ひらいて

著者 :
  • 新潮社
3.54
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本棚登録 : 2092
感想 : 351
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103326212

作品紹介・あらすじ

やみくもに、自分本位に、あたりをなぎ倒しながら疾走する、はじめての恋。彼のまなざしが私を静かに支配する――。
華やかで高慢な女子高生・愛が、妙な名前のもっさりした男子に恋をした。
だが彼には中学時代からの恋人がいて……。
傷つけて、傷ついて、事態はとんでもない方向に展開してゆくが、それでも心をひらくことこそ、生きているあかしなのだ。

本年度大江健三郎賞受賞の著者による、心をゆすぶられる傑作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 日常のなかで小さな嘘
    をついてしまう。

    なんの役にも立たない
    小さな嘘をポロッと。

    そういう私を蔑んでる
    もう一人の私。

    なにか言いたげに口を
    つぐむ内なる私が、

    じっと私を値踏みする
    その視線が、

    しきりと心を引っ掻く。

    私の言葉はなんとなく
    嘘っぽい。

    だからだれにも本当の
    想いを伝えられない。

    主人公と自分を重ねて
    この作品を読んで、

    その原因がなんとなく
    わかった気が。

    それは人を信じる強さ
    を持ち合わせてないが
    故。

    だからあの人にもこの
    人にもいい顔して、

    気づいたら矛盾だらけ。

    いつからこんなふうに
    なってしまったのか。

    主人公が最後に呟いた
    「ひらいて」

    もっと相手を信頼して
    心をひらいて、

    というメッセージかな
    と。

    それって自分を偽るな
    ということでもあるの
    かなと。

    こんな臆病な私だけど
    なんの役にも立たない
    嘘で、

    相手に自分を偽るのは
    止めたいと思いました。

    どうでもいい嘘をつく
    くらいなら、

    ニコニコと黙ってれば
    いいよねと。

    と、まあ作品とあまり
    関係ない内容になって
    しまいましたが、

    私のレビューはすべて
    独り言なので、

    もとより選書のご参考
    にはなりません(汗

  • きゅんきゅんしてしまうような感じではなかったけど片思いをしていたらたぶん心に刺さると思います。面白かったです。

  • これが綿矢りさか!
    いいのか悪いのかは別にして勢いが半端なかった。
    中盤からは疾走感が溢れて一気に読んだ。
    エキセントリックな主人公と言い、予想を覆す展開と言い、いい意味で裏切られた感じ。
    でもこれって純文学?
    純文学とも読めるけど笑っちゃう感じが少女漫画みたいで。

    ストーリーや構成は他の作家では味わえない独特な感じもあって、またそれぞれの登場人物の個性の描写が冴えわたってこの作家の才能を感じさせる。
    ただ、ちょっとレトリックに凝り過ぎてないだろうか。
    あまりにもしつこくて読み進めるのにげんなりする。
    話が展開し始め勢いがついてくると気にならないし、会話の部分の言葉の選び方は文句をつけようがない。
    ただちょっと主人公の心情の比喩がしつこくて。
    シンプルに書いたらもっと良くなるだろうに。
    この辺は好みの問題だろうけど・・・。

    高校生特有の傲慢さやナイーブさ、大人になる一歩手前の純粋な心が残っている感覚。
    これをナイフのように鋭く描く綿矢さんはやはりすごい。
    これからどんな作家になって行くのか非常に楽しみ。
    これからも追いかけて行きたい作家になった。

  • ──心を「ひらいて」、からだを「ひらいて」
    過剰なまでの自意識と欲望は、いつか無意識という名に変わる。

    註:新潮5月号でこの作品を読んでのレビューです。
    それにしても、雑誌掲載から僅か2ヶ月で単行本になるなんて。

    「ひらいて」というタイトルを聞いたとき、ふと官能的な響きに聞こえたのは何故だろう。
    自分でも不思議だ。ぼんやりと淫靡なイメージが頭に浮かんだのだ。
    綿矢りさの小説だというのに……。

    それにしても、やはり綿矢りさはすごい。

    自意識の塊のような女子高生が、同級生の男の子に寄せる秘かな思い。
    思い描くことは、ある意味ハチャメチャで、自分勝手な妄想世界だけでの苦しみと、それとは真逆な破天荒さが入り混じった意識の塊が肉体を作り上げているような主人公。
    その意識の表現が素晴らしい。まさに綿矢節である。
    言葉の一つ一つに無駄がない。心に染み渡ってくる。
    かと思えば、思わず爆笑したくなるような表現が突然出現。
    本当にこの人の頭の中はどうなっているのだろう、一度脳みその中を覗いてみたいものだ。
    そのうえこの作品は意識だけではなく、主人公の行動までもが驚くべき方向へ向かう。
    「蹴りたい背中」では行動にまで及ばなかったが、この作品は違う。もっと進化した意識。
    片思いの男に振られた腹いせに、その彼女と……。
    ──かかってきなさい、気分は博打女郎だ。
    という表現は彼女の何の作品だったろうか。
    まさに怖いものなし。
    綿矢りさ、長年の苦しみを乗り越えて、書きたいように書いた作品だと思う。

    途中で「まさかねえ……」と読み進めたら、そのまままっしぐらに突き進んで行った主人公の行動には驚いたが、それもとりたてて小説の流れとしては不自然ではない。
    合間合間に挟みこまれた独特の表現やたくみな比喩も相変わらずだし、シリアスな場面であるにもかかわらず、時として吹き出しそうな笑いを誘う表現もあったりと、まさに小説を読む醍醐味を思う存分感じさせてくれる作品。

    この作品のテーマは“愛”なのでしょうね、やはり。主人公の名前も愛なのだから。
    その愛は、彼女の場合、いつも途轍もなくいびつな形で表現される。
    「蹴りたい背中」然り、「勝手にふるえてろ」また然りだ。そして、この「ひらいて」でも。
    綿矢さんは登場人物のネーミングも秀逸だ。「たとえ」君とか、普通思い浮かばん。

    ストーリー的に、核心の部分に少しでも触れるとネタバレになり、この小説の面白さが半減すると思うので、この程度までにしておきます。

    とにかく、面白い小説を読ませてもらった、という読後感。
    最後にお約束の、この「ひらいて」に出てくる綿矢りさ『名文・名表現・名比喩集』を載せておきます。
    美しい文章も、官能的な描写も、笑える表現も、すごいですわ、やはり、この人。
    あんな可愛い清楚な顔をしてるのに。
    講談社で出会った生綿矢さんの顔を思い出しながら読んでいました。

    1. どんなものでも丁寧に扱う、彼のゆったりした手の所作。付き合う人も、あんな風に大切に扱うのだろうか。
    2. ぬるい水で何倍も希釈された薄くけだるい午後の授業のなか──
    3. 「女子は帰って勉強しろ」(中略)やだ~、なんて言ってみるけど、私は推薦入試だから、実はそれほど勉強しなくていい。
    4. でも少しでも食べ過ぎたと感じると、透明なジェル状の後悔が、体の表面にたっぷりと垂れて皮膚を覆い、(中略)ポテトの二本目を食べ終わると、満足感が急激に同じ体積のまま後悔へ変質していく気配があったから──
    5. 男の子みたいにふるまうと、男の子は喜ぶ。仲間だと思うのだろうか。
    6. 手だけはつないだ、というリアルな告白に、自分から聞いたくせに腹が立つ。
    7. 嬉しそうな美雪の顔に苛立ちがつのる。たとえと分かり合えるなら私だって病気になりたい。
    8. 女とキスしている生理的な嫌悪が私の肌を粟立たせて、喉元までゆるい吐き気がこみ上げる。
    9. 1ミリの勝負だ。たった1ミリ動かすだけで美が生まれ、たった1ミリずれるだけで美が消える。
    10.勝手に嫉妬して、横取りしようとして告白した挙句、ふられて逆上して捨て台詞を吐いて出てきた。
    11.もちろん私だって女など嫌だ。こんな良い雰囲気のなか抱き合っているという事実にさえ、ぞっとして鳥肌が立つ。
    12.おもしろい勘違いじゃないか。最後までその勘違いに付き合ってやろう。私はカップルの両方に告白する変人になってやる。(これ大爆笑)
    13.私はどうしても悦ばされる側にはなりたくなくて──
    14.この、相手を摑んで握りつぶしたくなるような欲を、男の子たちが今まで“かわいい”という言葉に変換して私に浴びせてきたのだとしたら、私はその言葉を、まったく別なものとしてひどく勘違いしていたことになる。(これ、秀逸!!!)
    15.私はなぜ、好きな人の間男になったのだろう!(この表現、夜中なのに大声で笑ってしまった)
    16.でもそれじゃ、ただの破壊じゃないか。(これも笑えた)
    17.心と同じスピードで走れたら、どんなに気持ち良いだろう。(これは言い得て妙)
    18.本能で求め合い、後戻りできる道を二人して粉々にぶっ潰した。

    これだけ書いても、この小説の表現の面白さが分かると思います。読みたくなりませんか?
    是非、ご一読ください。

    • mitsukiさん
      自分のレビュー後に、こんなにきちんとしたレビューがあるなら書かなくて良かった位♪一番手を担ってもらえて、光栄。という思いを込めて、コメントし...
      自分のレビュー後に、こんなにきちんとしたレビューがあるなら書かなくて良かった位♪一番手を担ってもらえて、光栄。という思いを込めて、コメントしてゆきまーす。
      2012/07/29
    • あずきさん
      コメントありがとうございます。
      この名文集、いいですね!
      芥川賞のときに誰かが言ってましたが、とても容姿に恵まれた人の書ける文章じゃないです...
      コメントありがとうございます。
      この名文集、いいですね!
      芥川賞のときに誰かが言ってましたが、とても容姿に恵まれた人の書ける文章じゃないですよね。
      2012/08/09
  • ずっと前に買ったはいいけど積んでて、本棚の整理で発掘されてやっと読めた。「蹴りたい背中」の書き出しもそうだけど、この人の表現は誰にも真似できないと思う。好きな相手に振り向いてもらえないから、その彼女に近づく主人公。

    彼を好きすぎるあまりどんどん普通じゃなくなっていく主人公が哀れでみっともなく感じるんだけど、ほんとに周りが見えなくなるとなりふり構っていられないんだよね。主人公と彼女との会話と、心内描写の掛け合いがこれまたリアルでえぐい。これ会話文だけ読むと普通の友達同士の恋バナなのに目の前のこの女を、一生許せそうにない。とか挟んでくるからもう読んでるこっちは嫌な汗かきそうなくらいだし。顔で笑って心で泣くってこういうことなのよね。

  • ほぼ初の恋愛小説。

    まず、綿矢さんの綴られる言葉がとにかく素敵。
    「正しい道を選ぶのが、正しい。
    でも正しい道しか選べなければ、なぜ生きているのかわからない」
    これは『雪国』の「なんとなく好きで、そのとき好きだと言わなかった人の方が、いつまでも懐かしいのね。忘れられないのね」に並ぶ、自分の中で伝説的な一文になった。多分一生忘れないな

    つらつらと普通に読んでいたら、途中からとんでもない展開になってた。もうあそこの場面は衝撃的すぎて5回くらい読み直した笑
    愛の行動ってたまに理解不能だったりする。
    でも、「理解」はできなくてもなんとなくわかってしまう気もする。
    それはまさに、「正しい道しか選べなかったら、なぜ生きているかわからない」というのに私が共感できてしまうからなんだろうな 
    あの頃の無鉄砲さってその時は持て余すものだけど、いざ失ってみるとなんだか寂しい。
    その失くしたものをもう一回思い出させてくれたような本でした。

  • 高慢で華やかな女子高生がもっさりした男子に恋をした。

    むき出しの感情が痛々しくて清々しい。若さ?

  • 白を基調とした装丁とは程遠い衝動的な主人公。その行動は狂気だ。
    嫌悪を抱いてまで美雪を抱き全裸でたとえに迫る愛も、たとえを受け入れ愛を受け入れひらいていく美雪も、愛に怯えながら一緒に来いと告げるたとえも私には理解し難い。恋愛と呼ぶにはあまりにも違和感がある作品。ただ、読み手を鷲掴みにする何かがある。
    心に残る暖かい作品ではないけれど、ガツンと鈍器で頭を殴られるような衝撃がある。ジンジンと揺れが響いて、その揺れが収まらないままに読み終えた。文学なんて難しい読み方は出来ないけれど、文学として評価できる作品なんだと思う。

  • 面白い、綺麗、つまらない、わからない、という言葉で片付けるにはもったいない作品。
    主人公のする全ての行動に理由がついて回らない。
    彼女や私達が理由をくっつけてあたかも理由があるように威張るだけなのだと思う。
    若くて多感で、走り回っているような主人公。
    自分の心や気持ちよりもっと内側で深い底にある何かに正直な主人公。
    私も彼女と同じように急いてページをめくりました。
    きめの細かい作者の言葉が、じわりじわりと気持ち悪さを伝えます。
    読後は言い訳のできない気持ちがねっとりと残ります。
    読まないとわからない気持ちです。
    この気持ちが作品や作者の魅力だと思います。

  • 高校3年生の愛は、同じクラスの西村たとえのことが好きだ。
    愛は、たとえが糖尿病を患う他クラスの美雪と付き合っていることを知る。
    そして、その事からどんどんエスカレートした大胆な行動になっていく。

    ひゃー、なんだこれ。こわいこわい。
    人を好きになるということはこういう事なのか?

    愛が承認欲求ばかりで、周りに求められる人であり続けようとしていた所から一皮剥ける感は心地よい。
    しかしながら、最後の終わり方があまり好きではないかな。

    0.3mmよりも細いようなペンで描かれた繊細さに溢れた作品だった。

  • 高校3年の「私」は同じクラスの男子、西村に恋をし、彼の特別さに気付いているのは自分だけと思い込む。

    別のクラスの美雪が彼の恋人であることを知り、「私」は恋人への接触を試みる。

    思い込みで作り上げた彼への気持ちは彼女を走らせる。
    彼女は彼の前で裸になるが彼の心はひらかない。彼の恋人は心も体も簡単にひらいていく。

    思い込みの恋愛が作る破綻劇。

    -----------------------------------------------------

    狂気といってしまえばそれまでなんだけど、そういう強い言葉で片付けられないのは誰もが通る道というか、誰にでも起こりうることだからだと思う。

    感情の多くは思い込みで、いやだと思えば心は閉じるし、好きだと感じれば簡単に心も体もひらく。

    『君の顔が好きだ 君の髪が好きだ 性格なんてものは僕の頭で勝手に作りあげりゃいい』
    と斉藤和義が歌ったように、話したことなんてなくても、いくらでも勝手に思いつめるような恋愛はできる。

    『会えない時間が愛育てるのさ』
    と郷ひろみが歌ったように、美雪と西村は二人の世界を作っていた。

    思い込みで練り上げた感情は理性を鈍らせ、倫理観も働かなくなる。
    主人公「私」はその感情の行き場をどこに向けていいかわからず、暴走してしまう。自分が心をひらいてほしいひとには拒否されるのに、その恋人は心も身体も簡単にひらく。
    「私」はすごく痛い存在なんだけど、それは誰もが感じる痛みだからリアルなんだと思った。

    彼女たち三人の未来に、よろしく哀愁。

  • 佐藤優氏推薦がきっかけで読んでみた。
    読み易いが、表現はすごく工夫されていて詩的だな、と感じた。
    ひらいて、というタイトルの意味が最後に分かる。主人公の闇は思春期ならではの心の動きを増幅させて表現しているのかな。

  • 読み終わっての感想は「なんかすげーな、綿矢りさ…」って感じでした。

    高校生の、どこに向かっていくか分からない激しい感情がよく表現されていたとは思います。
    ただ、勢いがあるというか、文章から伝わってくるものが濃くてちょっとお腹いっぱいになってしまった。

    だけど、嫌いじゃないんですよね~。特に後半にかけては疾走感があって、今まで渦巻いていた屈託した感情がすーっとほどけていく感覚で読んでいて気持ちよかったです。

    う~ん、不思議な作家さんです。

  • 綿矢りささんの作品を読むと、いつも複雑な気持ちになる。
    その原因の一つとして、誰しもが一度は似た感情を持ったことがあるのではないかと思われる難しい年頃によくあるあの青臭さ。あの青さを思い出して、もやもやそわそわしてしまう。
    子供の頃、特に高校生の頃によく感じた、心の中に留められない苛々。
    抑え込む方法や消す方法を探しては見つからず、または見つける気もなく、結局なにかに当たり散らして、よく爆発させていたように思う。
    その時の複雑な気持ちが、この ひらいて でもよくわかる。
    一見おかしな行動ばかりとる主人公、もちろん自分は彼女のように動き回る心の強さはない。けれど、どこかしらで同じ気持ちを共有できるんじゃないだろうか。
    恋愛感情から変化していく過程がとても良い。逆に嫉妬心から変化していく、「美雪」への思いもとても好みだった。
    人を好きになるって、なんなんだろう。

    等身大の女の子である主人公に、いつの間にか気持ちが寄ってしまうお話だった。

  • 恋愛は破壊だと思う。正確に言うと、破壊になり得る、と思う。
    この話の主人公、愛は破壊した。関わる人との関係性も、そして自分自身も。強く惹かれたクラスの男子のたとえが、糖尿病を患う美雪と付き合っていたことを知った愛。たとえと近づくために美雪に近づき、ついには美雪と体の関係をも持ってしまう。急降下する成績、たとえに否定される自分、たくさんのものを失い、そしてこれから失うかもしれないという絶望感がありながらも、それを自分ではどうすることもできない。コントロールできない。制御できない。
    認めてほしい。受け入れてほしい。そして一つになりたい。そんなある種の"承認"行為こそが恋愛であるとするならば、それが実るのはかなり難しい。所詮他人は他人、その距離は埋められないから。いや、これは恋愛だけではない。人は個で存在しながらも、個では生きていけない、でも個であるしかない。
    人と繋がるというのはこんなにも難しいのか。言葉というものが人間にはあるのに。いや、言葉があるからこそなのだろうか。

  • 面白い。
    スリリング。

    一気に読みました。何が面白かったかここに表現したいのですが、言葉がうまく思い浮かばない。

    狂気、病的な行動をとる主人公には、なんというか、恐怖を感じました。病的なんだけど、衝動的であり、そんなに無理を感じない。ワケもなく止められない感じです。なんか惹きつけられた。

    利己的、自己中心な行動なのですが、わかってやっているというか、罪悪感がうすいというか、ある意味では自身の感情や倫理観に正直であるということが貫かれている。
    人は誰しも不自由なものだと思うのですが、この主人公はリミッター外れた自由さがあり、その危うさに人間らしさを感じるのです。

    つまり、自分の中にも潜んでいる人のサガに共感してしまうために、スリリングであり、リアルであり、イヤな気分になりそうになりつも面白いのである。

    人に対して嘘をつくことは、ひらいてないからなのか?ひらくことなんてできるのか?対人により部分的にひらいても、すべてを開くことなんてできるのか? 答えはどうでもよく、どっちでもない。聖書の文章は読み手によりどう感じるかが違うものかもしれない。ひらかれているか否か。野球少年に、が、ひらいているのはなぜか?

  •  何より一番驚いたのは、他の方の書いたレビューが本当に素晴らしいというところです。私の言いたいことどころか、本書の深層にある綿矢さんの意図を汲み取った感想はもちろん、そういう感想を抱いてそれを人に伝わるような文章にできる方、そしてそういう感想を引き出せるような作品を書かれた綿矢さんも、とても素敵だと思います。
     本書において思ったのは、「想い」というのはすごいものだな、ということです。本当は「恋」と書きたいところですが、主人公が自身の気持ちは恋とも愛とも呼べない、と思う場面がとても印象的でしたので、このように表現しました。「想い」は行動力を高め、低め、性格を良くも悪くも変えてしまい、自分の未来さえ大きく揺さぶる。そういう可能性の幅がどこまでも広がってしまう、なんだか恐くもあり、力強くもある存在だなと思いました。

  •  こういう表現がいっぱいできる人の頭の作りって、いったいどうなっているんだろう・・・話の主軸は「恋」なのに、その表現が何十通りも出てきて、本当に目を見張った。「恋」を「矢」と表現するその鋭さは、本当にすごい。

     熱く激しい10代女子の恋。行き場のない絶望的な思い。その思いの向かった先は、好きな人の彼女。主人公の、そのどうしようもない思いを、私は笑えなかった。あの衝動、あの狂気、あれを一度でも味わったことのある者は、彼女のことを笑えないはずだ。彼女の行動を、私は他人事とは思えなかった。

     だれか、あの思いの飼い慣らし方を知っている人がいたら教えてください。

  •  女子高生の百合モノ、というよもやの前情報があって、りさたんに何があったのだろう…と思いつつ、初めて発売日に購入。
     ざっくりしたストーリーは性格悪くて気が強い女子高生がクラスの草食系男子に恋をしてストーカーまがいのことをしたのち、彼の恋人(もちろん女です)に近づいて籠絡するという耽美なんだか何なんだかよくわからないもの。
     りさたんご乱心か…と思ったら、もう、胸をザクザク刺された。死ぬ。
     私にとっての綿矢りさのよさ、すごさっていうのは、その観察力と言葉のセンスで、大事件が起きるわけでもない、どこにでもある日常を、性格が悪くて感受性の豊かな人間(要はこれが綿矢りさだと私は思っている)のフィルターを通して覗かせてくれるところ。そして、「悲しい」、「苦しい」、あるいはそういった言葉でくくれない複雑な感情を、比喩を駆使して伝わるレベルにまで練り上げるところ。
     『蹴りたい背中』はまさに、ハツのにな川への恋でも嫌悪でも仲間意識でもない、全部がぐるぐるないまぜになった微妙な感情を絶妙に言い表して表現していた。それが新しかった。冒頭の「さびしさは鳴る。…」あの書き出しは、本当に秀逸で、この言葉のセンスは『勝手にふるえてろ』以降、ギャグとしか昇華されていなかったのが、『ひらいて』では身を焦がすような女子高生の恋愛を通してほとばしりにほとばしっている。
     りさたん、こんな熱量のある小説、書けたのね…。
     『蹴りたい背中』のハツを100倍激しくしたような女子高生が、辺り全てを焼野原にする勢いで恋をする。ありふれた高校生活が、恋愛が、綿矢りさにかかればこれほど濃密で色鮮やかで破滅的か。
     同級生『たとえ』を愛してるはずの主人公『愛』は、ものすごいパッションで動き回るのに、何にも”ひらけ”ていなくて、全ての行動が自己愛にしか見えなくて痛い。人に向かって”ひらく”方法や思考を知らない分、気持ちが自分の中で熱くなって大きくなって自家中毒のようにひどい、矛盾していないのに矛盾している方向へと向かっていく。
     それを絶妙な言葉のセンスで書くものだから、もう世界観が圧巻。何もよせつけない綿矢ワールド。
     
     ひとつだけ残念なのは、舞台が再び『蹴りたい背中』と同じ高校に戻ってしまったこと。これについては本人がインタビューで「この主人公を置くにはやはり多感な10代、そして高校という装置が好き」みたいなことを言っていて、それはわかるんだけど、やっぱりひとつ脱皮できていない印象は拭えない。金原ひとみもそうだけど、自分の目で見て体験していない世界は彼女らにはやはり文章にできないのだろうか。彼女が一人称を使い続ける以上無理なのかなー。三人称に挑戦した『夢を与える』惨敗だったもんな…。
     ともあれ、この作品を読めたのが嬉しい。あと3年くらい出さなくてもいいから、このまま、大御所になってください。 

    • koshoujiさん
      とても面白く、含蓄のあるレビューで、興味深く読ませていただきました。
      とても面白く、含蓄のあるレビューで、興味深く読ませていただきました。
      2012/08/07
  • 序盤から中盤までは愛の一途な想いに惹かれました……が、中盤から終盤の展開には驚き。
    愛の言動が半端なく衝動的かつ、意味不明←
    それでも綿矢りさ先生の文面は素直にするっと身体に入るので、不思議。
    読み手によって“ひらいて”という言葉の意味が変わるし、どうなった?と尋ねたくなる内容。
    愛の孤独さも感じ取れ、支えになる人が現れないかと願っている私がいました。
    思春期故の不安定さも表現されているかと思います。

  • 自分本位な恋愛感情で突っ走る色々とぶっ壊れてる女子高生の話。共感はできないし、やってる事めちゃめちゃだけど、行動力があって清々しい。綿矢りさは壊れてる女の思考回路の描写が独特で上手。

  • 若ければ、許されるのか。他者からは許される事があっても、自分自身は許せるのか。
    基本は恋愛小説、文章は言葉が厳選され研がれている感じが好感。

  • 「しょうがの味は熱い」に続いて綿矢りささん2冊目。
    ずんずん読めて面白かったけれど、難しくて悲しくて美しくて危ない。こんなに複雑で屈折している恋愛ってあるのかな。あるんだろうけれど、感性の鈍った私なんかには理屈っぽくて閉口する。でも、キラキラした文章が至る所にあって決してドロドロとはしていないこれまた独特の読後感。

  • あえて簡潔にいえば、好きになった人に振られ、その彼女の間男になる女子高生の物語。。。笑

    多くの人が通るであろう高校時代の恋の話だけど、全然違う世界のファンタジーのように感じた。(褒めてます)

    自分と同じ名前の主人公に全く共感が出来なかったし魅力もさほど感じなかったけど、最後には応援したくなるような気持ちになった。
    たとえと美雪は魅力的。なんとなく、未知の領域だからこそ、存在を美しく感じるのかな。

    狂気にさらされるような、自分で自分をコントロールできない恋。
    恋からずいぶん遠いところに来てしまったから、イマイチ理解にかけるんだろうか。苦笑
    最終的には、3人の不思議な愛の形??

    「本気で話しても思いを伝えられない。」
    この一文にはドキッというかギクッとした。
    自分だけを大切にして目の前の相手と向き合えていないという感覚、、図星。
    自分の中にある自覚できない(しようとていない)狂気とともに、向き合う覚悟を持ちたいところです。

    しかしいちいち表現が秀逸。
    特に目を引いたのは、愛と恋の比喩表現。読んでてドキドキするような。わかるようでわからない、わからないようでわかる、その間をいってていいね。

    後半は思いのほか抽象的な進み方で目がすべった。(集中力の問題も大いにある…)

    結末としてはよくわからんというのが正直なところだけど、最後はうーーーんと唸ってしまったよね。(褒めてます)
    まだ私の中では処理しきれなくて、不思議な読後感。
    時間がゆるすならもう一度、描写や表現を楽しむことと、著者が伝えたいメッセージの考察を目的に、反芻しながら読みたい作品。

    小説等の実写化が多い中、読書ならではの楽しさが詰まっている一冊だと思う。

  • 2017年の読み納めはこちらの一冊でした。

    もうね、最高です。こんなに感情を揺さぶられる小説に出会えて幸せ。読後一週間くらい、ストーリーを思い浮かべてはぼーっとしてしまいました。私にとって高校時代はとっくの昔(早いもので7年前か…)に終わってしまったけれども、そしてこんな一途な恋はしなかったけれども、あの時代独特の空気感を思い出しては甘酸っぱい気持ちになりました。

  • 女子高生の恋を描いた作品だが、恋愛小説とは分類すべきでない。

    人の傲慢さを、「恋」という人間の最も身勝手な心理で、グロテスクに表現している。それはあざといながらも、不器用で、自身ですらコントロールできない。

    この作品に登場する人物たちの心の変化を理解できないと笑う人は、きっと誰もが持つどうしようもなく醜い一面を見て見ぬ振りしているのだろう。

  • 自分の未熟さを突きつけられる。目の前の相手と真剣に向き合うことができているのか?ぼんやりすすけた瞳になったいないか?人付き合い苦手だとか思ってきた自分が醜い。どんだけ自分のこと大事なのよこの馬鹿!
    綿矢りささん初めて読んで、完全に打ちのめされた。甘えなんて一つもなかった。惚れた。

  • 冴えない彼の魅力には、私だけが気付いていると思ってた。
    それなのに、彼には手紙を交換するような彼女がいたなんてーー。

    そんな内容がとても気になって読んだ一冊。
    てっきり青春のほろ苦いラブストーリーかと思ったのですが、読んだらまぁ苦いという域を遥かにこえていて、一見量産型女子高生にみえるアイの激しい恋愛感情が炸裂しまくるとんでもない小説でした。

    ひっそりと、けれど半ば暴走的に恋する女の子の心情が、綿矢りさ独特の筆致で余すところなく堪能させてくれます。
    言葉の選び方はもちろん、文章のリズム感がすごく好き。声に出して読みたくなる。
    切羽詰まっていて、歪んでいるけれど、ひたむきなアイの甘苦しい想いが直接響いてくるようでした。

    それにしても、深海魚のような”たとえ”の良さ、私にもわかる気がするなぁ。
    学ランの肩のラインが他の男子よりふくらんでいるところとか、特に良いです。
    彼女の美幸も健気で、嫌いになりたいのになれないようなキャラ。
    愛との百合描写が最高だった。
    突然の展開でびっくりしたけど、百合好きの私歓喜!
    瑞々しい女の子同士のじゃれあいたまらないですね。

    ラストにかけては怒涛すぎて、ちょっと読者置いてけぼりのような気がしましたが、強くタイトルの重みを感じました。
    愛もたとえも美幸も、幸せになれるといいな。
    抱きしめて、背中をさすってあげたくなるような危うい彼らも、いつかこの時をなつかしく思える日がくるのでしょう。

  • 高校三年生の私、愛は、クラスでただ一人東京の難関大学を受験する“たとえ”に恋をしていた。どこか異質な彼を目で追ううち、愛は彼が学校で周りの目を盗むようにして手紙を読んでいるところを目撃する。彼の教室の机の中にしまわれた沢山の白い封筒。その手紙を夜の学校に忍び込んでは読むうちに、愛はこの手紙の送り主が一年の時たとえと愛と同じクラスだった美雪ではないかと考える。どうしても縮まらないたとえとの距離を縮めたい、この手紙の主を確かめたい、その混ざりあった算段で近づいたはずが、ひょんな勘違いから思わぬ関係へとと変質していく。

    綿矢さんの文章が私はとても好きだ。言葉の選び方、組み立て方、その長さ、砕いたり整えたりの加減。主人公の取り澄ました仮面と、そのくせなりふり構わなくなる激しさも好きだ。
    完全に私の好みの問題だけれど、タイプが似た人物を描くことが多い辻村さんや島本さんの書き方より添いやすい。
    この物語の最後の、何とも言えない駆け足間は置いておいても、光の多いラストが好きだった。

  • すでに読んでいることを忘れて2回目の「ひらいて」。

    好きな人を振り向かせるためならその彼女までも寝とってしまう女子高生の愛。
    愛の姑息ながらまっすぐな気持ちを、わたしは嫌いになることができない。
    少なからず誰もが憧れる要素があると思う。

    りささんの作品は好きで読むけどいつも理解できない文章ばかり(笑)自分が果たしてこの小説で伝えたかったことの何割を理解できただろうかといつも思ってます。

    今回の場合は特に最後のたとえと愛の教室での出来事。
    愛を受け入れてくれたたとえに愛の「もう鶴を折ってなくて」
    鶴を折ることが何につながるのかわたしにはわからなかったし、
    わたしには3人でハッピーエンドかと思ったら、愛は2人には付いて行かなそうな書き方。

    いやはや、いつまでたっても綿矢りさの小説は難しいなぁとわたしは思うわけです。
    でも好きなんだよね(⌒▽⌒)

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

綿矢りさの作品

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