暗幕のゲルニカ

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 523
  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103317524

作品紹介・あらすじ

一枚の絵が、戦争を止める。私は信じる、絵画の力を。手に汗握るアートサスペンス! 反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画、ピカソの〈ゲルニカ〉。国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、突然姿を消した―― 誰が〈ゲルニカ〉を隠したのか? ベストセラー『楽園のカンヴァス』から4年。現代のニューヨーク、スペインと大戦前のパリが交錯する、知的スリルにあふれた長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • "芸術は、決して飾りではない。それは戦争やテロリズムや暴力と闘う武器なのだ。"

    ピカソというと、子供の頃、「その絵ピカソみたいだね」(訳:下手で意味わかんない)という揶揄いのネタとして使われませんでしたか。残念ながら私のアートに対する感性はその頃からたいして成長していなのだけど、この作品は、ピカソの絵の魔力のような強い力を、文章をもって伝えてくる。そして読者はいつの間にかピカソに取り込まれていく。
    めくるめく過去と現在の交錯、そしてラストに向けての息つく暇のない展開。圧巻でした。

    アートの門外漢でも、誰もが知っているこのあまりにも有名な名画、ピカソの『ゲルニカ』。
    マハさんのインタビューによると、この作品は、物語の根幹を成す10%の史実でフレームを固め、その上に90%のフィクションを載せるスタイルを取っているという。この10%を作り込むのに、ものすごい労力と時間を費やしており、いつか書きたいと思ってから30年かかっているとか。全編からマハさんのその心意気が伝わってくる。
    執筆の直接の契機となったのは、タイトルでもあり、物語が動くきっかけともなった「暗幕のゲルニカ」事件である。
    2003年、国連本部に飾られた『ゲルニカ』のタペストリーが、イラクを攻撃すると宣言するアメリカ国務長官の背後で、何者かにより暗幕にかけられていた。誰が、一体どうしてー。しかし図らずも、このゲルニカ暗幕事件は、作品の持つ強いメッセージを世界中に伝えることになる。

    過去パートでは、ピカソの恋人ドラ・マールの視点で、スペインの反乱軍によるゲルニカ空爆を機としてピカソが『ゲルニカ』を制作し、戦争の激化と共に『ゲルニカ』をアメリカに「亡命」させるまで。
    そして、現在パートでは、MoMAキュレーター八神瑤子の視点で綴られる。瑤子は9.11で夫を亡くし、9.11以降戦争へと突き進むアメリカで、ピカソの戦争展を企画している。その展覧会の目玉としてどうにか『ゲルニカ』を借り出そうと交渉を試みるが、『ゲルニカ』にはその保存状態の他に、貸し出せない理由があった。瑤子は、『ゲルニカ』を巡る陰謀に巻き込まれていく。

    "この作品は誰のものでもない。私たちのものだ。"

    瑤子の強い意志に、心揺さぶられた。
    写真でしか見たことないから知らなかったけれど、『ゲルニカ』の実物は、縦3.5メートル、横8メートルの超大作。そして色のないモノクロームな世界。想像するだけで圧倒される。
    楽園のカンヴァスとは姉妹作品なのだとか。だいぶ前なので忘れていたけれど、こちらも是非もう一度読み直したい。

  • 何年か前、普通にランチをしていた時のことです。
    ある人がこんなことを言ったのを思い出しました。
    「いろいろ嫌なこともあるけど、家に帰れば温かいお布団で寝られる。
    夜中に銃で撃たれる心配しなくていい。それだけで充分幸せなんだよね、私たち」
    この視点には、ちょっとした衝撃を受けました。

    この作品では、ふたつの時間と場所が交互に描かれています。
    ひとつは、1937年のパリから。
    ピカソの祖国スペインの町ゲルニカが、ナチス軍によって無差別空爆を受けました。
    それに抗議して、ピカソが「ゲルニカ」を制作した、という経緯から始まります。

    もうひとつは、2001年9月11日のニューヨーク。
    アメリカ同時多発テロ事件が起こった日から。
    そして、2年後の2003年、アメリカによるイラク空爆前夜のこと。
    ニューヨークの国連本部で記者会見をした国務長官。
    その背後にあるはずの「ゲルニカ」のタペストリーが、暗幕で隠されていました。
    作品の中では、誰がやったのかについての記述がありますが、
    実際はわかっていないようです。
    隠したことでかえってニュースになり、メッセージが世界中に伝わることになった
    というのは、皮肉なことなのでしょうか。
    それとも、メッセージを伝えるため、誰かが敢えてやったことなのでしょうか。
    想像すると興味深いです。

    作品に出てくる人物は、すべて、とても魅力的です。
    ピカソもさることながら、現代バージョンで登場するMoMAのキュレーター
    八神瑤子が、なんともしなやかで強いのです。

    ところで、この作品では「ゲルニカ」だけでなく、
    「鳩」の絵も重要な役割を果たします。
    ピカソの「ゲルニカ」と「鳩」、対照的な絵です。
    でも、このふたつは共鳴し合い、ひとつに繋がって
    大切なことを私たちに訴えかけてきます。

  • 2020/12/08読了
    #原田マハ作品

    マドリッドのレイナ・ソフィアに在り
    誰も動かすことのできない
    反戦のシンボル、ピカソ作「ゲルニカ」。
    名画を巡る情熱と欲望のストーリー。
    国内と違い、海外ではアートが日常に
    根ざしているんだなぁと改めて思う。

  • 最近読んだ小説の中で最も衝撃的でした。

    1937年からのパリと2001年9月11日からのニューヨークが舞台です。
    まず『暗幕のゲルニカ』というタイトルはどういう意味だろうと考えながら読み始めました。
    パリのパートでは、世界一著名な芸術家であるピカソと、写真家のドラの芸術家同士の恋愛も面白く、名前だけしか知らなかった、ピカソという人間を初めて知った気がしました。
    2001年からのニューヨークのパートでは同時多発テロでスペイン人の夫を失ったMOMAのキュレーターの八神瑤子が活躍します。
    そして、私も、三分の一程、読み進めたところで、この作品の著者は、この作品で訴えたかったことは、何なのかと考えだしました。読みながら、本の表紙のゲルニカの絵は何度も見直しました。
    緊迫したゲルニカの争奪戦を読み、絵画が、世界にこのような大きな影響を与えうるものだと初めて知りました。
    人類の至宝ともいうべき文化財が政争の具にされてしまっていることも。
    「もうやめろ、とピカソは叫んでいる。殺すな。戦争をするな。負の連鎖を断ち切れ。取り返しがつかなくなる前に」「ピカソが、私たちが、戦っている敵は、戦争そのものなんだ」
    エンターテインメントとしても、大変面白い読み物でしたが、読んでいてリアルな緊迫感がありました。


    以下、完全にネタバレですのでご注意を。

    作者はゲルニカを以下のように描写しています。
    「そこには爆撃機も、戦車も銃も描かれていない。累々たる死体も、破裂した内臓も、血の一滴も、どこにも見当たらない。それでいて、それは、人類が初めて体験した「空爆」の瞬間の再現であり、悲惨極まりない戦争の記録であり、生々しい殺戮の記憶であった。悲しみと怒りに満ちた地獄の黙示録であった」
    この作品を読んだことは、忘れたくないと思いました。

    • まことさん
      暗幕のゲルニカ事件は実際に起きた事実だったのですね!私も読みながら、これは事実なのかフィクションなのかがとても、気になりました。八神瑤子のよ...
      暗幕のゲルニカ事件は実際に起きた事実だったのですね!私も読みながら、これは事実なのかフィクションなのかがとても、気になりました。八神瑤子のような方もいらしたのでしょうかね。
      私にもこの作品のメッセージは強く感じられました。
      マハさんのアート系の作品、もっと読みたい!と思いました。
      コメント、どうもありがとうございました。
      とても嬉しかったです!
      2019/04/23
  • 美術作品には関心が薄いので美術館に行っても強烈にメッセージが伝わって来たことがない。
    ピカソは気持ち悪さを秘めた奇抜な絵を描く画家という程度の認識しか持っていなかった。
    <ゲルニカ>に関しては作品自体を知らなかった。
    だが、この本を読む前と後では、<ゲルニカ>から受ける印象とピカソに対する感情が全く違っている。
    音楽でも体制への批判や反戦のメッセージを込めた作品があり、その曲が生み出された背景を知っているか否かで聴く耳が変わる。
    本書はフィクションとノンフィクションを融合してできた作品であり、美術がよくわからない自分には作品の解説書より役に立ったに違いない。
    ナチス将校の「この絵を描いたのはお前か?」に返すピカソの一言がたまらない。
    本書からは、戦争やテロのない世界になって欲しいという気持ちがひしひしと伝わってきた。

  • ピカソの名作「ゲルニカ」を題材にした作品。
    作者もそうだった、MoMA(ニューヨーク現代美術館)のキュレーターである日本人女性がヒロイン。

    1930年代、スペインのゲルニカが爆撃されました。
    ピカソはスペイン生まれ。義憤を感じて、大作に取り組むのです。
    当時ピカソの愛人だった写真家ドラ・マールは、制作現場の写真を撮り続けます。
    ピカソにもドラにも存在感があり、このあたりのエピソードはとても面白かったです。

    そして、2001年、9.11。
    2003年、MoMAに勤める瑤子は、戦争やテロに負けないというメッセージを改めて発信するため、ゲルニカを展覧会に出品してもらいたいと願います。
    ゲルニカはスペインの至宝として、長年貸し出しはされていないため、交渉は難航しますが。
    美術館の動きは、さすがリアルです。
    現実離れしているぐらい華やかな~有力なパトロンも、意外と実在しているのかと思ったり。

    ヒロインの行動にやや謎があり、クライマックスに向かうあたりがどうもこなれていないので、感情移入できなくなってしまいました。
    この展開、ちょっと肩に力が入っている‥?
    構成や結末で、メッセージは伝わります。

  • 本棚で埃をかぶっていた本書。表紙の絵を見てから、恐らく重い感情と向き合うことになるのだろうと遠ざけていたから。

    先月からのウクライナの状況を毎日TVで見るにつけ、この本を開くのは今なのかもしれない、思い立ったら、あっという間に2つの時代に引き込まれてしまった。

    ピカソの描いたゲルニカの訴えたかったことは何か、その強いメッセージ性と、2人の女性を通して語られるアートへの情熱に魅了される作品でした。

  • 読み終わった瞬間「白い鳩」が飛び立ちました。

    右手を握りしめ「やったぞ」と心のなかで叫ばずにはいられない。

    ピカソの作品の中ではこの「ゲルニカ」はとても有名な作品なんでしょうが、実は私、初めて知りました(-_-;)
    しかーし、この本を読んでピカソが描いたこの巨大な絵は私たちに何を伝えたかったのか、涙がでるほど理解しました。
    時代が違えどもこの「ゲルニカ」があるかぎり、武器を持たずとも戦争を止めることができるかもしれない。そう願いたい。

    一つ、いや、二つ気になるのが、「赤い涙」は着けたのかな?さすがな着けないか。それとマイテはどうなったのかな?どこかでエイコの演説を聴いてたかな…

  • 私の40年近く前の就活(なんて言葉は当時無かったが)において、ある会社(一般事務)の1次筆記試験は、わら半紙1枚に10個の単語が並んでいて、それの解説を記述するというものだった。
    マス目無しなので1語につき2〜3行スペースくらいだった。
    アホな私は1つも書けなかったので、こうしていまだに記憶に残っている。
    10個のお題の内の3個だけ、今も覚えている。
    【ゲルニカ】【土井たか子】【北政所】だった。
    【北政所】は記憶違いかもしれないが。

    白紙解答で撃沈して帰宅後【ゲルニカ】も【土井たか子】も聞いたことはあるが何だ?と思った私は調べた。
    インターネットなんて無かった時代、『現代用語の基礎知識』でだったと思う。
    だからそこで得た解答も、ほんの数行のものだった。

    この個人的出来事で【ゲルニカ】という単語と、【ゲルニカ】とはピカソの絵だということだけは知り、たぶん『現代用語の基礎知識』には絵までは載っていなかったと思うので、その後なんらかの形で【ゲルニカ】の絵がこれだというところまでは知ることになった。
    私の中で【ゲルニカ】とは、とにかく絵と題名が一致しているだけで、反戦の絵だということも、地名であることも、スペイン内戦の件も、ずっとニューヨークに有って42年経ってスペインに還ったという話も、国連のタペストリーの暗幕の件も、何もかも全く知らずに今日に至る。

    30年間積読状態の絵画週刊誌の中にピカソも有るが、当時買って安心、本当の積読で読んでいないからだ。

    だから本書で【ゲルニカ】について、意味や歴史的背景や展示場所を、就活から40年近く経って(もはや終活の年代になって)やっと知れたことは良かった。
    同時に、今は便利なインターネットで関連事項も調べまくったし。

    本書も「題材は」面白い。
    虚実取り混ぜてあり、面白い…のではあるが、いかにせん1冊の中に何度も何度も同じことの繰り返しが多過ぎる。
    「それ、さっきも書いてあった」「もうわかったよ」と言いたくなる。
    その繰り返し描写が無ければ厚さ半分になるんじゃないかと思うくらい。

    それと主人公のヤガミヨーコについて。
    ピカソがこの絵に込めた意味や思いを理解し尽くしているのなら、逆に、何故そうまでして「自分の企画した展覧会に、きっと展示する」ことに固執、ゴリ押しするのだろう。
    そこに共感できない。

    『たゆたえども沈まず』に書いた感想もコピペしておこう。
    何故なら本書も同じだから。

    『やっと読み終わった。
    読んでも読んでも内容もページも進まない感じがした。
    各単元の中で、微妙に日にちと出来事が行きつ戻りつを繰り返しているせいかもしれない。
    実際にはページが少しずつ進んでいくのだが、なんだか本当に読んでも読んでも進まない気がして、結構しんどかった。』

  • 絵画に疎い私にも原田マハさんの数々の作品を通して色んな画家や作品や背景や美術館などの拙い知識を素人ながらに持つことに繋がりました♪
    この本でもかのピカソ本人や纏わる人々の群像と背景、主役たる作品「ゲルニカ」の誕生と意義 さらにはゲルニカを巡って展開する息詰まるストーリーと結末。
    画家と絵画作品に関する話に今回は事件性を加味して読み物としての面白さも追った作品になっていますね。

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著者プロフィール

原田マハ小説家。1962年東京生まれ。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。2005年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。2012年『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞、R-40本屋さん大賞などを受賞、ベストセラーに。2016年『暗幕のゲルニカ』がR-40本屋さん大賞、2017年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞。その他の作品に『本日は、お日柄もよく』『ジヴェルニーの食卓』『デトロイト美術館の奇跡』『たゆたえども沈まず』『常設展示室』『風神雷神』など多数。ヤマザキマリ東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞 受賞、手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

「2022年 『妄想美術館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

原田マハの作品

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