アニバーサリー

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103259237

作品紹介・あらすじ

子どもは育つ。こんな、終わりかけた世界でも。七十代にして現役、マタニティスイミング教師の晶子。家族愛から遠ざかって育ち、望まぬ子を宿したカメラマンの真菜。全く違う人生が震災の夜に交差したなら、それは二人の記念日になる。食べる、働く、育てる、生きぬく――戦前から現代まで、女性たちの生きかたを丹念に追うことで、大切なものを教えてくれる感動長編。

感想・レビュー・書評

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  • 窪さんの新作が出ると聞きつけ、我こそはと図書館に予約。
    その甲斐あって一番に回ってきた。
    予想に違わず、すばらしい作品だった。
    どうしてもこれほどまでに窪さんの作品は私の心を震わせるのだろう。
    登場する女性たちに自分と共通する部分はほとんどなくても、どうにもこうにもぐっとくるのだ。

    70歳に近いシニア世代の晶子はマタニティスイミングを教える講師。
    一方真菜は望まない子をお腹に宿したカメラマン。
    以前真菜は晶子の教室に通ってきていた生徒だったが、この二人が3.11の震災後に再び交差するところから物語は始まる。

    晶子が経験した戦時下の食糧難や戦後の復興する様子など、非常にリアルで窪さんの新境地といったことろ。
    ただ、晶子は目白に住むお嬢さん育ちでさほど苦労している様子はない。
    ただ結婚後、夫の手助けもなく一人で子育てに奮闘し、悩み苦しき、子育て以外に自分の生きる道を見つけて行く様は共感する部分も多かった。

    一方の真菜は、有名な料理研究家の娘。
    物理的には何不自由なく育つが、家族からの愛情を感じられないまま成長し心に欠陥を抱えたまま大人になっていく。
    真菜の取る行動はどれもこれも褒められたものではないし、他人事のように生きている弱さには救いようがない。
    しかし、どうにもこうにも真菜に惹かれてしまうのだ。
    危なっかしくてどうしようもない馬鹿だけれど、それでも真菜の気持ちにシンクロして気付けば涙している。

    二人の女性の生きざまを読んで行くだけでも十分に読み応えがあるが、やはり今回の重要なテーマの一つは震災後の世界だとおもう。
    この小説では、晶子も栄養士の資格を持ち、真菜の母親も料理研究家。“食”が重要なキーワードになってくる。
    戦時下での食糧難。働く母親の子供たちの孤食。そして震災後の放射能汚染されてしまった水や野菜。
    様々な形で生活とは切っても切り離せない食糧問題が取り上げられ、様々な問題が提起される。
    戦後の日本が追い求めてきた豊かさは実現したが、この時代では豊かさだけでは解決できない問題が山積みだ。

    乳飲み子を抱え、安全な食料と生活の場所を求めて翻弄される真菜の様子は、震災を経験した母親だったら誰もが共感するはず。
    不安でたまらなくてネットから目が離せず、誰を信じたらいいのか、子供を守るためにはどうしたらいいのかみんな悩んだはず。
    直接的な被害の様子を描いたものではないが、あの時母親たちが何を考え何を悩んでいたのかが私の実体験とも重なって胸に迫った。

    さして長くはない小説ではあるが、大切な事がいっぱいつまった読み応え十分な作品。
    やっぱり窪さんの描く世界はどうしようもなく好きだ。
    色んな人にお勧めしたいところだけど、「ふがいない・・・」と同じく過激な性描写があるので苦手な人は止めておいた方がいいかも・・・。

  • 妻でもなく母親でもない、一人の人間として生きたい。
    昔も今も、女性の前に立ち塞がる社会という名の大きな壁を前に戸惑う女性は多い。
    自分にできることは何かと考えあぐね、自分とはタイプの異なる女性と比較し羨み、時に妬んでしまう。
    自分らしく生きられる場所を求めてさ迷う三世代の女性たちを描いた物語。

    地球が滅びることを待ち望んだ真菜は、終わらない世界で生きる術をなかなか見いだせず途方に暮れる。
    険しい茨の道を女性はいつまで歩まなければならないのか。
    「いくら親が愛情だと思って、子どもに差し出したって、子どもは毒に感じることだってある」
    残念ながら血の繋がる家族がみな寄り添える訳ではない。
    けれど血が繋がらない人と理解し合えることもある。
    「でも、それでいいのよ。そうやって続いていくんだから」
    千代子の言葉に、存在に救われた。
    血は繋がらなくても手を差し伸べてくれる人のいる有り難さをしみじみ思うと同時に、実の母親とは例え寄り添えなくても、いつか認め合うことができるといい、と真菜の未来に期待したい。

  • 「だけどね、あなたが正しいと思ってしてあげたことだって、この子は嫌がるかもしれないよ。」(引用)

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    マタニティスイミングのコーチをしている70代の晶子。
    いつものようにマタニティスイミングに続けて妊婦たちとの昼食会を行ったあと、帰宅している途中で大きな地震にあってしまう。

    自宅へ戻れそうもないと思った晶子は、マタニティスイミングに通ってきていた真菜の自宅が近くだったことを思い出し、思いきって訪ねてみることにした。

    真菜は、晶子が気になっていたマタニティスイミングの生徒でもあった…

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    現代のなか、晶子目線で始まったお話は、戦時中~戦後を生きる晶子の姿へとうつっていきます。
    なぜ晶子がマタニティスイミングのコーチとなったのか、どういう価値観をもって、妊婦たちの力になろうとしているのかが、少しずつ明らかになっていきます。

    特に戦時中~戦後を生きる晶子の描写が鮮やかで、読むごとにその情景が次から次へと浮かんできて、驚きました。
    正直わたしから見ても、真菜を含めた他の妊婦への晶子の言動は、おせっかいだなと思うところが多く、時々見受けられる価値観を押しつけたようなところに、うっとおしさを感じました。

    しかし、晶子の生い立ちを丁寧に見ていくと、そうした晶子のおせっかいが、どうして生まれたのかがわかっていきます。
    わかったからといって、そのおせっかいを受け入れられるかと言われれば、うなずききることはできません。
    けれど人の価値観には、その人が活きてきた「時代」の影響が、ものすごく強いのだということを、しみじみ思いました。

    一方、真菜の生い立ちはまさに、「現代における闇」を象徴したかのようなお話で、晶子の生い立ちを先に読んでいた分、2人のあいだにあるギャップを、強く感じました。

    そして真菜がほしかった愛と、真菜の母親が与えたかった愛のかみ合わなさが、ひどくむなしく、そして切なかったです。

    「だけどね、あなたが正しいと思ってしてあげたことだって、この子は嫌がるかもしれないよ。いくら親が愛情だと思って、子どもに差し出したって、子どもは毒に感じることだってあるんだから。その子もいつか、母親を憎むかもしれない。…あなたみたいに」(305ページ)

    真菜と真菜の母親の関係、そして親子関係は、まさにこの言葉に尽きると思いました。

    真菜の母親が与えた愛情が、真菜をおいつめたように、相手のほんとうの声を聞かないまま一方的に与える愛は、毒でしかないのです。
    晶子の与える愛もまた、もしかしたら相手にとっては愛ではなく毒なのかもしれない。
    それは相手にしかわからないことです。
    だからこそ相手の声を真摯に聴くこと、それだけが、愛を毒に変えない方法はなのではないでしょうか。

    愛が毒に変わることがあるように、善意もまた毒に変わることがあります。
    それをわかっていて生きているかどうかは、大きな違いです。
    「アニバーサリー」は、そのことを教えてくれる物語でした。


  • 東日本大震災の直後のマタニティスイミング講師の晶子が元生徒の平原真菜の自宅を訪問する所から始まる。
    そこには、シングルマザーで心を閉ざした真菜いた。
    ノストラダムス予言で世界が滅びたら良いと自暴自棄だった真菜。しかし、子を持ち、東日本大震災の放射線を過剰に気にして生きる真菜。
    生きにくい世の中に晶子や千代子の様なお節介なおばちゃんの達の存在はとても貴重である。
    誰もが一人で生きていけない。
    未知な不安な恐怖と隣り合わせだから。『絆』を大切に生きて行きたい。
    一期一会、すべての出会いが記念日なんだ。

  • なかなかの問題小説で読み終わった後には色々な感情が渦まく。人の人生はその人が決める
    ただ周りの大人に左右される事も多い
    さぁ貴方はどうすると突きつけてきた

  • いい作品だった。これから子供を産む人、子育てしてる人是非読んでほしい。そうでない人も、家庭とは何か?家族って?人を思いやるって?というたくさんのテーマが盛り込まれていて、登場人物の気持ちがものすごくわかることが多く、心に残る作品だった。

  • 時代の違う2人の 女性の人生を 丁寧に丁寧に書いている。
    だから 物語の序盤に語られる 2人の震災の時の行動も、すごく納得できるものになっている。
    どちらにも じっくりとゆっくりと感情移入できる。
    あのいつもの閉塞的な暗さもあるけど、それは題材的にもしょうがない位の感じで、最後はほんのり明るく終わってよかった。

  • おせっかいで世話好きな晶子の今(おばあちゃん世代)、子供時代と、有名な料理研究家の娘で何不自由なく暮らした真菜の今と子供時代の話。
    お金があっても愛のない家族。
    料理研究家の母が作ってタッパーに入れられた料理を温めて1人で食べる娘。
    家族で支えあっていても戦争で離れ離れになり、土蔵以外全て焼け残された家族。
    忙しくてほとんど家に居ない旦那と、家で時間を持て余しながら子育てする妻。
    様々な家族の在り方が描かれる。

    旦那に言わせると「この本を読むメリットは何?」という本だけど、「本を読むことで自分が経験できない何人もの人生を知ることができる」本だと思う。

  • 七十代にして現役、マタニティスイミング教師。戦中、戦後の貧しい時代をたくましく生き、仕事に忙しい夫の手を煩わすことなく子供を育て上げた晶子。タッパーに手作りのおかずを持参し、生徒らの食生活や産後のケアにまで気を配る彼女は、おかずに一切手を付けない真菜という生徒が気がかりで仕方がない。

    真菜には心を開けない理由があった・・・。有名料理研究家を母に持ちながら家庭の温かみを感じられず、孤独と皆示唆の中、金と引き替えに男と寝た高校時代。不倫の末の望まない妊娠、破綻した家族関係。唯一の心の支えはカメラで、毎夜、街を撮るために徘徊する。

    東日本大震災を機に、交差するふたりの人生。
    ”終わっていく世界に生まれてきてはだめだ。戻りなさい“と生まれ来る命に語りかける真菜・・・。

    母になるという責任の重さ。
    無責任なことは出来ないなぁ。

  • 晶子、真菜の視点で描かれる。
    晶子はマタニティスイミングを教えるおばあちゃん。おばあちゃんママ。お節介。だけどこゆひとって大切なんだよなー。
    真菜は適切な愛情を注がれなかった女の子。母親は著名な料理研究家。高校に入り、援交に走る。カメラマンとの子供もできる。シングルマザーの道を進む。

    1章は戦争時代の晶子の半生。窪さんが戦時中のことを描くなんて、個人的になんだか意外だったので、どう描くんだろう。と思ったけれど、するすると読めた。面白い。現代にもつながる物語になっていて。

    心に残ったのは、いくら仲が悪くたって血が繋がってるのだから結局は家族…この前提が間違えているように晶子は思えてきた、というところ。
    わたしはすくすくと両親の愛を受けて育って、家族の仲も良好で、家族が大好きだと胸を張って言える。
    だから、晶子のように、いくら仲が悪いからって、今まで育ててもらってるし、血も繋がってるんだから、上手くいくって。きっと勘違いから始まってる仲違いだって。誤解をといて、話し合えば上手くいくって。そう思ってた。

    けどやっぱり相性ってのはあるんだなと。家族だって、元は人間なんだから。
    切ないけど、そうなのかな、とこの本を読んで改めて感じさせられたー。

    東日本大震災もうまく絡めた素敵な小説でした。女性ならではの問題をこんなにも上手く綺麗にまとめる窪さん。素敵だなぁー。

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著者プロフィール

1965年東京生まれ。2009年『ミクマリ』で、「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』が、「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」第1位、「本屋大賞」第2位に選ばれる。12年『晴天の迷いクジラ』で「山田風太郎賞」を受賞。19年『トリニティ』で「織田作之助賞」、22年『夜に星を放つ』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『夜空に浮かぶ欠けた月たち』『私は女になりたい』『ははのれんあい』『朔が満ちる』等がある。

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