- Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103284116
感想・レビュー・書評
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Mr.電子書籍の異名をとる、萩野正昭氏による文字通りの奮戦記。ジャーナリストの視点ではなく、実業として電子書籍に取り組んできた方によるノンフィクションだけに、全編を通して臨場感や必死さが溢れ出ている。おそらく著者にとって今年は、1992年にボイジャー・ジャパン(現・ボイジャー)へ転職して以来、「今年こそ!」と思い続けた”19回目の電子書籍元年”ではないだろうか。そんな愛憎入り交じる著者の思いは、下記の一文に集約される。「お前らに電子書籍の一体何がわかるのか。」
◆自分の視点を持つことの重要性
冒頭、同時多発テロの際、崩壊するビルではなく、その瞬間を見る市民の表情を写した写真の話を題材に、自分の視点を持つことの大切さを訴える。著者自身、レーザーディスクの可能性を模索しているうちに、電子書籍の原型を見い出したという経験を持つ。そこへ導いた独自の視点とは、レーザーディスクを”見る側が時間をコントロールできるメディア”と見立てたこと。出版社の人でもなく、ハード機器メーカーの人でもない著者が、電子書籍の道を切り拓いてこれた要因はここにある。
◆著者の主張する電子書籍の理念
・必要性が本を生み出す
電子書籍によって、売れない本でも出せるということは、ある人々にとっては切実な「必要性」をすくいとる力をもっている。本来電子書籍とは、小さなものののためのメディアである。
・「本」ではなく「読む」を送る
言葉を一定の形式に固定して残すことが本の役割。しかし電子書籍の場合、「読む」ということだけに拘り、形は読み手が再構築できるようにすることが、新しい価値を生み出す。
電子出版を文化として育んでいくためには、最先端の技術に翻弄されたり、巨大プラットフォームによる囲い込みに屈したりせず、「残す」という課題と向き合うことが一番大切なことである。
そんな著者の理念こそ、残していかなければならない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
荻野さんは何事にも本気に一途にトライしてきた人
法学部を出ながら東映の映画作りに加わり
パイオニアでレーザーディスクに関わり
アメリカのボブスタインと気が合い
彼が持つボイジャー社と出会って
ニホン社を起こすことに発展する
それ以後の20年というもの
電子書籍という媒体を使うことで
広く細かく発言を汲み取ることに携わってきたし
本を機械的に音声化することで聴覚障害者へと
本という媒体を広げてきた
早さを調節できて無感情で読み上げることで
文字そのままを色の付かない状態で提供できる
又webにつなぐことで本の裏側にある膨大な資料や
歴史にワンクリックでリンクすることができる
現状ではドットブックという日本語用の
電子書籍のフォーマット形式に
閲覧ソフトのT-Timeを開発している
こらは電子書籍フォーマットの本命であるEPUBとも
相性が良いらしい
兎も角荻野さんは視野の広い信頼の置ける人物のようである -
ボイジャーの萩野さんの著作。90年代前半のCD-ROMの時代から近くて遠い存在としてお名前を聞いていたが、ようやく同じフィールドにたった。エクスパンドブックから今に至るまでのボイジャーの歴史と萩野さんの思いに触れられる。
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2010/11/23読了。
今年が電子書籍「元年」なら、その「紀元前」18年ごろから一貫して電子書籍に取り組んできた、萩野正昭氏の奮戦録。単なる回顧録ではなく、今の状況、それから電子書籍の未来のあるべき姿にまで触れた深い内容。ぐいぐい読ませる熱い文章。先人にして今なお現役で最前線。すごい人だ。
電子書籍をビジネスの手段としてしか考えない人が多い中、電子書籍をまず弱者の表現の手段と位置付け、マイクロソフトや松下の軍門に降らず、「貧格」と開き直って見せた萩野氏の姿勢の清々しいこと(社員の方たちは大変そうですが…)。電子書籍の書物としてのあり方に哲学を持って取り組んできたのは、業界の中でもたぶんこの人ぐらいのものじゃなかろうか。
電子書籍の仕事に携わる人の必読課題図書といってもいいくらいの本。わずか千数百円と数時間で、業界の大先輩の貴重な体験談が聞けるのだから安いものだと思う。
2011/6/25電子書籍版読了。電子化にあたって加筆された第七章「電子書籍元年を終えて」を読んだ。わずかな分量の加筆だが、この人にしか書けないことが書かれてあり、読んでよかった。