岩塩の女王

著者 :
  • 新潮社
3.09
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本棚登録 : 68
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103313823

作品紹介・あらすじ

岩塩、なんと崇高な、魅惑的な鉱物であろう――作家生活十年の記念碑的小説集。芥川賞受賞の鮮烈なデビュー作から、さらに千変万化する緻密な小説世界。日常と地続きの異界へ。自分の内なる非日常空間へ。探索は果てなく進み行く。〈これが今の僕の「身体」である〉。六年ぶりの小説集。「無声抄」「岩塩の女王」「修那羅」「ある平衡」「幻聴譜」「蝸牛邸」―― 典雅な言葉の結晶が異空間を創出する六篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 表題作『岩塩の女王』を含む6つの作品からなる短編集。各作品はそれぞれ独立しており統一されたテーマはない。というか、あとがきによると、むしろ「統一されていないこと」自体がテーマであるようだ。内容もさることながら、同一人物がかくも自在に複数の文体を操れるものなのかと驚いた。作者が膨大な読書量を誇る評論家でもあることを、のちにwikipediaで知った。

    ◉無声抄
    発されるべき声は、書かれるべき文字は、どこへ消えてしまったのか。作家である〈かれ〉は書けない日々に焦りを募らせ、紡がれるべき言葉を探して懊悩する。…過敏な神経が織りなす狂気を描いた私小説的作品。

    ◉岩塩の女王
    舞台は敢えて何処とも決めまい、険しい山路をのぼる青年の名はハインリッヒ、少年期を過ぎて未だ精通を知らぬ彼がひとり向かうはいにしえより山に棲まうと人の云う岩塩の女王なる魔性のもと、もとより死を覚悟して。…どこか森鴎外を思わせるドイツ浪漫主義風の小説。

    ◉修那羅
    時は冬、信州が山あいの里に、さまよえる三十路過ぎの男あり。名を、菅原士郎、下町歌舞伎の名女形なれば、その美貌に焦がれたすえに、焦がれ死にした直弟子の、供養を兼ねた峠越え。…泉鏡花ふうの道具立てで綴られる幻想譚。

    ◉ある平衡
    互いに仕事は忙しいけれど、おれたちは上手くやっている。カフェでデートしたり、珈琲豆にこだわったり。なのに何故、こんな気持ちになるのだろう…。結婚生活にひそむ不安を現代的な筆致で描いた短編。

    ◉幻聴譜
    男が求めるのは未だかつて聴いたことのない音。聴いたものは死ぬという幻の音を求めて男はさまよう。十六孔のハーモニカ。廃墟と化した神殿。スコットランドの王。永劫回帰。…メーテルリンクの暗黒版物語を前衛的な文体で。

    ◉蝸牛邸
    生も死もなく、できるだけ早く人に忘れ去られる生き方をしたい――。京都の名家・岩泉家の若き女当主・津由子は、屋敷の奥深くでひとり、渦を巻く迷宮の夢を見る。…川端康成を彷彿とさせる日本情緒と、ひそやかな倒錯の世界。

    主題も文体も異なる6つの作品に、唯一共通するのは強烈な美意識。等身大の現実世界を平易な口語文で記述するのが小説のスタンダードとなって久しいが、諏訪氏はトレンドにあえて背を向けているかのようだ。個人的には『幻聴譜』と『蝸牛邸』が特に好みだった。どちらも眩暈を誘発されるような作品、ただし前者は浮遊性、後者は回転性の違いはあるが…。

    新作が楽しみな作家がまたひとり増えた。

  • 短編集。「無声抄」、「蝸牛邸」は京都の地名が出てくる。
    失語症のような感覚、言葉の不安さを感じさせるような、独特な世界観がある。
    ちょっと難解なときもあるけど…

  • いい とか
    いや とかじゃなく。
    10年ぶりの新刊でも、諏訪さんらしい感じも少なく。
    あとがきを読んで分かったり。
    読んでいる間中、幻惑され続ける。

  • 「無声抄」
    「岩塩の女王」★
    「修那羅」★
    「ある平衡」
    「幻聴譜」★
    「蝸牛邸」

    表題作は一見ドイツ文芸っぽいが、親知らずが無数に転がる岩山、という書き出しはいきなり、肉体と無機物にこだわる著者の真骨頂。
    それがさらに「親さえ知らず」という終盤に至り、急激に賽の河原だとか地獄の業だとか国境を飛び越えてきてびっくり。
    続く「修那羅」はまるで泉鏡花。
    時代もそうかと思いきや、唐突にメールやプロデューサーやと出てきて、おお、現代にこの小説が可能だとは。
    もっと読み込みたいのは「幻聴譜」。

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著者プロフィール

諏訪 哲史(すわ・てつし):1969年、愛知県生まれ。作家。國學院大學文学部で種村季弘に学ぶ。「アサッテの人」で群像新人文学賞・芥川賞を受賞。『種村季弘傑作撰Ⅰ・Ⅱ』(国書刊行会)を編む。

「2024年 『種村季弘コレクション 驚異の函』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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