ぼくの住まい論

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103300120

作品紹介・あらすじ

執筆、稽古、宴会、寺子屋、安眠-やりたいことをかなえる「居場所」のつくり方とは?神戸の一隅、80坪の敷地に建った「凱風館」。「教育の奇跡」を信じ、次世代へ贈り物をするために、ウチダが考え抜いた住まいの思想的背景に迫る一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 凱風館では朝6時半から朝稽古が始まるらしい。
    ただ文章を読んでいるだけなのに、道場の空気の清々しさが伝わってくる。
    なんて気持ちのいい空間なんだろう。

    この本では凱風館建設に関わった人達と凱風館で過ごす人達のことがたくさんの写真とともに語られる。
    最初から最後まで全てのページから深い愛情を感じる。
    日本の林業、漆喰や瓦といった伝統技術の危機にも話が及び、「伝統的な技芸を次世代に伝えるのは国民的義務」という言葉にはただただ肯くのみ。

    そしていつしか話は教育論に‥。
    凱風館はまさに理想の学舎だ。

  •  内田センセイが「凱風館」を建てられた。「ぼくの住まい」とあるが、実は、「みんなの住まい」のようだ。1階は道場(能舞台付き)で、2階はリビング(宴会場+書斎)。道場はみんなの稽古場で、リビングは宴会場という開かれた発想がいい。さらに驚くべきことは、この道場を次世代に継承すべく、将来的には法人化まで見据えておられる。空間を開き、時間も開くという理論が「住まい」という形で具現化されているのは感動的というほかない。
     土地購入の経緯、建築家・画家・職人との出会い、木と土へのこだわり、林業への思いなど、この書物には「住まい」にまつわる哲学が凝縮されている。その哲学の極めつけは「住まい=アジール(避難所)」という考え方だ。確かに、人は弱い。困ったり、行き詰まったりした時には「帰ることのできる場所」「母港」が必要だ。そうした帰ることのできる場所としての「住まい」の重要性に気付かされる。内田センセイはレヴィナスの薫陶を受けた懐の深い思想家であることは今さらいうまでもないが、その思想を自然体であっさりと実践されている。
     だから、読み終わると『ぼくの住まい論』が、『ぼくのスマイル(smile)論』に思えて、思わず微笑んでしまった。

  • 文章も写真も大いに楽しみました。ハブとしての凱風館と教育論は何度も聞かされた言葉ですがロールモデルとして参考になります。もうすぐ実見するぞ。

  • 道場(能舞台つき)。。。凄い

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    「内田樹自邸兼道場(能舞台つき)「凱風館」。執筆、稽古、宴会、寺小屋、安眠――やりたいことをかなえる「居場所」のつくり方とは?
    家を建てて考えた──やりたいことをかなえる「居場所」とは? ──ぼくにとっての「日本の未来」の先駆的形態です。その不具合も、できの悪さも全部込みで──。神戸、80坪の敷地に建った自邸兼道場(付能舞台)「凱風館」。執筆、合気道稽古、宴会、寺子屋、安眠……。住まうことは生きること。「教育の奇跡」を信じ、次世代への贈り物とすべく考え抜かれた、ウチダ流住まいの思想的背景に迫る一冊。」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ほぼ日刊イトイ新聞で読みました」
      私もです!
      なので、光嶋裕介のドローイング集が出ると知った時に即登録しました(未だ実物は見ていませんが)...
      「ほぼ日刊イトイ新聞で読みました」
      私もです!
      なので、光嶋裕介のドローイング集が出ると知った時に即登録しました(未だ実物は見ていませんが)。
      2012/07/05
    • takanatsuさん
      「光嶋裕介のドローイング集」
      なんと、そんな本があるのですね!
      それは見てみたいです。
      「光嶋裕介のドローイング集」
      なんと、そんな本があるのですね!
      それは見てみたいです。
      2012/07/05
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      光嶋裕介の新刊が他にも出るので、読みたい本としてUPします。
      私は紙の上でチマチマ世界を作っているのですが、建築家さんの仕事は、誤魔化しがき...
      光嶋裕介の新刊が他にも出るので、読みたい本としてUPします。
      私は紙の上でチマチマ世界を作っているのですが、建築家さんの仕事は、誤魔化しがきかないでしょうから、その正確さに驚きを禁じ得ません。
      2012/07/06
  • 自分も、住宅は難しくても身の回りの物から国産品をなるべく使っていきたいと背中を押された。山だらけの日本から木こりがいなくなるなんて、悲しくて、恐ろしい。

    道場兼自宅を「牧師館」の様なものと評価していたが、牧師館は道場よりもはるかに牧師家族のプライベートが侵されやすいと思う。

  • さくっと面白かった。

    --以下引用---------


    別に相談に乗るとかいうわけじゃないんだけれど、彼女たち居の経年変化を定点観測してくれる「灯台守」みたいな人間がここにいるということを知るだけで、ずいいぶんほっとするみたいです

    親がこどもに言ったのは二つだけ。金なら貸すぞ、困ったらいつでも帰っておいで。そんなに甘やかすと自立の妨げになると苦言を言う人もいますけれど、ぼくはそれは違うと思う

    負け戦のときに上機嫌で、まわりを愉快にできる人間を僕は高く評価します

    寝室やキッチンといったプライベートな空間と、道場というパブリックな空間、そして接客や書き物、宴会の場となるセミパブリックなの空間の区別。

    パブリックな空間について。武道をたしなむ人ならわかると思いますが、道場に足を踏み入れた瞬間に体感が変化する。皮膚が泡立つような気持のよい緊張を感じる。道場というのはそういう特殊な空間です。体感が変化し、意識が変性する。そこで人々が質の高い稽古を重ねれば、それだけ道場そのものが空間として自重を持つようになる。稽古する人たちが発する質のいい波動が空気に練り込まれていくと、道場自体が場の力を持つようになる

    ですからよい道場は、ただそこに居るだけで、心身が洗われるように爽やかな気分になる

    ただし武道とか能のお稽古で使う場合に限ります。道場はただの空間ではありません。ハコ貸しすることはできません。落語の会に使いたいという申し出がありましたけれど、これはお断りしました。空間だけを切り取ってお貸しするというのはできないのです。道場は清浄であることを要求しますが、武道の稽古や稽古以外のことに使うと、空気が微妙に違和感をもたらす

    実際に道場に入れば、扉を開いた瞬間にここは空気が浄化されているとはっきりわかると思います。空気が澄んでゐて、粒子が細かい。よく掃き清められた神社の境内の空気

    個人道場のメリット。広い空間はあるけれど、勤行や礼拝以外には使わない。

    稽古で得た達成感と等量のプラスの感情が、道場の側にも残ります。

    笑顔の積層した空間は、つよいバリヤーを発揮します。

    外界がどれだけ過酷な環境であっても、学校の中ではこどもたちを手厚く保護されなければならない。

    宗教的聖域は逃れの町として機能してきた。。道場もまた逃れの町であるべき

    その人がどんな人間であるかは、稽古をしていればわかります。外形的な情報なんか副次的なものにすぎません、腹がすわっているか、背筋が通っているか、胆力があるか、肩の力が抜けているか、目の付け所が良いか、場における身の程をわきまえているか、そういうことはすぐにわかります。

    ふだんの社会生活では、人間がそのようような基準で人間的な力を考量されていません。もっと外形的、数値的なことで査定されている。人間を見られるということをあまりされていない

    潜在可能性を開花させようと願うなら、目先の利益をちらつかせたり、誘導したり、脅したりしてはいけない。

    いつでも帰っておいでと言って、すがりついてくる人はほぼいない。還る場所があるという支えが人間のパフォーマンスを向上させるから

  • 内田樹が、自宅兼道場をどういう考えで、どういうプロセスで建てたのか、を綴った本。

    全く自分も、武道をやって、道場を建てたくなる。

    建築材料については、国産材を使い、林業に対する言及があるのが嬉しい。

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  • エッセイ

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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