- Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103275107
作品紹介・あらすじ
壮絶な作品『火宅の人』を世に遺して逝った無頼派作家・檀一雄-その未亡人に、一年余にわたる綿密なインタビューを重ねてきた著者が、取材の過程で微妙に揺れ動く「作家の妻」の心の襞から、檀一雄が書かなかったもう一つの『火宅の人』を紡ぎ出す。ノンフィクションとフィクションの境界線上に、新しいスタイルの伝記文学。
感想・レビュー・書評
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「沢木耕太郎」が作家「檀一雄」の妻「ヨソ子」の回想録のような体裁を取ったノンフィクション作品『檀』を読みました。
「沢木耕太郎」作品は、3年半くらい前に読んだ『キャパの十字架』以来なので、久しぶりですね。
-----story-------------
『火宅の人』 「檀一雄」の妻は何を思い、何を求めていたのか。
30年の愛の痛みと真実。
愛人との暮しを綴って逝った「檀一雄」。
その17回忌も過ぎた頃、妻である私のもとを訪ねる人があった。
その方に私は、私の見てきた「檀」のことをぽつぽつと語り始めた。
けれど、それを切掛けに初めて遺作『火宅の人』を通読した私は、作中で描かれた自分の姿に、思わず胸の中で声を上げた。
「それは違います、そんなことを思っていたのですか」と――。
「作家の妻」30年の愛の痛みと真実。
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読んだことはないのですが… 「檀一雄」の代表作と言えば、遺作でもあり、舞台女優「入江杏子」と愛人関係を描いた『火宅の人』ですよね、、、
「檀一雄」が愛人と生活するために家を出ていた時期を中心に、「檀一雄」との結婚から、癌に冒されて息を引き取るまでのことや、夫への想いを妻「ヨソ子」が一人称で語ったかのように描いた作品です。
1年間に亘り「ヨソ子」への取材を続けたとはいえ、「沢木耕太郎」の気持ちや想いも反映されているんでしょうね、、、
愛情って、白黒はっきりさせることは難しいことは判っているつもりだし、感情って一定ではなく、複雑に揺れ動くものだということも理解しているつもりですが… でも、こんな夫婦生活って、自分に置き換えて想像できないので、今ひとつ感情移入できなかったですね。
こんな愛のカタチや、夫婦の在り方というのも、あるんだなぁ… と、ちょっと他人事のように読んだ感じです。
「檀一雄」に、お見合いで初めて会ったときの印象について、
「私には、作家という人種がどのようなものなのか皆目見当がつかなかったが、
檀という人は、たとえその職業がどのようなものだったとしても好感の抱ける相手だった。
長身だったが、少し猫背で歯が出ている。
しかし、私にはその檀の姿が颯爽として見えた。
そして、そのときの颯爽とした印象は、死ぬまで変わらなかった。」
とあるように、運命的に結ばれた二人だったのかもしれませんね… その気持ちって、やはり当人同士にしかわからないモノなんでしょうね。
そして、「檀一雄」が捕鯨船に乗り込み南氷洋に出かけた船旅の先から妻に送った手紙… 受け取った「ヨソ子」は、「檀一雄」の死後に古い手紙を整理するまで忘れていたようですが、そこには予め、
「あなたに恋人ができてもさしつかえない。
誰でも自由に愛し、愛されるべきだから。
但し、肉体関係ができているときは、なるべくそれを報(しら)せ合いたい。
何故なら自分の子供でない子を知らずに、かかえあげているのは悲惨ですから。
あなたに愛人ができても、私の方から離婚の申出は決して致しません。
別居はするとしても、あながた、私の夫人であって何のさしつかえはないわけですから。
従って下石神井のあなたの家はあなたの愛人と暮す巣になってもさしつかえないわけです。
かりにあなたが愛人と結ばれて、どうしてもあなたから離婚の希望がある節も、次郎の連れ子料として、あの家を贈呈します。
家がいやなら、家の代価六十五万円を差し上げる約束をしておきます。
若し又、私に愛人が出来た節も、あなたとは離婚しません。
私は別宅構えてその方へ逃げてゆくだけのことで、その際はあなたと子供達の充分な養育費を負担しましょうね。
あわれな人間同士であってみれば、なるべく仲良く一緒に、乗りかかった船とあきらめて、死ぬ迄信じ合って生きてゆきたいものですね。」
というようなことが書かれているんですよね(かなり抜粋・要約していますが)… 当時、まだ「入江杏子」と愛人関係はなかったようですが、「檀一雄」という人は隠し事が下手で、言いたいことを黙ってはいられなかったんでしょうね。
この手紙を読んで、この二人の愛情は、、、
やはり、二人の間でしか理解できないんだろうなぁ… という思いを強くしました。
でも、興味をそそられたのは事実… 『火宅の人』を読んでみるかなぁ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
インタビューからその当時のことをこんなにも詳しくリアリティ溢れるように描けるなんて、その道のりの長さに目眩がする。
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2012/12/16
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幼児性の強い破滅型の作家と、母のようにその面倒を見る夫人との関係が心理学のモデルのようで興味深い。
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「火宅の人」と両方読もう
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檀一雄の未亡人、ヨソ子さんへのインタビューを一人称の形でまとめた不思議な小説。檀一雄のどうしようもない部分も見えてくるけれども、読み進めるうちに(特に晩年)、ヨソ子さんの檀一雄に対する愛の深さが分かります。
沢木耕太郎はかつて1回だけゴーストライターをしたことがあるらしいけれども、そのときの経験も生きたのでしょうか。鮮やかな一人称形式のまとめかたに唸らされます。ハードカバーも文庫本も、緒方修一さんによる装丁がお洒落で好きです。 -
09/3/12~09/3/21
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2008年3月1日(土)、読了。