アニバーサリー

著者 :
  • 新潮社
3.74
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本棚登録 : 834
レビュー : 149
  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103259237

作品紹介・あらすじ

子どもは育つ。こんな、終わりかけた世界でも。七十代にして現役、マタニティスイミング教師の晶子。家族愛から遠ざかって育ち、望まぬ子を宿したカメラマンの真菜。全く違う人生が震災の夜に交差したなら、それは二人の記念日になる。食べる、働く、育てる、生きぬく――戦前から現代まで、女性たちの生きかたを丹念に追うことで、大切なものを教えてくれる感動長編。

感想・レビュー・書評

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  • 窪さんの新作が出ると聞きつけ、我こそはと図書館に予約。
    その甲斐あって一番に回ってきた。
    予想に違わず、すばらしい作品だった。
    どうしてもこれほどまでに窪さんの作品は私の心を震わせるのだろう。
    登場する女性たちに自分と共通する部分はほとんどなくても、どうにもこうにもぐっとくるのだ。

    70歳に近いシニア世代の晶子はマタニティスイミングを教える講師。
    一方真菜は望まない子をお腹に宿したカメラマン。
    以前真菜は晶子の教室に通ってきていた生徒だったが、この二人が3.11の震災後に再び交差するところから物語は始まる。

    晶子が経験した戦時下の食糧難や戦後の復興する様子など、非常にリアルで窪さんの新境地といったことろ。
    ただ、晶子は目白に住むお嬢さん育ちでさほど苦労している様子はない。
    ただ結婚後、夫の手助けもなく一人で子育てに奮闘し、悩み苦しき、子育て以外に自分の生きる道を見つけて行く様は共感する部分も多かった。

    一方の真菜は、有名な料理研究家の娘。
    物理的には何不自由なく育つが、家族からの愛情を感じられないまま成長し心に欠陥を抱えたまま大人になっていく。
    真菜の取る行動はどれもこれも褒められたものではないし、他人事のように生きている弱さには救いようがない。
    しかし、どうにもこうにも真菜に惹かれてしまうのだ。
    危なっかしくてどうしようもない馬鹿だけれど、それでも真菜の気持ちにシンクロして気付けば涙している。

    二人の女性の生きざまを読んで行くだけでも十分に読み応えがあるが、やはり今回の重要なテーマの一つは震災後の世界だとおもう。
    この小説では、晶子も栄養士の資格を持ち、真菜の母親も料理研究家。“食”が重要なキーワードになってくる。
    戦時下での食糧難。働く母親の子供たちの孤食。そして震災後の放射能汚染されてしまった水や野菜。
    様々な形で生活とは切っても切り離せない食糧問題が取り上げられ、様々な問題が提起される。
    戦後の日本が追い求めてきた豊かさは実現したが、この時代では豊かさだけでは解決できない問題が山積みだ。

    乳飲み子を抱え、安全な食料と生活の場所を求めて翻弄される真菜の様子は、震災を経験した母親だったら誰もが共感するはず。
    不安でたまらなくてネットから目が離せず、誰を信じたらいいのか、子供を守るためにはどうしたらいいのかみんな悩んだはず。
    直接的な被害の様子を描いたものではないが、あの時母親たちが何を考え何を悩んでいたのかが私の実体験とも重なって胸に迫った。

    さして長くはない小説ではあるが、大切な事がいっぱいつまった読み応え十分な作品。
    やっぱり窪さんの描く世界はどうしようもなく好きだ。
    色んな人にお勧めしたいところだけど、「ふがいない・・・」と同じく過激な性描写があるので苦手な人は止めておいた方がいいかも・・・。

  • 妻でもなく母親でもない、一人の人間として生きたい。
    昔も今も、女性の前に立ち塞がる社会という名の大きな壁を前に戸惑う女性は多い。
    自分にできることは何かと考えあぐね、自分とはタイプの異なる女性と比較し羨み、時に妬んでしまう。
    自分らしく生きられる場所を求めてさ迷う三世代の女性たちを描いた物語。

    地球が滅びることを待ち望んだ真菜は、終わらない世界で生きる術をなかなか見いだせず途方に暮れる。
    険しい茨の道を女性はいつまで歩まなければならないのか。
    「いくら親が愛情だと思って、子どもに差し出したって、子どもは毒に感じることだってある」
    残念ながら血の繋がる家族がみな寄り添える訳ではない。
    けれど血が繋がらない人と理解し合えることもある。
    「でも、それでいいのよ。そうやって続いていくんだから」
    千代子の言葉に、存在に救われた。
    血は繋がらなくても手を差し伸べてくれる人のいる有り難さをしみじみ思うと同時に、実の母親とは例え寄り添えなくても、いつか認め合うことができるといい、と真菜の未来に期待したい。

  • 七十代にして現役、マタニティスイミング教師。戦中、戦後の貧しい時代をたくましく生き、仕事に忙しい夫の手を煩わすことなく子供を育て上げた晶子。タッパーに手作りのおかずを持参し、生徒らの食生活や産後のケアにまで気を配る彼女は、おかずに一切手を付けない真菜という生徒が気がかりで仕方がない。

    真菜には心を開けない理由があった・・・。有名料理研究家を母に持ちながら家庭の温かみを感じられず、孤独と皆示唆の中、金と引き替えに男と寝た高校時代。不倫の末の望まない妊娠、破綻した家族関係。唯一の心の支えはカメラで、毎夜、街を撮るために徘徊する。

    東日本大震災を機に、交差するふたりの人生。
    ”終わっていく世界に生まれてきてはだめだ。戻りなさい“と生まれ来る命に語りかける真菜・・・。

    母になるという責任の重さ。
    無責任なことは出来ないなぁ。

  • いい作品だった。これから子供を産む人、子育てしてる人是非読んでほしい。そうでない人も、家庭とは何か?家族って?人を思いやるって?というたくさんのテーマが盛り込まれていて、登場人物の気持ちがものすごくわかることが多く、心に残る作品だった。

  • 晶子、真菜の視点で描かれる。
    晶子はマタニティスイミングを教えるおばあちゃん。おばあちゃんママ。お節介。だけどこゆひとって大切なんだよなー。
    真菜は適切な愛情を注がれなかった女の子。母親は著名な料理研究家。高校に入り、援交に走る。カメラマンとの子供もできる。シングルマザーの道を進む。

    1章は戦争時代の晶子の半生。窪さんが戦時中のことを描くなんて、個人的になんだか意外だったので、どう描くんだろう。と思ったけれど、するすると読めた。面白い。現代にもつながる物語になっていて。

    心に残ったのは、いくら仲が悪くたって血が繋がってるのだから結局は家族…この前提が間違えているように晶子は思えてきた、というところ。
    わたしはすくすくと両親の愛を受けて育って、家族の仲も良好で、家族が大好きだと胸を張って言える。
    だから、晶子のように、いくら仲が悪いからって、今まで育ててもらってるし、血も繋がってるんだから、上手くいくって。きっと勘違いから始まってる仲違いだって。誤解をといて、話し合えば上手くいくって。そう思ってた。

    けどやっぱり相性ってのはあるんだなと。家族だって、元は人間なんだから。
    切ないけど、そうなのかな、とこの本を読んで改めて感じさせられたー。

    東日本大震災もうまく絡めた素敵な小説でした。女性ならではの問題をこんなにも上手く綺麗にまとめる窪さん。素敵だなぁー。

  • 窪さんの本は覚悟して読まないと傷だらけになって血を流す。
    でも今まで形をもたなかった心の奥底の見えない膿が、窪さんの文章によって血という形を得て流れ出したあとの読後感は、他の読書では得難い。…窪さんの文がいらない人は幸福だ。

    このアニバーサリーは子を産み育てるという不変的なものを時代と個人によって切り取られている。
    子を産み育てるという古代からの川の流れは変わらない。けれど人生の中では一部分だ。

    戦争と震災、原発。終わっていく世界を生きる次世代の親子。晶子の姿をした窪さんが見守ってくれているような温かさを感じた。

  • 人はひとりでは生きていけないのでは。
    知らず知らず他人に支えてもらっているような気がする。
    おせっかいな人も必要よ。
    その点、田舎暮らしは近所の人が家族みたい。「畑でたくさんとれたから」とか「作ってみたから」とあれこれ頂いたり、回覧板を持って行っては立ち話に花が咲いたりと都会では味わえない濃密な関係性。
    人との付き合いが面倒と思うときもあるけれど、ひとりじゃ寂しすぎる。

  • 70代で現役マタニティスイミングコーチをする晶子。
    カメラマンで、師匠との子を妊娠した30代の真菜。

    東日本大震災をきっかけにした2人の再会、そして救い。

    第2章ではどうなるのかなと思ったけれど。

    最後千代子と真菜との会話で話がまとまった感じがしたけれど、食・産・育・生という今自分が考えるべきテーマの小説に出会えてよかった。
    ほのかだけどたしかな希望を感じさせる結末が好きです。

  • 既読窪美澄作品では一番の当たり。

    とにかく昌子の生き様が素敵である。戦前戦中戦後の動乱期に苦労を重ねて生き抜き、子どもをはじめ色々なものを失い、色々な制限をかけられるなかで、それでも自分がしたいことは何か、出来ることは何かと考え実行し継続して行く、その生き様がたくましい。

    3.11以降日本のあらゆる文化は転換期を迎えているという想いがある。この小説も3.11を大きなテーマにしている。

    50年ほど先の未来には日本凋落の象徴として3.11と福島原発事故が歴史の教科書に掲載される予感、実は俺も大いに持っている。先の戦争を経験した人たちはもっともっと切実に日本滅亡を予感したのだろう。

    暗い未来を予感してしまうと、子孫なんて残したくなくなる。自分の可愛い子供たちをわざわざ滅亡を予感させる世界に生み落したくない気持ちになるのは当然だ。少子化は案外そういうところに根っこを張った問題なんだろう。

    でも、それでも生まれてきた俺たちや俺たちの子供たちがいる、それならせめて精いっぱい生きて、精いっぱい子供たちが生きていく世界を作っていきたいじゃないか。

    明日世界が滅ぶと分かっていても、今日木の苗を植えます、やったかな。そういうのアリやなと思える小説でした。

  • 読んでズシン、ときた。

    戦争を経験した世代は、壮絶な時代を生き抜いて
    生きているうちに世界が何回も何回も変わって、
    それをすべて経験してきたという事実に改めて驚かされた。

    私の世界は生まれてから何回変わったんだろう。

    この先、生きている間きっと何回も何回も
    世界は変わるんだろうけど、
    それでも人間は変わらず生きていく、生きていけると
    応援されたような物語だった。
    あらゆる世代の女性に読んで欲しい一冊。

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著者プロフィール

窪美澄(くぼ・みすみ)
1965年東京都稲城市生まれ。カリタス女子高等学校卒業。短大中退後、広告制作会社勤務を経て、出産後フリーランスの編集ライターとして働く。2009年「ミクマリ」で第8回R-18文学賞大賞を受賞し小説家デビュー。2011年、受賞作収録の『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)で第24回山本周五郎賞受賞、第8回本屋大賞第2位。同作はタナダユキ監督により映画化され、第37回トロント国際映画祭に出品。2012年、『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞受賞。2018年『じっと手を見る』で直木賞初のノミネート。2019年『トリニティ』で第161回直木賞、二度目のノミネート。

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