- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103319825
作品紹介・あらすじ
見守っている。あなたがわたしの存在を信じている限り――。ある日、千春はバイト先の喫茶店で客が忘れていった一冊の本を手にする。それは誰からもまともに取り合ってもらえなかった彼女がはじめて読み通した本となった。十年後、書店員となった千春の前に現れたのは。人生は、ほんとうにちいさなことをきっかけに動きだす。たやすくない日々に宿る僥倖のような、まなざしあたたかな短篇集。
感想・レビュー・書評
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津村さんの話にはよくテンション低め自分みたいな人が出てくる。「サキの忘れ物」「隣のビル」こんな出会いがあったらいいな。「喫茶店の周波数」お店であった人達と妄想交流?がすごく共感してしまう。「王国」ソノミちゃんかわいくてたまらない。
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好きな作家さんの一人、津村さんの新刊。9つの短編集。
元々ガンガン盛り上がるタイプの作品ではない作家さんだが、全体的に淡々としていたような。でも読み終わってみればなんだかニンマリしてしまう、いつもの津村節だった。
「サキの忘れ物」
『サキ』という人物の忘れ物かと思ったら、作家のサキだった。喫茶店で働く主人公が、客が忘れたサキの短編集との出会いで変わっていく。
「王国」
目の浮遊物(飛蚊症?)に『デリラ』と名付けたり、盛大に転んで出来た膝の大きな傷を『小島』と見立てその『王国』の物語を想像する、独特の感性の幼稚園児。
「隣のビル」
『一秒も休まず気に入らないことを探している』常務のいる、楽しくない職場で働いている主人公が、前々から気になっていた隣のビルに窓越しに侵入するという冒険。
この三編については疎外感だったり孤独だったり恵まれていない環境だったりという主人公なのだが、その彼らに対して寄り添ってくれる人がいるのが嬉しい。
こういうシチュエーション、場合によっては相手が怖いと思ってしまって離れていったり不審な目で見られるに終わるかも知れない。だが彼らの言葉や感覚、その時の気持ちに呼応してくれたのが良い。相手の人もたまたま、そういう呼応するタイミングだったからかも知れないが。
「喫茶店の周波数」
通っていた喫茶店がもうすぐ閉店と知った主人公が最後に行った店内。隣り合う客たちの会話を『ラジオ』に見立て、様々な会話たちを思い出す。
「行列」
『あれ』を無料で見るために十二時間も並ぶ行列。主催者側は並ぶ人たちを飽きさせないために景観エリアを作ったりグッズ売り場を置いたりビデオを流したり、無料のお弁当を配ったり様々な趣向を凝らすが…。
この二篇は全く知らない者同士の話。先の喫茶店は主人公と客たちとは全く関わりがなくてただ会話を聞いているだけだが、それで人の一面を知った気がして、迷惑な客もいるが楽しい客もいて様々な人がいるなぁと思える。
後者の行列の話はこれまた知らない者同士が『行列』という同じ空間で十二時間も居合わせるわけだが、こちらもまた様々な人の有り様を見せられる。
長い行列を思い切り楽しんであれこれ買ったり景観を楽しむ人、逆にその景観を邪魔するテントの人々や行列を先回りしようとズルをする人々、そんなズルを許さない正義の人。そして主人公はそんな行列に疲れて…。
他になんだか不穏な歴史が掘り起こされていく「ペチュニアフォールを知る二十の名所」、ゲームブック形式で様々な物語を楽しませる「真夜中のゲームブック」、大学時代のSさんだらけの日記「Sさんの再訪」、小さな町に迷い込んだガゼルによる騒動「河川敷のガゼル」。
個人的には先に書いた三篇が好きだった。
こういう、古い言葉で言えば勝ち組ではない、場合によっては阻害されてしまいそうな人々にスポットが当てるのがうまいなと思う。ただただ優しく見守るのではなく、彼らの独特の感性だったりときにはびっくりするような冒険だったりを見せてくれるのはワクワクする。 -
表題作は主人公が元川さんに出会えたことで本の面白さに気づき、人生が変わり、今度は元川さんの人生に働きかけるのかな、という終わり方。
「隣のビル」も同様に出会いがきっかけを与えていた。
出会うべき人に出会うべきタイミングで出会い、人生が変わる人がいる。
その出会いが全部このように人生を好転させるものなら良いなと感じた。
「王国」については、黄色い消毒の特別感、小さい頃自分も感じたなと思い出した。
秘めた妄想が進みすぎてちょっと変な行動をしてしまうこと、あったなぁと懐かしい気持ちになった。
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津村記久子作品の主人公は、みんな自身の感受性を意識的に鈍らせている人、あるいは自分の感情の観察者、と言う感じがする。
真面目で傷つきやすい自分自身の心を守るために、自分の感情をどこか別のところから眺めることを習慣づけている、そんな感じ。
そこが好きだ。
9編の短編のうち、私のおすすめは、表題作の『サキの忘れ物』、お気に入りの喫茶店で周囲の客を観察する『喫茶店の周波数』、理不尽な怒られ方をした主人公が、日頃から気になっていた隣のビルに不法侵入する『隣のビル』
何か大事件が起こるわけではない、ささやかな日常の物語だけれど、少し勇気を出して誰かに話しかけてみたり、自分の事を大事に思う気持ちを大切にしたりしたいなと思える一冊です。
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かおりさん
こんばんは!
津村さんが描く主人公像にめちゃ共感です!
津村作品の主人公にすごく共感することが多くて、結局それって自分が似て...かおりさん
こんばんは!
津村さんが描く主人公像にめちゃ共感です!
津村作品の主人公にすごく共感することが多くて、結局それって自分が似てるところがあってるんだろうなって思うんです。
わたしもどこか、時に感情を鈍らせたり、心を守るために必死に顔で笑って心で泣いたり。
かおりさんの的を得た表現に鳥肌がたち、思わずコメントしてしまいました。
文庫待とうと思ってましたが、レビュー拝見して、待てない気がしてきました…2021/01/17 -
naonaonao16gさん
嬉しいコメントありがとうございます♪
過剰に傷ついたりイライラしないように状況を一歩引いて見るクセは私もい...naonaonao16gさん
嬉しいコメントありがとうございます♪
過剰に傷ついたりイライラしないように状況を一歩引いて見るクセは私もいつの頃からか身につけていて、でもそのせいで自分が傷ついていることに気づかない事があるので要注意だなと思っています(^-^;
私も文庫化を待つ事が多いのですが、この本は装丁が好きで買ってしまいました。2021/01/18
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表紙が可愛くて気になって借りた。
しかし、頭に入ってこなかった。
短編3つだけ読んだ。
「サキの忘れ物」はまあまあ分かった。
「王国」は、怪我の跡のかさぶたになる過程を一つの島として見立てる話。不気味で暗い。
「真夜中をさまようゲームブック」もやってみたが頭に入ってこなかった。
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色々な試み、趣向を凝らした文章の観点に驚く。面白いけど、面白いと一言で言い表せない読後感をつくる感性に妙があるのかな。
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津村さんファンなので中身も見ず新刊は出たら買う。もうただ津村さんの文章が好きなので苦手な短編集でも買う。
んだけども、この短編集はけっこう実験的なものだったのかも……。
表題作「サキの忘れ物」はすごくよかった。本を読んだことがないっていう若い女性が主人公で。あまり他人から構われることがなくても、深いつながりとかなくても、人は成長できるのかも、とか考えたり。……関係ないけど、作家はもちろん、普段本を読む人間は、だれもが本を読む、本は楽しい、って思ってるけど、そういうわけでもないよなあと思ったりした。
あと、「隣のビル」もよかった。津村さんは一貫して、つらい職場で働く人が救われるような話を書くけれど、これもそういう感じ。ほんとにちょっとしたきっかけ、人とのふれあいとかそれほど大げさなことでもないようなことで、変われることもある、って思わせてくれるところがいつも好き。
で、すごく苦手だったのが、「真夜中をさまようゲームブック」。ゲームブック形式っていうの??、指示どおり、紙と鉛筆を用意してメモしながら読んだけど、わたしは全然楽しめなかった。すみません。わたしは頭が固くて、読む前から拒否してるのかも、こういう形式を。変わってて楽しいって人もいるのかもしれないけど。
あと、「行列」もちょっと苦手。文章はおもしろいんだけど、こういう不穏な感じ、ゴトーを待ちながらみたいな不条理な感じが苦手。。。
津村さんの普通の長編が読みたい……。 -
『サキの忘れ物』読了。
初めて読む作家の短編集。ゾワっとするような展開が沢山あったけど表題作はほっこりした。
人間の本質みたいなものを淡々と炙り出している内容が多かった。
そして何かを辞めることを決意するのにその時に出会った知らない誰かに影響されることが無意識にあるんだろうなと知る。
「真夜中をさまようゲームブック」は呆気なく直ぐに死んでしまった笑
流石にこれはペンと紙がないと出来なかったわ…何回死んだんだろうってくらい、頁をあっちこっち行って翻弄。誰かに出会ったり出会わなかったりすると結末がこんなにも変わったりするんだ…笑。人生もそうなのかもしれないと思った。
年内に読み納めができてよかった。この本は短編集だけどとても面白い作品でした。
2021.12.31(1回目) -
味わい深い9つの短編。中でも表題作の「サキの忘れ物」がダントツに好きだ。ささやかなきっかけで動き出す、主人公の女子の人生。バイト先の喫茶店での出会いが、こんな風に作用するとは。ちょっとユーモラス、ちょっとシビア、ちょっと切ない…ほどよい温度のほどよい優しさが染みまくって、読み終えた後涙がどっと出た。いや…決してお涙頂戴の話じゃないのに、ちょっと弱ってた心にジャストフィットして。私も背中を押してもらえたような気がしたよ。そして、サキを読んでみたくなった。
今回はシュールで苦めのものもあり、そんなところもまた津村さんらしい。特に「真夜中をさまようゲームブック」。ゲームブックなんて何年振りだろう!とワクワクしながら挑戦したが、なかなかに不条理な展開で、若干後味悪かった(笑)めげずにまたやってみよう。
ラストの「隣のビル」、この作品も表題作に負けず劣らずお気に入り。津村さんってビルが好きだなぁ。常に高圧的な上司に嫌気が差し、仕事中、突発的に隣のビルに逃避を試みる。そこでの思いがけない出会いに救われる主人公。これまた、自分まで少しだけ救われた気持ちになる。
そして、毎度津村作品は装丁が好きなのだが、今回はこれまでで一番好きかも!と思うほどのかわいさ。各作品のモチーフがあちこちに描かれていて、じっくり眺めるのが楽しい。
さえない日々が、ほんのちょっと色づく。津村さんの本を読み終えた後はいつもそんな風に感じられる。 -
モヤモヤする読了感が数作あった短編集。
『サキの忘れ物』『隣のビル』は、小さな出会いがキッカケになり、次の一歩を踏み出すような明るい感じで良かった。
表紙はとても好みだったので、より面白そうなイメージになってしまっていたため、読後感とのギャップが強く感じてしまった。