何者

著者 :
  • 新潮社
3.85
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本棚登録 : 9272
感想 : 1564
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103330615

作品紹介・あらすじ

「桐島、部活やめるってよ」の朝井リョウの新刊!

「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公は就活で内定がもらえない。一方で次々と内定を手にする就活仲間たち…。
    理想ばかり語る人、肩書をたくさん並べ集め自己アピールする人…嫌だね、そういう人いるよね、と主人公に共感していたら、主人公の本性が見えてきて、一緒に打ちのめされた感じの展開であった。自覚するのではなく他人に指摘されたからなおのこと。
    はぁ…心が痛い。誰にでも潜む自分と他人を比べ、羨む気持ちの卑しさ。就活に関係なく普通にある話のようで辛い。
    SNSの発言や台詞の回想をポイントのように浮き立たせる文面の物語進行がうまい、面白いと思った。

    • ポプラ並木さん
      なおなおさん、あゆみりんさん、
      飛び入り参加!
      「白夜行」「幻夜」は物凄い作品ですよ。
      詳しくは言えませんが、是非読んで欲しいです。
      ...
      なおなおさん、あゆみりんさん、
      飛び入り参加!
      「白夜行」「幻夜」は物凄い作品ですよ。
      詳しくは言えませんが、是非読んで欲しいです。
      東野圭吾作品ではこの2作品は別格だと思っています。
      では~
      2022/10/23
    • あゆみりんさん
      ポプラ並木さん、こんばんは♪
      「幻夜」も凄いですよね。
      3部作と聞いていたのに、なかなか次が出ませんね。
      待ち遠しいです…
      ポプラ並木さん、こんばんは♪
      「幻夜」も凄いですよね。
      3部作と聞いていたのに、なかなか次が出ませんね。
      待ち遠しいです…
      2022/10/23
    • なおなおさん
      皆さん、こんばんは。

      「白夜行」「幻夜」と順に読むのですね。
      情報をありがとうございます。読まねば!
      あゆみりんさんも読む読む詐欺師!?(...
      皆さん、こんばんは。

      「白夜行」「幻夜」と順に読むのですね。
      情報をありがとうございます。読まねば!
      あゆみりんさんも読む読む詐欺師!?(笑)
      仲間見っけദ്ദി^._.^;)!!
      2022/10/23
  • 「就活の頃の話を聞かせて」と言われたら、ひたすら遠い目をして語るしかない私でも
    あの頃こしらえた傷のかさぶたをじわじわ剥がされるようで、こんなに苦しくなるのだから
    就活中の学生さんが読んだら、どんなに胸に突き刺さることか。

    目覚ましい勢いで進化を続ける朝井リョウさん。
    もっともっと素晴らしい作品を書くのだろうから、受賞はもう少し待ってもいいいのでは?
    との声もあった中、今、この作品で直木賞を受賞したことに深く納得できる
    今を映した、今の彼にしか書けない、凄い本でした。

    たかだか二十数年しか生きてきていないのに、まだ何者にもなり得ていないのに、
    「私ってここがスゴイんです、こんなに有望なんです!」
    と、にっこり笑ってアピールしなくてはいけない、あの居たたまれなさ。
    友達の就職先が次々に決まる中、自分だけどこからも選んでもらえない辛さ。

    大昔だったら、そんな辛さや胸に渦巻く黒い感情も「王様の耳はロバの耳」よろしく
    深い井戸や、ザクザク掘った穴にでも向かって叫んでしまえばよかったけれど
    数秒もあれば本音も嘘も書きこんでしまえるSNSというツールがある今だからこそ
    書き込んでうまく蓋をしたはずの心の傷は、ネットの海を彷徨って
    かえって深く、じくじくと痛み続けるのかもしれません。

    たった140字の中にまとめきれなかった
    「選ばれなかった言葉」を見つめようとするサワ先輩や
    各駅停車の電車の中で「がんばらなきゃ」と絞り出すように囁く瑞月に励まされます。

    この歳になって、娘に偉そうにお説教していても
    実はあの頃からちっとも成長してないなぁ。。。と思う、未だ何者でもない自分に
    「こうなりたい!」に向かって悪あがきできるうちは、しなくちゃ!
    と思わせてくれる本。

    読み終えて、冒頭のプロフ紹介ページをもう一度開いたとき
    拓人が選んだアイコンにほろりとして、言ってあげたくなります。
    その画像を選んだきみには、まだまだ可能性が拡がってるよ。
    殻を破ってがんばって! と。

    • まろんさん
      macamiさん☆

      失敗なコメントなんてありませんでしたよ~(*^_^*)

      私も、この本についてのmacamiさんのレビューがもうすぐ読...
      macamiさん☆

      失敗なコメントなんてありませんでしたよ~(*^_^*)

      私も、この本についてのmacamiさんのレビューがもうすぐ読めると思うと楽しみで♪
      ヒリヒリどころか、グサッ!とくる本でしたけれど
      今この時、絶対に読んでおきたい本だなぁ、とも思いました。
      学生時代から作家としてじゅうぶん認められていたのに
      ちゃんと就活して就職した、朝井リョウさんだからこそ書けた気がします。
      2013/03/18
    • macamiさん
      就職活動って、急に世界が変わる、というか
      急に違う世界に入り込む、みたいなところが
      あるかもしれない、と読みながら思ったので
      まろんさんの
      ...
      就職活動って、急に世界が変わる、というか
      急に違う世界に入り込む、みたいなところが
      あるかもしれない、と読みながら思ったので
      まろんさんの

      >たかだか二十数年しか生きてきていないのに、まだ何者にもなり得ていないのに、
      「私ってここがスゴイんです、こんなに有望なんです!」
      と、にっこり笑ってアピールしなくてはいけない、あの居たたまれなさ。

      というレビューに「そう!そうなんだよね!」と思わず釘づけに。

      「選ばれなかった言葉」のくだり、とても考えさせられました。
      そこだけではないのですが・・・ああ、うまく言えません!(苦笑)

      朝井さんの作品として、ダントツによかった一冊でした。
      2013/04/11
    • まろんさん
      macamiさん☆

      この作品で直木賞を受賞したこと、心の底から頷ける名作ですよね!
      この本を読むまで、朝井さんの小説って、みずみずしい比喩...
      macamiさん☆

      この作品で直木賞を受賞したこと、心の底から頷ける名作ですよね!
      この本を読むまで、朝井さんの小説って、みずみずしい比喩とか自然な会話とか
      文章表現の上手さに惹かれる部分が大きかったのですが
      この作品は、人の心の最深部まで思いっきり切り込んでいて、凄味がありました。
      読んだあと、我が身を振り返って放心状態になってしまう本ですよね。。。
      2013/04/13
  • ブクログで花丸が欲しいんです、僕。

    twitterのプロフィールをみれば、その人が『何者』かがわかる。
    いや、他人から『何者』にみられたいのかがわかる。
    アイコン画像に何を選ぶのか。名前は漢字表記かカタカナ表記か、それともアルファベットか。
    個人情報にどう優先順位をつけ、どの順番で提示するのか。
    誰との、どの団体とのつながりを強調するのか。

    その他諸々に個性が、いや「個性」と思われたい物が反映される。
    物語の人物紹介として、そのプロフィールを最初のページに持ってきた仕掛けにどきどきする。
    『桐島、部活やめるってよ』を書いた朝井リョウだ。ただで済む訳がない。

    なーんて、したり顔のレビューを書こうと思っていた読み始めの頃の自分を、過去に戻ってぶっ飛ばしてやりたい。傑作。
    これはもうサスペンス、いやスリラーだ。
    この本を読んだ後にレビューを書くのは本当に恐ろしい。

    WEBテストもエントリーシートもなかった時代の人間だが、就職活動で感じる葛藤や緊張感は道具立てが変わっても、何ら変わりはない。ひりひりするような感触を味わった。
    でも、それだけじゃない。就職活動を題材にした、ただの青春小説だと思っていたら痛い目を見る。
    学生時代にこの本に出会いたかった。
    でも、あの頃の僕はこの本のメッセージを逃げずに正面から受けとめることが出来ただろうか。あまり自信はない。

    読み終えてみれば、誰のスタンスも誰の見方も間違ってはいない。
    正解なんて本当にわからないのだ。
    ただ確かなのは、頭のなかの傑作や百点よりも、体を動かした駄作や十点を積み上げなくてはいけないということ。
    そして、またまたこういうレビューを書いちゃう自分のかっこ悪さを認めた上で「やっぱり書くもんね」ということ。

    結局、拓人は仲間に恵まれていると思う。大丈夫だ。
    光太郎やサワ先輩、瑞月さんにバイトの後輩。
    もちろん、隆良や理香さん、ギンジにだって。
    一度は本気でぶつからなければならない時がある。
    そうでなければ、それこそ室内でチノパン穿いているようなものだ。

    ひさびさに胸に刺さる本だった。
    いつも心に『何者』を。
    ブクログで、いや人前でも花丸が欲しくなったら、この本を読み返そうと思う。

    • 山本 あやさん
      kwosaさん、こんにちは[*Ü*]

      朝井リョウさんの本は、何冊か買って積読していて
      すごくステキな本なんだろうなぁと思ってたんですが、
      ...
      kwosaさん、こんにちは[*Ü*]

      朝井リョウさんの本は、何冊か買って積読していて
      すごくステキな本なんだろうなぁと思ってたんですが、
      「何者」はまだ買ってなくて。
      もぅ、絶対買います!

      朝井さんはタイトルからして、ひっかかりを作ったり
      んんん??って思わせる力もすごいですよね。
      読む前からドキドキしちゃう「何者」へのステキな
      導入をありがとうございます[*・ー・*]
      2013/04/04
    • kwosaさん
      まろんさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      日常の行動の原動力が、自分のため、そして誰かのためといった純粋な衝動からきているの...
      まろんさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      日常の行動の原動力が、自分のため、そして誰かのためといった純粋な衝動からきているのかと考えたとき、やっぱり褒められたいとか羨望の眼差しが欲しいとか「花丸」を求める気持ちが確かにあります。
      でも、なかなかそれを認めたくない。

      本当に身が縮むような思いでしたね。
      いやあ、観察者としての視点でこのレビューは書けないぞと。
      いや別に、そんなに気張る必要もないんですけど。

      どれが本当ということではなく、いろいろな気持ちが混ざりあったスープのようなものを心に抱えているのが人間。
      それを登場人物たちとほぼ同年齢で掬いあげた作家・朝井リョウ。恐れ入ります。
      2013/04/04
    • kwosaさん
      あやさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      朝井リョウさんの作品はデビュー作と今作しか読んでいないのですが、いやあ凄い作家さんで...
      あやさん!

      花丸とコメントをありがとうございます。

      朝井リョウさんの作品はデビュー作と今作しか読んでいないのですが、いやあ凄い作家さんですね。
      積読がそんなにあるなんてうらやましい。
      僕も早く他の作品を読まなければ。

      あやさんが『何者』を読んで、どんな感想をお持ちになるのか。とても気になります。
      2013/04/04
  • きびしー‼︎

    就職活動して、1社しか内定がもらえなかったバブル真っ只中の22歳の夏。

    そして、中途で就職活動した秋。内定をもらった1社は、会社説明をしている課長が、4本の指に指輪を嵌め、缶コーヒーを飲みながら会社概要を応募者の前で語っていた。

    怖かった。そんな会社を垣間見ている瞬間が。

    そんな、就職活動にあがき苦しんでいた当時の僕の内面のマイナス感情を、容赦なく炙り出している気がする。

    特に、この作品の257ページ以降は素晴らしい。

    「逃げ」ようとする自分のずるい心に刃物を突き立てられている気がする。

    自分の心に隙ができたと感じたとき、自戒のためにも再読しようと思う。

  • 物語の前半まではSNSの記述が目新しいだけで多少退屈した感は否めなかった。
    あれ?これが今一番旬の朝井リョウ!?
    大したことないじゃん、などと思っていると・・・。
    いや~、とんでもなかった。最後の最後での追い込みがすごい。
    就活の辛さと現代のSNSでのコミュニケーションを軸に若者の姿を描いただけかと思っていたらとんでもない。
    これはある意味サスペンスだ。
    泥臭さなど感じさせない最近の若者の爽やかな仮面が徐々にむき出しになって、その裏の姿を表した時の描写は鬼気迫る。
    怖かった・・・。

    時代を反映した若者の姿はまだその空気感がリアルに残っている朝井さんではなくては書けない。
    またそれだけでなく新進作家なのに、構成や台詞の選び方などは「何者」どころか「ただもの」ではない。
    これからどんな作家になっていくのか非常に楽しみな人である。

    ただ一点。
    就活をしている登場人物の通う大学がどうしたって一流大学としか思えない。実際そう言う設定なんだろうけど。
    私の経験上、実際には大手企業の説明会にさえエントリー出来ない学生の方が圧倒的に多いだろうし、ほとんどが面接までたどり着けない。もしや今は違うのか?
    もう少し、その他大勢の学生たちの就活の姿をすくい上げるともっと深みのある作品になったんじゃないかなと思う。
    というわけで、☆4つ。

    • ヒョードルさん
      vilureefさん、こんばんは。
      このオチといい、会話・心情説明と言い、
      恐ろしい作家ですよね。ほんと、私は驚愕でしたよ・・・。
      vilureefさん、こんばんは。
      このオチといい、会話・心情説明と言い、
      恐ろしい作家ですよね。ほんと、私は驚愕でしたよ・・・。
      2013/07/03
    • vilureefさん
      ヒョードルさん、こんにちは。

      朝井作品は数冊しか読んでいないのですが、この本は別格でした。
      まだ若いし、これからが楽しみな作家ですね...
      ヒョードルさん、こんにちは。

      朝井作品は数冊しか読んでいないのですが、この本は別格でした。
      まだ若いし、これからが楽しみな作家ですね(^_-)-☆
      2013/07/03
  • 第148回直木賞受賞作。2023新潮文庫の100冊のヤバい本に文庫版が選ばれています。


    面白いです。

    最初に登場人物のSNSの紹介文があります。ここに書かれている内容が全く覚えられなくて苦手かも…と思っていました。(この部分は覚えられなくても大丈夫)
    最初の20ページぐらいまでは、小刻みに戻りながら読みました。
    帯に「あんた、ほんとは私のこと、笑ってるんでしょ」と書かれてるので、誰かと誰かが喧嘩をするのはわかっています。それが、いつ、どこで、誰が誰に、なぜこのセリフを言うのだろう、どういう結末になるんだろう、と楽しみにして読み進めました。

    主人公拓人、ルームシェアしている光太郎、光太郎の元カノ瑞月、瑞月の友人理香、理香と同棲している隆良。それぞれの努力と妥協の就職活動の話です。
    この5人の焦りも、友人に弱みを見せたくない気持ちも、友人の内定を単純には喜べない気持ちも、手に取るように伝わります。

    『名刺に並べてあるような肩書を盾にしないと、理香さんは何も話せないんだと思った』
    これは留学経験や海外ボランティアなど様々な経歴を名刺に書き、名刺を配って人脈を作りながらもグループディスカッションで失敗する理香に対して拓人が感じたことです。
    この言葉に、何人かの上司たちを思い出しただけでなく、私自身の態度にも心当たりがあって、恥ずかしさを感じました。

    最後の方は名言だらけです。
    何者かになりたい中二病の中学生から、もう何者かにもなれないであろう大人まで、突き刺さる1冊です。
    また読み返します。

  • 前から読みたいと思っていた朝井リョウ作品。でも色々話を聞くと、結構自分にはきついかなと思って、手が伸ばせずにいたんですが、今回初めて読んでみました。
    就活中の5人。SNSの言動や、就活の行動、会話、隠しアカウントのメッセージなどを通して、それぞれの持つ気持ちが透けてくる。
    個々のの感情が主人公の視点から見える何気ない行動や一言で、見えてくるのが、おもしろい。
    途中まで、それほどきつくなかったのが、最後の理香が、主人公拓人に詰め寄るシーンで、一気に重くのしかかってきた。
    「あんたは、誰かを観察して分析することで、自分じゃない何者かになったつもりになってるんだよ。そんなの何の意味もないのに」
    そんなところ、自分にはないだろうか。一人だけわかったふりしてるけど、その実、うまくいかないことや、他が優れていることから逃げてないだろうか。
    全部ピッタリ、ハマるわけではないが、ここで「痛さ」を感じてしまう部分が、自分自身にもあるのではないかと、問い詰められるような、そんな感じになった。
    まぁ主人公ほど人に関心はないし、人にどう思われるかも気になるので、そんなに思う必要もないのだが、この部分の描写の力もあって、そんな感じにのめり込ませてくれる。
    主人公拓人には、変われる言葉を投げてくれる人達と、その言葉を受ける部分があったのだろう。最後に少し変わった感じを見せて終わるのが、救いになる。
    よい感じで忠告してくれるサワ先輩が、いいキャラクターです。
    重くはあったけど、ずっと響く話で、心に残った。

  • 直木賞受賞作。
    就活をする大学生の話だってこと、知らない人ないぐらいじゃないかな。

    自分は何者なのか、生まれて初めて突きつけられるような就職活動の時期。
    不況で就職難なので、結構いい大学の学生でも次々に落ち続けることに。
    特異な状況で、内定が出たことがヒエラルキーの頂点に立つことになるという。

    演劇サークルで脚本を書いていた二宮拓人。
    今はすっぱりやめて、就職活動中。
    3年のときから拓人とルームシェアしている光太郎はバンドのボーカルだが、今回のコンサートを最後に引退することになっていた。
    いぜん光太郎と付き合っていた瑞月が、1年の留学から帰ってくる。
    拓人は瑞月に片思いしているのだが、見守るしかない。瑞月は拓人にはけっこう優しくしてくれる良い友人ではあるが、そういう対象ではないのは目に見えている感じ?
    光太郎は人に好かれる性格で、コンサートの後は髪を切って変身。
    突然追い越されてしまいそうな拓人だが‥

    瑞月の友達の理香が、アパートの上の部屋に住んでいるとわかり、4人は就活の情報交換を始める。
    理香も留学経験があり、ボランティアにも積極的なしっかりしたタイプ。
    理香の部屋には同居し始めたばかりの恋人・隆良もいた。
    就職はまったく考えていないという隆良は、いささか気取った芸術家肌のよう。
    拓人はかって二人でコンビを組み、今も演劇を続けている烏丸ギンジが隆良に重なって見えて気になり、現実味がないと感じてしまう。

    ツイッターやフェイスブックを駆使する若者達の人間関係は、リアルな付き合いとネット上の短い文章の語るものが交錯する。
    どちらが本当なのか、どちらもまやかしを含むのか?と思わせるような‥
    しだいにピリピリして来た彼らは、批判し合うことに。

    あ痛たたた‥てぐらい、痛烈ですね。
    まあその結果は‥
    一段階成長したという希望が持てる結末。
    ここまで書くとは~前半の余裕はこんなところへ行き着く前提だったとは。
    就職活動を終えたばかりで、良くぞここまで抉るように書けたもの。
    なるほどの直木賞でした!

    こういう就職活動をしたことがない自分って、馬鹿なんじゃないかとしばし呆然‥いやカッコつけてたとかでは全然なく。
    事情があったんだから仕方ないわねぇ‥とだんだん思い出しました。でも賢かったとはいえないけど(苦笑)

    今の時点で単行本化されている作品はこれでコンプリート。
    次はどんな作品が来るか?
    楽しみです!

  • 私が就活していた頃はmixi全盛期で、今ほどTwitterやFacebookは一般的でなかったように思う。関関同立、バブル期には企業の方が学生に媚びていたようだが、早稲田や慶應ほどブランド力がある訳ではなく、大規模サークルなどにも属していない身分ではOG訪問も気安くはなく、それなりに苦労した。

    何かに打ち込んできたと胸を張って言えるような経験もなく、両親の庇護のもと、ゆるゆると育ってきたことばかりが痛感され、正解の見えない就活に日々気持ちが磨耗していった。

    何度か転職活動も経験しているが、あの頃の就活ほど辛くはなかった。思うに就活の辛さは、同じ地点で肩を並べていた友人たちから取り残される焦りと、社会に受け入れられないかもしれないという不安が多くを占める。ひとつ内定をもらって初めて冷静になれた記憶もある。

    人間の自己顕示欲は様々で、実際以上にリア充ぶってしまう人もいれば、かまってちゃんやだめっこアピールや「他人とは違う」自分に酔う人もいる訳で。Twitterには如実にそれが現れてしまうのかな。

    理香や隆良、拓人をイタいと感じながら、自分の中にも彼らと似た部分があるイタさ。

    ところで医学生には所謂「就活」にあたる、マッチングという制度があるのだが、2~10(10はかなり多いレベル)の病院から研修先が決定する。大学3年から50社以上、就職氷河期であれば100社以上もエントリーし、内定を得るまで模索する一般学生に比べたらなんとも効率的。

  • 「私たちはもう、たったひとり、自分だけで、自分の人生を見つめなきゃいけない。一緒に線路の先を見てくれる人はもう、いなくなったんだよ。進路を考えてくれる学校の先生だっていないし、私たちはもう、私たちを産んでくれたときの両親に近い年齢になってる。もう、育ててもらうなんていう考え方ではいられない」(P.214)

    「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから。これから目指すことをきれいな言葉でアピールするんじゃなくて、これまでやってきたことをみんなに見てもらいなよ。自分とは違う場所を見てる誰かの目線の先に、自分の中のものを置かなきゃ。何度も言うよ。そうでもしないともう、見てもらえないんだよ、私たちは。百点になるまで何かを煮詰めてそれを表現したって、あなたのことをあなたと同じように見ている人はもういないんだって」(P.216)

    「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ。だから私だって、カッコ悪い自分のままインターンしたり、海外ボランティアしたり、名刺作ったりするんだよ」(P.264)

    これから、大学生になり、社会に出る時に誰もが経験すること。これまで、他の誰かになりたいと何度思ったことか。あの子だったら良かったのに。なんで、あの子なんだろう。と自分のできないこと、持ってないものを持っている子のことを羨んだりした。だけど、どれだけ羨んだって、自分は自分を生きることしかできない。この作品は、それを痛いほど教えてくれる。自分を生きることしか出来ないのなら、自分が変わるしかないし、自分が欲しいものは自分で努力して手に入れるしかない。失敗したら、誰のせいでもなく、自分のせい。ここまできたら、自分を生きることしかできない自分を精一杯肯定して生きていくしかないのかもしれない。例え、カッコ悪くて、情けなくても。
    もうすぐ、一人暮らしや、大学生になるという環境の変化にすごく不安を感じている私の背中を前向きに、押してくれる作品だった。

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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で、「小説すばる新人賞」を受賞し、デビュー。11年『チア男子!!』で、高校生が選ぶ「天竜文学賞」を受賞。13年『何者』で「直木賞」、14年『世界地図の下書き』で「坪田譲治文学賞」を受賞する。その他著書に、『どうしても生きてる』『死にがいを求めて生きているの』『スター』『正欲』等がある。

朝井リョウの作品

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