- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103277231
作品紹介・あらすじ
知らないままでいられたら、気づかないままだったら、どんなに幸福だっただろう――革命児と称される若手図書館長、中途半端な才能に苦悩しながらも半身が不自由な母と同居する書道家と養護教諭の妻。悪意も邪気もない「子どものような」純香がこの街に来た瞬間から、大人たちが心の奥に隠していた「嫉妬」の芽が顔をのぞかせる――。いま最も注目される著者が満を持して放つ、繊細で強烈な本格長篇。
感想・レビュー・書評
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以前読んだ桜木さんの作品よりは読みやすかったが、寒い風が体を吹き抜ける感じ。皆、生きてて楽しいのか…と、つい思ってしまう。もっと読了感のいいのが、好みだなぁ。
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高度自閉症と思われるような挙動を示しながら、特別な才能をもつ純香。口数少ない彼女の鋭利なひとことに周囲は振り回される。キーマンの秋津龍生でさえ、彼女の周辺人物にしか見えない。「主人公」はみんな、といいたくなるような桜木作品。波紋の中心が林原純香と秋津令子だとすると、コアは純香の兄なのだ。
だけど桜木作品で「コア」なんていうのは野暮。偏在する点のひとつひとつが中心であり、たまたま作者が照らした人だけが読者に見えただけなのだから。
たまたま数回お会いしただけの二十歳前の高度自閉症の女性を思い出しました。 -
この人の作品は読んでる最中、読み終えた後、なんか淋しくなる。展開はえっとなるが、終わりは想定内かな。
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桜木紫乃さんの「無垢の領域」、2013.7発行です。書道家秋津龍生42歳、その師であり今は寝たきりの母親の鶴雅、妻伶子40歳の家族と図書館長林原信輝35歳と書道の才があるけど知恵遅れな妹純香25歳の「書」を通じた親子、男女の愛を描いた物語でしょうか・・・。「無垢」の愛、「無垢」の心、「無垢」の芸を探りながら読み終えました。読後、桜木ワールドの余韻がずっと後を引きました。読み手に応じて幾通りもの感慨が準備されてる物語だと思います!
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澄みきってて、魚も棲めない水を思わせる瞳ってすごい表現。
純香のような人には脅威を感じる。
自由さが羨ましく、妬ましく、悪意がないゆえに傷つけられ、自分の薄暗い感情があぶり出されていく。
書道教室の男の子の気持ちが解る気がして、とても可哀想で辛かった。
登場人物たちが罪悪感まみれで息が詰まる。
みんなはみ出せなくて、自分を守りながら生きている。 -
★気持ちの襞に入ってきすぎる★書家の夫、教師の妻、図書館長、立場を替えて語る思いがそれぞれに痛切すぎてつらいほど。特に夫の母親を巡るくだりはきつい。初めて読んだ著者の小説だが、実際に目にした北海道の景色とあいまって素晴らしい。北海道の特徴は寒さだが、それよりも実は湿度だと思っていて、札幌の乾燥と釧路の湿気はその最たるものだろう。それが伝わってくる。
さらに沁みたのは、本物を判断する力はあってもそれを表現できない書家のジレンマ。それも他人に無意識に本物を生み出されてはたまらない。何が本物か、という疑問は常にあるが、本物の評価基準が分からない自分にとってみても、これは生きづらい。絶対音感があっても譜面どおりに歌えない人もそうなのだろうか。 -
書家を夫に持つ主人公が図書館長として赴任してきた男とその妹とのかかわりの中で淡々とした日常から一歩踏み出してしまいそうになる物語。恋が主題なのだろうが、話の根底に無垢な妹の存在と北の寒さが感じられる。登場人物の心情がさまざまな言葉で語られ、秀逸である。書道についても深い取材を基に書かれており、結末は驚きを隠せなかった。
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登場人物の内面の独白が、とてつもなく切れ味がある。
それだけに、純香の無垢さがより際立ってしまう。
書道の世界はよくわからないものだけれども、
ラストシーンの種明かしは、とてもわかりやすい。