警察庁長官を撃った男

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103235316

感想・レビュー・書評

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  •  本書は平成7年(1995年)におきた「警察庁長官狙撃事件」についての本である。
     当時「オウム真理教」の異様ともいえる事件が続発しており、当然犯人は「オウム」であると世間一般に思われていたが、その後の警察の捜査が迷走していたことは、マスコミからながれる報道を見てもよくわかっていた。
     その捜査の混迷は、2010年(平成22年)の本件の控訴時効時の発表でもうかがえた。当時警察の発表内容は「オウムが犯人だったのに証拠を固められなかった」というこれもまた異例の発表だったように記憶している。
     本書は、この事件の詳細な考察を行っているが、警察内部の「公安警察」と「刑事警察」の違い、キャリアといわれる「エリート官僚」と下部の「捜査員」との確執、それら「警察内部」の暗闘による混乱等をも詳細に調査しており、実に興味深い。
     この警察内部の異様な権力構造については、人気エンターテイメント小説である「新宿鮫」シリーズにおいて既に世に紹介されていると思うが、本書で描かれる「公安捜査の大敗北」での「ハムvs.ジ」(公安警察対刑事警察)などの情景はフィクションである「新宿鮫」以上にドラマチックであると思えた。
     本書での「悪役」は、警視総監であった米村俊朗をはじめとした「キャリア官僚」である。
     本書によると、本事件は「オウム真理教」の犯行ではなく、「トクギ」とよばれた「特別義勇隊」の老スパイナーの犯行であり、調書もとられていたのだが、警察上層部の保身とメンツのためにもみ消されて、本件は、オウムの犯行である印象を世間に与えつつ、幕引きとなったというのだ。
     本書の展開は、詳細かつ具体的で、警察内部の動きや犯人とされる人間の調書の内容にまで及び、実にリアリティと説得力に満ちている。
     そして、「オウム犯行」を指摘しつつ「証拠がない」として時効を発表するという本件の異様な結末には、この様な背景があったのかと驚嘆する思いも持った。
     本件が事実ではなく「エンターメント小説」ならば、警察内部の優秀な刑事が確実な証拠を猟犬のように探り出し、保身とメンツのために事実をもみ消す警察キャリア官僚を糾弾するところだと思った。そうはいかないところが、事実と小説との違いか。
     本書は、「警察庁長官狙撃事件」の調査を通して、警察内部の異様な世界をドラマチックに描き出した良書であると思う。まるで面白いエンタメ小説を読むかのように興奮しつつ最後まで一気に読んでしまった。

  • 国松元警察庁長官狙撃事件は時効を迎えたが「オウム信者による犯行」という警察・マスコミ発表情報とは異なり、実は一人の老いた地下活動家による犯行であると云うまさに世にも奇妙な物語だ。

    そんな驚愕の物語が単行本として出たのが2010年なのだが何故か見逃していたとは迂闊だったのも確かだが、此れだけの情報を盛込んだ本書が殆ど話題にならなかったのもまた不思議な話である。

    そもそもこの老人・中村泰は1930年生まれで東大を中退した後、反政府地下活動に入ったとされるがその生活の殆どは闇の中だ。僅かに世の中との接点を持つ期間と言えば1956年からの20年間警官殺害容疑で逮捕・服役していた時期だけでてそこからの30年は再び世の中からは消え去る。警視庁長官狙撃事件はその間の出来事だ。

    その中村が改めて世に出てきたのは2002年。銀行襲撃事件で逮捕され今に至るも服役している期間だ。この事件も単なる老人による襲撃事件と思われたのだが、逮捕後の家宅捜査では想像を絶する量の武器・弾薬が隠れ家から発見され、また謎の支援者・協力者の存在も伺える中村は完全黙秘を続け、その奇妙な活動実態は謎のままとされた。

    その老活動家・中村が口を開く決意を固めるのは国松長官襲撃事件が時効を迎えようとする間際のこと。チェ・ゲバラに憧れ「革命家」を夢見た中村が、年老いてしまった自らの生きてきた証として、国松長官事件について語りだすのだ。

    しかしながら、最後までオウムの犯行説に固執する警察は当初の捜査方針にそぐわないこの自白を採用せず、訴追を断念することとなる。そして時効の日には「証拠はないがオウム関係者の犯行と強く推認される」と最後まで組織防衛の論理で締めくくるのである。

    数十年に亘る地下活動生活からある日ひょこりと現実の生活に出てきた感のあるこの男の物語を読むと、ジャングルに戦後30年も潜伏していた小野田さんを何故か思い出す。だが、この老活動家は国松長官事件以外には全く自らの生活を語ってはおらず、その闇は限りなく深い。

  • この事件は警察が総力を挙げてやるだろうから、早く解決されるのだと思っていた。しかし時効を迎えてしまう。多くの疑問があったけれど、ここに書かれたことが本当であれば納得できる。組織による隠蔽も怖いが、真犯人と言われる人物にマスコミが注目もしないことも怖い。

  • ミステリーを上回る面白さ。
    被疑者不祥のまま公判に持ち込まれた事件の真実追求の姿勢ははくりょくがある。

  • 出版社/著者からの内容紹介
    2010年3月30日に時効を迎えた国松孝次・警察庁長官狙撃事件。警視庁の現職巡査長が犯行を自供したり、当初からオウム真理教による組織的犯行の疑いが指摘されながら、警視庁公安部の捜査は犯人逮捕には至らなかった。
    一方で、2002年11月、愛知県警察に逮捕された一人の男に警視庁刑事部捜査第一課は注目していた。男の名は中村泰。東大を中退したインテリで、銃に対する知識は豊富。何より、逮捕容疑となった現金輸送車襲撃で見せた射撃の腕前は、とても七十歳を過ぎた老人とは思えないものだった。中村の関係先を捜索すると、おびただしい量の銃やマシンガン、実弾が発見され、さらに長官狙撃事件に関する膨大な資料が......。治安機関トップを狙撃するという、重要未解決事件の舞台裏に光を当てる、迫真のドキュメントです。

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