現実感が薄く、ちょっとフィエクサのエピソードと上手くリンクしてないかなと思いました。

  • 遠田潤子さんデビュー作。
    当然、私も本作を初めて読んで、出会った。

    ファンタジーノベル⁉︎………とんでもない。
    でも、この作品が出されたら、脇に置くことはできなかったでしょう。

    あまりにも前に読了したので、細かいことは書けないけれど、とにかく衝撃的な力で、読書を中断しても頭の中がぐるぐるとこの作品世界に塗り潰され、苦しいままで最後まで読まされた。
    読み始めると離れられない、この人の作品の魅力がはっきり刻まれた。

  • 戦後、1953年まで奄美大島はアメリカだった。
    このことはほとんどの人が知らない。
    戦後ですらそうなのだから、近世の奄美の歴史なんてなおさら。

    薩摩藩の支配下の元、ヤンチュという債務奴隷によって砂糖黍は作られ、
    黒砂糖は、薩摩藩の財源となり、江戸幕府が恐れるまでの力を持った。
    島のヤンチュたちの生活は悲惨で、毒のあるソテツの実を食べなければならないほど。

    と知識として知っていた奄美の歴史が、物語として動きだす。
    はじまりは、現代の奄美の海。
    漂うカヤックの上、世界の終わりを待つ鷲が、死にかけた茉莉香に200年前の島の兄妹の話を語る。

    血の繋がらない兄妹の悲しい恋愛、とありがちな物語だが、「言葉」に囚われる山の神や兄・フェイクサの夢中になる「碁」、妹・サネンの憧れる奄美の女性の刺青(針突:ハヅキ)という小道具で飽きさせない。
    とっちらかりそうになりながらきれいにまとまる。

    ヤンチュの女ミヤソが七夕夜、短冊に願いごとを書いてもらおうとして、
    「…どうしよう、願いごとなんて、なんにも思いつかないよ」と言い、その夜、天の川の下で首を吊る場面の切なさ。

    自分のルーツである奄美大島の物語を読めたのは嬉しい。

  • 不思議な本でした

    生まれは選ぶことができない
    運命に流される・受け入れる

    シマンチュ・ヤマトンチュ
    奄美・薩摩
    藩・幕府

    搾取する者されるもの

    考えるとうんざりする

    どこかに頼らないと生きていくのは難しい
    あこがれだけで生きていくのは難しい

    でもどんな状況でも人はなにか希望を見つけて生きている

    岩樽という人が最後に魅力的に描かれていたのが印象的

  • 【第21回ファンタジーノベル大賞】
     内容は、どちらかというと暗くて重いのだけど、読後はなぜか清々しい。なんだろう。自分でもその源がわかりません。
     好きな作家さんが増えそうな予感。
     21回の大賞をダブル受賞した『増大派に告ぐ』をゴールデンウィークで読む予定。

  • ファンタジーはちょっと苦手かなと思いながら読み始めましたが、予想以上に面白くあっという間に読んでしまいました。物悲しい話でしたがあらためて日本の歴史に目を向けることが出来ました。

  • 2022年5月17日
    予想外のおもしろさ。
    フィエクサとサネン
    茉莉花と兄
    兄を慕う気持ちがフィエクサを招いたのかもしれない。
    まるで奴隷のヤンチュ
    ヤンチュの子のヒザ
    普通の人も簡単に身を持ち崩しヤンチュになる奄美大島。
    砂糖黍の仕事は過酷だ。
    神の宿る山、魂マブリがさすらう海
    自然の中にこの世とあの世が混在している。
    兄妹愛は哀しい。惹かれ合い男女の愛になっていく。自分の意思でどうこうできるものでなくなってしまう。

    その愛は犠牲ではなく、真実と悟り、また生きようと茉莉花は決心できる。

  • 元々ファンタジー作品が苦手でほとんど手に取らない。
    帯コピーに惹かれ図書館で借りて読み始めたら、鳥が喋る…無理かも、、と思いつつ読んでいくうちに、いやそんなファンタジーなどと片付けられない深い作品だった。

    折しも大河の西郷どんで舞台になる中、薩摩と琉球の狭間で揺れ、独特の制度が残る奄美大島。特にこの作品は奴隷ともいえるヤンチュ、ヒザの扱いが苛酷に描かれ、このような悲しい歴史があったことを知らず驚いた。
    フェイクサのサネンに対する想い、兄、男を超えた大きなものがある。子どもから少年少女、青年、大人に育っていく過程は男女ともに目をみはる美しさがある。
    サネンに思い描く通りの針突を入れたら、どんなにか美しい女性になっただろう。
    現代版の方は設定が少し曖昧だが、たまに出てくる場面としては程よく、フェイクサの語りが力強く感じられ、良かった。

  •  禁断の恋物語、ではないですよね。もっと深い愛情。

     鳥さんの話は、凄くせつないし、やるせない。この雰囲気好きです
     
     その合間合間に出て来る、漂流している女の子の話がちょっと。どうせなら、こちらももっと書き込んでもらっても良かったかな。

     

  • 奄美大島の沖の海、カヤックに乗った少女・茉莉香がパドルを失い、海を漂っているところから物語が始まる。そこにやって来た鷲一羽。言葉を話すその鷲は、フィエクサと名乗り、自身の昔話を始める。
    奄美の過酷な労働者だったフィエクサの置かれていた状況、そんな中、父を亡くし、一人になった少女サネンの面倒を見ることになったこと、サネンとの暮らし、人の温かさを感じ、サネンを妹として守り生きていこうと山の神に誓ったこと、この事が後に二人の未来を左右することになる。もの悲しい話だったが、生きる気力を亡くしていた茉莉香がフィエクサと話すことで生きる気力を取り戻し、フィエクサもいつかサネンと逢えると未来への希望をもって終わったのがよかった。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

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