約束の海

  • 新潮社 (2014年2月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784103228233

感想・レビュー・書評

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  • 山﨑豊子氏
    絶筆の遺作『約束の海』
    問いかける「自衛隊の存在意義」

    1.はじめに
    山﨑豊子さんの遺作『約束の海』は、作家が構想に30年をかけ、「戦争をしない自衛隊」の存在意義という重いテーマを抱えて絶筆となった作品です。
    その壮大な問いかけは、今も私たちの胸に響きます。

    2.物語の核心:エリート自衛官を襲った試練
    主人公は、海上自衛隊潜水艦「くにしお」に乗務する優秀な士官、花巻朔太郎二尉。

    順調なキャリアを歩んでいた彼を襲ったのは、民間船舶、遊漁船との衝突事故という最悪の事態でした。

    多数の犠牲者を出したこの事故は世論の大きな批判に晒され、花巻二尉は遺族への謝罪と、海難審判という過酷な試練に直面します。

    「このまま、自衛隊に所属することは、誰のためになるのか?」

    フィクションとは思えない生々しい描写を通じて、彼の胸に生じた**「迷い」**は、読者にも重くのしかかります。

    3.父から息子へ:世代を超えた「責任」の問い
    物語の深さを際立たせるのは、花巻二尉の父の存在です。

    父は旧帝国海軍の少尉で、真珠湾攻撃時に**「米軍の捕虜第一号」**となった人物。
    長らく戦争体験を語らなかった父が、苦悩する息子に突きつける言葉こそ、この物語の核心を成すでしょう。

    「責任を取るなら、それが何に対する責任か、自分自身ではっきりさせろ。明確ではない責任感は単なる感傷かもしれん。」

    この言葉は、戦争を経験した父の世代と、「戦争をしないための軍隊」に所属する息子の世代、彼らが負うべき「責任」とは何かを問いかけています。

    山﨑さんは、この父子の物語を通じて、私たちに根本的な問いを投げかけているのです。

    4.読み終えて:未完だからこそ考える問いの重さ
    本書は山﨑さんが第一部のみを執筆し、志半ばで逝去された遺作です。

    未完だからこそ、著者が最後に私たちに残したかった**「問い」**だけが、この第一部に凝縮されています。

    * 現代日本にとって「自衛隊」とは何か?
    * 「平和」を守るとはどういうことか?

    花巻二尉が自衛隊を辞めるべきか否か、その迷いを保留して物語が途切れているからこそ、読者はこれらの問いに対する**「自分なりの答え」**を探さずにはいられなくなります。

    「明確ではない責任感は単なる感傷かもしれん」

    山﨑豊子さんが最後に問いかけたテーマについて考えてみることも、海の向こう側で戦争が起こっている時代だからこそ、大切なのかもしれません。

  •  潜水艦の描写がリアルだし、衝突事故とその後の経緯の迫真性は、徹底した取材に裏打ちされたリアリティがあって引き込まれた。

     主人公の自衛官としての矜持と苦悩、ヒロインとの恋など、人間ドラマにも深みがあって第一部だけでもかなりの読み応えである。

     巻末のシノプシスまで読んで(あらすじ程度の内容なのにすでに面白い!)、山崎さんの新たな最高傑作となったのではないかと感じさせた。テーマの核心に迫る第二部以降が絶筆となったのは、さぞや無念だっただろうと山崎さんの心中を想像し、胸が痛んだ。

    ※読了(2024/03/05)

  • これまで山崎豊子さんの本は8冊読んでいます。
    【華麗なる一族】3巻、【沈まぬ太陽】5巻。
    沈まぬ太陽を読んだのは2009年の9月のことでした。
    文庫本5巻の超大作を一気に読みきるほどの面白さでした。

    【大地の子】・【二つの祖国】等々、読んでみたい本はまだまだあるのですが、どれも大作。
    私には読む前からかなりの意気込みが必要なのです。
    いつかは、いつかはという思いだけはあったのですが…
    【約束の海】は全3部が予定されていたのですが、この第1部が未完の絶筆となってしまいました。

    山崎豊子さんの作品を読むと、そのページ数以上の重みを感じます。
    緻密な取材を重ねて書かれた作品。
    そのために費やされた時間と努力。
    圧倒的な迫力を感じながら山崎豊子の世界に浸りつつ、読まずにはいられなくなります。

    主人公の花巻朔太郎は潜水艦「くにしお」の船努士で二等海尉。
    その父花巻和成は日本人捕虜第一号酒巻和男がモデルとなっている。
    物語は潜水艦「くにしお」と遊漁船「第一大和丸」の衝突事故から始まる。
    (この衝突事故は「潜水艦なだしお遊漁船第一富士丸衝突事件」がモデルとなっている。)
    この事故への責任のけじめから花巻朔太郎は自衛隊を去るべきではないかと思い悩む。
    そんな彼に上官はハワイでの新鋭源水力潜水艦へ乗艦という派米訓練参加を命じる。

    ここで第1部「潜水艦くにしお編」は終わっています。
    巻末には第2部「ハワイ編」、第3部「千年の海(仮題)」のシノプシスがあるのですが…
    第3部まで読みたかったという思いが一層強くなりました。

    山崎さんの本を読むと、日本人でありながら、自分の国で起こっていることになんと無関心でいたのかと思い知らされます。
    それは【沈まぬ太陽】を読んだ時にも感じたこと。
    「潜水艦なだしお遊漁船第一富士丸衝突事件」が起きたのは昭和63年7月23日のこと。
    当然知っているはずの事件なのに、私には「そう言えば…」という程度の記憶しかなかった。
    さらに、日本人捕虜第一号酒巻和男氏のことは全く知らなかった…

    「戦争は私の中から消えることのないテーマです。戦争の時代に生きた私の、゛書かなければならない”という使命感が私を突き動かすのです」と言われていた山崎豊子さん。
    ものすごいエネルギーをその使命に注ぎ込んでこられたことを感じさせられました。
    ちょっとのんびりしすぎな日々に゛喝”を入れられたような気持ちです。

  • 1980年代、戦後の海上自衛隊である花巻朔太郎が乗る潜水艦くにしおと遊覧船が衝突し、多数の犠牲者を出す事故が発生する。自責の念により、好意を寄せる女性との関係を諦めるのかや自衛隊を辞めるのか迷う中で、太平洋戦争を経験した父と対話する。
    膨大な参考文献や取材のもと書かれていて、隙のない面白さがある。未完だと知らずに読んだ。第二部第三部の構成を読んで、タイトルの意味や壮絶な経験をした父とその息子を通して戦争を問いかけるような、物語の面白さはもちろん、後世に語り継がれるべき長編大作となったであろうことを知って、本当に惜しいと感じる。
    山崎豊子の他の作品も読んでみたいと思った。

  • 本作は、山崎豊子女史の遺作であり、今更ながらその急逝が惜しまれる。

    戦争が、生涯消えることのないテーマであると語る女史が、「戦争をしないための軍隊」という存在を追及するために、本作を書いたのだと・・・
    著者の「執筆にあたって」を読むと、著者の並々ならぬこの作品に対する意気込みがうかがえる。
    近隣諸国との軋轢、特に中国との尖閣諸島をめぐる諍いが焦眉の問題である今日を見据え、著者は言う。
    「戦争は絶対に反対ですが、だからといって、守るだけの力も持ってはいけない、という考えには同調できません。」

    この作品の中で、「戦争をしないための軍隊」について、今後どのように展開するのか、結末まで是非とも見たかった。

    この作品が未完に終わったことは、我々読者以上に、ご本人が何より悔しい思いであったろう。
    ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

  • 自衛隊の潜水艦乗組員朔太郎は、厳しい訓練も乗り越え着実に艦長という目標に近づいている最中に、乗っていた潜水艦が追突事故を起こし何人もの犠牲者を出して非難にさらされる。
    約束の海は第一部で、第二部以降のプロットができており、これから朔太郎の恋愛も含めてものすごく面白い第二部、第三部が続く予定だったのだと思う。著者が亡くなり絶筆となってしまった作品です。先が読みたかった。

  • 山崎豊子さんは、これを書いている間にご逝去された。
    構想では三部までの予定が、この本のみ。
    この本は、一部で終わってしまっている。
    巻末に、二部、三部の構想だったあらすじが記されている。

    内容は「なだしお事件」がもとになっていると思っていたが、それはほんの入口に過ぎない。
    著者は、二度と戦争を起こさないために歴史と現状をどう捉えるのか、読者に問うているのではないかと思わされる。
    単純に書いてしまえば、戦争放棄している憲法九条があるにも関わらず自衛隊の存在、それをどう捉えるかって話かな。

    作者の、「不毛地帯」、「二つの祖国」、「大地の子」なども戦争のもたらす悲劇を書いているが、この「約束の海」もそれらと同様の内容になっただろうに、これで終わってしまって非常に残念だ。
    憲法解釈については、様々な意見が有ろうが、表面をなぞってるだけの意見は反吐が出るぜ。

    やっぱり山崎豊子さんの作品はすばらしい。

  • 山崎豊子さんの遺作ともいえる作品。
    素晴らしい。
    海上自衛官として潜水艦に乗る主人公の気持ちの揺れや、専門分野にまで長けた取材能力やそれを言葉にする力。

    まだまだ序章であるにも関わらず、これだけの重厚感。

    星5つにするにはやっぱり少し物足りない。
    けれど、星4つではこの作品に申し訳ない。
    星4.6くらいの気持ち。

    山崎豊子さんの本当に伝えたかったことに、その言葉に触れたかったと心から思う。
    ご冥福を心よりお祈りいたします。

  • 山崎豊子氏の未完の絶筆。
    これからのプロットが編集者の手によって付けられているが
    それを読むと益々残念でならない。

    二十数年前のなだしお事件を元にした第一巻。
    自衛隊に対する一般人の意識は、東日本大震災後には大きく変化していると思うが、当時はマスコミもかなり激しく自衛隊バッシングを繰り広げていた事が思い出された。

    今も昔もマスコミの責任の重さは変わらない。
    一般人が真に正しい情報を得るにはどうしたらよいのか、考えさせられた

  • ☆5つ

    おそらくこの本を読んだ多くの人は似た様な感想を抱くのだろうなぁ、と思いながらこれを書いている。
    「いったいこの先どうなるのだろう。続きが読みたいなぁ。でもそれはどうやっても不可能なことなんだよなぁ」である。

    そう山崎豊子は誰を持ってしても置き換えることなど出来ない文筆家なのだということをあらためて思い知りました。
    この作品に関わっていたスタッフの人達が、既にプロットらしきものが出来上がっている「第二部」についてを巻末で解説的に記述してくれているけれど、まあ個人差はあるだろうけど、わたしはあれは無い方が良かったなと思います。いくら「今後この様に物語は展開していく予定でした」と書いてくれても、それは絶対に実現しないのだから。

    で、本はというと。面白いです実に面白い。どのくらい面白いかという事を以下書いてみる。

    わたしの普段の読書スタイルはラップトップPCと23インチのモニターが置かれている机とセットの回転椅子に座って、大抵は音楽(ジャズとか・・・すまぬ)を聴きながら、平行してFacebookをチェックしながら、ときには前の週末に撮った音楽仲間達のライヴ動画をちゃっちゃと編集してYoutubeにあげたり・・・つまりいろんな事をしながら読書している。しかも何冊かを平行して読んでいる。
    でも最近はどっちかと云うと、ついFacebookやYoutubeに注意がいってしまい、本読みはなおざりになりがちである。

    で、この『約束の海』場合はどうか。
    読み易い。頭にスラスラ入ってくる。そうして次どうなるのだろう、とどんどん物語の中にのめり込んでいく。なので、他のことがすべて止まってしまう。Facebook友人から連絡会ってもレスせず。YoutubeへのUpが終わっても、次の動画の編集は開始せず、もちろん併読中の他の本など気にもならない。

    我が趣味が読書になってしまうキッカケのひとつとなった『沈まぬ太陽』は再読することになるだろう。そして未読の『白い巨塔』『二つの祖国』などその他作品も随時読んでいくことななるだろう。たぶん。ああ楽しみ。すまぬ。

  • 山崎先生の絶筆、そのクオリティについては何も言わなくていいだろう、完成していれば「白い巨塔」や「沈まぬ太陽」をも凌駕する山崎文学の集大成になっていたことは間違いないのだから。しかし内容云々より感銘を受けるのは先生が80歳半ばから、それも病と闘いながらこの物語に着手したこと。それほどまでの執念で後世に残したかった「戦争」とは?「平和」とは?… この国の未来を考えていくための重要なヒントだったであろうことは間違いない。病床でも一部はキチッと書き上げられた、そして二部三部も構想がしっかりと残されている。そう、これは未完などでなく立派に完成された遺作なのではなかろうか。山崎先生、長い間お疲れ様でした、ごゆっくりお休みください

  • 山崎豊子さんの映像作品は見たことがあったがはじめて小説を読んだ。この作品は専門用語がとても多く完璧には理解できない部分もあったが、彼女の秀逸な文章力で最後まで読み切ることができた。花巻がこれからどうなるか気になるところだった。

  •  遺作となった未完の小説。真珠湾攻撃で捕虜第一号になってしまった父の辿った半生を描くはずだったらしいが、残念ながら構想まで。
     一巻は海上自衛隊のなだしお事件をモデルに描く。とかく嫌われがちな自衛隊員の苦悩を純粋な青年を主人公に置くことで少しは同情する気になったかな。働いている人は偉いんだよね。頑張っているのに災害救助のときしか褒められない。
     なだしお事件は、「自衛隊員は見てるだけで何も助けてくれなかった」という報道が独り歩きして、自分もその後の訂正報道は覚えておらず、「自衛隊ってそんなもん」と思っておりました。

     真珠湾の生き残りとして苦難の人生を送った方がいたことを覚えておきます。

  • 読み終えて初めて遺作だと知り、感慨深い気持ちです、山崎豊子さんの作品大好き。

  • 評価をつけて良いものか、3部作のうち1部だけの未完小説だけに敢えて評価せず。ただ、山崎豊子さんの最後にして最高の小説になったはず。敢えて、未完のまま、この世を去る運命になったのは、残った我々に後は考えよ、と現代人に問わしめる天の思し召しか。

  • フォトリーディング
    自衛隊と漁船の事故

  • 今をどう生きるか、を考えさせてくれます。
    著者が亡くならなければ、二巻、三巻までの大作になったであろうことが最後に記されています。

  • ふむ

  • 山崎さんの小説はやはり面白かった。
    このかたの作品は、参考文献がすごいです。これだけ色々読んで調べて書くから、真実味があって、チャラくない。

    登場人物は多いのですが、そんなに把握していなくても物語には支障ないです。

    海上自衛隊 花巻朔太郎28歳二等海尉が主人公。
    潜水艦くにしおが釣り船と衝突し、30人もの犠牲者を出してしまう。

    みんなかっこいいです。

    続きが無いのが、本当に残念です。

  • うーん、遺作だったのか…
    途中までだったのですごく残念

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまさき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

山崎豊子の作品

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