- Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103319634
作品紹介・あらすじ
弱ったとき、逃げたいとき、見たくないものが見えてくる。高校の廊下にうずくまる、かつての少女だったものの影。疲れた女の部屋でせっせと料理を作る黒い鳥。母が亡くなってから毎夜現れる白い手……。何気ない暮らしの中に不意に現れる、この世の外から来たものたち。傷ついた人間を甘く優しくゆさぶり、心の闇を広げていく――新鋭が描く、幻想から再生へと続く連作短編集。
感想・レビュー・書評
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ぞわっとする。
それは決して否定的な意味ではなく、彩瀬さんの作品を語るときは必ず哀しさややるせなさが伴ってくる。本書は特にそうだ。全編を通じて、幻想的だけどどこか不気味で、湿り気を帯びた描写。怯えながら覗き見する感覚でページを捲っていった。
「まるで粘りの強い泥だまりへ踏み込んだかのように」まさに感じられた、五感に訴えてくるような言葉選び。時に、グロさすれすれに感じられる表現は、無意識に己の心に抱えている醜さを見せつけられているような気がして、目を背けたいはずなのに、不思議と目が離せない。人によっては受け付けないかもしれないけど、読了後に感じる余韻は後味が悪いものではなく、彩瀬さんらしい温かさがあった。
個人的に好きなのは「眼が開くとき」。幻想的で官能的で…甘やかな狂気がたまらなくツボでした。
夜に読むと、作品世界にズブズブとはまっていき、現実に戻れなくなるような…そんな錯覚に陥った。自分の輪郭が曖昧になるような感覚。怖いのに、一瞬心地よく感じられそうになる、何とも不思議な手触りの一冊だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
君の心臓をいだくまで
子どもが流産するかも…というドロドロした気持ち。
ゆびのいと
指に糸をつけたまま寝ても、ほどけなければいい。
眼が開くとき
小学校の時から好きな彼を食べてしまいたい。
よるのふち
母が死んでから、弟が変なものを食べてる。
明滅
川で溺れたことから、真っ暗な場所に連れていかれそう…。
かいぶつの名前
嘘をついたまま死んでしまった自分。
なんだか、ダークな話ばかりでちょっと怖かった。
「死」についての恐怖を感じつつも、
ちょっと光も感じるような短編集。
んー、でもやっぱり怖かったかなぁー。 -
前作「やがて海へと届く」がだいぶ幻想味の強い(純文学的な)作風になったと感じていたので、この作品集はどうだろうかと思ったのですが、これはどちらかというとそれまでの作品群寄りの、けれど比喩表現、作品世界に一層の深度、巧みさが引き立った作品集でした。
「ようやくできたお腹のなかの子供が…」「晴れて新婚夫婦となったけれどほどなくして新婦が…」など、導入部はいたって現実的な方なのですが、そこからの展開がとても自然に、「普通でなくなる」のが、ぞくっとすごみを感じるほどでした。文章に使われる比喩表現の洗練さ、巧みさがそれを助けているのでしょう。そしてその表される「普通でない」世界が、血と肉と骨、それらの質感を持って描かれているので、やたらと肉感的、蠱惑的なふうに感じ取れるのが特長的に感じたのでした。
そういう意味で、最後の一編はそのグロテスクさが、姿かたち、精神的、ともにリアルに想像できて差し迫ってくるようで、下手なホラーよりも恐ろしさを感じました。けれど話そのものはとても哀切なものなので…、なんというかひたすらにつらくてたまりませんでした。
どうしたらこんな表現を自在に操れるのだろう、と正直思います…。素晴らしいです。 -
血生臭いような、不気味なぬめりを感じる文章だった。
かつて人間だったもの、怨霊的な何かの物語たち。
この作者の本を読むのはじめてだったんだけど、可愛らしい作者名と、一見優しそうな本のタイトルから、こんな短編集だなんて予想だにしなかった。
私は一人で食事するときに本を読む習慣があるんだけど、この本を食事中に読んだら、ダメですね。
「よるのふち」は、事故で死んだ母を求めて幼い弟が泣いたり、霊的なものに取り込まれそうになってぼんやりしてる姿が、読んでてツラくて、泣けた。 -
執着心の強い愛の話。
ちょっと苦手だなーと思いながら読んでいたら、すごく怖い夢を見て、起きてしまった。
好きな人は好きなんだろうなと思うけど、私は苦手だった。 -
図書館にて。
ものすごかった。
読みながらたくさん泣いて、次の日は目が腫れて頭が痛くて大変だった。
読んでしまった、心の中にこの本の世界が広がってしまった。
一番泣いたのは「よるのふち」だ。
これはもうどうしようもない。あまりにもつらい。
父親の描写も秀逸。
この他のどの物語も現実から少し離れた存在を扱ってはいるけれど、いつも人は本当はそんな世界に接しているのかもしれない。
生きている世界だけではなく、死後の世界も過酷かもしれない。 -
怖い。怖くて悲しい。
なんだろう。好きで好きでたまらなく好きだった人の骨をじゃりじゃりと食べてしまったらこんな感じなのかも。 -
感想
染み出る黒さ。どれだけ繕っても人間は感情に生きている。明るさだけではない。どこかに昏さは潜んでいる。時々顔を覗かせて日常に現れる。