言葉の力、生きる力

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103223139

作品紹介・あらすじ

胸に刻み込まれた言葉が、絶望を希望に変える-若き日に出会った文学作品の一行がもたらした心の成熟、写真家・星野道夫の世界に見出した、魂を揺さぶる言語、医療の現場における医師、看護婦と患者の感動的な対話、わが子を喪った悲嘆の日々を癒してくれた出来事と言葉、日本語がもつ豊饒な力と煌めきを呼び覚ますエッセイ集。

感想・レビュー・書評

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  • ★情報は怒涛のように駆け巡っているのに言葉はイマジネーションの膨らみを失って痩せ細った記号と化し、かけがえのない沈黙の間合いさえ、ミヒャエル・エンデの暗喩をかりるなら、「時間貯蓄銀行」に収奪されてしまった。

    ★掟に満ちた社会に入ろうとしても入れない心を病む若者や弱者。豊かな時代になってのカフカの評価の高まりは、競争と合理主義が尖鋭化する中での人間疎外の大量生産という現実を背景にしている。

    ★日本の高度経済成長期以降の歴史は、大人の世界でも子供の世界でも、「明るく、楽しく、強く」「泣くな、頑張れ」ばかりが強調され、「悲しみ」あるいは「悲しみの涙」を排除し封印してきた歴史ではなかったか。例えば、いじめによる自殺の事件が起こった場合、学校や教育委員会は、死んだ子の苦しみや悲しみを学校の子どもたちが少しでも分かち合い、その感情をこれからの学校生活や生き方にどう生かしていくかを考えさせるような取り組みをするべきだろう。ところが、これまでの実態を見ると、自殺した子にも問題があったなどと言ったり、今学校にいる子どもたちが明るく生活を続けられるようにすることが大事だとか、受験期の生徒の気持を乱してはいけないと言ったりして、事件に正面から向き合おうとしなかった事例が、少なからずあった。「明るく、楽しく、強く」の思想は、そういう対応のゆがみに気づかないところまで日本人の心に浸透している。

    ★普段から友人と顔を向き合わせて、喜びや楽しみや悲しみを共有し合うという潤いのある会話はなく、パソコンを通してのバーチャルな人間関係の中での言葉のやり取りに明け暮れているから、どんな汚い言葉を使っても自分は無傷でいられるし、相手を自分の操作で消すこともリセットすることも自由だという錯覚に陥っている。それは世界を自分が操作し得ると思い込む全能感(オムニポテンツ)に結びつきやすい。その結果、現実の状況をしっかりと見つめ
    理解する能力は劣化してしまう。

    ★昨今の一部のマスコミ人は自らは「匿名」の存在で、狙いを定めた私人の心=人格を破壊してメシを食っているという意味で、「精神性を食うカニバリズム(人肉嗜食)」の依存症になっていると言えまいか。人はそれぞれに様々な難問を抱えながら必死になって生きている。その私生活を社会に向かって公開せよとメディアから迫られるとは、なんと恐ろしい時代に生きていることかと思う。そういうメディアの状況と、ネット社会における「匿名」ゆえの情報暴力の状況とが、同時進行の形で蔓延している。バルザックの時代には、情報被害者は直ちに情報発信者に決闘を挑み、情報発信者もこれに応じるというルールがあった。だが現代日本においては、情報発信者はアイデンティティのない幽霊なので始末が悪い。決闘は社会のルールから排除されている。発信者は高笑いし、被害者はただ耐えるのみ。この大状況は個人情報保護法などで解決できるような生やさしいものではない。人間の品位よりも経済を選んだこの国の文化のあり方の問題なのだから。

  • 高校の時の課題図書。

  • 言葉の持つ強さが伝わってくる

  • 鷲田先生よりよほどシビアにずっとこの国を見ていらっしゃる方の文章。手厳しい。祈りはいらない、欲しいのは、願いだけ。

  • 亡くなった父の蔵書から、タイトルに惹かれて手元に残した1冊。
    前半の章で著者が選んだいくつかの書物、それはいずれも頷ける
    対象だったし、その感想の殆どは深奥に響くものだった。
    後半、著者がずっと取組んでこられた終末ホスピスについて
    書かれているが、去年父を亡くした身にとってはとても現実味があり、
    心から賛同できる内容だった。
    一つの命が置かれた境遇、歩いてきた時間、その心身の真実に寄り添うこと、
    傍らにいる身の真摯さ…その一つ一つが胸に迫る。
    生きていること、そして死の重さ。それは人間だけのものではない。
    他の命も、悠久から流れる時間も同じように貴い。
    背筋が伸び、そして心熱くなる1冊だった。

  • 柳田氏がお薦めの本や関心のある分野について記したこの本は、私に新分野の開拓をさせてくれました。

  • 胸に刻んだ言葉が人生を支えていく。我が子を失った悲しみを癒した一言、医療現場で耳にした感動の対話…。日本語の豊饒な力を呼び覚ますエッセイ集。


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著者プロフィール

講談社ノンフィクション賞受賞作『ガン回廊の朝』(講談社文庫)

「2017年 『人の心に贈り物を残していく』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柳田邦男の作品

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