火山のふもとで

著者 :
  • 新潮社
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  • / ISBN・EAN: 9784103328117

作品紹介・あらすじ

「夏の家」では、先生がいちばんの早起きだった。-物語は、1982年、およそ10年ぶりに噴火した浅間山のふもとの山荘で始まる。「ぼく」が入所した村井設計事務所は、夏になると、軽井沢の別荘地に事務所機能を移転するのが慣わしだった。所長は、大戦前のアメリカでフランク・ロイド・ライトに師事し、時代に左右されない質実でうつくしい建物を生みだしてきた寡黙な老建築家。秋に控えた「国立現代図書館」設計コンペに向けて、所員たちの仕事は佳境を迎え、その一方、先生の姪と「ぼく」とのひそやかな恋が、ただいちどの夏に刻まれてゆく-。小説を読むよろこびがひとつひとつのディテールに満ちあふれた、類まれなデビュー長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 読みながら、いつまでもこの世界にひたっていたいと思う本がごく稀にある。
    この作品がまさにそれで、著者のデビュー作とは思えないほど完成度が高い。
    ささやかなディティールの積み重ねが、それは幸せな読書の喜びをもたらしてくれた。

    そこまで心惹かれたのは、図書館建設がベースにあるからだ。
    設計の過程で繰り広げるディスカッションが白熱するたびに、「そんなことまで考えるのか」という驚きと、自分もその場にいるかのような興奮があった。
    建物の外観、講堂の着想、開架式書棚の高さと形と配置、椅子の設計、書見台や机、それらをどう利用者の動線を考慮したものに造り上げていくか。
    「本を読むのは孤独であって孤独ではない」「ひとりで出かけて行って、そのまま受け入れられる場所」」・・図書館論とも言えるこの理念には、思わず拍手したくなる。

    主人公の「ぼく」は、美大の建築科を卒業後、都内の「村井設計事務所」に入所する。
    その事務所は、夏になると浅間山のふもとにある別荘に移転するのがならわしだった。
    所長は、時代に左右されない美しく質実な建物を生み出す建築家の村井俊輔。
    「ぼく」を含めたスタッフたちは、秋に控えた「国立現代美術館」のコンペにむけて、仕事に心血を注いでいく。
    そして静かに育まれていく「ぼく」の恋も。1982年夏のことだった。。

    「ぼく」の眼を通して語られる自然描写の美しさが特筆もの。
    図鑑でしかその名を知らない鳥たちが登場するたびに、不思議なほど高揚した。
    山荘のアプローチにある桂の樹。山椒の実をとる場面。闇の中で舞う大量の蛍。
    樹木について野草について、登場人物たちが語るたびに、それもまた建築への動力のひとつのように思えてくる。
    暖炉の火の入れ方、紅茶の淹れ方、薪の積み方、料理をする過程から食べるまでの描写、流れる音楽、一日二回全員で必ず削る仕事用鉛筆の削り方、どれもが目に見えるかのように細やかに描写される。

    人物もまた、その言葉や仕草、眼差し、仕事ぶりなどでそれぞれが自らの人生をまっすぐに生きていることを思わせる卓越した書き方だ。
    とりわけ女性たちの描き方の魅力的なこと。野上弥生子を彷彿とさせる女性も登場する。
    「先生」と呼ばれる村井俊輔の鷹揚な魅力がこの物語の要で、設計への緻密な構想とセンスを、皆がどれほど慕っていたかが描かれている。
    ラスト10ページで、「ぼく」は29年後に「私」となり再び別荘を訪れるが、流れから言うと実に自然で、ラストの場面まで静謐で美しい。

    飛鳥山教会、ストックホルム市立図書館、グッゲンハイム美術館、アスプレンドの「森の墓地」。
    それらの固有名詞が登場するのもうれしく、検索しては眺めていた。
    大事件が起こったりするわけではないが無駄はない。そして省略もない。
    禍々しさとは無縁の、ひそやかに流れる音楽のような小説。
    小説はディティールを愛でるものだということを、久々に思い出させてくれた良作。

    「本にまつわる本」に、現代小説を一冊でも入れたいと探し続けてめぐり会った本だ。
    大人の鑑賞に堪える見事な一冊だった。
    今夜はコンペ用の図書館模型をつくる夢を見そう。

    • vilureefさん
      ご無沙汰してます。お元気ですか?

      ふらっと寄ってみたら、nejidonさんがこの本のレビューを書かれていてうれしくなっちゃった。
      私...
      ご無沙汰してます。お元気ですか?

      ふらっと寄ってみたら、nejidonさんがこの本のレビューを書かれていてうれしくなっちゃった。
      私も大好きです、この小説。
      そのあと数冊松家さんの本を読みましたが、デビュー作が一番好きです(^^♪

      またふらっと寄ってみます。
      気まぐれですが(笑)
      2020/06/26
    • nejidonさん
      vilureefさん!
      もう、すれ違ってしまいましたよ・笑
      たった今そちらにコメントして帰りました。
      はい、いつでもふらっとお寄りくだ...
      vilureefさん!
      もう、すれ違ってしまいましたよ・笑
      たった今そちらにコメントして帰りました。
      はい、いつでもふらっとお寄りくださいませ。
      ものすごく敷居が低いですよ・笑
      久々のコメント、すごく嬉しいです、ありがとうございます!
      2020/06/26
  • 昨年からずっと読みたかった本をやっと読むことができた。
    期待を裏切らない、いや期待以上の作品だった。
    何よりも美しい。端正で美しくて、そして心地よい。
    浅間山麓の透明な空気に包まれている錯覚に陥りながら最後まで物語の世界を味わった。

    浅間山が噴火した年に有名な建築家の設計事務所に入所した主人公の「ぼく」はひと夏を浅間山の麓の軽井沢で過ごす。
    物語の核となるのは国立現代図書館の設計コンペ。
    このコンペに勝つべく心血を注ぐ設計事務所のメンバーのやり取りを追っていくだけでも十分楽しい。
    建築の知識があまりない私でも、アスプルンドの「森の墓地」やライトの「グッゲンハイム美術館」など見知った建築物が登場するとググッと引き込まれる。

    魅力はそれだけではない。
    軽井沢の自然描写がなんともすばらしい。
    様々な野鳥の鳴き声やそこに息づく木々や花々。
    北軽井沢を飛び交う蛍。
    そんな自然が淡々を描かれている中で、良質の音楽や絵画もアクセントのように織り込まれている。

    もちろん、忘れてはならないのが人間模様。
    「ぼく」が恋する様子、先生のもとで成長する様子。
    そして物語の後半に起こるある出来事。
    それまで淡々と進んできた物語が突然動き出す。
    浅間山の噴火とまるでシンクロしているように。
    切なくて切なくて思わず涙がこぼれる。
    そして私としては納得の結末。

    あー、大満足。
    いい作品を読んだという充足感でいっぱいになった。
    あまりの完成度の高さにしばし放心。
    作者のデビュー作というのは知っていたが、まさかここまでとは。
    激しい性描写や、目を覆いたくなるような場面は全くない。
    意表をつかれることもないし、誰も死んだりしない。
    建築に対する思いと、人々の日常が美しい自然の中で描かれる。
    ただそれだけ。
    ただそれだけがいい。

    それにしてもこれほどの作品だというのに、認知度が低いことに残念。
    私の利用図書館にも蔵書がないため取り寄せてもらって読んだ。
    ブクログのレビューも少ないし、話題にもなってなさそう・・・。
    松家さんは有名な編集者だったそうで、それがハードルを高くしているのか。
    なんだか、もったいないな~。
    こんなに素敵な作品なのに。
    一人でも多くの人に読んでもらいたいと思いつつレビューを書いた。
    次回作も楽しみ。

    • vilureefさん
      九月猫さん、こんにちは!

      ええ、ええ、是非読んでください♪
      この本は胸を張って(?)お勧めできます。

      本当にリストは長くなる一...
      九月猫さん、こんにちは!

      ええ、ええ、是非読んでください♪
      この本は胸を張って(?)お勧めできます。

      本当にリストは長くなる一方でも読むのは限界があるんですよね。
      私は寝る前に本を読むことが多いのですが、睡魔に勝てずいつの間にかウトウト。
      今日も読めなかった!!と後悔の日々です(笑)
      2013/07/18
    • nejidonさん
      vilureefさーんー!
      いいねを下さってありがとうございます!
      この本を読み終えたとき、よほどこちらにコメントしようかと思いましたよ...
      vilureefさーんー!
      いいねを下さってありがとうございます!
      この本を読み終えたとき、よほどこちらにコメントしようかと思いましたよ。
      あまりにご無沙汰なのでできなかったんですけどね。
      お読みいただいたようで、とっても嬉しいです(^^♪
      またいつでも戻ってきてくださいね。お待ちしています!
      2020/06/26
    • vilureefさん
      nejidonさん

      ふふふ。コメントありがとうございます。
      お返事いただけて嬉しいです。

      最近老眼が進み、読書からますます遠ざ...
      nejidonさん

      ふふふ。コメントありがとうございます。
      お返事いただけて嬉しいです。

      最近老眼が進み、読書からますます遠ざかっております。
      なかなか夢中になれる本が見つからない(探していない)せいもありますが(^^;

      またnejidonさんのレビューを読んでやる気を呼び戻します(笑)
      2020/06/26
  • 終始しずかな物語。
    何ともいえず心地よい小説でした。

    タイトルだけ見ると、歴史時代小説のようですが、
    少し前の1980年代のお話です。
    軽井沢のさらに奥まった浅間山のふもとにある「夏の家」を舞台に、
    村井設計事務所の面々が国立現代図書館の設計コンペに向けて過ごす
    ひと夏をベースに描かれていきます。

    レコードで聴くピアノソナタのように
    やさしく寄り添い、
    なじんでくると思いがけないほどの奥行や伸びしろがある。
    真摯で誠実で、静謐で。
    先生の設計する建築は、きっとこんな雰囲気なのだろうと
    読むものを想像させてくれます。

    きっとまだパソコンやケータイはおろか
    ファックスも普及してないような時代だからこその
    俗世から離れた雰囲気なのでしょうが、
    鉛筆を決められた時間に削って、
    何万本と線を引くような緻密な手作業が、
    そのまま彼らの生み出す建物や家具に表れている気がしました。
    別荘周辺の自然描写、建築物の細かな表現も丁寧で、
    どこまで実在するの?と思わず調べてしまったほど。

    建築についてはさっぱりですが、
    フランク・ロイド・ライトやル・コルビジェくらいなら知ってるし、
    村井先生の考えや姿勢がすごくすてきですごく深くて
    共感できるところもいっぱいありました。

    物語も一見シンプルに見えて実は手が込んでいて
    すーっと入っていける心地よさがありました。
    久々に読み終えるのがもったいなく感じた本でした。


    最後になりますが、
    ブクログやってなかったらきっと出会えてなかったこの本
    こうして巡り会えたことに感謝いたします。

    • vilureefさん
      こんにちは!

      うわ~、嬉しい♪
      この本の良さを分かってくれるお仲間が増えて!!

      あー、いいですよね、シャリシャリと鉛筆を削るあ...
      こんにちは!

      うわ~、嬉しい♪
      この本の良さを分かってくれるお仲間が増えて!!

      あー、いいですよね、シャリシャリと鉛筆を削るあの静かな時間とか。
      実際に住んだり使ったりする人の目線に立った設計とか。

      幻に終わった図書館が実在しているのならば、絶対に行っちゃうのにな~と思います。
      山荘はモデルがあるよなので気になりますね(*^_^*)
      2013/07/31
    • tiaraさん
      vilureefさん!

      まさにvilureefさんのレビューを拝見して、そっそく図書館に予約入れたのですよ!
      素敵な本を紹介してくださり、...
      vilureefさん!

      まさにvilureefさんのレビューを拝見して、そっそく図書館に予約入れたのですよ!
      素敵な本を紹介してくださり、私もうれしい限りです。

      あの図書館、いってみたいですよねー。
      青山にト音記号の…グッゲンハイムのような…と拙く想像しています。

      山荘はモデルがあるんですね!
      村井先生のモデルも何人か名前が挙がっていて、きっと詳しい人が読んだら何倍も味わえるんでしょうね。
      2013/08/01
  • これがデビュー作というから畏れ入る。編集者という経歴のなせるわざか、よく彫琢された上質の文章で綴られたきわめて完成度の高い長編小説である。

    1982年、大学卒業を目前にした「ぼく」は、村井建築設計事務所に入所がきまる。所長の村井俊輔は戦前フランク・ロイド・ライトに師事した著名な建築家。事務所は夏になると、スタッフ全員で浅間山麓にある山荘「夏の家」に転地し、そこで合宿、仕事をするのが慣わしだった。今夏は特に参加を決めたばかりの日本現代図書館のコンペに向け、そのプランを練ることになっていた。

    建築設計のコンペという新鮮な題材を基軸に据え、季節によってうつろう北軽井沢の自然を背景に、若い「ぼく」の仕事と恋愛を描く。仕事といっても入所したての主人公は、先生や先輩たちから学ぶことばかり。下界から高地へ転地した青年が、先人から教育を受けるという点で、トーマス・マンの『魔の山』に似た設定を持つ。登場する車がすべて外国車だったり、暖炉のある山荘に似合った食事のメニュだったり、ある種の富裕な階級を感じさせるあたりも共通する。

    北軽井沢という避暑地を舞台に選んだ時点で、小説は日本とは異なるいわば異国情緒を漂わせることになる。長期にわたって本拠地を離れた山荘で過ごすことのできる人種とは、芸術家、大学教授、著述業といったハイブロウな人種に限られる。当然のように当時、下界で起きている出来事などは、小説の中から慎重に排除されている。会話のほとんどを建築や家具を中心とした審美的な話題が占めている。作中で「先生」は「建築は芸術ではない」と語っているが、そういう意味で、この小説はある種の芸術家小説の相貌を帯びざるを得ない。

    いわゆる生活臭のようなものが徹底的に排除されているという点で、読者は醜いものや見たくないものから完全に隔離され、趣味のいい食事や車、音楽、暖炉の前で交わされる心地よい会話に囲まれ、知らぬ間に時を過ごしている。『魔の山』にいる間は時が止まっているように。

    鉛筆やナイフといった小物からヴィンセント・ブラック・シャドウなどという旧車のバイクにいたるまで選び抜かれたブランド名が頻出する。カルヴァドスやグラッパなどのアルコールにしても詳しい者には愛飲する人物の個性を示す表象になるだろうが、その方面に不調法な者には鼻につくきらいもあろう。評価の分かれるところかもしれない。

    主人公は二十四歳。事務所ではいちばんの新入りだ。その人物を話者に据えた一人称限定視点での語りで、日本語で文章を書けば、一般的には周囲の人物には敬語を使うことになる。呼称の場合、名前の後に「さん」がつくのが普通だ。ところが、自分より三歳年長者である先輩の雪子と先生の姪に当たる雪子と同い年の麻里子にだけは最初から地の文で呼び捨てになっている。

    回想視点で語られている以上、現在の主人公が過去を振り返っても、呼び捨てで語ることのできる関係に、この二人の女性はいるわけだ、とそんなことを読みながら考えていた。どこまでも神経の行き届いた書きぶりである。

    そんな中でひとつだけ気になったことがある。全体を通して「ぼく」の一人称限定視点で語られているこの小説の中で、一箇所だけ麻里子でなければ知りえない感情を直接話法で書いた部分を見つけた。重要な場面だけに気になった。故意にだろうか。もしそうだとすれば、ロシア・フォルマリスムでいう「異化」作用を意識した心憎い演出である。次回作に期待のできる新人の登場である。

  • とても良い本と出会えた。静かで、穏やかで、少しの孤独を含んだ、独特の本の世界だった。先生の話す言葉は、印象に残るものがたくさんあった。

  • 美しくて丁寧な文章だった。

    ひと夏の思い出。
    どこか客観的で淡々とした語り口、すごく盛り上がるような内容ではないが、その世界に浸ってずっと読んでいられる。

    静かな森に佇む家、鳥のさえずり、心地よい風、真摯に取り組むべき仕事、淡い恋…素晴らしい夏のひとときを疑似体験させてくれる。

    主人公が夏の家の住人〔特に麻里子、雪子、内田先輩〕たちのあいまいな言葉やちょっとした仕草に葛藤する感じがリアル。ソワソワした。

  • とても良い小説だった。
    描写が美しくて、こんなにも惹き付けられるのにストーリー展開が自然。読後感もすごく爽やかで気持ち良い。
    小説を読むとその世界があまりに非日常過ぎたり、作者の魂胆が見え透いてしまい、冷めてしまったり、入り込めないことが多い。けれど、全くそれがない。もちろんその世界は非日常なのだけど、誰もが心にもつ記憶にすーっとシンクロしてくるのだと思う。
    こんなに気持ちよくさせてくれた小説は久々だった。

  • 静かな佇まいを感じさせる小説で、私には大変好ましいものだった。
    こういった小説が最近少なくなっている気がする。

    大きな事件が起こるわけではないが、丁寧な描写が情景を浮き上がらせ、秘めた心の内を思わせる。
    読んでいる間避暑地の清涼な空気を感じていた。
    穏やかな気持ちで読み終わることのできた本は久しぶりではないか。

    これがデビュー作というからたいしたものだ。
    次作が楽しみ。

  • 昭和の終わりの匂いを中心とした背景に、丁寧に綴られた若き建築家の日々。 ゆっくりと生きていく人々がみな好ましくて、読めてよかった!


    大学を出たばかりのぼく・坂西は憧れの建築家・村井俊介の設計事務所で社会人のスタートを切る。

    彼がなぜ、村井の建築物が好きなのか。彼の目線で村井の設計した建物を撫でるように語り、私のような素人でも、どんなに優しい光が流れ込む空間なのか、どんなに穏やかな空気が漂う場なのか、がよくわかる。

    村井設計事務所は夏になると毎年、浅間山の麓に「夏の家」として移転。
    蒸し暑い東京を避けて涼しい高原で仕事をする、というスタンスからして、
    浮世離れした設定なのだけど、村井先生を始めとして、事務所の人々が皆、それを当たり前のことのように分担で食事を作ったり、薪を割ったり、夜にはクラシック音楽を流しながら語り合ったり。

    実績があるわけでもない彼が人気の事務所になぜ採用されたのか。
    読んでいるとおいおいわかってくるのだけど、
    なんていうか、ぼくも村井先生も、また、事務所の人々、浅間山の集落の人々も含めて、
    同じ落ち着いた匂いのする好ましい人たちで、
    私も、心静かにゆっくり読書を楽しむことができました。

    薪のはぜる音、美味しく入ったコーヒーの香り、朝の高原の靄や鳥のさえずりなど、
    言ってみれば平凡な道具立てなのに、
    どれも、どこかで見たような描かれ方、ではないような
    愛おしい描写に思わせられてしまうのは、
    新人ながら手練れとまで言いたくなる松家仁之さん、という人なんですね。



    以下、ちょっとネタばれかも。





    ただ、一番新人の彼が、
    先輩である女性スタッフ、また、先生の姪で夏の間だけお手伝いに来ている女性を
    終始、ファーストネームで呼び捨てにしているのが気にかかって(とうか、感じがよくなくて)いたのだけど、

    それも、着地点が用意されていた、という仕掛けにも、うん、そうだったのか、なんて。


  • ここ数日、
    ワタシも彼らと夏の家に行ったり、
    図書館の模型を作ったりしていた気がします。

    透き通ってて、風が吹いてるような1冊。

    ぽっかりと穴があいてしまったとき、
    埋めようと塞ごうと一生懸命になるんだけど、
    いっそのこと全て削ってもう一度作り直す方法も
    あるんだと思います。

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著者プロフィール

1958年生。大学卒業後、新潮社に勤務し、海外文学シリーズの新潮クレスト・ブックス、季刊誌「考える人」を創刊。2012年、長編『火山のふもとで』で小説家としてデビュー、同作で読売文学賞受賞。第二作は北海道を舞台にした『沈むフランシス』。本書が小説第三作になる。


「2014年 『優雅なのかどうか、わからない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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