暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出

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  • 新潮社
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  • / ISBN・EAN: 9784103319610

作品紹介・あらすじ

常磐線の車内で被災した25歳の女性作家。そこへ襲った津波、そして原発事故-。情報も食べ物も帰るすべもないまま、死を覚悟して被災地をさまよった5日間。「あの日」からの福島を描くノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 数年前、読み応えのある短編を次々と発表していた彩瀬さん。その作品が収録されたアンソロジーを読むたび、彩瀬さん名義の本が早く出ないかなと心待ちにしていた。その一冊目が小説ではなく、東日本大震災の被災体験を綴ったルポということに驚いたが、これは絶対読まなければと思っていた。だけどなかなかすぐに手に取る勇気がなかった。
    まだまだ自分の中で震災当日の記憶は生々しく、風化してほしくないと強く思う一方で、蓋をしてしまいたいという矛盾した気持ちも抱えていたから。
    3.11を前にし、ようやく読んでみようと図書館から借りてみた。あの日、東北旅行中に福島の新地で被災した彩瀬さんは、地震の後津波に遭遇する。淡々と、克明に語られる揺れと津波の描写がぞっとするほど恐ろしく、当時の記憶が甦って、読みながら辛い部分があった。避難先で出会った人の厚意でその方の自宅にお世話になるが、次に待っていたのは原発の事故であった。
    被害のすさまじさ。死をも覚悟した避難。あの日の記憶と対峙するということはたやすいことではない。だけどそんな過酷な状況下でも、手を差しのべてくれる人達のあたたかさ。まるで自分が助けられたかのような気持ちになり、涙が出そうになった。
    何とか埼玉に帰り着くことのできた彩瀬さんを待っていたのは、重苦しい自責の念に捉われる日々。数か月後、彼女はボランティアとしていわきに足を踏み入れる。そこで彼女が目の当たりにするのは、津波後の、かつてそこに人が住んでいたという、暮らしの残骸。かつてあったものが、一瞬で根こそぎなくなってしまったという非情な現実。そして、放射能という見えない敵に怯える現実。
    彩瀬さんは本文中、しばしば「胸が濁る」と複雑な胸中を表現している。被曝に対する不安でぶれる気持ち。ボランティアのお礼にと出荷制限のかかっていない玉ねぎをもらったが、食べられなかった。だけど自己嫌悪に苛まれる彼女をどうして責められよう。そして後半で語られる、福島で起こっていた驚くべき出来事の数々。混乱の中で起こっていた諍い。いくつかの衝撃の事実は初めて知ることもあり、あまりのことに愕然とする。
    だけど、奇跡的に嬉しい再会もあった。やりきれない現実は目をそむけたくなることの方が多いけど、そんな中でも人とのつながりが心の支えとなる。そんなことを実感した一冊だった。心から。
    迷いや戸惑いを、「関東在住」という立場から真摯に綴った彩瀬さんの誠実さに敬意を表したいと思う。読む人によって思いは様々だろう。それでも、もしかしたら傲慢と思われるかもしれないことを承知で書いてくれたということが、ありがたいなと思う。
    あとがきの「本書がわずかなりとも被災地とそれ以外の地域との心理的段差を埋める踏み石の一つとなれば、なによりの幸いです」の一文が心に刺さった。本当に、そうなりますようにと私も願い続ける。

    • vilureefさん
      こんにちは。

      メイプルマフィンさんのレビューを読むだけでもグッとくるものがありました。
      私も関東在住でもちろん大きな揺れを体感し恐怖...
      こんにちは。

      メイプルマフィンさんのレビューを読むだけでもグッとくるものがありました。
      私も関東在住でもちろん大きな揺れを体感し恐怖を感じましたが、それは東北の人達との感覚とは隔たりがあるのだろうなとは思います。
      私も是非読んでみたいと思います。
      素敵なレビュー、ありがとうございました。
      2014/02/26
    • メイプルマフィンさん
      vilureefさん:コメントとても嬉しいです!
      私は仙台在住ですが実家が岩手県沿岸南部の津波被災地域でした。
      震災後は福島の自治体関連...
      vilureefさん:コメントとても嬉しいです!
      私は仙台在住ですが実家が岩手県沿岸南部の津波被災地域でした。
      震災後は福島の自治体関連の仕事に一時期携わってました。
      そして震災の数年前、埼玉に住んでた頃、帰省中に大地震に遭遇し、新幹線内で足止めくらった経験もあります。
      だから色々な立場から読める一冊でした。
      結論の出ない問題は今も山積してます。
      本書の救いは、彩瀬さんを助けた地元民の方々のあたたかさですね。
      見知らぬ旅人である彼女を優しく包んで助けた皆さんが本当にすごいなと思うのですが、
      振り返ればあの日、見ず知らずの人達と声を掛け合い、励まし合い、助け合ったよなと思い出しました。
      世知辛い面もそりゃあるけど、世の中まだまだ捨てたもんじゃないです!
      機会があればぜひぜひ読んでみてください。薄いけれど、ずっしりと心に響く一冊です。
      2014/02/26
  • 2011年3月11日、
    仙台から福島へ向かう電車の中で被災された彩瀬まるさんの体験記。

    彩瀬さんが見知らぬ人々に助けられ、ようやく東京にたどり着くまでのほんの数日間が、これほど長いとは…
    読むだけで息が苦しくなった。
    でもその極限の中でも見知らぬ人同志がいたわり、助け合う姿に心が救われる。

    同じ避難所の中でも、東電の被災者への待遇に差別があったというのには本当に驚いた。
    「セシウム」 「マイクロシーベルト」 今まで聞いたことのない言葉が飛び交う。

    震災当時、パニックになるからと情報操作が行われたという。
    その結果、被ばくしてしまった人たち。 
    すべての平和な日常がいっぺんに奪われていった。
    人間はもちろん、家畜や家族同様だった動物たちも…
    それなのに福島ナンバーの車への差別。心無い落書き。いじめ…ひどすぎる。


    あれから8年…
    戦争や、阪神大震災、様々な困難から何度も立ち直ってきた日本なのに、
    いまだに避難生活を送っている方たちがおられる。
    東京電力を使い、あまつさえ計画停電の範囲から外れた地域に住み、
    こんな立派なことを言える立場ではないことを承知の上で、あえて言わせていただくなら、
    これだけ復興が遅れている最大の原因は「原発」だと思う。
    それは人間が便利さを求め続けた結果…。
    それを享受し続けた自分たち…。
    考えるだけで自分の非力さに、いたたまれなくなる。

    震災の夜は「星が恐ろしいほどきれいだった」と 、よく聞く。
    そんなに美しい星空を、こんな形でしか見られないということが悲しい。


    当時、私の中学からの親友が、津波でたくさんの命が奪われた地区のすぐそばに住んでいた。
    数日後にようやく親友と電話がつながった。
    生きていてくれたことが嬉しくて泣きじゃくる私に、彼女は
    「OOO(私の名)、ガスボンベが今日でなくなっちゃう」と真っ先に言った。
    私も泣いている暇なんてないんだと思った。

    あとがきから引用させてください。
    「本書がわずかなりとも被災地とそれ以外の地域との心理的段差を埋める踏み石の一つとなれば、なによりの幸いです」

  • あの日、仙台からいわきに向かう電車の中で被災した彩瀬まるさん。『骨を彩る』で見せた確かな文章力で描くその時の様子は、独特の鋭い感性がちりばめられ読むのが苦しくなった。
    被災地から脱出後の生活に感じた被災地との乖離、放射能への不安、差別や偏見などへの憤り。彼女が感じた様々な事が率直に包み隠さず書かれている。

    私の住む街も大きな揺れを感じ、家屋の被害があった人達ももちろんいる。しかし、東北や茨城とは比較対象にならないほどのものだ。
    東日本と西日本で温度差があるように、被害が甚大だった地域と軽い被害で済んだ地域もやはり温度差が存在する。

    彩瀬さんが東京に降り立った時に感じた、これだけしか離れていないのに世界が一変してしまう距離感。彩瀬さんの言う心理的段差を少しでも縮められることができるだろうか。

    メディアの報道を見ると被災地に住んでいない私にはどうしても「これだけ復興しました」に聞こえてしまう。しかし、「まだこれだけしか復興していない」だと思う。
    肝に銘じていきたい。

    この本を読むきっかけになったのはブクログ仲間さんの心のこもったレビューだった。
    読んで良かったです。ありがとう。

    • メイプルマフィンさん
      おお、早速読んで頂いてこちらも嬉しいです。
      おっしゃる通り、現状は「まだこれだけしか復興していない」なんですよね。
      どうにもならないこと...
      おお、早速読んで頂いてこちらも嬉しいです。
      おっしゃる通り、現状は「まだこれだけしか復興していない」なんですよね。
      どうにもならないことが歯がゆいけど、簡単に答えを出すことができない問題もたくさんあって、何とも難しいところです。
      ずっしりと心に残る震災レポはたくさん出ているけれど、本書も負けてはいないと思います。
      もっと読まれて欲しいなあ。

      2014/03/25
    • vilureefさん
      メイプルマフィンさん、こんにちは。

      こちらこそ感謝です。
      この本のレビュー書くの本当に難しかった。
      私も彩瀬さんと同じく埼玉在住な...
      メイプルマフィンさん、こんにちは。

      こちらこそ感謝です。
      この本のレビュー書くの本当に難しかった。
      私も彩瀬さんと同じく埼玉在住なのですが、周囲で震災について話題に上がることも徐々に少なくなり。被災地とは心理的に遠い所に住む私が何を言えるんだろうと考えてしまって。
      でも忘れないでいたいとは思っています。

      ちなみに私の通う図書館では震災前から震災関連本の特設コーナーが作られて、それこそ沢山の本が並べられるんですよ。
      でもこの本はなかった・・・(^_^;)
      他の図書館から借りてもらって詠みました。
      写真がないのに文章だけでここまで書いてあるこの本、是非置いてほしいなと思いました。
      2014/03/26
  • 大好きな書評家・藤田さんの日記をひさびさに拝見した折、
    昨年3月の分だが、その中から目を引いたのがこちら。

    私自身昨年12月に、あるイベントに参加するためはじめて、
    被災地に足を運びました。

    震災から1年と9ヶ月余り経過してからのできごと。

    そのときはじめて、
    「復興」など全然していないことを目の当たりにし、愕然としました。
    復興なんて、全然なんだな、と。

    街によっては未だに瓦礫がそのままで、
    あのときから時が止まってるのではないかと思うくらい。
    でも、この本を読んで、もしかしたらそれさえも何ヶ月もかかってきれいになった場所だったのかもしれないと、今では思ったりするのです。
    だとしたら「復興」ってほんとに長い、長い道のりなのですね。

    もっともそれぞれの街でみなさん、ほんとに健気に、
    もし自分がその立場になったら、果たしてそのような振る舞いができるのだろうか、というくらい明るく前向きに、何もないところからはじめられている。

    でも現実的に街が壊れたままなのだということを、
    まざまざと思い知らされました。

    とりわけショックだったのが、南三陸町を訪ねたときと、
    そのあと南下する途中に通過した同じ南三陸町の歌津という地域。
    南三陸町に至っては、比較的映像と言う形で目にしていたのでまだ、
    現実を受け止める準備ができましたが、
    歌津をみたとき、この地域のことはほとんど報道などで目や耳にすることがなかったし、だから実際目の当たりにしたときは本当にショックで、
    またそのとき、沿線を走っていたであろう線路の跡や駅舎があったであろう場所を見て、さらに激しく落ち込んだものです。

    本当にそこに電車が走っていたという証拠がことごとく流され、
    取り除かれ、
    もしその場所を今でも電車が走っていたら、
    本当にいい景色だろうに、とつぶやいた、電車好きなだんなさんの一言が忘れられません。
    そしてそれらの線は今後も不通というかたちで、
    レールがひかれることもないだろうし。

    著者の彩瀬さんは、場所こそ違えど電車で一人旅をしている途中に被災するという、命がけで自身が経験した貴重な体験を、あえて書き記してくださいました。その恐怖たるもの、想像に余りあるし、極限状態での数々の出会い、その後の心境、行動。加えて「福島」の問題。

    震災の残した爪痕は、本当に深く、重いものなのだと思います。

    この体験をこのように本にするのはどうか、という迷いも吐露されていましたが、わたしはむしろ、知らない私たちにこのように伝えることこそ、本当に大切なことだと感じます。
    大切なのは、本当に伝えなければならないことを、言葉を、しっかり選んで、伝え続けていくこと。
    そのことを忘れたり、軽んじたりすると、わたしたちはいつまでも同じ間違いに、形をかえて遭うたびに、失敗と言う最悪の形で、受け応えてしまう気がします。

    折りしも明日で、阪神淡路~から丸18年。

    ちなみにわたしは阪神~も、東日本~も経験がありません。
    だからこそしっかりと受け止めたい。
    いつ、それは自分の身に、起こるかもわからないことだから。

  • 3.11 旅行中の著者は常磐線新地駅で被災した。
    交通手段を断たれ、たまたま出会った方に助けられながら5日後に帰り着くまでの詳細な記録。
    そして、後日赴いたボランティアや 被災地 地元の方と再会したときのエピソードも語られている。

    当時の率直な感情も交えながらも、客観的な記述に 現地で何が起こっていたのかが 実感をもって伝わってくる。

    東電原発事故のことも語られていて、それは、あの時の私個人の恐怖・当惑ともオーバーラップし、いろいろと思い出させてくれた。

    被災しなかった人、子供を持たない人、そういう方々から悪意はないとはいえ、原発?騒ぎすぎ、だって大丈夫だったじゃない、だって報道してるのに見なかったの? etc. ザ・他人事な言葉を受けた。
    もっと東電原発に近い地で、こんなに隠蔽があったんだと、あらためて身震いした。

    長く残すべきルポルタージュ。

  • 読んでいて終始、鳥肌が立ちました。
    第一章は特に、あの寒い日のことをよく思い出し、6年前に一気にタイムスリップしたようでした。
    印象的だったのがボランティアに行き、思い出の品を処分する場面、そこで貰ったお礼の玉ねぎを食べるかどうかで葛藤する場面。。。
    飾り気のない著者の正直な気持ちがよく伝わりました。
    あれから6年経過し、作中に登場された方達が今は少しでも良い方向へ向かっていられることを祈っています。

  • 一人旅の途中に常磐線の電車の中で被災した綾瀬さんの、震災当初と、三ヶ月後、八ヶ月後に現地を訪れた時のルポタージュ。その時その時の選択が生き死にに直結している恐ろしさ。正しい情報がわからない不安。作家だからこそ書ける詳しい描写。それでも綾瀬さんは、1番自分の文章を読んでいるはずの編集者にも自分の伝えたいことがきちんと伝わっていないと感じる。印象的なのは、もらったタマネギを食べるか食べないか迷うシーン。感想を書くのが難しいけど、思うことが多かった。いろんな人に読んでもらいたい。

  • 「三月十一日の大震災の際、たまたま福島県新地町に居合わせた私の被災にまつわる記録文と、その後2度にわたって福島県を訪れた際に綴った紀行文を1冊の本にまとめたものです」(本書あとがきより)とあるように、著者の被災をもとにした話。

    一人旅の最中、常磐線の列車の中で被災、津波や原発事故に遭遇したときのことを綴った、1章「川と星」、
    三か月後、会うはずだった友人に会うために、そしてボランティアのために福島を訪れた際の記録、2章「すぐそこにある彼方の町」
    福島での避難生活でお世話になった方たちに会いに向かう、3章「再開」。

    「圧倒的な筆致」とは違うんだけど・・・つたないように見せかけて、やさしい語り口で、でも「さすがだなあ」と思うのです。著述業の彩瀬氏だからこそ描けた震災の、原発事故の記録。読みながら、苦しくなりました。
    そして震災後、福島の人々が置かれる状況と苦悩。(と、彩瀬氏の誠実な文章。)

    私は・・・多分あの日の震災を忘れることはないと思う。
    神奈川に住んでいる私は、福島の震災をわかることはできないけれども、これを読めて良かった。

    読むべきです。

  • 現地にいた筆者の、生の声。
    東北にはこんなに暖かくて優しい人たちがたくさんいる。
    胸がぎゅっと掴まれた想いがした。

    子どもがいても「絶対迎えにくるから」とどら焼きを渡してくれたリカさん。
    彩瀬さんの小説を「もっとドロドロさせても良かったんじゃなーい?」と笑い飛ばしたショウコさん。
    「親戚の家だと思ってゆっくりしてきな」と迎えてくれたヨシコさん。

    なんて優しい人たちなんだろう。

  • 彩瀬さんの短編集がよかったので、他の作品も読んでみたくなり、図書館でタイトルだけ見て予約したら…たまたま旅行中に遭遇した震災のこととは。

    多くの人に読んで欲しい一冊。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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