絶唱

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103329138

作品紹介・あらすじ

絶唱,湊かなえ著は阪神淡路大震災の後を舞台にした小説。
大震災を体験した人々にはいろいろな人がいます。亡くなってしまった人、大切な人を亡くしてしまった人など様々です。そんな人たちを登場人物にした四つの連作短編からなっている本作はどの短編の主人公も震災で傷を負いながらもトンガという国へ向かうという物語です。

感想・レビュー・書評

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  • 短編4作の連作。女性4人それぞれの視点から語られる各編それぞれに味があり、ぞわっとすることもあるが、その内面世界に引きずり込まれる。“楽園”が好みかな。著者の体験も踏まえた真情の吐露は、過去を変えることはできないが、今の未来の行動は変えることができることを語りかけてくる。『望郷』の読後感に近いかな。

  • 阪神淡路大震災で傷付いた心をトンガの国で癒す4人の女性の物語です。
    この作品は、著者の実体験が深く関わっています。
    というのも、湊かなえは1995年に起きた大震災の翌年に、青年海外協力隊でトンガに赴任していたという経歴の持ち主であるからです。

    この予備知識をもった上でもう一度本を手に取ると印象がガラリと変わります。
    湊かなえ自身のリアルなココロと生暖かい息遣いが聞こえてきそうな生きた作品です。

    彼女は、表現しがたい罪悪感というものをずっと背負ってきていたのだと思います。
    それが過去のさまざまな作品に反映されていたのは間違いないというのも感じます。
    そして、当時の内容を振り返るとも思われる小説をついに解禁した彼女の勇気は凄まじいもので、それらを考えた上でよむと涙が止まらなかったです。

  • 人生の中に阪神淡路大震災が組み込まれて
    その後の人生が大きく変わった4人の女性。
    それぞれの理由で、トンガを訪れる。

    トンガでゲストハウスを営む尚美を軸に、彼女たちの傷、新しい一歩を照らす物語。

    章が一つ終わるごとに震災の描写がより鮮明になっていく気がする。
    最後の千春の章は本当に読んでいるのが苦しい。何も悪くないのに、自分だって被害者なのに、より深刻な被害に遭った友人に罪悪感を感じてしまう。
    湊かなえさんのプロフィールが、彼女らの過ごした人生をなぞっていて正に経験した人の文章だなと思う。
    しかしこの小説を書くのにはかなりの勇気と精神力が必要だっただろうな…

    2話目に出てくるトンガ人の死生観が面白かった。
    悲しいのは別れであって、死ではない。
    むしろ、生きていることが試練であって、日々鍛錬を積まねばならない。
    死とはイエス様と同じ世界に住むことが許されたという証で喜ばしいことなのだと。

    死ぬことが怖いという気持ちが、少し薄まるような気持ち。
    いつかビカビカに飾ったお墓も見てみたい。

    3人目の杏子の話は…
    うん、分かるんだけどね
    やっぱりいけないことはいけないと思うんだ…って気持ちになる
    尚美さんの
    「今の杏子はダメ人間だと思う。
    だけど、あんたはこれから変われるって、私は信じてる。」ってセリフ、スカッとした。

    先日も東北で大きな地震があった。
    来るとは分かってるんだけど…
    備えるしかないんだけど…

    もう地震は頼むからやめて下さい
    お願いお願いお願いだから…

  •  阪神淡路大震災に遭い、傷を負った4人の女性達が、トンガを訪れそれぞれの人生を再生させていった4つのお話。
     最後の「絶唱」の話で、自身も震災で怖い目に遭い、なんとかバイト先の知人宅に避難させてもらったのに、それよりひどい状況にいた友達を救いにいかなかったことを責められてしまったシーンが心に残りました。
     「太陽」の話で、避難所での辛い生活も知りました。震災が起きました→ボランティアがきて助けてもらっています、復興に向けて頑張ります、日本ってこういうところが素敵です、忘れないでいることが大切です、と一般的には言うけれど、簡単に、一括りに語ることのできることではないんだと思い知りました。
     トンガの明るく信仰深いお国柄と、その考え方に癒されました。

  • 「楽園」・「約束」・「太陽」・「絶唱」
    四編からなる連作短編集

    自分を取り戻す為に
    約束を果たす為に、逃げ出す為に
    忘れられないあの日の為に
    別れを受け止める為に
    傷付き『死』に打ちのめされた彼女達が辿り着いた場所は、
    太平洋に浮かぶ南の島トンガ


    母親から自分の存在を否定された毬絵
    婚約者との将来に疑問を抱いてる理恵子
    幼い娘との生活に行き詰りを感じている杏子
    震災で心に傷を負った千晴

    阪神・淡路大震災を体験した、それぞれの主人公達の
    深い心の傷や葛藤が丁寧に描かれている。
    南の島・トンガという美しい景色と、トンガタイムと呼ばれる程
    のんびりしておおらかで大雑把で明るい人々
    南の島が持つ特有のパワーが、ほんの少しかもしれないけど
    前に進む力をトンガで得られる。
    誰かが誰かの支えになって助けてる。
    そんな姿が描かれてる。

    死は悲しむべきことではない…。
    悲しいのは別れであって死ではない。
    宗教の違い・死生観の違いかもしれないが、
    でも、そんな考え方も救われるなぁ。

    震災が長い月日を経ても、いかに多くの人の人生を
    変えているかを改めて感じたし、悩んだり苦しんだり
    しながらも前向きに生きようとしてるんだって感じました。

    「絶唱」は、湊さん自身の体験なのでは…とまで思わされました。
    一番最後に書かれてる『宣言』が心にグッと来ました。
    これは、湊さんの決意表明なんでしょうね。
    『覚悟』が、あのラストには刻み込まれていました。

  • 思ってた湊かなえさんの作品とは違った。
    イヤミスではないからかなぁー。
    なんだか、湊かなえさんの本当にあった
    出来事を見てる感じだった。
    「阪神・淡路大震災」と「トンガ」が
    キーワード。

    楽園
     マリエとして生きるためにトンガに行く。
    約束
     婚約者と互いに縛られていた過去。
    太陽
     「子どもは太陽だ。」
    絶唱
     震災の中にいる人と外にいる人。

    なんか、震災について考えさせられた。
    震災を体験してない私は簡単には感想が
    書けない…。
    でも、「子どもは太陽」って考えは
    とても大事だと思った。
    震災後、むやみにその時のことを
    ほじくりだそうとする人もいるけど、
    そうじゃなくて、ただ楽しいと思える
    ことをさせてあげる。
    そういう、子どもの笑顔が大事だなぁー。 

  • 短編集。いつものホラー的なほんのりとハラハラするような感じじゃなくて、心にトラウマや傷を負った人の心が人によってじわじわ救われていくような、温かい気持ちで終わる話が多かった。かなりすき!
    湊かなえさんの書く文章って本当にすてきで、人間の儚さとかまるで目の前に景色が広がっていくような風景とか、繊細でためいき

    最後の親友の話、とても好きだった、
    自分の宝物みたいな夜を思い出して温かくなった

  • 阪神淡路大震災に遭った女性たちを描いた連作短編集。舞台はトンガ王国。

    正直なところ前半はなかなか物語に入り込めず、読むのをやめようかと思ってしまったのですが、全て読み終えてみて、結果的には読んで良かったと思います。
    色々と心に刺さる部分がありました。
    人と人との意外な巡り合わせ。自分と他者との気持ちの結び付き、すれ違い。
    そんなことが上手く描かれていて、唐突にハッとさせられたり、切なくなったり、涙が出たりしました。
    喪失と再生は、誰もが経験していくことなのですよね。何だか前向きに生きるパワーを頂いたような気がします。

  • じんわり心が温まる短編集。
    震災を経験して助かった人同士がお互いに対して感じているわだかまり、そこに注目した話が印象に残りました。
    悪意のある人は誰も登場しないのに、心に傷を持った人たち。
    それぞれの再生に向けての物語が、トンガという楽園で少しずつ接点を持ち繋がっていきます。
    湊かなえさんはこんな優しい物語も書くのですね。

  •  トンガと阪神・淡路大震災を軸にした連作短編集。

    「楽園」
     阪神・淡路大震災で双子の妹を亡くした主人公。20になった彼女は、かつて見た楽園の風景を求めてトンガ王国へ。

    「約束」
     婚約したものの、束縛が強く自分本位な恋人に悩む理恵子。気持ちを整理する時間を取ろうと、教師として国際ボランティアに参加しトンガへ渡る。ところが、婚約者が理恵子に会いに来るという。2人の関係をどうするのか、理恵子の答えは?

    「太陽」
     5歳の娘を抱えるシングルマザーの杏子。育児放棄を疑われたのをきっかけに、思い立ってトンガへ向かう。大震災の時に温かく接してくれたボランティアのトンガ人男性に会うために……。

    「絶唱」
     人との間に壁を作って孤立しがち、それでいて人との関わりを求めてしまう千晴。阪神・淡路大震災での出来事をきっかけに友情が壊れてしまい……。


     図書館本。
     ミステリーと書いている紹介文もあるが、どちらかというと普通の小説。 推理要素もあると言えばあるが。

     他のレビューでちらほら書かれている通り、前置きが長い。そして、過去と現在が入り乱れ、なんとも読みにくい。
     主人公は湊かなえらしい、心に何らかの傷を抱えた女性たち。だが、短編だからなのか何なのか、心境の変化が急すぎて「はぁ?」となる。無理に前向きに持っていかなくても……と思ってしまう。
     また、主人公たちが皆、被害者意識ドップリというか、察してちゃんというか。合う・合わないがバッチリ分かれそうな感じ。私は……全く合わなかった!(笑)

     トンガも大震災もストーリー上の必然性があまり感じられず、全体に収まりの良くない話と感じた。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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