レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103328414

感想・レビュー・書評

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  •  西武鉄道とその路線の団地から見る戦後史。

     スターハウスは50年前に建てられたY字型の団地、レッドアローは池袋ー秩父間を走る特急の名前である。
     西武グループは開発によって親米保守的な日本をつくる一助を担おうとしていた。会長の堤康次郎に至っては天皇と自分とを同一視化する程だった(秩父と天皇家の関係にびっくり!)。しかし、それとは対照的に均一的な団地はソ連の町並みのようであり、住民の団結を呼び、皮肉にも共産党の大きな支持基盤となっていった。
     社会は単純ではなく複雑な構造が絡み合っている。それを多くの人が人生の中で触れたことがある団地というものを通して描いているのが興味深かった。

     団地に住んでいたことがある人、西武沿線に住んでる人は必読。

  • 先日初めてレッドアローに乗車しました。池袋駅で乗り場がわからなくて上がったり下がったり。東京では生活圏が違うとまったく自分には関係のない電車が出てきます。その関係ないはずの路線である西武池袋線、西武新宿線で挟まれたエリアが、世界でもっとも社会主義が成功した資本主義国日本の政治意識の揺籃の地となって、例えばジブリの「となりのトトロ」の自然観まで影響を与えるというスリリングな論考です。「反共親米」の資本である西武・堤康次郎の野望と上田耕一郎・不破哲三という日本のマルクスブラザーズの活動、秩父宮と昭和天皇の微妙な距離感、堤清二と堤義明の確執、西武と東急との戦争、そして共産党と公明党の自治会へのアプローチ、などなど数々の東京郊外を舞台にした二項対立がダイナミズムを生み出し日本人の意識を形成していく様子が感得できます。たぶんあの時代に人格形成をした鉄っちゃんである著者が天皇制や政治思想史の専門家となって初めて書ける本かも。

  • やはり東京はたくさんの村落の集合としての都市であり、鉄道路線がそのカテゴリーを作ってる。地方なら例えば郡に相当するような。中央線沿線と西武新宿線沿線では、大した距離はなくても違うものに対する帰属意識がはっきりと出ている。
堤が反ソ親米路線を地で行ったとはいえ、沿線の開発に対して力を入れなかったがゆえ、西武鉄道の沿線は公団住宅の森となり、それが国家が描いた新中間階級のアメリカ的マイホームとなるかと思えば、空間的な理由でソ連的都市が生まれ、共産主義の温床となる。
団地という空間、西武鉄道沿線という空間が特有の政治的状況を生み出し、氏の唱える空間政治学のいい例となっている。
空間が何が別の次元に何らかの写像ももたらす。または何らかの次元の写像としてある空間が生まれてくる。そういう視点、手法論としてで建築の分野でも活かせるかもしれない。

  • 西武線クオリティーが、割と、理解できた。

  • 新米反共の保守政治家堤康次郎が築き上げた西武鉄道。しかし、その沿線住民にはむしろ革新思想が拡がっていく。戦後の深刻な住宅不足を解消すべく立ち並んだ団地郡、好むと好まざるとがひとからげになった、かつてない住環境。けしていいとはいえない生活インフラへの不満は、次第に、巨利をむさぼる西武に対して住民たちの連帯と団結を促した。そもそも、堤康次郎その支配体制は多分に一党独裁的であり、西武という風土が既に革新政党との親和性があったというのも興味深い。団地という思想から切り開かれる著者の空間政治学、その真骨頂。

  • ●:引用、→:感想

    ●もちろんひばりヶ丘団地や滝山団地にこうした組織はなかったが、私が通った東久留米市立第七小学校では、「集団が自己の利益や名誉を守ろうとして対象に怒りをぶっつけ、相手の自己批判、自己変革を要求して対象に激しく迫ること」、すなわち「追求」が公然と行われた(前掲『滝山コミューン1974』)。団地という同質的な社会に中央の政治が持ち込まれることで、「下からのデモクラシー」が変質し、自治会に代わってコミュニティーの中核となる小学校の舞台に「滝山コミューン」のような世界が作り出されたことは、銘記されるべきであろう。 →著者の激しい怒り、恨みを感じる。大人、そしてそれに無批判に迎合する多数の児童のリベラリズムの抑圧に対する、無力な個人の無抵抗感への怒りか?小学生の時のことなのに。トラウマなのだろう。自分の時代にも反省会なるものがあっって、”○○君は今日、こんなことをしました。悪いと思います。”なんていう女子がいたが、名指しされた○○は「すみません。反省します」みたいなことを言って、次の日には同じことをやっていたような気がする。それが当たり前な学校生活と思っていた。

  • 著者の「団地の空間政治学」でひばりが丘団地ができたころの様子を知ってはいたけれど、西武鉄道という視点で見ると、共産党、レッドアローなど、不思議なつながりがあることがわかります。

  • 題名や想定から予想するべきだったのだけれども、戦後の左翼思想のお話であったので、正直いってあまり興味がわかなかったのだった。

  • タイトルからもっと鉄分の多い本かと思ったがさにあらず。
    副題にあるとおり「もうひとつの戦後思想史」を追ったもので「西武鉄道と沿線団地から見たもうひとつの戦後思想史」と言った所(論文じゃあるまいしそんなタイトルじゃ一般書として売れませんね)
    著者の「滝山コミューン一九七四」のあとを追う作品としても位置づけしたい。
    「滝山コミューン一九七四」を読んだときは、たまたま滝山第七小学校に先鋭的な教職員が配置され、また自治会にも先鋭的なメンバーが揃っていたということなのではないかという疑問があったのだが、西武鉄道の沿線団地における自治会の“赤化”の流れを追うことによって「滝山コミューン」の位置づけがされた気がする。
    東急沿線と西武沿線を比較して論じる視点がもっと多いほうが興味深かったがそれは本著とは別テーマで論じられるのだろう。

  • 西武線沿線の団地を題材に、生活環境の不備が「地域住民を主体として現状を改革してゆくための〈下からの政治思想〉」を創り出す経緯に着目して、主に共産党の影響について論じる。西武線沿線の方法論を無理矢理大阪や千葉の団地に適用している感の拭えなかった『団地の空間政治学』と異なり、本書は対象を西武線沿線の団地に限定し、さらには問題系が著者の個人史に収斂する構成を取っているため、空間政治学の実践としての内容は『団地の空間政治学』より濃いものとなっている。タイトルは西武鉄道と公団団地の最良の部分(と見なされるかもしれないもの)を象徴しているが必ずしも本書の内容を象徴するものではなく、また本書における西武鉄道と共産党との関わりの見立ても必ずしも適切な仮説とは言えないが(例えばレッドアローがソ連ではなくスイスを起源とすることが明かされるくだりなど)、その枠組みの中で取り上げられた、必ずしも枠組みの正しさを保証しないエピソードの数々は興味ぶかく、意義がある。

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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