- Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103308614
作品紹介・あらすじ
『アフターダーク』の鏡に映った像の正体は?『1Q84』を読み解くキーワード「結婚の四位一体性」とは?神話的世界、そしてポストモダンの時代に生きる我々の姿を描き出す、ユング研究の第一人者による待望の小説論。
感想・レビュー・書評
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村上春樹のファンには勧めないけど、心理療法やユングに興味がある方ならそれなりに楽しめるかなと思います。
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村上文学を「夢テキストとして読み解く」との副題には心理学ド素人の私も大変興味を引かれ、手に取った。例えば、「ねじまき鳥クロニクル」における満州を巡るエピソードの中で、ソ連軍・モンゴル兵による「生きたまま川を剥ぐ」という拷問、および砂漠の井戸に突き落とすという「処刑」のシーンが出てくるが、これは実は文化人類学的に見れば「死と再生の儀式」に相当するとの視点など大変新鮮であった。
また、ユングによれば、結婚とは男の自我と女の無意識、及び女の自我と男の無意識との交差的関係である、らしいのだが、これを「1Q84」における天吾とふかえり、及び青豆と新興宗教「さきがけ」のリーダーとの関係に当てはめるくだりも興味深い。
一方、著者は、「相手や精霊と相互浸透していくような、境界のない前近代の時代とは違って、近代意識には禁止や分離があるのが決定的である。それによって、到達できない、あこがれる対象というのが境界の向こう側にできてくる(注:たとえば夏目漱石の「かなわぬ恋」に関する葛藤)」という指摘もしている。
この点については、例えばまさしく生霊が当然のように現世を行き交っている「源氏物語」においても「禁止や分離、それが生む憧れ」は重要なモチーフであるように思われ(例:源氏と藤壺との関係)、それらが前近代にはなかったかのような考え方には若干疑問も感じた。
ともあれ、最低限フロイトとユングの違いくらいはある程度理解してからのほうがもっと面白く読めるのだろうな、とは感じつつも刺激的な本であった。 -
ユング心理学の研究者が「1Q84」を読み解く。「1Q84」が春樹の中でも、人物の過去を詳細に書いている、ハッピーエンドに終わる独特の本だということ。スプートニクの恋人、めじまき島クロニコル、ハードボイルド・ワンダーランド、海辺のカフカ、1973年のピンボール、ダンス・ダンス、その他の作品の登場人物についての解説も詳しい。1Q84の主要4人物として、天吾、青豆、リーダー、ふかえりの4人の相姦!関係は興味深い。青豆の妊娠の理由がやっと納得できたように思う。聖なる界、人間界の交叉する四者関係がユングの鍵!頻出する10歳という年齢もユングに関係があるとの説明も興味深い。春樹自身「ノルウェイの森」は、映画化されて初めてこれは女性を描いていると気づいたという!示唆に富んでいる。確かに「僕」という存在は主人公でも、自我でもなく、空気のような存在であることが多い。
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<閲覧スタッフより>
村上春樹作品を主に、文学作品の登場人物やストーリーが分析されています。文学の深い魅力を探してみませんか?
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所在記号:910.268||ムラ
資料番号:10212384
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途中まで著者は河合隼雄だと思い込んでいた。途中であれ?と気づいたが、あとで調べたら息子さんだった。
出てくる村上本のほとんどを読んでいるので、ふーんこういう読み方があるのか、と興味をひかれつつ。とはいえ、何を言っているのか半分くらいはわからない。まあ、村上春樹の小説もよくわからないからちょうどいいのかもしれない。ぼく自身は、村上春樹の小説は音楽みたいなものであって(特にジャズに似てる)、解釈したり分析したりしても、読者が人間的に成長したり、新しい力に目覚めたりするもんじゃないと思っている。
こういう深読み本って、著者が「いや、別にそんな意図はなかったんだけど」と言い出したらどうすんのかな、と思いつつ。 -
著者の河合俊雄は、河合隼雄(故人)の息子とのこと。親子でユング心理学の研究者だと。河合隼雄は『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』という村上春樹との共著もある。この中で、村上春樹は河合隼雄との対話のことを非常に生産的であったというように語っていたように思う。まだ20世紀の終わりの話だ。この本に取上げられた『1Q84』も『アフターダーク』、『海辺のカフカ』も『スプートニクの恋人』も書き上げられていない。息子として、同じ研究者として、その先を埋めようとする意識もあったのかもしれない。
本書は、村上春樹の作品、特に『1Q84』を心理学的方法によって読み解いていくというものである。
「心理学とは、物語に関して言うと、読み終わってから「なんだろう」という問いに答えるものと言えよう。物語を読んでいて暗黙のうちに体験されているものを、自覚的に捉えるのが心理学的作業なのである」(No.139)
ユングを援用した読み解きとして、『1Q84』の冒頭で高速道路わきの非常階段を降りるという垂直的な移動によって別の現実に入ることを地下2階ともよぶ集合的無意識の次元への移動と読み替えてみるところや青豆と天吾に加えて、ふかえりとリーダーを交えた結婚の四位一体として捉えるあたりであろう。
読後感として、村上春樹の小説は、心理学とは相性がよいものだろう。村上春樹自身も物語と夢とを譬えることもある。そうであったとしても、ああなるほど面白い、という感想を持つことはなかった。一冊まるごと小説の物語分析というのはなかなかに難しいものなのかもしれない。第一、ユング心理学自体をあまり知らないというのもあったのかもしれない。
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Kindle WhitePaperでの最初の読了本。 -
やっぱり村上春樹はこの角度から読むと面白い。
書くことへの葛藤や苦しみ、自己存在の証明への第一歩を感じることができる。
書くことは苦しいけれど、
それでも書かないことには自分を見つけることができない。 -
興味深い事柄が多かった。特にこの本を読んだ後に自分が見た夢が面白かった。
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村上は、僕らは一つの世界、この世界に生きていますが、しかし、その近辺には別の世界がいくつも存在しているのだと思う。もしも、あなたが本当に望むから壁を通り抜けて、別の世界に入っていくころができるでしょう。ある意味、現実から自分を解放することは可能なんですよ。それこそ、僕が自分の本の中で試みていることです、と語っている。
村上の作品では多くの登場人物が孤独に生きている。誰ともつながらず、生きている。人の心に必ず対立するものがあるとしたように、バラバラであることや孤独であることは、パートナーというようなふつうの人間関係によるつながりではなくても、つながろうという動きを生み出す。