あこがれ

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 1308
レビュー : 136
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103256243

作品紹介・あらすじ

みんな遠くへ行ってしまう。本当の自分を知っているのにね――。四年ぶりの長篇小説! 麦彦とヘガティー、思春期直前の二人が、脆くはかない殻のようなイノセンスを抱えて全力で走り抜ける。この不条理に満ちた世界を――。サンドイッチ売り場の奇妙な女性、まだ見ぬ家族……さまざまな〈あこがれ〉の対象を持ちながら必死で生きる少年少女のぎりぎりのユートピアを繊細かつ強靭無比な筆力で描き尽くす感動作。

感想・レビュー・書評

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  • 小学4年生の麦くんはちいさいときにお父さんを亡くしている。ママは占い師のような仕事をしているけれど、よくわからない。
    麦くんのもっぱらの関心ごとは、近所のスーパーに入っているサンドイッチ屋さんではたらく、ミス・アイスサンドイッチだ。
    彼の淡い恋心のようなものが愛おしかった。ミス・アイスサンドイッチを目の前にしているときの気持ちはふくざつだ。噛まないでぐっとのみこんだごはんが喉からゆっくり下へ降りていって、おおきなところへでる。そこはうさぎの耳みたいに素敵なところで、風にふわっとくるまれる。
    会いたいときに、会いにいったほうがいいよ、と麦くんにアドバイスするヘガティーはもうすっかり大人のようだった。
    「ミス・アイスサンドイッチ」


    ヘガティーもちいさいときにお母さんを亡くしている。2人は小学6年生になっていて、そしてヘガティーはインターネットで昔お父さんが知らない誰かとも結婚していて一女をもうけていることを知ってしまった。
    お父さんは映画評論家のような仕事をしているけれど、よくわからない。
    お父さんが、ヘガティーの知らないところで知らないお父さんをやっていたのだ、という事実はたしかにショックだろう。今のお父さんが嘘のものだと思ってしまっても致し方ない。
    まだ見ぬお姉ちゃんに会いに行きたい!という好奇心で決行した麦くんとの冒険。
    それが崩折れてしまって、走るしか、泣くしかなくなってしまって、お母さんに会いたくなってしまったこと、手紙、すべてが苦しかった。可哀想で抱きしめてあげたかった。はやく大人にしてあげてほしい、おおきくて、なんでも一人でかいけつできるような大人に。
    自分はこんなに悲しいけれど、世界はもっとずっとひろくていろんな人がいていろんな出来事が起きているんだと気づいたヘガティーは、でももう子供ではない。人間はみんな分子なのだ。アルパチーノ。
    「苺ジャムから苺をひけば」

    死んでしまうこと、まだ起こっていないけどいつか起こってしまうこと、夕焼けの色、今日のことを忘れないだろうなと思うこと、あこがれ。
    麦くんとヘガティーといっしょに、かつては私にもたしかにあった記憶や風景を思い出していた。布団のなか、暗闇でひとりかんがえていたような。そうだ、私は私もしらない世界中のあらゆるものに「おやすみ」と声をかけてからでないと眠れない子供だった。
    やわらかなイノセンスに久しぶりにふれることができました。

  • 川上さんあんまりたくさんは読んだことはないのですが、どの作品にも共通して感じるのは繊細さと透明感。
    どちらかというと文体は苦手なのですが、描かれている世界に最終的に心がまるっと持ってかれてしまうことが多いです。文学性が高い作品を書かれますね。

    この作品ももれなくそうでした。繊細すぎて胸が痛い。
    ミス・アイスサンドイッチ。素晴らしいネーミング。
    小学生ってこうして何にでもあだ名をつけてしまう子がいつの年代にもいますね。文章のリズムが子供の心のとっ散らかった感がよく出ていてさすがと唸りました。
    描かれている心模様は確かに恋ではなく、あこがれと言った様相。そのさじ加減が抜群にうまいと思いました。
    そして皆さんがもれなく心を捕まれたであろうヘガティーの(ヘガティーもすごい小学生チックなセンスの絶妙なネーミング!)人生を穿った名言。でも子供って時々ナチュラルに人生の確信をついた言葉を放つときがあるのでこの流れ、違和感を感じません。

    ミス・アイスサンドイッチの一件から数年後の、今度はヘガティー側から描かれた家族事情の一編も、確かにある種あこがれを描いていますが、あこがれ、というものはどうしたって切ないものなのだなと思わされます。
    最後、街を泣きながら無茶苦茶に走ってゆくヘガティーと一緒に思わず泣きました。
    「あこがれ」というタイトル、この本はそれ以外にないですね。

    好き嫌いを越えて、川上さんの作品には読まされずにいられない引力を感じます。

  • 小学生が主人公とは想像していなかったのでちょっと驚いたけど、読み始めてしまえば川上未映子ワールド。ぐんぐんと引き込まれていった。
    思春期に足を踏み入れたか踏み入れていないかくらいの子たちの発する独特の匂いのようなもの、意外と辛辣な子ども達の日常、毎日小規模な爆発がポンポンとあちこちで起こって、彼ら彼女らの骨や筋肉と一緒に内面もぐんぐんと広がっていく様子。
    それらを川上未映子さんが描くと、これはもう傑作にならざるをえない…。

    ヘガティーと麦くんはどんな中高生に、そしてどんな大人になっていくのか、気になっている。

  • 好きだ。こんなに愛おしい本に出会えて嬉しい。

  • 今までもいくつか読んでた、川上未映子。気づかず。
    今回かなり気に入ったので他の作品を見てみると、やはり印象に残ってたものばかり。好きな作家さんにしっかり加えました。
    特に終盤、ヘガティーの子供らしいまとまりのなさと、でも確信をつく考えや、ぐっとくる言葉がとても良い。麦くんも、チグリスも、好きだなぁ。小学校の時の自分の心の中が色々思い出された。辛いことも沢山あったけど、宝物だし、今の自分にもしっかり繋がってる。

  • あー。余韻。
    終わり方が好き。

    川上未映子がこんなに小学生を描くのがうまいとは思わなかった。
    子育ての賜物だろうか。安直?

    ぐらつきながらも、ふたりとも一生懸命生きている。
    アルパチーノ。

  • 川上未映子さんは、インナーチャイルドの部分を描くのがとても上手だと思う。

    主人公は、小学生6年生の麦くんが前編、そのガールフレンドのヘガティー(このあだ名最高!)が後編になっており、それぞれの立場から育った家庭環境や親の姿、自分の揺れ動く感情を描いている。

    内容的には、ティーンエイジャーが読んでもいいストーリではあるけれど、30代40代のミドル世代が、自分のインナーチャイルドを癒すために読むにもいい本だと思う。

    この年頃は、とても多感で感傷に陥りやすい時期で、自分という性格や生き方が、形成・確立されていく大切な成長期。
    説明のできない溢れ出てくる色んな感情も、ささいなことで傷付いた心も、幼な過ぎて解決できなかった問題も、大人になった自分なら、理解でき慰めてあげれることができる。

    立場は違えど、私もこういう切ない思いをしたことがあったなとこの1冊から色々思い出した。
    親に腹が立ったり、誰かに裏切られたり見離されたように感じたり、不安に感じたり、相談できなかったり、素直な気持ちを伝えられなかったり、人を傷つけるようなことを言ってしまったり、自分だけ自分の居場所がないように感じたり、孤立や孤独を感じたり、理不尽な出来事に遭遇してしまうこと、火事などの強烈に印象に残る映像、言葉でうまく説明できないぐちゃぐちゃの感情、自分は普通と何か違うという感覚。

    忘れてかけてしまっていた記憶の中にも、自分のインナーチャイルドがしっかり生きてて、大人になった自分にもその時の心情がしっかり根付いている。
    幼い頃に冷たく固めてしまった心の塊を、大人になった自分が優しくあたためて解かしていく作業って、とっても大事なこと。

  • この小説大好きだ、と思える作品を読み終えたとき、興奮していて上手く感想が出てこない。
    この作品が正にそうで、今とても、じんわりと、興奮している。
    ぼろぼろ泣いてしまった。
    初めのうち読みづらかった長い文章。そういえば何か思ったり考えたりしてるときってこんなふうにまとまりなく心の中で喋ってるなぁと(子どもの頃は特に)思い出して、川上さん凄いなぁと思った。

  • 「誰かへの想い」の二つの結末。あこがれの結果には明と暗があるもの。
    小学4年の麦くんのミス・サンドイッチへの、小学6年のヘガティ―の姉への、あこがれというにはあまりにも不確かな思い。それを支えてくれる友達の存在。
    麦くんとヘガティ―の肩を組んで立つ姿が強く強く心に響く。
    「会えるうちに会っておく」ことって時に残酷。

  • パワーストーンの説明に笑った。

    口に出そうとして、
    結局口にすることのできなかった想いというのは、
    一体どこに行くんだろう。
    私たちは思ってる以上に色々なことに頭をめぐらせて
    言葉で上手く表現することのできない想いや悩みを
    自然と消化しているのかもしれない。
    言語化するとき、捨象するとき、
    そこから必ずこぼれ落ちるものがある。
    そこに慈しみを持たなくてはいけないなと思った。

    他人にこの小説はどんな内容か、を問われるなら、
    一言でいうなら「小学生が階段を一歩かけ上がる話」と説明するが、
    簡潔には言い表せないことを小説は言葉にして紡ぐ。

    「AはBだ」と言い切ることは、とても気持ちが良くて
    はたから見たら「何て賢い人なんだ」と
    思われるかも知れないが、
    自分は何か一言では明確に言い表せないことがあって、
    そこに辿り着くまでに様々な道具を下準備して、
    筋道を立てながら伝える方がタイプだ。

    それはとても地味で地道でじれったくてまだるっこくて、
    準備した割には結構フラフラしたりもして、
    寄り道に反れたり戻ったりして、傍目には不恰好で、
    とてもスマートには見えないかもしれないけど、
    そんな工程を経る文章がとても好きだ。

    著者は、すっと言葉が身体の内側に溶け込んでいくような。
    複雑な感情を適切な文字や文章に落とし込むのが素晴らしい。
    言葉を紡ぐというか、丁寧に編みこんでいく感じが好き。

    ちなみに、ミス・アイスサンドイッチは
    グラビアアイドルの森下悠里さんを
    思い描きながら読み進めました。

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著者プロフィール

川上未映子(かわかみ みえこ)
1976年大阪府生まれ。2007年『わたくし率 イン 歯ー、または世界』『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』で早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞、2008年『乳と卵』で芥川賞、2009年詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、2010年『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、2013年詩集『水瓶』で高見順賞、『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、2016年『マリーの愛の証明』でGRANTA Best of Young Japanese Novelists、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞を受賞。2017年、『早稲田文学増刊 女性号』で責任編集を務める。2019年7月11日、新刊『夏物語』を刊行。

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