流跡

著者 :
  • 新潮社
3.13
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本棚登録 : 521
感想 : 100
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  • Amazon.co.jp ・本 (102ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103284611

感想・レビュー・書評

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  • 煌びやかな夢のような、一見脈絡のない、いつの時代とも判らない話が続く。読むうちに頭に浮かぶ景色がなんとも綺麗で、見とれてしまった。金魚いいなあ。

  • 分かる人にはすごい本なのだろう。

  • ひたすらにどこまでも言葉は硬質である。それでいて言葉を発する元となる思いはしなやかで、滞留するところがないようである。するすると、いや、ゆらゆらと、流れてゆくよう。その言葉の連なりを追いかけてゆくうちに、耳の奥の方から連続する半音階の旋律が聞こえてくるような気になる。幻聴? かすかに。しかし、振り払いようもなくそれは鳴り続ける。

    はたと、思いが覚醒する。音に言葉が寄り添う。「支那火事が消えるように/深いあおみどろの中に沈んでゆく」(草野心平「金魚」)ああ、その音が聞こえていたのか、と思い、目にしている言葉の磁力の強さに眩暈のような思いを覚える。

    頁を進めると、一変して硬質さの一端を担っていた画数の多い漢字が失せ、ひらがなが連続する。ふと前のめりになったような感覚を味わう。しかしそれで思いが柔らかくなるのかと言えば、そんなことは一切なく、そして言葉もまた変わらずに響きは頑なである。ただ字面だけは、陰影の強さを抑えていかにも取っ付きにくさを取り払ったかのように見える。押し込めば押し込めそうな気配と、なる。

    しかし、そこに、押し込んで入り込んだ先に、実体のようなものは果たしてあるのだろうか。水中に揺れる大琉金の尾をつかまえようとするように、触れようと手を差し伸ばしても、わずかな感触だけを残すのみ。およそみっしりとした、そして温もりを感じるようなものに、辿りつけるような気がしない。

    段落が改まる度、思いはその輪郭を思い切り削り落として、細い糸のようなものとなる。そしてそこからつながってゆくもの。それは連祷のようなもの。多少、大袈裟に言い換えてしまうならば、輪廻のようなつながりとも言ってしまえるようなもの。翻弄される。その思いが次第に強くなる。

    それでも、目にしている言葉の硬質さの裏側には、ひょっとして何も存在していないのでは、という訝しさがつきまとって離れない。と、突然、ある言葉の連なりの無意味さに突き当たる。『花崗岩に鑿の跡が筋だって残る石切り場の浜に、精錬所から出た鉱滓の鈍色が浜砂にまじってひろがる。採掘中にとりだされたナウマンゾウの化石といっしょに数千本は…』 そんな大型の化石がなぜに花崗岩の中に? 言葉の奏でる幻想的な音の重なりの中に酔ったような気分で浸っていた思考が急に先鋭化する。

    しかし、だからどうだというのだ。この言葉の連なりは実体を持たず、一人の人間の脳の中に湧き上がる祈りのようなものをただただ書き連ねたものであると、始めから解っていた筈ではないか、と自らの理性を叱りつけてみる。そこに実体があろうとなかろう、そんなことは途方もなく馬鹿げたこだわり、と再び思えるように理性を寝かしつける。

    それはまるで甘ったるい香りのする薄暗い部屋の中を漂う阿片の煙に毒されてゆくような。あるいは、濃い水草のみどりの中に静かに沈んでゆく金魚のあかを見送るような。もどかしさとしどけなさとが入り混じったような思い。そして、祷り。

  • 12/23
    ひたすら文字の流れに身を任せる。
    これはただ目を通しただけで、文字に乗っかってしまっただけかもしれない。
    最後に残るのは僕らが流れた跡。

  • 第20回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、最年少受賞作品。
    堀江敏幸さんが審査員だったそうですが、なるほど堀江さんが好きそうな文章。
    そしていかにもドゥマゴ賞取りそうなお話。

    朝日新聞の「ひと」欄で見たのだけれど、作者は25歳ですごい美人さん。
    天は二物を与えるのだなぁ。

  • 読了後、数時間して「流跡」という書名を手がかりに跡を辿る。流れ、すり抜け、拡散し、めぐる、記憶・眼前の景色・体。それを留めるはずの文字でさえも。地に吸い取られるも、煙となるも、さまざまだけど、楔を打つのは…。

    また読もう。堀江敏幸の名がこの本をこの本たらしめてしまった感じがある気がするけど、描かれてることはけっこう危険な気がする。

  • わからないことをわからないまま読むことを考える。わからないままで許されるのは文学の特権ではないかと考えてみたりもする。たとえばこの本が映像になってしまえば、なにかをわかってしまう可能性が高い。のではないか、と思う。なにがどうなっているのかわからないという不安をわかるために読む、ということ。さて、ここまででわからないと何回言ったでしょう。

    物語する主体がかぎりなく不安定で、今の人だろうか昔の人だろうか船頭なんだろうか家族のある男なのだろうか、不安定で不安なまま、追い打ちをかけるように唐突に「女になっていた。」ああ、わからない。

  • においやかな幻想的作品。
    ことばがみちみちてこぼれてゆく。
    日本語の限界と可能性を感じた。

    堀江先生選 ドゥマゴ 文学賞受賞作。

  • ヒロインも主人公もいなくて、ただするするとただ流れていく言葉の川。でもしっかりと選ばれた言葉で、何とも言えない心地よさです。著者は1984年生まれ!

  • 話題の朝吹真理子さんの本。
    とても文学的だった。一見読みずらそうにみえるが、実際読み進めるとそうでもない。すらすら読める。ゆらゆらと水の中を漂いながら読める。
    これはもう好みの問題になりそうですね。わたしは好きな感じではないけれど、この小説はすごいと思いました。

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著者プロフィール

1984年、東京生れ。2009年、「流跡」でデビュー。2010年、同作でドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、「きことわ」で芥川賞を受賞。

「2022年 『細野晴臣 夢十夜』 で使われていた紹介文から引用しています。」

朝吹真理子の作品

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