ラブレス

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 171
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103277224

作品紹介・あらすじ

馬鹿にしたければ笑えばいい。あたしは、とっても「しあわせ」だった。風呂は週に一度だけ。電気も、ない。酒に溺れる父の暴力による支配。北海道、極貧の、愛のない家。昭和26年。百合江は、奉公先から逃げ出して旅の一座に飛び込む。「歌」が自分の人生を変えてくれると信じて。それが儚い夢であることを知りながら-。他人の価値観では決して計れない、ひとりの女の「幸福な生」。「愛」に裏切られ続けた百合江を支えたものは、何だったのか?今年の小説界、最高の収穫。書き下ろし長編。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かったという表現は相応しくない内容だが
    凄く良かった。

    昭和の時代が流行歌によって走馬灯のようにクルクルと脳内に流れ込む。

    ネオン、キャバレー、旅芸人の一座…
    流しのギターで「テネシーワルツ」を歌う百合子の姿…

    宗太郎と百合子のラストに涙が出ました。

    百合子の一生は人から見たら不幸かもしれないが
    その幸せは本人だけが一番よくわかっていれば良い。

    「ユッコちゃん、大好きよ」


  • 『嫌われ松子の一生』的な。謎の位牌を握りしめ、死の床についた百合江。彼女の波瀾万丈な生涯を追う。

    生まれは標茶の極貧農家、飲んだくれの父は文盲の母に暴力をふるい、生活もままならないのに子沢山。子守りに明け暮れ、高校進学も叶わず、親の借金のカタに奉公に出され。奉公先の主人に凌辱され、「なんだ、あんなもの突っ込みやがってーー」と強がるも惨め。逃げるように旅芸人一座に飛び込むもやがて一座は離散、歌い手をしながら、女形の宗太郎とその日暮らしの末、第一子(綾子)妊娠・出産。宗太郎の失踪により、別の男性と結婚するも姑にいびられ、夫の借金のカタに旅館でタダ働きをさせられ、第二子(理恵)出産は難産で子宮を失い、退院したら第一子の綾子は里子に出されたのか行方不明に。

    そんな姉 百合江を常に気にかける妹の里実は夫が愛人に生ませた娘 小夜子と、実子 絹子を育ててながら理容師として頼もしく働き…

    飲んだくれの父のみならず、弟たちも卑屈で下品で肉親の情は欠片もなく老いた母に暴力をふるうほどで…昭和演歌調に語られるどこまでも幸薄い百合江という女の生涯。

    里実、作家になった理恵、45歳で思わぬ妊娠をした小夜子が見守る病室に現れた1人の老紳士。
    ザ・ピーナッツの『情熱の花』や、『テネシー・ワルツ』が女たちの人生に彩りを添えて、ラストが美しい。

  • タイトルと装丁からライトノベルかなと思って読み始めるととんでもなかった。道東の開拓民の子供として生まれた百合江の放埓かつ過酷な人生を躍動的に描いた作品。
    いや~、面白かった。その日暮らしで生きる百合江とは対照的に将来を見据えて生きる妹の里実。果たしてどちらの人生が幸せだったのか。この二人と取り巻く人々、親、兄弟、娘、恋人・・・、それぞれの人生もまた興味深い。
    個人的には「手前勝手」に生きる人々の中で、唯一のし上がろうと上を見続けた里実に同情してしまう。良く頑張ったよ、うん。
    ラストシーンは何ともドラマティック。よかったね、ゆっこちゃん。
    同じく貧しい北海道開拓民の話を描いた小説、乃南アサの「地の果て」と合わせて読むとより面白いかも。

  • 直木賞を受賞した『ホテルローヤル』よりも先に書かれた作品です。

    装丁と『LOVE LESS』というタイトルから、現代の話かと思ったのだが…

    これは桜木さんの本だ~!と思わされる一冊。
    そして、強烈に印象に残る本になりました。

    桜木さんと同世代で、昭和世代だから、胸をえぐられるように感じることがいっぱい。

    戦後を生き抜いてきた女性って、想像もつかない過酷な運命を背負わされていたんだと、改めて思い知らされた。
    同じ昭和でも、男女平等が当たり前のようになった時代とは全く違う…
    子どものため、夫のため、家のために生きる。
    自分のために生きることは自分勝手なこと、後ろ指を指されること…

    舞台となる北海道、開拓村の生活はどんなに大変だっただろう…
    そんな過酷な生活の中から、旅芸人一座の歌い手となる百合絵。
    表にはみせず、心に秘めた信念のまま生き抜いた百合絵。
    こんなに辛い人生って…と、思てしまうけれど、百合絵は「幸せだった」と答えるだろうなぁ…

    読みながら、何度も胸がつまって、胸が締め付けられて、涙がにじんで、苦しかった…

  • 北海道に住む親子女子3代の物語。
    重たい話のようだが、一気に読み進められた。

    物語の主線ではないが、個人的には晩年の祖母が切なかった。

  • 20190210読了 最初から中間くらいまで重くて切ないが(途中でやめようかと思ったよ)、最後にこんな終わり方もありかなと、ホロッとくる。いわゆる『普通の』生活者がいない。人名と人間関係、文のつながりが引っかかる。ストンと入ってこない。が、一気に読ませる熱量を感じる。

  • 貧農の家から、高校にも行けず奉公に出され、旅芸人の一座に加わって歌い、出産しては旦那に逃げられ、次の旦那は借金まみれのマザコン。不幸の嵐のような壮絶な人生を、明日は明日の風が吹く、と柳のようにしなやかに生き抜いた百合江の一生を、妹の里美の娘と本人の視点からつむぎだした物語。めちゃめちゃ重いし、つらいですが、百合江の潔い生き方と、愛に溢れた最後が素晴らしかったです。

  • 殺人も無い。事件も無い。警察も出てこない。それでもこのおもしろさはなんなんだ!最近ミステリーやサスペンスばかり読んでいる自分にガツンとストレートをくらった気分だった。市井の人々の普通の暮らしの中にエンターティメントが埋もれている。舞台は北海道。貧乏な家に生まれた女性が苦労を重ねる一生。簡単にいえばそういうこと。舞台は北海道だし、女性の一生を描いているしで、かつてむさぼり読んだ三浦綾子さんを思い出す。しかし、この作品は女性の艱難辛苦を不幸とは結論づけない。どんな苦労をしても生きていればこそ、それは幸せなのだと教えている。ミステリーはなかなか人に勧められないが、これならいける。今年の誰にでも読んで欲しい本ナンバーワンだ。涙腺の弱い人はタオル必須。

  • 「どこへ向かうも風のなすまま。からりと明るく次の場所へ向かい、あっさりと昨日を捨てる。捨てた昨日を惜しんだりしない。」

    TwitterでやたらとRTされていたので(出版社の思惑)、
    それに乗って図書館で借りました…。

    いやぁーー、骨太な作品!!
    タイトルや拍子からは想像もつかないような、
    強い女の一代記。

    もっと軽い明るい恋愛ものを想像していたので、
    いい意味で裏切られたかな!?

    現代にいる小夜子と理恵。
    そして、物語の根幹を担う百合江、里実。
    実は最初は、名前がストンと入ってこずに混乱しながら読んでしまったのだけれど、物語が進むうちに、キャラたちがしっかり歩き出すからその心配もなくなった。

    この女たちの生き様は、私とは程遠いところにあると思う。
    どの登場人物とっても、同じように生きたり、この人一緒だ!というものは全くなかった。
    それでも、なぜかしてしまう感情移入。

    物語が終わった後も、しばらくはこの世界に引きづられてしまっていたように思う。
    それだけ著者の筆圧が高いのかな。
    力がある。

    ちなみに、ゼクシィの「突然愛を伝えたくなる本大賞」だったようだ。
    いやーーー、こんなに強い女がいたら、愛を伝えたくなるかなぁ?
    なんて思ってしまいました。
    すごいお話でした。

    【11/11読了・初読・市立図書館】

  • 本棚に読みたい本として登録し、半年が過ぎようやくいつもの図書館にリクエストしすぐに借りることができる。著者は10年前「雪虫」でオール読物新人賞を受賞し、その後「氷平線」で単行本デビュー。この「ラブレス」は今年度直木賞の候補作となって、たぶん新聞書評かなにかで気にとめていた。この題と中味の違和感、そして表紙絵の明るさに反して内容の暗さかも変に気にかかる本は珍しいと思う。

    作者のプロフィールが謎であるがこれだけの力作が書ける小説家をこの本によってみつけられたことはよかった。また何冊か読んでみたい。

    北海道開拓民の祖母とその娘(主人公百合江)、その娘の理恵の三世代に渡る話。それぞれの女の一生を描き、生き方を問いてるような感じがした。夫や子どもに家畜のように虐げられて自分自身というものが皆無のような祖母ハギ。その娘の百合江は高校卒業と同時に自分の夢がかなえられず奉公に出されて流転。歳の違う妹里実は幼い時に親戚にもらわれお嬢様育ちだが、姉の奉公と同時に幼い弟の面倒をみるかたちで連れ戻され、苦労して手に職を付け今でいう実業家となる。里実の娘の小夜子は里実の実娘ではなく45歳にして妊娠している。幼馴染の百合江の娘の理恵は小説家であるが、母の生き方に馴染むことが出来ず確執する。

    どの人物を取り上げても主人公になれるような女たちの生き方と幸福論が展開出来ると思った。話の展開は寡黙な百合江の一生の謎を解いていく物語で、百合江の関わる人物たち(家族、薬屋夫婦、旅の一座、娘の綾子、夫の高樹、添乗員の石黒、など)がどのように百合江と接していくかが百合江という女の生き方を浮かび上がらせていく。その辺りがすごく読み応えがある。

    百合江が主人公と成り得た要因は自分の心の趣くまま自然に生きたということ。そしていつどんなときであっても「幸せだった」と思うこと。でしょうか。
    共感とかとはまた違う「こんな生き方もいい。こんなに力を抜いてもいい」と思わせてくれた。

    P183
    「親だの子だのと言ってはみても、人はみんな手前勝手なもんだから。小夜子ちゃんんも、自分の幸せでのためなら、手前勝手に生きていいんだよ」

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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