- Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103270119
感想・レビュー・書評
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「女による女のためのR-18文学賞」の大賞を受賞した表題作を含む短編集である。収録作5編はいずれも女性を主人公にしたエロティックな小説なのだが、面白いのは、5人のヒロインがそれぞれ個性豊かな「変態」であるところ(笑)。
表題作はセルフ・ボンデージ(自分で自分を縛って快感を得る)にのめりこむOLの物語だし、ほかの作品も、ラバースーツ・フェチの売れないモデルやら、ゴミ・フェチの女子大生やらが主人公になっている。
こうした設定を面白いと感じるのは、「変態=男」というイメージが私にはあったから。
電車で痴漢する男は多くても痴女はごくまれだろうし、異性の下着を盗んで集めるのも男だけだろうし、変態というのは基本的に「男の世界」なのではないか(私は変態じゃないからよく知らんけどw)。
それをあえて女性の世界に持ち込み、それでいてポルノ目線ではないところが、本作の独創性なのである。
が、その独創性が作品の価値に結びついているかといえば、やや疑問。かなり玉石混淆の短編集で、著者の資質があまり活かされていない気がした。
収録作5編を私が評価するなら……(エラソーですいません)。
「自縄自縛の私」――これは面白かった。傑作。短編としての完成度も高い。
「祈りは冷凍庫へ」――思いつきだけの駄作。しかも、その思いつきが悪趣味の極み(読めばわかる)。
「ラバーズ・ラヴァー」――表題作の次によい。ヒロインが自室でラバースーツを着てすごす間の心理描写が秀逸。ただ、表題作の二番煎じ感は拭えない(セルフ・ボンデージをラバースーツに置き換えただけ)。
「明日の私は私に背く」――たんなるポルノ。表題作は文学的香気を放っていたのに、これは男のポルノ作家が書きそうな下世話な内容。
「ごみの、蜜」――部分的にはよいのだが、ヒロインがゴミ・フェチであるという設定と、高校時代にフラれた元カレをストーカー的に想いつづけているという設定を両方詰め込んだのが失敗。話がどっちつかずで混乱している。
……と、いろいろケチもつけてしまったが、文章はすごくうまいし、磨けば光る原石の輝きは感じる。
著者が自分のサイトで書いている日記の文章を読んでの印象として、こういうエロティックなものより、平安寿子みたいなユーモア小説のほうが合っている気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最近読んだ『フィッターXの異常な愛情』がよかったから読んでみたけどアブノーマルな本だった。表題作の自縛趣味のあるふたりが全編に脇役としてでてくる。
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性癖って難しい。何にこだわってもその人の勝手だし自由だけど、人に迷惑かけるのだけはだめだね。そして他人がどうのこうのいう問題でもないと。
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タイトル作よりも「祈りは冷凍庫へ」が良かった。
なぜ、そのような行為に及ぶのか分析されていて、
食べることとセックスすることの対比が面白かった。
「明日の私は私に背く」の破滅願望は自分の中にある火種が大きくなりそうな、自分を持て余している感じがシンクロしてしまった。 -
自縄自縛の私…この手の趣味はないけどなんか楽しそう。SMならMなんだろうな。
祈りは冷蔵庫へ…気持ちはわからないでもないけど、卵子はコレクションしたくてもできないから不公平だな。
ラバーズ・ラバー…キャットスーツはキャッツアイに出てくるあれか。僕の理解も想像も及ばない世界観だ。
明日の私は私に背く…評価はこの作品。絡みの描写が堪えられないほど素晴らしい。おかしくなりそう。ここまで性欲をかきたてられたのは久しぶり。
ごみの、蜜…過去を捨て新しい恋が始まる。この本の中で一番前向きな作品かな。 -
R18文学賞受賞作。嫌悪感など全くなかった。むしろせつなさが胸いっぱいに広がった。著者、蛭田さんのデビュー作だが彼女の紡ぎ出す言葉がすんなり入ってきて、簡単な表現なのにずっしりと心に響いてくる。
5篇の作品すべての女性が社会での生きずらさを感じ「生」を感じる為に「性」へ固執する。
「自縄自縛の私」ではウェブ開発を手掛けキャリアを積み成果を挙げる傍ら「自分はもっとできる、という気持ちと、分不相応な無理をしていて、これ以上はもう不可能だ、という考えが交互におとずれた。知らず知らずのうちに、私は袋小路の奥はと進んだ。」という思いが膨らみ、自分を緊縛することでしか「生」を感じられなくなっていく。
「祈りは冷蔵庫へ」は避妊具に入った男性のそれを丁寧にフリーザーパックへ保管し、冷凍庫のプラスチックケースへ整然と収納する。そのコレクションを増やす事に自分の存在価値を見出す。
同様に食材も1週間分をきちんと下拵えし日付を記入し保存している。 「性行為」と「食事」は生きる上では同等の価値観があるという事を上手く表現していて凄い。
この小説で「東電OL殺人事件」を思い出さずにはいられなかった。
キャリア組の彼女は重要なポストに付いていて、今や問題視されている原子力発電におけるプレサーマル再利用についての危険性を唱えいたらしい。その一方で渋谷区円山町で売春行為に及んでおり、挙句、不慮の事件に巻き込まれ死に至った。
当時そのギャップからマスコミの格好のネタにされたが、彼女も女として仕事に生きる中、「自分は何者なのか」と遣る瀬無い葛藤があったのではないか?
5話全て完結系ではなく、余韻を持たせたままおわっている。「自縄自縛〜」の他の4話にも時折、自縄自縛の登場人物が顔を出すのもセンスが良い。
いやらしさを求めるならば、それなりに性描写が事細かく書かれているので「R18」としては申し分ないだろう。しかしそれよりも、女性がひとりで生きるうちに堆積した理由のわからない不安をすばらしく切なく表現している。過剰な性癖にのめり込むかどうかは些細なきっかけかもしれない。
綱渡りしながらみんな危うい所で生きているのだ、と感じる。 -
表面的には変態さんたちのおはなしだけれど、
何かにこだわり、何かに囚われる、人間らしくて素敵ではないかしら。
社会生活で表に出さなければ良い秘め事であるのだから。
作者の言葉の選び方、使い方が私はとても好き。
平明で美しいと思う。
映画は見ないと思う。 -
自分を消したいと願いながら、誰かが見つけてくれるのを待っている人たちの話。
自分のことは自分で見つけてあげなきゃ。
問題は、自分がどんなにめぐまれてるかに無自覚で、感謝する気がさらさらないってことなんだ。
いらないものを捨てたい。