沙林 偽りの王国

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  • 新潮社
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (570ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103314257

感想・レビュー・書評

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  • 水+日+月 2021/03/29 #072 帚木蓬生『沙林 偽りの王国』「オウム真理教事件」の全体像を医療従事者の視点から描き尽くした巨編 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/mailmag/mikazuki/mkz072_210329.html

    帚木蓬生 『沙林 偽りの王国』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/331425/?mkz072_210329

  •  一人の神経内科医の眼を通してオウム真理教による前代未聞な犯罪を、今この時代に、改めて展望するドキュメントである。地下鉄サリンを知らない人にも伝えたいという作家の想いが伝わる力作。

     敢えて帚木蓬生が、自分の医師として作家としての所見を、モデルとなる医師の研究(巻末の参考文献リストが圧巻!)に重ね合わせ、現代史に黒い爪痕を残したオウム真理教の様々な事件を纏めたものである。

     全体に記録としての執筆の意図か感じられるため、小説というエンターテインメント性からは遠のいたイメージで、かつ医学者・科学者としての分析が加えられたページは普通の小説読者としては腰が引ける。難解な記述は飛ばし読みしても構わないと思う。他に、当時の新聞報道や、裁判記録などにも触れる部分など、今、改めて全貌を多角的に振り返る興味が読者を駆り立てることで、意外に本作はスピーディに読み進んでしまう。

     およそ四半世紀前、日本ばかりか世界をも騒然とさせた地下鉄サリン事件。まるで全容の見えなかった松本サリンと併せて、あの事件は、当時を知る者の個人史にすら影を落とすようなショッキングな出来事であったと思う。未解決の国松警察庁長官狙撃事件を含め、ほとんどの教団関係者の死刑を急いでしまったことで、事件の一部が意図的に闇に葬られた疑いも強く残る。政治や日本の構図に現在も眠る闇、という地点にまで繋がる何ものかにすら、今、この時、このコロナ禍の時代にも、疑心を懐かざるを得なくなる。

     実は松本&地下鉄サリン事件対策に、ぼくは実は仕事で関わったことがある。本書は改めて当時の世情や危機管理状況を振り返る良い機会となったため、夢中になって読んだ次第。

     地下鉄サリン事件を扱った本としては、村上春樹の『アンダーグラウンド』と『アフター・ダーク』が忘れ難い。二冊とも、事件に巻き込まれた多数の人たちのインタビューで構成された本だったが、今回の帚木蓬生作品は、あくまで医学者としての眼で全体を俯瞰し、総体的・歴史的にオウム真理教がやったことの全体像を見直す形で、本書を綴っている。この事件は、関わった人の数や時間だけでも相当なボリュームを持つゆえに、両作家にとってのどの作品も相当の集中力と準備時間を窺わせる苦心の作となっているように思う。

     村上春樹が人間のもたらした闇を、帚木蓬生は化学テロという歴史の汚点の解明者として、またどちらも最後には人間の命、という一点に焦点を絞っているからこそ、犠牲者たちの上に連ねられた文章の重みがあまりに痛々しく、そして凄まじい。この事件を知らない世代にも、語り継がれるべき「時代の記録」として、本書もまた重要な意味合いを、今後長年月に渡り、持してゆくことになるだろう。

  • 小説というより「記録」ですね。
    ですが、この作業は誰かがやらねばならない仕事だったのかもしれない。帚木さん、お疲れ様でした。
    そういえば、この中にも紹介されている731部隊。これをテーマにした森村誠一著「悪魔の飽食」は壮絶だったなあ。

  • 医療関係者を中心にオウム真理教の事件を、洗い直している。面白いんだが、医学的な専門用語がなかなか入って来ない。後半の裁判の部分の方が、個人的には興味を惹かれた。

  • オウム真理教松本智津夫からの洗脳によるテロ犯罪の数々。サリンテロにより現在までも後遺症で苦しまわれている被害者。過去の事件ではない。また起こる可能性がある。洗脳による怖さを肌に感じる物語。サリンテロから始まった犯行の全貌を読み解く。オウム真理教の実態に迫った物語。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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