- Amazon.co.jp ・本 (378ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103228233
作品紹介・あらすじ
約束の海は山崎豊子さんが書かれた小説です。
戦争とは何か、日本人とは何かを壮大なスケールで描いた長編小説です。海上自衛隊の潜水艦部隊の若い士官が主人公で過酷な試練が彼を襲います。彼の父は真珠湾に出撃していた。時代に翻弄され、時代に抗う父と子の百年の物語です。山崎豊子さんの遺作となってしまった作品です。
感想・レビュー・書評
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これまで山崎豊子さんの本は8冊読んでいます。
【華麗なる一族】3巻、【沈まぬ太陽】5巻。
沈まぬ太陽を読んだのは2009年の9月のことでした。
文庫本5巻の超大作を一気に読みきるほどの面白さでした。
【大地の子】・【二つの祖国】等々、読んでみたい本はまだまだあるのですが、どれも大作。
私には読む前からかなりの意気込みが必要なのです。
いつかは、いつかはという思いだけはあったのですが…
【約束の海】は全3部が予定されていたのですが、この第1部が未完の絶筆となってしまいました。
山崎豊子さんの作品を読むと、そのページ数以上の重みを感じます。
緻密な取材を重ねて書かれた作品。
そのために費やされた時間と努力。
圧倒的な迫力を感じながら山崎豊子の世界に浸りつつ、読まずにはいられなくなります。
主人公の花巻朔太郎は潜水艦「くにしお」の船努士で二等海尉。
その父花巻和成は日本人捕虜第一号酒巻和男がモデルとなっている。
物語は潜水艦「くにしお」と遊漁船「第一大和丸」の衝突事故から始まる。
(この衝突事故は「潜水艦なだしお遊漁船第一富士丸衝突事件」がモデルとなっている。)
この事故への責任のけじめから花巻朔太郎は自衛隊を去るべきではないかと思い悩む。
そんな彼に上官はハワイでの新鋭源水力潜水艦へ乗艦という派米訓練参加を命じる。
ここで第1部「潜水艦くにしお編」は終わっています。
巻末には第2部「ハワイ編」、第3部「千年の海(仮題)」のシノプシスがあるのですが…
第3部まで読みたかったという思いが一層強くなりました。
山崎さんの本を読むと、日本人でありながら、自分の国で起こっていることになんと無関心でいたのかと思い知らされます。
それは【沈まぬ太陽】を読んだ時にも感じたこと。
「潜水艦なだしお遊漁船第一富士丸衝突事件」が起きたのは昭和63年7月23日のこと。
当然知っているはずの事件なのに、私には「そう言えば…」という程度の記憶しかなかった。
さらに、日本人捕虜第一号酒巻和男氏のことは全く知らなかった…
「戦争は私の中から消えることのないテーマです。戦争の時代に生きた私の、゛書かなければならない”という使命感が私を突き動かすのです」と言われていた山崎豊子さん。
ものすごいエネルギーをその使命に注ぎ込んでこられたことを感じさせられました。
ちょっとのんびりしすぎな日々に゛喝”を入れられたような気持ちです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
本作は、山崎豊子女史の遺作であり、今更ながらその急逝が惜しまれる。
戦争が、生涯消えることのないテーマであると語る女史が、「戦争をしないための軍隊」という存在を追及するために、本作を書いたのだと・・・
著者の「執筆にあたって」を読むと、著者の並々ならぬこの作品に対する意気込みがうかがえる。
近隣諸国との軋轢、特に中国との尖閣諸島をめぐる諍いが焦眉の問題である今日を見据え、著者は言う。
「戦争は絶対に反対ですが、だからといって、守るだけの力も持ってはいけない、という考えには同調できません。」
この作品の中で、「戦争をしないための軍隊」について、今後どのように展開するのか、結末まで是非とも見たかった。
この作品が未完に終わったことは、我々読者以上に、ご本人が何より悔しい思いであったろう。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。 -
読み終えて初めて遺作だと知り、感慨深い気持ちです、山崎豊子さんの作品大好き。
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山崎豊子さんの遺作ともいえる作品。
素晴らしい。
海上自衛官として潜水艦に乗る主人公の気持ちの揺れや、専門分野にまで長けた取材能力やそれを言葉にする力。
まだまだ序章であるにも関わらず、これだけの重厚感。
星5つにするにはやっぱり少し物足りない。
けれど、星4つではこの作品に申し訳ない。
星4.6くらいの気持ち。
山崎豊子さんの本当に伝えたかったことに、その言葉に触れたかったと心から思う。
ご冥福を心よりお祈りいたします。 -
評価をつけて良いものか、3部作のうち1部だけの未完小説だけに敢えて評価せず。ただ、山崎豊子さんの最後にして最高の小説になったはず。敢えて、未完のまま、この世を去る運命になったのは、残った我々に後は考えよ、と現代人に問わしめる天の思し召しか。
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今をどう生きるか、を考えさせてくれます。
著者が亡くならなければ、二巻、三巻までの大作になったであろうことが最後に記されています。 -
☆5つ
おそらくこの本を読んだ多くの人は似た様な感想を抱くのだろうなぁ、と思いながらこれを書いている。
「いったいこの先どうなるのだろう。続きが読みたいなぁ。でもそれはどうやっても不可能なことなんだよなぁ」である。
そう山崎豊子は誰を持ってしても置き換えることなど出来ない文筆家なのだということをあらためて思い知りました。
この作品に関わっていたスタッフの人達が、既にプロットらしきものが出来上がっている「第二部」についてを巻末で解説的に記述してくれているけれど、まあ個人差はあるだろうけど、わたしはあれは無い方が良かったなと思います。いくら「今後この様に物語は展開していく予定でした」と書いてくれても、それは絶対に実現しないのだから。
で、本はというと。面白いです実に面白い。どのくらい面白いかという事を以下書いてみる。
わたしの普段の読書スタイルはラップトップPCと23インチのモニターが置かれている机とセットの回転椅子に座って、大抵は音楽(ジャズとか・・・すまぬ)を聴きながら、平行してFacebookをチェックしながら、ときには前の週末に撮った音楽仲間達のライヴ動画をちゃっちゃと編集してYoutubeにあげたり・・・つまりいろんな事をしながら読書している。しかも何冊かを平行して読んでいる。
でも最近はどっちかと云うと、ついFacebookやYoutubeに注意がいってしまい、本読みはなおざりになりがちである。
で、この『約束の海』場合はどうか。
読み易い。頭にスラスラ入ってくる。そうして次どうなるのだろう、とどんどん物語の中にのめり込んでいく。なので、他のことがすべて止まってしまう。Facebook友人から連絡会ってもレスせず。YoutubeへのUpが終わっても、次の動画の編集は開始せず、もちろん併読中の他の本など気にもならない。
我が趣味が読書になってしまうキッカケのひとつとなった『沈まぬ太陽』は再読することになるだろう。そして未読の『白い巨塔』『二つの祖国』などその他作品も随時読んでいくことななるだろう。たぶん。ああ楽しみ。すまぬ。 -
山崎先生の絶筆、そのクオリティについては何も言わなくていいだろう、完成していれば「白い巨塔」や「沈まぬ太陽」をも凌駕する山崎文学の集大成になっていたことは間違いないのだから。しかし内容云々より感銘を受けるのは先生が80歳半ばから、それも病と闘いながらこの物語に着手したこと。それほどまでの執念で後世に残したかった「戦争」とは?「平和」とは?… この国の未来を考えていくための重要なヒントだったであろうことは間違いない。病床でも一部はキチッと書き上げられた、そして二部三部も構想がしっかりと残されている。そう、これは未完などでなく立派に完成された遺作なのではなかろうか。山崎先生、長い間お疲れ様でした、ごゆっくりお休みください