暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103319610

感想・レビュー・書評

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  • 小説新潮で読んだときもそうなんだけど、安易に感想なんて述べられない圧倒的な現実。苦しかった。第二章の、彩瀬まるさんが初夏に再度福島を訪れた、というのは未読だったんだけど、すごく、残酷な現実で、奇麗事じゃない正直な気持ちが綴られていて、苦しくて目を背けたい、てなって、ちょっとこの本を買って後悔した。小説新潮を買ったときも、なかなか読む気になれず、飛ばしてたんだった。とりあえず疲れた。わたしは神戸の地震の時の残酷な光景、出来事を知ってるけれど、ランク付けなんて意味ないって分かってるけど、これは、そんな神戸の 経験なんて吹っ飛ぶぐらいのことだった。今日は寝れそうにないな。

  • 「わからないのよ。みんな、自分の身に降りかからないと、わからないのよ」

    気侭なひとり旅の道中、福島県いわき市 常磐線車内で被災した女性作家の目から見た3・11の記録。

    被災して4日目、家族にメールで遺書を書きかける。
    無事、千葉の自宅へ帰り着き、目の前にあったはずの恐怖を忘れかける。

    そして彼女は、違う立場で、復興の手助けにと福島を訪れる。
    津波でめちゃくちゃになった家屋の掃除をしながら、「家」という「人生を肯定する記憶」にどんどん手を入れていく。
    買い置きされた食材や食器や書き置きの手紙など、きれいなものもどんどん捨てる。
    そのお礼に、出荷制限のかかっていないタマネギをもらう。
    それは原発三十キロ圏内のタマネギ。
    善意しか無いそのタマネギを、彼女は食べることができない。

    そしてまた数カ月あき、彼女は3.11当時お世話になった人たちと再会。
    県外で福島ナンバーの車を停めていると、見ず知らずの人にいきなり「毒を撒き散らすな!帰れ!」と罵声をあびせられたり、「汚染車」と落書きされたりするというエピソードを聞く。
    タマネギを食べなかった自分と、彼らの何が違うのだろうか。

    善意のタマネギを差し出されたら、私はどうするだろう。
    彼女の言葉はまぎれもない、関東圏に住む人間の真実だと思った。
    本書を引用すると
    「死ぬことそのものや津波への恐怖よりも『家族に会えず、見知らぬ場所で一人で死ぬこと』が怖い。」
    これも真実だ。

    死ぬことも津波も原発の影響も、結局、身を持って体験していない自分には差し迫る実感がない。
    でも、あのとき帰れなかった不安、地震が起きた時の家族の安否を気遣う気持ちは体験しているし、覚えている。
    そういう気持ちを被災者の人はずっとずっと継続して持っている。
    3.11はまるで何も終わっていない。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。2010年「花に眩む」で「女による女のためのR-18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。16年『やがて海へと届く』で野間文芸新人賞候補、17年『くちなし』で直木賞候補、19年『森があふれる』で織田作之助賞候補に。著書に『あのひとは蜘蛛を潰せない』『骨を彩る』『川のほとりで羽化するぼくら』『新しい星』『かんむり』など。

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