精神科医である著者が書いた精神科の病棟を舞台にした小説。
細かい個々の話が重なって、ひとつの大きな話になる。
病院の風景や患者の暮らしや医療の問題は面白い。
ストーリーも先が読めるけど一応面白い。
けどヒロインの扱いだとか、色々モヤモヤする。
1994年の出版ってことを割り引いて考えるべきとはいえ。
「島崎さん」(由紀ちゃんではない)が一貫して「女性」として扱われているのが気になる。
いや女性なんだけども中学生はもっと子供扱いされるべきだ。
子供扱いというと言葉が悪いかもしれないけれど、周囲の大人はもっと大人として接しなきゃだめだろと。
まだ保護されるべき年齢なんだから。
そんでこのこの良い子ぶりは、気持よく同情できる便利で美しい被害者像だ。
しかも中高年男性に夢を与えてくれるきもちわるい美しさ。
あんなトラウマ発生現場(レイプされた場所とセカンドレイプされた場所)に勤めたがるか?
中高年も検閲前提の手紙で「守ろうとした」はずのプライバシーを平気で書いちゃうし。
冒頭の産婦人科はかなりダメ医院だと思った。
患者を見て驚いて見せたり、親身な顔で話も聞かずに説教をかましたり。一人称が「先生」なのも嫌だ。
ダメ医者として描写されているならこれでもかまわない。
最初は鈍い人として書かれているんだと思った。
けれど、先生さまたちの一人称がことごとく「先生」だったり、親しみの表現だけじゃなく敬語を省略していたり、そんな場所に女の子が喜んで勤めているところをみると、著者がナチュラルにパターナリズムに漬かってるようだ。
死刑にウソ臭さを感じるけれど実際のところはよくわからないからそこは保留。
うーん明治なりたてくらいならともかく、それはないんじゃないかなあ…
気質の人とメンタルの人は良い子だけど、覚醒剤中毒の元やくざは迷惑な悪人という区分けは、なんだか「人格障害お断り」に通じるものがある。
まあ嫌なんだろうけどさ。扱いやすさで良い患者悪い患者をわけるのは医療としてよくない。
古い本ってことを考えなければダメなんだけど、当時の常識やら倫理やらにいやーな思いが残る。
自分の領域のリアルさと、それ以外の部分のケレンのバランスが悪い。